一先ずの幕引き
シェカドに着きリュデルに言われた通り冒険者ギルドへと三人で赴いた。ハンナさんに事情を説明するとすぐに部屋へ通されて、その内にトロイさんも慌てた様子で扉を開け放った。
「アーデン君!話を聞いて飛んできたぞ!詳しいことを説明してくれ」
こんなに慌てているトロイさんを見たのは初めてだ、俺たちは協力してあった事を説明した。すべてを聞き終えるとトロイさんは深くため息をつき、顔を手で覆って脱力した。
「まったく…、リュデル君にはまいったよ。ここまで強引に事を進めるとは…」
「ギルド長に相談はなかったんですか?」
「いや、事前に計画の大筋は聞いていた。しかしどうしてもロゼッタ君を態と拐わせる作戦には反対したくてね、ただ代案を思案するのに時間はかかってしまった」
やっぱりトロイさんも反対はしていたんだなと俺は思った。でもリュデルが強引にでも作戦を実行した訳もなんとなく分かる。
「やっぱり猶予を与えたくなかったって事ですか?」
「そうだね、私はろくに案も出せずにリュデル君の力に頼り切りだった。時間が過ぎるばかりで、何もかも彼任せにしすぎたね」
時間をかければザカリーだってきっと不穏な空気を感じ取った筈だ、リュデル達がいくら上手くやっていたとはいえ、時間をかければかける程その危険は上がっていく。
だからザカリーを完全に釣り出す事が出来たあの作戦は、ある意味成功と言ってもよかった。しかしリュデル自身が言っていたように、キメラという奥の手を出された時、ロゼッタの身の安全までは保障出来ない。
それは他ならぬリュデル本人が認めていた事だ、態度とやり口から一方的に嫌っていたが、存外悪い奴って訳じゃあないかもしれない。
そんな事を俺が思ったタイミングで、またしても部屋の扉が開いた。そこにいたのはリュデル達だった。
合流したリュデルの話を聞き終えると、トロイさんは何度もうんうんと頷き改めてリュデルに謝意を表した。
「今回の一件、リュデル君達が来てくれなかったら我々の手には負えなかっただろう。本当に助かった。礼を言うよ」
「いえ、こちらの利もあっての事。それに最終的には僕もミスを犯してしまった。そこはアーデンさんに僕も助けていただきましたよ」
なんだかリュデルから普通に評価されるとこそばゆい、まあ悪い気はしなかった。
「まあ色々と引っ掻き回されていい迷惑だったのも事実ですがね。彼らの動向を把握するのに時間を割かなければもっとスマートに事を進められた可能性は否定出来ません」
前言撤回、こいつ本当に嫌な奴。
「言いたい事は多々ありますが、これで依頼は達成という事でいいですね?」
「ああ、脅威は討ち果たしたのだから文句ないだろう」
「ではロゼッタさん。僕たちに石板とその解読結果をお渡しください。それを持っている事で、今後も狙われる可能性がある。異論はありませんね?」
リュデルは態々俺とレイアの表情も伺うように、その場にいる人全員をぐるりと見渡した。意見に同意しろという圧は気に入らないが、異論を唱える者はいなかった。
「あの、少しいいですか?」
「なんですロゼッタさん?まさか石板を渡したくないという話ではないですよね」
「い、いいえ。そ、そんな話ではありませんっ」
「いちいち突っかかるなよな、もう誰も文句言ってないんだからさ」
俺がそう言うとリュデルは隠しもせず舌打ちをした。こいつ普段の礼儀正しい態度は全部演技か、しかも一緒に戦って以来なんだかこっちに遠慮がなくなった気がする。
「で、聞きたいはなんですか?」
「えっと、リュデルさんは秘宝と伝説の地についての情報が欲しくて石板を求めているのですよね?」
「そうです」
「でもあの石板に書かれた内容は殆ど秘宝や伝説の地に触れていません。それらしい記述はあるものの、解釈次第では違う内容にもとれます」
そういえばそんな話をロゼッタから俺たちも聞いていた。確かにあれっぽっちの情報を手に入れるのに、この高慢ちきな自信家が動くのはちょっと理解し難い。
ロゼッタの命が懸かっていたので重大な問題ではあるのだが、エイジション帝国皇帝のお気に入りが動く程の事なのだろうか。皇帝の人となりを知らないので勝手な話だが、大国にとっては些事もいいところな気がする。
「…そうですね、まあこれくらいならお話してもいいでしょう。今回裏で動いていた勢力についても知っておいた方がいいでしょう」
そう前置きをし、リュデルは話し始めた。
「そもそもですが、秘宝と伝説の地についての記述がなされた遺物が見つかる事が本当に稀なのです。皆さんも話で聞く限りではお伽噺や、噂以下のような眉唾ものの話しか聞いた事がないのでは?」
「それは確かにそうだね。私もそれらの研究についてまとめた本を何冊か読んだ事はあるが、どれも噂話をかき集めたようなものだった」
トロイさんがそう答えたので俺は「へー」と相槌を打った。それが気に食わなかったのかリュデルが少し語気を強めて言った。
「アーデンさんはそうでしょうね。なにせ証人の息子ですから」
「な、なんだよ」
「いえ。兎に角一般的にはそれだけ情報が少ないと言いたいのです。噂に伝承、子供の子守唄に童話、どれも価値や信ぴょう性が低く信用できたものではありません」
ふーんと相槌を打ちそうになって止めた。また嫌味っぽく言われてもかなわない。
興味深いと思った。俺は確かに父さんのお陰でその存在を信じられているけれど、伝説の地があるという情報を得るだけでもそんなに難しいとは思わなかった。
「だからロゼッタさんの見つけた石板には計り知れない価値がある。理解していただけましたか?」
「は、はい」
「僕は僕の目的の為にそれらを追い求めています。だから何に変えても手に入れたかった。何せ辿り着いた人はただ一人の冒険者だけ、手がかりになるなら些細な情報でも欲しい」
伝説が本当だと証明した父さんは、その後行方不明になった。しかも碌な情報を残さずいつの間にか一人消えた。確かにリュデルが些細な情報でも欲しがるのは理解出来た。
「そしてこれらの事情は丸々今回裏で動いていたある組織にも当てはまります。その名はグリム・オーダー、秘宝と伝説の地を追う非合法な組織です。アーデンさん、レイアさん、お二人もそれらに関わり続けるなら今後絶対にこの組織と接敵するでしょう。注意しておきなさい」
その言葉には今度は強い警戒感が込められていて、本気でこちらを案じて言っているのが分かった。少なくともあの時騙された演技ではないのは理解出来た。
「グリム・オーダー…、どんな奴らなの?」
流石に気になったのかレイアがそう聞いた。
「分かりません。ただ確実に秘宝と伝説の地について嗅ぎ回っています。しかも手段を選ばない、何の美学も持たない無粋な組織ですよ」
「どうしてリュデルはその名前を知っているんだ?俺たちは聞いた事もないのに」
「言えませんし、言いません。ただ個人的な感情で注意しておけとは言えます。後は察してください」
なんじゃそりゃとは思ったが、リュデルにも事情というものがあるのだろう。それを捻じ曲げてまで教えてくれとは言えない。恐らくこの警告は彼の善意に依るものだからだ。
「分かった。グリム・オーダーな、覚えておくよ」
「そうしてください。では僕たちはこれで失礼します。ロゼッタさん、ついて来てください」
石板と情報の受け渡しの為リュデル達はロゼッタを伴って部屋を後にした。残された俺たちは互いの顔を見合わせた後、どっと疲れが出て息をついた。
「あいつと話すと疲れる」
「まったく同感」
俺とレイアがそう言うと、トロイさんは苦笑いをして言った。
「彼には彼なりの行動指針があるのだろう。そしてそれを絶対に曲げないのさ、どんな人を相手にしていてもね」
リュデルの性格はすべてトロイさんの言葉に集約されていると思った。我も強いが信念も強く持ち、誇り高くて自分が優秀である事を隠さない。俺の感情としては嫌いだが、その生き方は純粋に尊敬できた。
「さて、これで諸問題も解決した。君たちも疲れただろう。今日の所は宿に帰ってゆっくりと休みなさい。また事後調査の為に聞き取りをお願いするかもしれないけれど、これで一連の事件は幕を下ろしたと言っていいだろう」
「分かりました。では俺たちも失礼します」
トロイさんに頭を下げて俺たちもその場を後にした。ロゼッタと石板、特殊個体の魔物、謎の組織グリム・オーダーの暗躍、思い返せば本当に大冒険だったなと俺もレイアもそう思ったのだった。




