生活用品を買おう
第九話 生活用品を買おう
「おや、人が来るとは珍しいと思ったら君か。家は買えたかい」
うわ、びっくりした。昨日の衛兵さんだ。
「こんにちは。昨日はお世話になりました。ミコドールに家が買えたんですよ」
俺は軽く頭を下げる。ここはガレンドールの東の門。
「ミコドールか! 誰も住んでないだろ。あ、爆炎の人形が住んでいるな。冒険者は引退されたと聞いたけどな」
聞き慣れない、中二くさい名前が出てくる。なんだ? 住んでいるのは元冒険者のフレヤさんだけだぞ。あ、火の魔法を使うか。
「ああ、フレヤさんですね。爆炎の人形っていうんですか」
「そうだぞ。怒らせたら燃やされっぞ。気を付けろよ。気が短くて有名だったからな。しかもAランク冒険者だから手が負えなかった」
「あ、鍋とか欲しいんですが、何処に行けばいいですかね」
「ああ、鍛冶ギルドに行って工房を聞くんだな」
俺は礼を言って門から離れ、ガレンドールの街に入る。見えて来るのは漁港だ。漁港は船が並び、活気に溢れている。手こぎの船が多い。大きめの帆船もあった。魚を食いたいが、又今度にする。冷蔵庫があれば、買って突っ込んでおけば良いのだけどな。
魚たちを後に、道を進んでいくと右手に広場が広がっている。まず買うのは、まずランプと油。夜が暗いからね。毛布。昨日は毛布一枚で寝たよ。体が痛い。ベッドを作らないとね。
薪を切り出す為の手斧と薪割り斧、革手袋、鋸。ついでに金槌と釘を買っておきたい。余裕があればパンと干し肉を買って行こう。ヤカンも欲しいね。大きめの鍋は又今度だ。
広場から西に行くと曲がりくねった道があり、各ギルドがある。ん? 途中に工房が並んでいた気がする。あった、工房街だ。曲がりくねった道から道路が伸びていて、十件ほど入っている。武器、防具、鍋、工具、ガラス、焼き物、木工、石工、船用品、革細工。
工房街は活気があった。大きな声や金槌の音が聞こえて来るのは工房街ならではだろう。まずはガラス工房から。工房の奥でガラスを作っていて、厳ついオッサンが炉と格闘している。
「いらっしゃい」
奥さんらしき人が出て来た。家族経営だ。迷わず大きめのランプを二個、小さめのランプを買う。大きめのランプは全部ガラスで出来ているタイプ。一階と二階で使う。小さめのランプは銅の箱に持ち手がついていて、一面がガラスになっているタイプ。外で使う。でも、ハリケーンランタンでないから風が吹くと消えるだろうな。そのうち作ってもらいたいな。
ランプは一個金貨一枚だった。高い。ガラス細工だから仕方ないか。ガラスは高級品のはずだからな。計金貨三枚。おまけで芯を二メートル位くれた。無くなったら買いにこよう。
ランプを三個買ったら、ザックが一杯になってしまった。工房街から出て、広場に向かう。探すは油やさん。あるか? 広場は木造建築の店が建ち並んでいる。全て専門店だ。肉屋がある。あとで行こう。酒屋。もちろん行く。パン屋。もちろん行く。馬車屋。後ろで馬が嘶いている。馬を売って欲しい。他には服屋、文具屋。まだまだ店がある。あった、油屋。
店に入ると、やはり奥さんらしき人が出てくる。亭主は油を絞っているのか? 油売っていたりして。なんてね。
「ランプの油? 菜種で良いわよね。入れ物も? じゃぁこの瓢箪でどう? この瓢箪は銅貨五枚。油は銀貨一枚ね」
だいたい、銀貨一枚が一万円程度だ。高いような気がするけど仕方ない。買おう。油を瓢箪に詰めて貰い、ザックにしまう。
さて、毛布を買いたい。何処に行けばいいのか。全くわからない。油屋さんの奥さんに聞いてみる。
「毛布? 服屋さんにいくと有るはずよ」
俺は礼を言って服屋に行く。
「いらっしゃい」
服屋は上品な男性が迎えてくれた。奥さんじゃないのか。
店の半分は古着、半分は反物といいうか、布地の新品が置いてある。服は基本的にフルオーダーなのだろう。
「毛布ですか? 枕も? こちらです」
ご主人は奥から毛布を一枚と枕を持って来てくれた。毛布は銀貨五枚。枕は銀貨一枚。値付けが結構ラフだよな。高い気がするが、仕方が無い。全て手作りなのだ。
後はパンを買って行こうか。
「いらっしゃいませ!」
にこにこした少女が店番をしている。金髪が眩しい。可愛い。年は十才から十三才と行ったところだ。可愛くてヤバイ。目がくりくりだ。お小遣いあげたい。
俺は店頭に並んでいる田舎パンを三つ買った。田舎パンと言うと怒られそうだが、丸い形をしたパンだ。自分で切って食べるやつな。銀貨一枚を払う。
「又来てね!」
少女は両手でバイバイしてくれる。又来よう。荷物が増えて来た。一度帰ろう。明日、肉を買いに来よう。俺は東の門の衛兵に挨拶をして、ミコドールにある我が家に帰ろうとすると、何物が俺を見ている。背が小さくてガッチリしている。髭が凄い。金属鎧を着ている。
俺は無視して通り過ぎようとしたが、声を掛けられてしまった。
「そこの剣士の方、手合わせ願おうか」
髭モジャが大きな斧を取り出す。片刃と言うのかわからないが、大きめの木を切り倒す斧だ。歯が光っている。手入れが凄い。目が真剣だ。小さいくせに腕が太い。
「いや、別に斬り合いはしたくない・・・」
「問答無用!」
髭モジャが斧を振り上げてくる。斧の長さは一メートルくらいか。両手で持つから、五十センチくらいの射程になる。斧は極めてトップヘビーな得物だ。回転力が非常に大きくなる。振り下ろせれば、非常に大きな回転力がパワーとなり、獲物をかち割るのだろうけど、回転力が大きいと言うことは素早く操作ができないと言うことだ。
俺は難なく右足を踏み込み、斧が振り下ろされる前に目の前に剣を突き出した。正しくは眼球の前にね。居合いで抜いたので速度は比較にならないはずだ。
「おお、ワシが手も足も出ずに・・・おお、お主Sランクじゃろ、Sランクなら知っておろう。この辺にフレイムドールがいるはずなのじゃが、冒険者を引退していてわからぬのじゃ。こうしないと探せなくてな、無礼は詫びる」
意外な名前と謝罪が出て来たので剣を納めることにした。
「え? フレヤさんを探しているのですか?」
俺は意外な声を出した。あのおばさんにいや、フレヤさんに知り合いがいたのか。
「お、知っておるのか。名前はフレヤじゃったな。わはは。済まんが案内してくれんかのう。同じパーティだったんじゃよ。ワシはガッコフルーグ、ドワーフじゃ」
このドワーフ、二つ名だけで探していたのか・・・マジかよ。っていうか、エルフに続いてドワーフの登場だ。スゲェ。
「まぁ俺の家の隣ですから、案内しますよ」
俺は河口沿いを歩き、家を目指した。俺は昨日引っ越してきたこと、フレヤさんにシチューをご馳走になった事を伝えると、非常に驚いていた。
「お主、あやつの二つ名は料理でパーティー二つを壊滅させた事から来ているんじゃぞ・・・味も酷かったが、鍋に向かってファイヤーボールを打ちやがったからの」
「マジですか? シチュー美味しかったですよ」
「そうか・・・エンレの奴と所帯を持って少しはましになったのかのう」
「フレアさんの亡くなった旦那さんですか?」
「うむ? 死んだのか?」
「そう言ってましたよ」
「そうか・・・同じパーティじゃったんだ。良いときに来たかもしれんのう。ほら、ワシはドワーフじゃから人間より長生きなのじゃ。彼奴等が所帯持ってな、良い頃合いだったから解散したんじゃよ。ドワーフと人間では冒険者でいられる期間が違うからのう。あの強かったエンレがのう」
少し湿っぽくなってしまい、俺たちは無言で歩いていった。
「ほら、奥の家がフレアさんの家ですよ。手前が僕の家です」
「メェェェェ」
ヤギが一頭走ってきた。しきりに俺に頭を擦ってくる。
「角が痛い。いててて」
俺がヤギの頭を撫でていると、蹄の音が聞こえてくる。
「エージ君、いたいた。ヤギが君を捜して大変だったんだよ・・・あ、ガッコじゃないの。久しぶりね。まぁウチで飲もうよ」
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