三者三様
テオドール教授とアンジュが、多くの文献と照らし合わせてサラマンドラがいるであろう場所を割り出した。
シャン炎山。噴火の記録はもう遥かに昔の火山、麓にシャン炎山を信仰する小さな集落があるものの、人の往来はまったくと言っていいほどなく、実に静かで穏やかな山だと言う話だ。
「目指す場所は決まりましたね」
「うん。とうとうサラマンドラとご対面だ」
アンジュの言葉に俺は頷いて答えた。教授は羨ましそうに言った。
「私も行きたい…、行きたいがこれは君達の冒険で得た成果だ。それに立場もあるしそうそう出る訳にもいかない。く、悔しい」
「教授…」
「しかし!!君達がサラマンドラに会う事に成功すれば、自ずと他の四竜の存在も証明される事になる!!こんなに心躍ることは他にない、是非会ってきて感想を教えてくれ!!」
落ち込んでいるかと思ったら教授は全然元気だった。寧ろ今まで見たことないくらいの活気溢れる顔をしている。
教授から大いに激励を受け、それ以上に期待も寄せられた。応えられるかどうか分からないけれど、いい結果に繋がればいいと俺も思う。
帰り際レイアを拾っていく為にもう一度教授の部屋へ訪れると、全員ばったりと倒れていて驚いた。何が起きたのかと慌てたが、全員ただ議論に疲れて寝ているだけだった。
そこかしこから寝息といびきが聞こえてきて呆れ返った。しかしレイアを含め魔法道具学部の人たちも満足そうな顔をしている、楽しかったのだろうなと思った。
俺はアンジュに手伝ってもらい、寝ているレイアを背負うと教授に挨拶してから大学を出た。宿屋に戻りレイアをベッドに寝かせた。後の事はアンジュに任せる事にする、幸せそうな寝顔で呑気に寝息を立てていて、むにゃむにゃと口を動かしていた。
「だぁらそぉこはあたいがまちがってるだしぉがぁ」
「レイアさん、寝言でも楽しそうですね」
風邪をひきますよとアンジュはレイアに毛布をかけた。どっちが年上なんだかと俺は微笑んでから部屋を後にした。
とある国のとある場所、そこは遺跡とはまったくの関係もないが地下深くにあった。漆黒のローブを身にまとい、フードを目深に被った人々が頼りない灯りを手にゆっくりと階段を下っていた。
広い地下空間に大勢の人が集った。人々の前に置かれた壇上に人が上がると、盛大な拍手が沸き起こり迎え入れられた。
壇上に上がった人物はスッと片手を上げた。鳴り響いていた拍手はすぐさまやみ、薄暗い地下に静寂が戻る。
「同志諸君、吾輩の為よく集まってくれた。まずはその忠誠に感謝するとしよう」
壇上の老夫の声は嗄れていた。しかしその声は遠くまでよく通り、力強い言葉の一つ一つが、人心を掴んでいく。
「大いなる目的の為日々活動を続けている同志諸君よ、ここ暫く吾輩はさらに深く地下に潜り諸問題を片付けていた。待たせてしまって申し訳ない」
男が頭を下げると、聞き入っていた集団は恐れ多いというように一斉に地に伏せった。絶対的な上下関係がそこには存在していた。
「顔を上げなさい同志諸君」
その場を完全に支配している男がそう言うと、全員が顔を上げる。恐ろしいまでの忠誠心が行動で示される。
「吾輩は待ち続けている、その時が来るのをずっと待ち続けている、同志よ、吾輩はいつまで待てばいいだろうか。同志よ、最近の活動報告は耳障りがよくない、吾輩はその度不機嫌になる。同志よ、吾輩の心を満たす報告が来るのはいつになるだろうか」
男の発現は、人々をゆっくりと上から地面へと押し付けるように響く。あるものは緊張に耐えきれず泣き出し、あるものは吐瀉物をまきちらした。大量の脂汗を垂れ流し水たまりを作るものもいれば、失禁するものもいた。
「しかし、中にはいつもいい報告が聞くことの出来るところもある。エイジション帝国にて活動する同志の存在だ。八面六臂の活躍ぶりで有益な情報を吾輩に多くもたらしてくれている。年若くしてなんと立派なことかと吾輩は喜ばしく思っている。同志諸君、吾輩は期待して待っている。待っているぞ」
壇上の男はバッと両手を広げた。
「さあグリム・オーダーよ。力の限り存分に働くといい。その為の支援を吾輩は惜しまない。すべては大いなる目的の為に!」
「すべては大いなる目的の為に!!」
男の言葉に続いて人々はそう叫んだ。グリム・オーダーは暗躍を続ける、その目的は彼らのみしか知る事はない。
リュデルは故郷であるエイジション帝国にいた。一等地にある屋敷はリュデルの実家だ、リュデルを迎え入れる為に多くの使用人がずらりと並んで頭を下げた。
行列の間を無言で進むリュデル、最後に待ち構えていた最年長の執事は、他の使用人とは違いリュデルの後ろについて一緒に歩いた。
「レジナルド」
「はい」
「家に変わりないか?」
「勿論でございます。御主人様も奥様も、変わらずご創建であらせられます」
「そうか、まあそうだろうな」
二人の会話は端的でそっけない。必要最低限というようなものだった。しかしそれはリュデルがそういう態度でいるというよりは、レジナルドがリュデルに合わせて態度を変えていた。
「坊ちゃま」
「何だ」
「冒険者等級の1級昇格おめでとうございます。ご活躍は遠く離れたこの地でも届いております」
「フン。こんなもの、ただ必要に迫られて所持しているだけに過ぎん。他者の評価など何の意味もない、僕の目的は一つだからな」
「これは出過ぎたことを申しました」
「いい。お前からの称賛は悪くない。僕がいない間家を頼むぞ」
「かしこまりました」
リュデルが自室に戻ると、メメルとフルルがすでにいた。特に挨拶などを交わす事もなくリュデルは言う。
「何か分かったか?」
「はい。各所に依頼していた四竜についての情報をまとめておきました」
「中々骨が折れたぜ」
資料を受け取ったリュデルがパラパラとそれに目を通した。一通り目を通すと、それをパタリと閉じる。予想通りの結果が届いたという感想だった。
「やはり間違いないな、四竜が伝説の地への鍵だ」
「ええ、拙も同意見です」
「どっからあたるんだ?今のところ一番情報が多いのはサラマンドラだけど」
「そこは今はいい、あいつがいるらしいからな。精々駆けずり回って情報を集めてもらおう、それくらい使い道はあるからな」
リュデルはそう言ってため息をついた。リュデルの言うあいつというのはアーデンの事だった。元々調査の対象ではなかったが、四竜を追っている内に名前があがってきた。
「まったくフルル、お前がサラマンドラの事を口に出すから不愉快な顔を思い出してしまったじゃあないか」
「フルル、今ここでアーデン様に詫びてこれで喉を突きなさい」
「やめろやめろナイフを出すな。メメル、お前は一々大げさなんだよ。それに僕の部屋を血で汚すな、使用人の仕事が増える。外でやれ外で」
メメルとフルルはリュデルに対して絶対の忠誠を誓っていた。それはもう過剰なまでにだった。
リュデルの指示であれば死んでも絶対にやる、そんな二人の付き人の扱いに頭を悩ませつつ、リュデルはもう一度届いた資料に目を通すのだった。




