カレンの想い 手をつないでいいですか
先生はいいひとで、動揺がすぐ顔に出るけど――ちゃんとわきまえていて。大人なんだよね。私はまだまだ子供だ。どんなに見た目で誘惑しても先生は絶対に乗らない。
安心でもあるけれど、もどかしい。先生をからかっているときが、最近充実した時間になっている。先生の部屋で偶然、床ドンされたとき、先生、思ったほど動揺していなくて、やっぱり私なんて眼中にないのかな? ってすごく落ち込んでしまった。私は体がものすごく熱くなって、どうしようもなくドキドキしていたのに。
先生と両思いになったのはいいのだけど……好きとは言われていない。この関係はなんだろう? うれしいけど、とりあえず確保しておこうとか、そういうのかな? 時間がたって、色々お互いを知っていくことで、私のこと嫌いにならないかな……。とりあえず告白された王子君に断りを入れないと。
先生は私のことは好きだけど、教師で担任だから未成年の生徒には手を出せないって言ってるんだよね。わかっている。大切にしてくれているんだと思う。
「好き」と言葉で表さない人だから、少し不安になる。からかっていたのは私だったはずなのに――いつのまにか先生が私をからかうようになった。
最近、元ヤンという事実が明るみになってから、先生のやんちゃ発言は少し過激になった。私との距離が近くなったのかもしれない。
「おまえってほんとうに変な奴だよな」とか――
少しは優しい言葉をかけてほしい。でも、ちょっとツンデレな先生に胸キュンする私。私はどうやらMっ気があるらしい。最近自覚した。先生はSっ気があるから、やっぱり相性ばっちりだと思う。磁石の原理みたいな感じなんだよ。私たち、運命なんだよね? 私はそう思っているよ。一応カップルみたいな感じだけど恋人ではない。でも、両想い……複雑な関係だけれど、私はすごく幸せだ。
トゥルルルル―――
カレンがLINEで王子に電話をかけた。
「カレンちゃんからだ」
王子は飛ぶかのごとく、電話に出た。
「カレンです」
「あの……この前は格好悪いところを見せてしまい、大変申し訳ありません」
王子は電話にもかかわらず、敬礼した。
「いいの。あれは先生が悪いだけだから」
「あのヤンキー教師……いや親戚の先生にも謝っておいてください」
「八王子君とは……付き合えない。ごめんね」
「やっぱり、ケンカが強い、男らしい人のほうが好きだよね。俺なんか泣き虫でほんとダメな男だよね。今までモテるって勘違いしていたけど……目が覚めたよ。友達じゃだめかな? でも、あの元ヤン先生に殴り込みかけられそうだからやめておいたほうがいいかな」
「そうだね。先生怖いし。学校も校則厳しいから」
「カレンちゃんの好きな人って、あの先生?」
「――秘密」
「ありがとうカレンさん。きっとあの先生、君のこと好きなんだと思うよ」
「そうかな。ありがとう、八王子君……」
ひとなつの王子の初恋が終わったのだった。恭介は教師であり担任で、カレンは17歳の女子高校生。二人には大きな壁があり――どんなに好きだとしても近くにいても、一線を引いている。好きという気持ちだけでは――動けないことがたくさんある。デートを堂々とすることはできないし、未成年に手を出すことはできない。
人目を気にした生活をしている。付き合ってはいないけれど……でも、好きという気持ちは二人にはあって……もどかしい距離が、二人には存在する。人前で、手をつないだりもできないし、デートもできない。カレンは同居しているので、先生の両親がいないときにだけ会いに行く。ただ、話すだけ。先生は意外と真面目で、部屋にいても私の手を握ろうともしない。時々、不安になるのだ。そこらへんの高校生よりもずっと不自由な恋愛かもしれない。カレンは思い切って聞いてみる。
「先生、手をつないでもいい?」
「え? なんで? 急に?」
ストレートな申し出に先生は照れる。素直じゃないから。
「やだ」
少し顔を赤らめて言うのだ。ちょっとかわいい。たまにうしろから抱きしめるのも私からであって……先生はそういうことは家でもしない。寂しいような、物足りないような……本当に私のこと、好きなのかな?
「私のこと好き……? だよね?」
先生はちょっと驚いた顔をして……。
「そんなこと……なんで今、言わなきゃいけないんだよ。おまえみたいな女は、俺くらいしか受け止められるわけがないけどな」
「それって、好きってこと?」
「…………」
先生はああ見えて日本男児らしく、好きという言葉を口にしない。
「手ぇだせ」
「え?」
ぎゅっと手をつないだ。握手だ。これが恭介先生の愛情表現。好きとは言わないけれど……ぶっきらぼうだけど――そこが好きだな。
「腕相撲でもするか?」
ちょっと握手する時間が長くなる。超健全な、交際。私はその日、先生とつないだ手を洗えないでいた。




