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さよならと次の場所

 見つかった石板に端を発した騒動も終わりを告げ、俺たちは元の生活に戻る事が出来たロゼッタの所へ訪れていた。


「そうですか…、そろそろお二人ともお別れなんですね…」

「うん。二人で話し合って決めたんだ、次の場所へ向かおうって」

「折角仲良くなれたのに寂しいけどね」


 俺とレイアはロゼッタに別れの挨拶を言いに来ていた。ギルドからの聞き取り調査も終わり、騒動に区切りがついた。シェカドともそろそろお別れだ。


「次の目的地は決まっているんですか?」

「実はそれがまだ何だよね。でさ、父さんの手記を見て一緒に考えてほしいんだ」


 俺たちは行き先を敢えて決めずにおいた。それをロゼッタと相談して決めたいなと思っていたからだ、新しく友達になれたのだから、思い出を残して行きたい。


 父さんの手記を取り出すと机の上に広げた。三人でそれを覗き込むと、三人で一斉に「あれっ?」と声を上げた。


「こんな記載あったか?」

「というかページが増えてない?」

「あ、あの!今まさに書き足されていますよ!」


 ロゼッタの言葉に俺たちは食い入るように手記を覗き込んだ。確かにまた文字が浮かび上がってきている。


「伝説の地…探す…識るは四竜…」

「四竜は伝える…秘宝…厄災…試練?」


 浮かび上がった文字を読み上げた俺とレイアは、顔を見合わせて首を傾げた。断片的で何のことかさっぱり分からない。


 しかしロゼッタだけは何か思い当たる事があるようで、口に手を当てて何かを考え込んでいた。暫くの思案の後、バッと立ち上がると本棚から一冊本を取り出した。


「四竜ってもしかしたらこの事かもしれません」


 ロゼッタは開いた本のページを指で指し示す。そこには挿絵で四匹のドラゴンが描かれていた。


 口から火を吐き出し、全身も燃え上がる炎のような姿のサラマンドラ。荒れ狂う水禍に生き、うねる体に泡を纏うニンフ。優美な翼をはためかせ、大空を舞うシルフィード。頑強な巨体は山の如く、大地を揺らしながら歩くゲノモス。


「動物なのか魔物なのか、そもそも本当に存在しているのかも分かっていなかった四匹のドラゴン。これらも伝説の地と同じように伝承のみの存在だと思われていました」

「思われていた?」

「目撃情報が報告され始めたんです。実際に接触した事のあるという人もいます。本当かは分かりませんが、伝説を識る四竜と言われると思いつくのはこれくらいですね」


 そうロゼッタは教えてくれた。正直話を聞きながらずっとワクワクが止まらなかった。手記に突如現れたページに文字、伝承の存在かと思われていた四竜、新たな冒険の気配がぷんぷんと匂い立つ。


「でもどうして手記にページと記述が増えたんだろう?」

「そういやそうだな。いつの間に増えたんだ?」


 どういう条件で父さんの手帳のページや文字が再生されるのか分からない。前回はウラヘの滝で石板を見つけた時だったが、ザ・ノホ遺跡では何も起こらなかった筈だ。


「もしかして、三枚の石板を集めたからでしょうか」

「…そうかも?」

「ありえそう…?」


 三人で顔を見合わせてうーんと唸っていると、ピカピカと手帳が光り始めた。なんだろうと思い手帳を開いて三人でそれを覗き込む。そこには一言こう書かれていた。


「そうだよ」


 それを見た瞬間、レイアは無言で手帳を取ると床に思い切り叩きつけた。




「ああもう!ブラックさんには悪いけど本気でムカつく!!」


 手帳に翻弄される事はよほど気に入らないらしいレイアはすっかり腹を立てていた。ロゼッタも苦笑いをしているので、俺は少し申し訳ない気持ちになってきた。


「さ、さてと!ええっとロゼッタ、四竜について何か手がかりってないかな?」

「あ、そ、そうですね!ちょっと調べてみます!」


 いたたまれなくなってきたのか、ロゼッタは伝手を当たると言って部屋を出ていった。怒るレイアを何とかなだめて待っていると、ロゼッタが「お待たせしました」と言って戻ってきた。


「何か分かった?」

「ええと、四竜の居場所は分からないのですが。もしかしたら分かる人がいるかもしれない場所は分かりました」

「本当?」

「はい。サンデレ魔法大学校に、四竜について研究をしている学者がいると聞きました。世界で一番大きな大学で、見聞を広げるにはもってこいの場所ですよ」


 サンデレ魔法大学校、その名前を聞いた瞬間いじけていたレイアがビッと立ち上がって目を輝かせた。


「サンデレ魔法大学校!?えっ、えっ、ロゼッタもしかして伝手があるの?」

「ええ、お二人の為に書簡をしたためます。それをお持ちいただければ便宜を図っていただけると思います」


 喜び飛び跳ねるレイアに、俺はサンデレ魔法大学校の事を聞いた。


「レイアは何か知ってるのか?」

「勿論でしょ?サンデレ魔法大学校と言えば、魔法に魔導具、マナに関する研究の最先端を行く場所よ。膨大な蔵書を誇る大図書館や、魔導具の為の実験施設とか、すごい場所なのよ?」


 興奮するレイアの言葉に付け加えるように、ロゼッタも大学について教えてくれた。


「魔法に関する知識ならサンデレ魔法大学校より優れた所はありません。その規模と勢力は大国に匹敵すると言われており、大学を中心にした広大な都市も広がっているんですよ」

「へえ、一国並ってすごいな」

「ただ気に入らないのが、サンデレ魔法大学校ってアーティファクトについて研究する人が少ないのよね。いえ、皆無と言ってもいいかもしれない。その手の優秀な研究者を一人も輩出した事がないの。一度行ってみて、内情を調べてみたいと思っていたのよ」


 どうやら目的地は決したようだ。俺はロゼッタに向き直ると、改めてお願いをする。


「俺たちの次の目的地はサンデレ魔法大学校だ。ロゼッタ、色々ありがとう。それと書簡の方頼んでもいいかな?」

「はい!お二人の冒険のお役に立てば幸いです!」




 ロゼッタが書簡を用意してくれている間に、俺たちはガイさんとシンシアさんのいる宿屋へと戻った。次の行き先が決まった事を伝えて宿代を清算した。


「本当にお世話になりました」

「いやいや、こっちこそ楽しかったよ。まさかブラックの息子が冒険者になって同じ部屋に泊まるなんて夢にも思わなかったからな」

「またいつでも遊びに来てね二人共」


 俺とレイアは二人にそれぞれ別れの挨拶をすると、荷物をまとめて部屋を片付けた。冒険者になって初めてもった拠点だ、離れるのが少し寂しい。


 片付けを手伝ってくれたガイさんが、次の目的地であるサンデレ魔法大学校について言及した。


「しかし今度の場所は魔法大学とはな。結構遠いけど大丈夫か?」

「まあ暫くは野宿が続きますかね。途中に村や町でもあればいいけど」

「宿泊出来るとも限らないもんね」


 レイアの言葉にガイさんが頷いた。


「小さい所だと旅人を迎え入れるような場所を作る事自体難しかったりするからな」

「でも大丈夫ですよ!俺たちも少しは強く逞しくなったんで、野宿もへっちゃらです!」

「私はなるべく遠慮したいけど…、でもまあアーデンの言う通りかな」


 俺たちがそう言うと、ガイさんは嬉しそうに目を細めて口元を緩めた。


「そうだな。初めてお前達と会った頃と今のお前らはまったく別人だよ。若い力ってのは成長も著しいな」

「へへっ、そうですか?」

「ああ。きっとお前たちは何度足をすくわれようとも立ち上がって前に進むんだと思う。そしてその度に強くなっていくんだ。志と冒険心を忘れない限り道はずっと続いていく、俺はそう思うよ」


 ガイさんのその言葉は暖かくて、なんだか勇気をもらえた気がした。もしかしたらガイさんは父さんを思い出して言ってくれたのかもしれない。俺とレイアに少しでも父さんが重なって見えたのなら嬉しい。


「頑張れよ二人共、夢が叶うようにここから願ってるよ」


 俺たち二人はガイさんに頭を下げてお礼を言った。それは心から出てきた行動だった。




 シェカドを旅立つ前に、ロゼッタから書簡を手渡される。


「これを大学に在籍しているテオドール教授に渡してください。ピエール教授と私の名前を出してもらっても構いません」

「分かった。何から何までありがとうロゼッタ」

「そんな、お礼を言うのは私の方です。お二人に命を救われて、共に謎を探り、怖い思いも沢山したけれど、私にとっては初めての大冒険でした。とても楽しかったと今なら言えます。アーデンさん、レイアさん、二人に会えて友達になれてよかった。またお会いしましょう」


 俺たちは固く握手を交わした。三人の重なる手を離すのが名残惜しくて、暫しそのまま解けずにいた。


 シェカドでの冒険、石板を巡る謀略、リュデルとの出会いと伝説の地を探す謎の組織の存在、良いことも悪いことも全部引っくるめて素晴らしい冒険だったと心から思える。


 誰からではなく三人同時に手を離した。握った手を開いて今度はお互いに笑顔で手を振り合った。俺たちはこうしてシェカドでの冒険を終え、次なる地サンデレ魔法大学校を目指す旅に出る事となった。

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