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VS.キメラ その2

 七本の長い首が俊敏に動く、前に出て攻撃を防ぎにいったのはリュデルだった。盾を巧みに操り波状攻撃を捌ききる、完全に防御に徹していた。


 首はそれぞれに攻撃方法が違っていた。一本は炎のブレスを放ち、一本は鋭い牙で噛みつく、一本は悪臭が酷い毒の息を吐き、一本は魔法を詠唱して攻撃を行ってきた。


 主にこの四本が攻撃を担当し、残りの三本は攻撃の隙を埋めるよう見に徹した。特殊な能力がなくとも文字通り頭数が違う、本来なら一人を相手に圧倒しても不思議ではなかった。


 だがリュデルは普通の相手ではない。すべての攻撃を完璧に防ぎ切っていた。リュデルは攻勢を頭から一切捨て去り防御に集中していた。卓越した戦闘技能もさることながら、陽炎盾ソルの力も大きかった。


 陽炎盾ソルは攻撃を受ける程に纏うオレンジ色の光が強く濃く輝きを増し、防御出来る範囲が広がっていった。ただ防ぐだけではない、光はどんどん熱を帯びていき攻撃するキメラもその熱に焼かれていく。


 受け損ねれば当然盾の力は発揮されない、攻撃を捌ききっている技術はリュデルのものだった。


 そしてリュデルが攻勢を捨て防御に徹する事が出来た理由がある、それはアーデンの存在だった。リュデルが前に出たのを見るとすぐさま側面に回った。


 言葉を交わさずともアーデンは代わりに攻勢に出た。リュデルに引きつけられて死角になっている足元に走り込むと、ファンタジアロッドを伸ばして一本の首に巻き付けた。


 ロッドの元に戻る力を利用して高くジャンプすると、がら空きになった胴体目掛けてロッドを下に構えて落下する。体にロッドを突き刺すと同時に刀身にマナのエネルギーを集中させた。


 体を内側から焼かれる痛みにキメラは身悶える。首を振り回しジタバタと暴れてアーデンを振り下ろそうとするが、アーデンは構わず更に奥へと突き刺した。


 キメラはたまらず攻撃対象をアーデンに定めた。このままではまずいと判断したからだ、しかしアーデンはキメラが攻撃対象を自分に定めたと判断すると、あっさりとロッドを引き抜いて体から飛び降りた。


 何故攻撃を止めたのか、理解が追いつかないキメラに見に徹していた頭が吠えて知らせる。だが一瞬でもリュデルから目を離した事が致命的だった。


 それまで全力で防御に集中していたリュデルは、自分からターゲットが外れるとすぐさま攻勢に出た。月聖剣ルナを手に連続でキメラを斬りつける。たまらず今度はリュデルへ意識が向く。


 するとアーデンは攻勢を止め、キメラの拘束に回った。またしてもキメラの首にロッドを巻きつけると、今度は思い切り引っ張って地面へと叩きつけた。そこへリュデルが剣を振り上げて思い切り振り下ろす。とうとう首を一本斬り落とした。


 ぐったりとうなだれる首から血が吹き出る、感覚が繋がっているので他の頭も痛みのあまり金切り声を上げた。痛みで意識が散ったキメラの隙をアーデンとリュデルは見逃さなかった。


 二人は駆け出し片足を目掛けて斬撃を同時に加えた。ダメージを負った足は体の自重に耐えられず押し潰れるように千切れ飛んだ、バランスを崩したキメラは大きな音を立てて地面に崩れ落ちた。




「僕が決める。見ていろアーデン」


 そう言うとリュデルは言葉とは裏腹に盾に剣を収めた。しかしそれは戦いを止める為ではない、戦いを終わらせる為だとすぐに気がついた。


 攻撃を受ける度光を増していた盾、その光が収めた剣に収束していく。リュデルが盾から剣を抜き取ると、その刀身は眩しくて見ていられない程に輝いていた。


「陽炎盾ソルは攻撃を受けそれをマナへと変換する、そしてソルが溜め込んだマナを受け、月聖剣ルナは更に強く輝く」


 リュデルがルナを掲げると、刀身に込められたマナの本流は激しさを増し空を貫いた。形成された巨大な剣はそのまま振り下ろされキメラの体を真っ二つに斬り裂き、光に飲み込まれた体は塵も残さず消え去った。


 完全にキメラを消し去ったのを確認すると、俺もリュデルも武器を収めた。ふうと大きく長く息を吐き出す。戦闘中ずっと生きた心地がしなかった。


 しかし俺の呼吸が乱れているのに対して、リュデルは実に静かなものだった。まるでさっきまでの激戦がなかったかのように涼しい顔をしていた。


 実力に大きく水を開けられているのは分かる、悔しいと思えない程に強かった。これがリュデル・ロールド、父さんの再来と呼ばれるだけの男だと思った。


「どうした?怪我でもしたか?」


 俺が見ている事に気がついたのかリュデルが話しかけてきた。


「いや、怪我はない。信じられない事にな」

「ん?何が信じられないんだ?」

「そりゃあれだけの化け物相手にして無傷だった事だよ」

「そんな事か、あれくらいどうということないさ」


 その発言にお前ならそうだろうなと毒づこうかと思ったが、リュデルは更に言葉を続けた。


「と、言いたい所だが、君がいなかったらこうはいかなかっただろう。アーデン、これは嘘偽りなく本当だ」


 一瞬キョトンとしてしまった。まさかリュデルからそんな言葉を聞くとは思っていなかったからだ。しかし一度騙されている手前本当かどうか怪しんでしまう。


「どうかな、お前一人でもやれたんじゃないか?」

「いやそれはない、僕はザカリーの能力を低く見積もり過ぎていた。あいつには計算高い計画遂行能力はなかったが、与えられていた力は確かなものだった」

「魔物を召喚する笛か、あれで痕跡を残さずフューリーベアを召喚していたんだな」

「しかも特殊個体を七匹だ、そしてあの歪な合体、僕は事前に集めた情報からザカリーの能力を過小評価していた。あのまま戦闘に突入していたら人質を無事に助ける事が出来たか分からない」


 あっと声を上げて今更思い出す。戦闘に集中していてロゼッタを忘れていた。慌てて隠れた場所を探そうとすると、がさがさと音を立てて思わぬ人達が出てきた。


「レイア!?」


 それだけではない、レイアの後ろからロゼッタ、そしてメメルとフルルが続いて出てきた。


「メメル、フルル、ご苦労だった」

「あ、え?」

「戦闘の最中に二人に分かる合図をしておいた。ロゼッタさんの保護を頼んだんだ」

「いつの間に…」


 俺は目の前のキメラに夢中で気が付かなかったが、リュデルはロゼッタの事を考えて動いていたのか。しかしどうしてレイアまでいるんだと思っていると、メメルがその理由を話し始めた。


「リュデル様、確かに我々も尽力しましたが、実はレイア様のお力添えの功績も大きいのです」

「そうなのか?」

「ああ、ここまで来るのに使わせてもらった乗り物のお陰で素早くここまで来られた。なんていったっけあれ?」

「…ゴーゴ号」

「そうそう!いいじゃあねえか、あたしはその名前気に入ってるぜ!」


 笑ってそう言うフルルにレイアは苦笑いを返した。どうやらゴーゴ号に二人を乗せてここまで来たらしい、合流出来た喜びは大きかったが、あの後何があったのかが気になった。


「皆々様がた、色々と気になる事や話したい事は多々あると思われますが、ここは街の外、一度シェカドに戻るべきかと」

「ああ、メメルの言う通りだ。アーデン、俺たちは後から向かう。ロゼッタさんを連れてシェカドに戻ってくれ。冒険者ギルドで落ち合おう」

「そ、そうだな。うん分かった」


 確かにここで話し込むような事じゃあないと思った俺はリュデルの提案に頷いた。レイアに視線を送ると、ゴーゴ号を停めてある場所を指さした。


 三人でゴーゴ号に乗り込んでシェカドへと帰る、流石に三人乗るとちょっと遅かったけれど、風を切って帰ると気持ちが良くって、やっと危険から開放されたからか俺たちは自然と笑い合っていた。

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