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シーアライド入国

 セリーナ号での船旅が続く、船酔いはすっかりよくなって、波にも慣れ始めてきた。甲板で海を眺めていると、遠くに何か見えた気がした。


「カイト!遠くに何か見える!」

「おお、アー坊目がいいな。多分そいつぁシーアライドだ」

「本当か!?見張り台登っていい?」

「いいぞ、好きにしな」


 俺はファンタジアロッドを手に取りそのまま伸ばす。マストを掴んで体を引っ張り上げると、そのまま見張り台に乗った。


「うおっ、何だありゃ」

「アーデンのアーティファクト、ファンタジアロッドよ。伸ばしたり縮めたり、色々出来るの」

「ははあホルダーだったのか、しかし身軽なもんだな」


 上から見るともっとよく見えた。大きな港に船が段々と近づいていっているのが分かる。あれがシーアライドの港かと楽しみになってきた。


 シーアライドは海上に都市があると聞いた。一体どんな国だろうか、カイトなら何か知っているかと思い聞いてみる。


「カイト、シーアライドには行ったことあるのか?」

「何度かな、活気があっていい国だ。飯も美味いし人も多い。色んな国から商隊の船が入るから見たことのない物がいっぱいあるぞ」


 そんな話を聞くと更にワクワクしてきた。はしごを使って見張り台を下りると、レイアが声をかけてくる。


「アーデン、あんた目的を忘れてないでしょうね?」

「目的?…あ、ああ!勿論忘れてないって!うん、うん」

「分かりやすく忘れてたわね…」

「でもレイアさん、私も何だかワクワクしてきました。思えばこうして遠く国を離れるのは始めてです。自分の意志でといえば尚更です」


 アンジュは耳をピンと立てて目を輝かせていた。気持ちが分かると俺はうんうんと頷き、レイアはアンジュの頭を優しく撫でた。


「そういやお前ら、シーアライドにはどんな用事があるんだ?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「聞いてねえと思うがな」


 別に隠す事でもない、しかし一応二人の顔をそれぞれに見て視線を送る。二人共それを受けて頷いたので、俺はカイトに言った。


「カイトはシーアライドに伝わるニンフの加護って話知ってるか?一部の船乗りの間で伝えられているらしいんだけど」

「ニンフの加護だって?お前達もそれを追ってるのか?」

「お前達も?」

「俺の仕事もニンフの加護に関するものなんだ。でっけえ依頼が入ってな、サルベージャーとして呼ばれたんだ。驚くなよ、依頼人はなんとシーアライドの国王様だ!」


 俺達は全員ぽかんと口を開けて驚いた。言葉も出ずにカイトを見る。


「な、なんだよ、そんなにびっくりしたか?まあ国王様だもんな、びっくりもするか」


 驚いた所はそこではないのだが、取り敢えず全員こくんと頷いた。まさかのカイトと目的が被っているとは思っておらず。ここまでの縁かと思っていたが、もしかしたらもっと深い縁になるかもしれないとそんな予感をさせた。




 船を港に停める、カイトに続いて船を下りると武装した兵士を二人連れ立った中年男性がこちらへ歩いてきた。


「ようこそシーアライドへ。こちらに船の停泊料と船名の手続きを…ってなんだ、カイトじゃあないか。久しぶりに見たな」

「よおパットのおっちゃん。元気そうで安心したよ」

「そいつはこっちの台詞だよ、お前はふらっとどっか行く根無し草だからな」


 カイトは笑いながら書類を受け取ってサインをした。そして懐から金を取り出すと、停泊料をパットと呼んだ男に渡す。


 仲よさげに話しているなと様子を眺めていると、こちらに気がついたようでカイトに聞いた。


「お前が人連れとは珍しい。この方達は?」

「旅は道連れ世は情けってな。シーアライドへの海路が魔物で塞がってたから旅客船に乗れなかった冒険者だよ」

「あちゃあ、それは申し訳ない事をした。この国の役人としてお詫び申し上げる」


 深々と頭を下げるものだから狼狽えていると、カイトが肩を叩いて話してくれた。


「皆、こちらシーアライドで港の管理をしているパトリックさんだ。俺はパットのおっちゃんって呼んでる。皆も気軽にパットさんって呼んでやってくれ」

「流石にそれは…」

「ああ、いいんだいいんだ。カイトの言う通りパットと呼んでくれ。船乗りの風習は聞いてるだろ?どうせここに船を付ける人間は愛称で呼び合うものさ」


 パットさんが笑顔でそう言うものだから、俺達は取り敢えずぺこりと会釈を返しておいた。気さくでいい人そうな印象を受ける人だ。役人らしい付き合い難さを感じさせない。


 それから俺達はパットさんにそれぞれ自己紹介をした。入国にあたって必要になる手続きも、冒険者登録タグを見せればそう時間はかからない。


「では改めて、シーアライドへようこそ皆さん。我が国は皆さんを歓迎致します」


 形式張った挨拶を終えると、俺達はパットさんと別れて港を出た。そしていよいよ海上に浮かぶシーアライドへと足を踏み入れる。


「わあ…、すごいな…」


 シーアライドの街は海の上に建設された都市、大陸に繋がる道が何本かあるものの、ほぼ海上で独立した国だった。


 街には水路が張り巡らされていて、そこを小型の船が通っている。小舟によって交通の便を図っているようだ。それだけでなく荷物を運ぶ船も多い、船が運んできた荷物を輸送する面でも活躍しているみたいだ。


 更にそこかしこで屋台に露店が並んでいて、店先に立つ商人たちは活気よく声を張り上げていた。色とりどりの果物に、見たこともない魚介類、異国の工芸品や大量の本を積み上げている店もあった。カイトの言う通り活気のある国だ。


 俺達がシーアライドの町並みに見とれていると、カイトが背後から声をかけてきた。


「アー坊、俺はこれからシーアライド国王の所へ行こうと思ってる。よかったらお前達も一緒に来るか?」

「へ?」

「何でよ?」

「お嬢達の目的もニンフの加護って奴なんだろ?もしかしたら国王から何か情報が聞けっかもしれないぞ。俺が雇った冒険者って事なら問題なく通してくれるだろうし、これも縁だ、一緒に行ってみないか?」


 カイトの申し出は正直とてもありがたかった。俺達はここにニンフの加護が伝わっているという手がかりしか聞いていない、本来ならこれから散々足を使って調べて回らないといけない。


 それがこの国の要人、取り分け国王から話が聞けるとなるとこれ以上の手がかりはない。


 しかし手放しで飛びついていいものだろうか、ここまでずっとカイトに頼り切りだ、これ以上甘えるのもどうなんだろうと思ってしまう。そんな風に思い悩んでいると、隣にいたレイアが俺に言った。


「いいんじゃない?一緒に行っても」

「でも」

「大丈夫よ。ねえカイト、頼っても問題ないわよね?」

「おう!どんとこいだ」

「ほらね、行きましょう」


 その場の話はレイアが強引にまとめてしまった。珍しく自分から先々と話を進めていくレイアの姿に、俺とアンジュは顔を見合わせて当惑するも、レイアとカイトに置いていかれないように俺達は二人の後を追いかけた。

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