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様々な関係

 カ・シチ遺跡での激戦を終え、俺とレイアの等級はまさかの二級を飛ばして準一級に昇格した。それだけの功績があると認められたのは嬉しいけれど、本当にいいのかなあというのが俺の正直な気持ちだった。


「貰えるものは貰っとけば?私は今燐命の錫杖の事で忙しいの。テオドール教授が折角調べる機会をくれたんだから」


 レイアはそう言って教授の元へルンルンと跳びはねて行った。等級に興味のあるタイプではないけど、無関心にも程がある。


「どうかしましたか?」

「ん、ああ。準一級になったって事はあいつと並んだなって」

「あいつ?」


 小首を傾げるアンジュに俺は言った。


「前に話したリュデルって奴。あいつも準一級だって聞いたからさ、でも今はもう昇級してるかもなあ…」

「ああその人ですか、アーデンさんは意外とその人と自分を比べたがりますね。何かあるんですか?」

「うっ、そう見える?」


 こくんと頷くアンジュに俺は苦笑いを返した。確かに俺は事あるごとにリュデルと自分を比べているかも知れない、理由は何となく分かっている。


「…強かったんだよなあいつ。アーティファクトだって完全に使いこなしてたし、何やるにもスマートって感じでさ」

「はあ」

「あの完璧超人っぷりを見たら、何だか父さんを思い出したんだ。奇しくもあいつブラックの再来って言われてるらしいしな。何だか、何なんだろうな?」


 理由は分かっても自分の気持ちはよく分からなかった。どうしてこうもモヤモヤとするのだろうか、そんな事を考えているとアンジュが言った。


「…嫉妬ですかね?」

「俺がぁ?あいつに?」

「アーデンさんの話を聞いた限りの感想ですけどね」


 嫉妬、嫉妬か。不思議なことにその言葉はストンと胸に落ちた気がした。アンジュの言っている事が正しいのだろう。俺は父さんに近いリュデルに対して嫉妬し、対抗心を燃やしていたんだ。


「いいじゃないですか、好敵手ライバルってやつですよ。いつかアーデンさんがリュデルって人を超えるんですよ。私はアーデンさんを信じていますよ」

「そ、そう?」

「ええ!そもそも私、そのリュデルさんって人よく知らないですから。だからアーデンさんの方が信頼出来ます」


 俺はガクッと肩を落とした。そういう意味かよと思うと体の力が抜けてしまった。まあでも、正直にそう言ってくれるアンジュの性格を俺は好ましいと思っていた。


「さてと、無駄話もここまでにしようか。レイアはいないけど、手記の確認しよう」

「ドキドキしますね。次はどんな記述増えているんでしょうか」


 俺とアンジュは手記を広げると一緒に覗き込んだ。




 今回、手記に文書が書き込まれてはいなかった。その代わりに、ユ・キノ遺跡で手に入れた手がかりの白紙の地図に、赤く光る点がチカチカと点滅していた。


「これは…何だ?」


 俺は正直よく分かっていなかった。でもアンジュは違ったようだ、ハッとした表情を浮かべ慌てて俺の肩を叩いた。


「アーデンさんっ!ここ!ここ!」

「な、何?ここがどうかしたの?」

「ここ四竜の伝承が書かれた本に載っていた場所です!具体的な記述も少なく、信ぴょう性に欠くとされ今まで歯牙にもかけられなかったのですが、教授のお気に入りの一冊でして私も何度も読みました」

「本当か!?で、その本にはなんて?」

「サラマンドラの生息地として書かれていた場所ですよ!」


 生息地、つまりはサラマンドラの居場所、竜の手がかりを巡ってようやくつかんだ。もしこれが本当なら、ついに四竜に出会える事になる。


「すごいじゃん!大発見だ!」

「はい!すぐに教授にも知らせに行きましょう」


 俺とアンジュはサンデレ魔法大学校へと急いだ。




 教授の部屋の前まで来ると、中が想像しい様子だった。そして聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「何やってんだあいつ…」

「レイアさん、何だか白熱してますね」


 俺が呆れながら扉をノックすると、ドスドスと足音を立ててガチャリと乱暴に扉が開かれた。


「何よ!?…って、アーデン達か」

「お前、教授に迷惑かけてないよな?」

「え?かけてる訳ないでしょ。いいから二人もこっち来て」


 俺とアンジュは、レイアにむんずと両腕を掴まれて部屋へと引っ張り込まれた。中にいたのは教授と、多くの見知らぬ人たちだった。


「あ、え、どちら様?」


 俺が困惑していると隣にいたアンジュが教えてくれた。


「魔法道具学部の人達です。ほら、カ・シチ遺跡の時道具を貸してくれた」

「ああ、アンジュとカナでね。どうもお世話になりました」


 お礼を述べて頭を下げるも、魔法道具学部の人たちはとても友好的とは言えない表情でギラリと俺を睨みつけてくる。何かまずいことを言ってしまったかと狼狽えていると、いつの間にか背後に回っていた教授に肩をぽんと叩かれた。


「彼は私のお客様だよ、皆失礼のないようにね。では二人共、場所を変えようか。レイア君、存分にやってくれたまえ、ここは自由に使っていいからね」

「言われずともそのつもりですよ」


 今度は教授に背を押される形で俺とアンジュは部屋を出た。するとまた部屋が騒々しくなった。一体何が行われているのか分からないまま、教授は俺達を別室に通した。




「いやあ突然すまないね。しかしあの部屋ではゆっくり話が出来ないだろうから」

「それは全然いいんですけど。レイアは一体何をやっているんですか?」

「そうですよ。私はてっきりアーティファクトにかかりきりになっているかと思っていました」


 そう聞くと、教授は少し困ったように苦笑した。


「いやあ最初の内はそうだったんだけどね、魔法道具学部の人達に後学にと思って集めたのがまずかったようだね。アーティファクトに夢中なレイア君と魔法道具を扱う彼らでは水と油でねえ、どちらから始めたのかもう分からないが激論が始まってしまったんだよ」


 成る程と納得すると同時にその光景が目に浮かぶようだった。レイアのやつ、教授に迷惑かけているじゃないか。


「本当にすみません…」

「いやいや謝る事ないよ、私も楽しく聞かせてもらっていた。いやあレイア君はすごいね。一人であれだけの数を相手にして悉く論破していた。彼女、魔法の知識もあったのかい?」

「というよりも魔法道具についての知識ですね。レイアの作っている発明品は、アーティファクトの技術と魔法道具の技術を合わせたような物ですから」


 俺もそこまで詳しく知らないが、そのような話をレイアから聞いた事があった。ただ、それがどういう仕組みでどうして動いているのかはさっぱり分からない。


「成る程ねえ、これからは彼女のように柔軟で革新的な考え方が出来る人材が、魔法道具の学部には必要になるだろうね。ま、レイア君は興味ないだろうけど」

「アハハ…、それはそうだと思います」


 そもそも今あれだけの人数相手に雄弁でいられるのも、一時的な昂りからだろう。あれがどれだけ続くかなあと俺は思っている。


「あっちはレイア君に任せておくとして。アンジュ、とうとう君は固有魔法に至ったんだね」


 教授は一転して真剣な面持ちでアンジュを見つめ言った。


「ええ、教授から受けた薫陶の賜物です。あの時の私に魔法を教えてくれてありがとうございました」

「…私の力じゃあないさ、全部アンジュの努力の証だ。固有魔法の名前はブーストと言ったかな?」

「そうです。術式の最適化、環境への対応、マナ伝導効率の引き上げ、理論上すべての魔法の威力と効能を上げる事が出来ます。その分マナの消費量は増えますが、通常とは桁違いの威力を誇ります」


 アンジュの説明を聞いている時、教授は真剣な表情を崩しはしなかったが、口元は少しだけ緩んでいるように見えた。


 成長を喜ぶ気持ちと、教え子に対する態度とが入り混じっているのだろうか。でもとても嬉しそうだと俺にはそう見えた。


「私ブーストには、教授の研究されている原初魔法の理論も組み込まれているんですよ。原初魔法はまだ魔法の技術が発達していない時代に小さな結果を大きく育てる為の創意工夫が凝らされている魔法ですから」

「そうか。うん、本当に立派になった。アンジュ、君は魔法使いとしても人間としても殻を破ったようだね。その気持ちをいつまでも大切にしなさい」

「っはい!!」


 教師と教え子のようで、親と娘のような二人の関係。成長を素直に喜ぶ教授と、認められた事に嬉しそうにするアンジュを見ていると俺も嬉しい気持ちになった。


「教授、話は変わってしまいますがこれを見ていただけますか?」

「これは…、あの本にも書かれていた。もしかしてサラマンドラの居場所か?ちょっと待っていなさい、伝承より位置が少しズレているな…いやそれよりこの場所が…」


 教授はぶつぶつと呟きながら本を取りに行った。四竜に関しての事を聞くと途端に目を輝かせる教授に、俺とアンジュは顔を見合わせて笑った。

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