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レジェンド&ドリーマー 秘宝を巡る夢追い人達  作者: ま行


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火のサラマンドラ その1

 俺はサイドゴーゴ号に乗っていた。運転はレイアに譲って、こっちで風を感じる。レイアの後ろにはアンジュがしっかりと抱きついて乗っている。


「ギャーッ!!レイアさんっ飛ばしすぎです!!」

「ちょっ…アンジュ苦しっ…」


 さっきからずっとキャーキャー言ってこの調子だがその実アンジュは楽しそうだ、もう何度も乗っているから本当は慣れているのだと思う。


「アンジュ!シャン炎山まであとどれくらい!?」

「え!?えーっと…、もう少しでシャンの里が見えてくる筈です!」


 シャンの里はその名の通りシャン炎山の麓にある里、山の神を信仰し、シャン炎山の入り口を守っている。


 しかしその信仰心も時代と共に薄れていき、若者は里に見切りをつけて他の国や街へと出て行ってしまっているそうだ。数少ない住人達で、細々とした暮らしを守っているとテオドール教授が教えてくれた。


「おっ、あれかな?」

「ああ゙ー!!そうですあ゙れです!!」

「ア、アンジュ、あんまり締め付けると、で、出る…」

「わーっ!!アンジュ!緩めて緩めて!!」


 レイアが口からとんでもないものを吐き出しそうになり、わちゃわちゃと大騒ぎのまま、俺達は何とかシャンの里にたどり着いた。




 里は本当に物静かで人が全然いなかった。ゴーゴ号の音はそれなりに大きいし、聞き慣れないから人が出てきてもおかしくないと思ったのだが誰もいない。


 シャン炎山に入山してもいいのか聞こうと思っていたので参った。どうしたものかとキョロキョロ辺りを見回していると、突然背後から、しかも下の方から声がした。


「だれー?」


 振り返ると小さな男の子がいた。里の子供だろうか、俺はしゃがみこんで聞く。


「こんにちは。ここに住んでるの?」

「そうだよ」

「誰か大人の人っていないかなあ?」

「いるよ!ばあちゃんがいる!こっちきてきて!」


 男の子はそう言うとバッと駆け出していった。俺達三人は、その男の子の後をついていった。




「ばあちゃーん!外から客来た!客ー!」

「馬鹿なこと言ってるんじゃあないよ。こんな辺鄙な土地に客なんか来るもんかね」

「嘘じゃないってば!!」


 男の子はドタドタと家の中へ入っていくと、グイグイとお婆さんの腕を掴んで引っ張ってきた。


「どうも、こんにちは」

「あれま本当にお客さんかい。まあまあこんな人のいない場所までよく来なさったね」


 俺達はそれぞれに挨拶と自己紹介をし、ここに来た理由を語った。山岳信仰が残る土地と聞いていたから、サラマンドラについて何か知っているかと思ったが、お婆さんは終始「へぇ」と相槌を打っていた。


「はぁ、お山にそんなものがねえ…」

「何か伝承とかは伝わっていなんですか?」

「お山に神様が御座しているというのはずっと伝え聞いているけどねえ…。そのなんだい?さ、さらんど?」

「サラマンドラですね」

「ああそれそれ、サラマンドラなんて聞いた事がないねえ」


 まさかの聞いたこともないという宣言に俺達は全員顔を見合わせた。本当にここに住む人達は、サラマンドラではなく昔からの山の神様を信仰しているようだ。


「あのう、山の神様がもしかしたらサラマンドラという事では?」


 アンジュがそう聞くと、お婆さんは否定の為にぶんぶんと手を振った。


「ん?違う違う。そうさね、分かりやすく言えばシャン炎山そのものが神様なのさ。山そのものを神様に見立てて、実りの悪い時は祈りを捧げ、豊作の時は祭りで歓待する。シャンの里の人間はそうして生きてきたのさ」

「え?じゃあ山にいるっていう神様の話は?」

「そういう話もあるって事さ。わしらもこの伝承伝説がいつどうやって生まれたのかもう知らん、もう詳しいもんもおらん。この里もいつまで人がおるか分からんねえ」


 お婆さんの話にレイアもぽかんと口を開けた。とても伝説の竜がいると思えるような土地ではないと思ったのだろう、俺も同じことを考えていた。


「シャン炎山には入っても大丈夫なのでしょうか?」

「そりゃ入っても構いやしないよ。別にわしらのものって訳じゃあない。ただそれなりに険しい山だから十分気をつけなさい」


 あっさりと許可が下りた。とてもありがたい事ではあるが、何だか拍子抜けしてしまうと同時に本当にサラマンドラがいるのかという不安が湧き上がってきた。


 お婆さんと男の子に見送られて俺達はシャン炎山へ入山した。いってらっしゃいと挨拶され手を振られて行くのは、何だかちょっとその辺まで出かけてくるという不思議な感じだった。




 フライングモを先行させシャン炎山を歩いていく。火山ではあるがもうすっかり噴火する事も予兆もなく、とても静かで穏やかな山だった。


 でも気になる事もあった。すごく奇妙という訳でもないが、気にならないというと嘘になる。


「なあここ全然魔物居なくないか?」

「奇遇ね、私も同じこと思ってた」

「やっぱりそうだったんですか。アーデンさんが言うなら間違いないですね」


 レイアとアンジュも気がついていたようだ、この山は静か過ぎる。聞こえてくるのは鳥の羽ばたきに虫の声、木々が揺れ葉が擦れ合う音くらいだ。もっと野生動物や魔物がいてもおかしくない筈なのに、シャン炎山にはその気配もない。


 しかしあのカ・シチ遺跡の時のような不気味さはまったく感じなかった。寧ろこの空気の中に身を置いている程心は安らいでいくようで、英気が養われていっている。


「不思議な場所だな」

「そうね…。でも悪くないかな」


 レイアはそう言うと気持ちよさそうに深呼吸をした。俺もアンジュも倣って深呼吸をすると、澄んだ空気と森の匂いが体に染み渡っていくようだった。悪くないどころかずっと居たいくらいの場所だ。


「ん?ねえ二人共!フライングモが何か見つけたみたい」


 フライングモがある場所で留まりくるくると空中を旋回していた。フライングモが留まった場所に急いで向かうと、小さな苔むした石祠があった。


 手入れも供え物もない簡素な石祠、フライングモがいなかったら見逃していたかもしれない。何の変哲もないように見えるが、反応を示したという事はこれが竜に関するものなのは間違いない。


「何でしょうかこの石祠は?」

「うーん…。もしかしてここにはサラマンドラがいなくて、これが新しい竜の手がかりって事なのかな?」


 そうなるとまた新しく情報を探す事になる。すっかりサラマンドラに会うつもりで来ていたから何だか気が抜けてしまった。


 せめて石祠についた苔くらい取って掃除していこうかな、そう思って俺は手を伸ばして石祠に触れた。その瞬間辺り一面が真っ暗闇に包まれて、俺はまったく別の場所にいた。


「ほう…、我もとへ至る者がついに現れたか」


 それは声なのか、それとも音なのか、分からないけれど人の声ではない事は分かる。荘厳で落ち着きのあるそれが聞こえた方へ顔を向けると、そこには竜がいた。


「どうした?我が声が届いていない訳ではあるまい?」

「え、えっと、も、もしかしてあなたが」

「うむ。我が四竜が一翼、火のサラマンドラである」


 雄々しく広げられた大きな翼、逞しく頑強な四肢には鋭利な爪が生え、体を覆う鱗や甲殻は赤々と燃える炎のようで凛々しい。鋭い目は俺をしっかりと見据え離さなかった。


 伝説の竜、火のサラマンドラが俺の目の前にいた。幻や伝承ではない、本物のドラゴンだ。

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