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海の男カイト その1

 ヨンガイの港町で声をかけてきたカイトと名乗った男、力になれるかもしれないと言うので、俺は現状困っている事を説明した。


「成る程成る程、あんたらシーアライドに行きたかったのか。そりゃ困ってる訳だ」

「カイトさんは今何が起こってるのか知ってるんですか?」

「おいおいカイトって呼び捨てでいいよ。敬語もいらねえ、もっと仲良く話そうじゃあねえか。そっちのお二人もどうだい?」


 そう声をかけるも、レイアはアンジュの背に隠れ出てこず、アンジュはふるふると首を横に振った。


「教授から学びました。初対面で馴れ馴れしく接してくる異性には気をつけろと」

「なんじゃそりゃ。取って食うわけでもあるまいに」

「…そうですね」


 アンジュの遠い目を見て何となく察してしまった。話がややこしくなる前に俺はカイトに言った。


「じゃ、じゃあお言葉に甘えて。カイトは何を知ってるの?」

「ちょうどシーアライドへの航路を塞ぐように、特殊個体クラーケンが大暴れしてるって話は聞いてるぜ。サルベージャー仲間から聞いたが、討伐隊は相当手を焼いてるらしいな」

「どうしてそんな情報まで?」

「そりゃお前、サルベージャーには冒険者ギルドに所属してる奴も多いからな。海に沈んだとは言え遺跡は遺跡、管理は出来なくとも所有権もってる国があるんだよ。一番手っ取り早く許可を得たい場合は冒険者ギルドに所属しちまうのがいい。俺ぁそうしなかったけど」


 サルベージャーの仕事内容についてはまったく知らなかったが、言われてみれば確かにと思った。要するに冒険者とサルベージャーを兼業している人が多いという事だろう。


「どれくらいかかりそう?」

「正確には分からんな。ただ俺が聞いた限りの予想だと、早くて二週間、もっとかかって一月半って可能性もある気がするぜ。とんでもねえデカさのクラーケンだって言うからな」

「そんなにかかるの!?」

「そりゃおめえ、奴さんは海がホームだけど、討伐する側はどうあがいたって不利なままだぜ?数で囲んで殴るしかねえけど、その数を集めるのも事だ。ギルドだけでなくシーアライドも協力してるってんだから必死さが伺い知れるじゃあねえか」

「総力戦って事か…」


 全部カイトの話だから信用出来る情報かは未知数だが、実際に船は出てないし再開の目処は立っていない。寧ろここで情報が得られただけありがたい事だ。


「ありがとう。やっぱり時間かかりそうだから、俺達はゆっくり陸路で向かうとするよ」


 流石にそれだけの時間を待つよりは、少しずつでも進んだ方が早く着く。旅客船に後ろ髪を引かれるのは確かだが、また機会があればその時乗ればいい。教授が用意してくれたチケットを無駄にしてしまうのは心苦しいが、それも仕方ないと方針を定めようとした。


「待った」


 しかし、そんな俺に待ったをかけた者がいた。それはカイトだった。


「まあ待ちなって、俺は力になれるかもって言っただろ?来な、とびきりのもんを見せてやる」


 カイトはそう言うと俺達に来い来いと手招きをした。俺はちらりとレイア達の顔を伺う、一先ずついていく事には同意したようで小さく頷いたので、俺はカイトの後に続いていく事にした。




 着いていった先は停泊地、様々な船が停めてある中の一隻をカイトが指さした。


「あれが俺の船、セリーナ号だ」

「うわあ!すげえ立派な船じゃん!!」

「そうだろうそうだろう?立派なもんだろう?」


 カイトが言うだけあってセリーナ号は大きくて立派な船だった。海の事も船の事も全然知らないのに、その迫力を間近で見ただけですごく速そうだと思った。


「はあぁ、すごいなあ…格好いいなあ…」

「ハッハッハ!気に入ったか?乗ってみるか?」

「いいの!?」


 俺はレイア達を差し置いて船の上に乗せてもらった。地上とは確かに感覚こそ違うが、揺れはそう感じずしっかりとしている。安定感もあって水の上にいるのに不思議な感覚だった。


「全然揺れないんだな!もっとぐわんぐわんしてるもんだと思ってた!」

「そりゃオメェ船が停まってるからだよ。動かしたら流石に揺れる。だけどよ、風に乗って海原を突き進む感覚はそりゃもう最高のもんだぜ?」


 話を聞いているだけでもワクワクしてくる。これが動いたら、どれだけ楽しいだろうか、そんな想像をしていると余計興奮してきた。


 やっぱり船に乗って行きたかったなという気持ちがぐんぐんと持ち上がってきた。一度は諦めたから余計にそう感じるのかも知れない。乗って後悔はないけど乗るべきじゃあなかったともどかしい気分だった。


「乗せてってやろうか?」

「うん!…うん?」

「だから、シーアライドまで乗せてってやるって言ってんだよ。こいつで行きゃそう時間もかからねえ」

「いやでも、クラーケンが出てるんじゃないのか?」

「俺等サルベージャーには独自の航路ってもんがある。一般的に避けて通るような所も、技術と知識がありゃ安全な近道になるってなもんよ。クラーケンの暴れてる場所は聞いたからな、そこを避けて通りゃいい」


 それは文字通り渡りに船な提案であった。しかし、あまりにも都合がよすぎる話でもあった。


「気持ちは嬉しいけど、会ったばかりの俺達にどうしてそんなに親切にしてくれるんだ?」


 今までもそれなりに警戒しながら話してはいたが、俺の中で一気に警戒心が跳ね上がった。カイトに怪しさはまったく感じられない、だが感情を隠す演技が出来る奴を俺は知っている。


「それは」

「それは…?」


 ごくっと唾を飲み込んだ。勝手だが緊張感が一気に高まった。


「実は俺もシーアライドに行く用事があるんだけどよ。何分一人旅なもんでクラーケンの話聞いたらビビっちまってさ。あんたら冒険者だろ?用心棒やってくれ、報酬はシーアライド行きの船、どうだい?」


 思ったよりも俗な理由で一気に気が抜けてしまった。ガクッと肩を落とす俺のそんな様子を、カイトは不思議そうな顔で見ていた。




 俺は船から降りるとレイアとアンジュに事の次第を説明した。そしてどうするかと二人に意見を聞く。


「そいつ信用出来るの?」

「レイアの意見はもっともだけど、嘘ついてるようには見えないんだよ。そもそも俺達に嘘つく理由とか見当もつかないだろ?」

「それはまあ確かにそうだけど…」


 レイアの懸念はさっきまでの俺の懸念とまったく一緒だ、しかしよくよく考えてみてそれをする意味ってあるのかと思うと、ないと俺は思う。


「でも私はよく知らない人の船に乗るのは賛成しかねますよ。何かトラブルに巻き込まれる可能性だってあるかもしれません」

「うーん、確かにアンジュの言う通りでもあるんだよなあ…」

「じれったいわね。アーデンはどう思ってるの?」

「俺は賛成。船で行けばシーアライドまで3日も経たないってさ」


 ちまちま進む陸路と比べてあまりにも速くて魅力的だ。急ぐ旅ではないが、早く目的地にたどり着けるならそれに越したことはない。


「それに悪い奴って感じがしないんだよ」

「それ直感?」

「そう。リュデルの時みたいな鼻持ちならない感じが一切ないんだよ。信頼出来るって言うより信頼したいって俺は思う」


 あまりに主観的すぎる意見だが、カイトは今のところずっといい人で、申し出だって俺達が困っていたから提案してくれた事だ。


「…ハア、まあいいわ。アーデンが信じるって決めたなら私も信じてあげる」

「ありがとうレイア!」

「そうですね、私もアーデンさんなら信じられます。それにまだカイトさんとは全然話してませんから、こちらが勝手に勘ぐるのも失礼でした」

「アンジュもありがとう!」

「でも!私は警戒しておきますからね。それくらいはいいでしょう?」


 俺はアンジュに勿論と返事をすると、船の上で待っているカイトに声をかけて手を振った。


「おーい!カイト!」

「話はまとまったか?」

「うん!シーアライドまで乗せてってくれ!」

「よしきた!俺に任せておけ!」


 こうして俺達は、ヨンガイで出会ったサルベージャー、カイトの船に乗り込みシーアライドを目指す事となった。どんな冒険が待っているのか、ワクワクする気持ちが止まらない。

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