夕食を食べよう
第八話 夕食を食べよう
とりあえずしなくてはいけないこと。買い物だろう。布団。大きい鍋。食器。包丁。食器を洗うヘチマ。水を溜める瓶。大工道具、釘。灯り用のランプと油。あと薪か。薪って一年は乾燥させないと駄目なんだよね。売っているかな?
薪割り用の斧もいるな。玉割り用と小割り用と二つ。玉割り用の斧はくさびが強くなっていて、柄が長い。バトルアックスでは薪は割れないよ。山に入るのに鉈も欲しいな。鉈は無いか・・・大きめのナイフで台用かな?
紙とペンが欲しいけど、紙は羊皮紙か。高そうだね。本も高そう。収納に箱みたいな物が沢山欲しいね。どうせ一人だから簡単でいいや。徐々に集めていこう。
この世界での楽しみは、恐らく調理だけだな。キッチンには何があるのだろう。テーブルと、暖炉、鍋が吊せるようになっているよ。お、オーブンがある。煉瓦を積んだものだ。これでパンが焼けるな。ピザも焼ける。いずれも薪が必要だ。最初に用意すべきは薪かな。明日からガレンドールの街に通ってそろえていこう。まずはキッチン廻りの掃除をしたいけど、掃除道具が全く無い。箒、バケツ。三種の神器が欲しい。冷蔵庫、洗濯機、掃除機。スマホとノートパソコンとWIFIは売っていないんだろうな。冷たいビールでも飲みながら、ポテチを食いたいなぁ。
あ、ヤギ君。君は帰っていいからね。俺の家から出て行ってくれると助かる。
ポテチか。油と馬鈴薯があれば作れるが、馬鈴薯が無いだろうな。南米の食い物だ。胡椒も無いだろうなぁ。トマトは北米だったっけか。馬鈴薯が無いと言うことは片栗粉もないのか。落ち着いたら食べ物探索をしよう。裏山もそのために買ったんだ。桟橋もね。釣りでもして魚を食べよう。果樹園も作らないとな。
延々と何をしているのかと言うと、要するに暇なのだ。スマホが無いので、時間をどう潰せばいいのかって思ってしまうよね。そうそう、マンガも無いんだぜ。すっかり時間を持て余しているよ。
桟橋に降りてきて、海辺に座っている。ヤギも付いてきた。メェェェと鳴くのは良いけど、耳元でいきなり鳴かないで欲しいな。耳が痛いからね。
缶コーヒー飲みたい。アラフォーの俺は一日何本も缶コーヒーを飲んでいたよ。コーヒーも無いだろうなぁ。この桟橋を大きくして南方に繰り出したいな。胡椒とスパイス、コーヒーを求めてね。コーヒー飲みながらカレーを食おう。
「おい、起きな。晩飯にするよ。お前は帰るぞ」
フレヤは歩いてやって来た。うちに居座っていたヤギに話しかけている。ヤギは納得したのか、一人で帰っていった。
「あ、はい。パン食べます?」
「お、ありがたい」
俺はパンを六個持って、フレヤの後に付いていった。フレヤは女性にしては筋肉質だ。腰には長剣がぶら下がっている。元冒険者なんだろう。前衛の剣士だな。
「ほら、あそこがあたいの家なんだ。お隣さんだからよろしく頼むわよ」
あっ、畑と羊舎と、家がある。歩いても遠くない。畑にはキャベツ、ニンニク、玉葱、豆、麦が・・・いいなぁ。
「メェェェ」
ヤギが一頭走ってきた。そのまま体当たりを喰らった。思わず尻餅をついた俺。耳元でメェェェと鳴き続けるヤギ。
「あはは。さっきの一頭だね。気に入られたんだよ」
「そうですか?」
「まあいいよ。ほら、庭のテーブルに座りなよ。干し肉のシチューしか無いけどね。折角だからパンを貰おうかな」
俺はパンを出すと、フレアは二本をザクザクと切り始めた。
「ほら、飲んで。とっておきのエールなんだ。乾杯!」
俺はエールを飲む。味は薄く、甘ったるい感じがする。キンキンに冷えたピルスナーが飲みたい。誰か冷蔵庫を作ってくれないかな。
「ふう。旨いですね」
「そうでしょう。エージ君だっけ。君は何処から来たの?」
嫌な質問がきた。話したくないけどなぁ。
「王都からですよ」
「お、凄いじゃん。君もかぁ。スキルだ加護だって五月蠅いから、あの国はね。あたいもね、あの人を亡くしてからどうにもならなくなってここに来たんだ。多分君と一緒。私は火の神の加護しかないからね。商いの神とか、農業の神の加護が無いと街では暮らせないよ。収入の当てが無いからね」
「え、火の神ですか・・・」
「あ、今絶対戦いの神だと思っただろ。良いから正直にいいな。こう見えても魔法使いなんだよ」
「・・・」
「君はエール没収だ。で、君は戦いの神かな? 腰には剣があるしね」
「いや、全く持っていないんです。加護も、スキルも」
「ほう? 君は巻き込まれか。大変だなぁ」
「え? わかるんですか?」
「まぁね。冒険者をしていると色々と聞こえて来るの。魔力が欲しくて召還魂をするのだけど、結構な頻度で二人来るのね。だから召還魂は二人の体を用意すると聞いたよ。でも前に召還魂をしたのは二百年前とか聞いたけどね」
「そうですか・・・」
「ま、元気だしなよ。ここはあたいしかいないから、平気だよ」
「ええ、気になる事を聞いたんですけど、天罰があるとか」
「ああ、ああ、ああ」
フレアは考え込む。
「アレがそうか。二回ほど、魔物が出たな。もちろんすぐに消し炭にしてやったけどな。この畑を作った時にね」
「本当にあるんだ・・・」
「何かやっちゃったのかい」
「ええ。ガレンドールとナムドールの間の山でオーガが出て来ました。やっつけたけど」
「へぇ。オーガってBランクパーティでないと歯が立たないのよ。ソロだとAランク相当よ。凄いわね。それたぶん天罰じゃない? あの山にはコボルドとゴブリンくらいしかいないわよ」
「え? あれが?」
「そうよ。あんたやるじゃない。戦いの神の加護を持っているんじゃない? 加護無しがオーガを倒したって聞いた事ないわね。良し、剣を抜きな」
フレアは腰の剣を抜くと、片手で構える。ロングソードだ。
「本当に斬っちゃ駄目よ。遊びでね」
フレアはロングソードを中段に構えた。左手で体のバランスを取っている。腰は中腰だ。
「抜かないならこちらからいくよ」
フレアは剣を振り上げる。片手で持っているので必ず止まる。片手持ちは必ず剣が止まる時がある。オーガと一緒だ。まぁ、オーガの方が隙は大きかったけど。
俺は右足を大きく踏み込み、左手で鞘を持ち、右手一本で剣を鞘で滑らせながら喉元を狙う。居合いという技法だ。最も早く剣を繰り出せると言われている。真っ直ぐなロングソードでは出来ない。日本刀程度の湾曲が必要だ。
俺の剣はフレアの喉元にぴたりと止められた。フレアはロングソードを振り上げたままだ。
「参ったわ」
俺は剣を鞘にしまう。ちょっと緊張した。居合いは初めて使う。今後も練習しよう。
「一合も打ち合いが出来ないなんて。Cランクの戦士には楽々勝てたあたいが」
「フレアさん魔法使いでしょう」
「まぁいいわ。エールを飲みましょう。君は天罰なんか気にする事無いんじゃない。斬って捨てればいいよ」
「そんな訳にはいかないでしょう。大人しく暮らしますよ」
俺は再びエールを飲み、シチューを食べた。エールはぬるくて甘ったるく、スッキリしない。シチューは塩のスープと変わりない。フレアさんのシチューは今まで食べた中で一番美味しいけど、旨いか不味いがと言われたら不味い部類だよね。自分でフォンドボーだかコンソメだかを作らないと駄目かもね。食べ物をなんとかしなくてはと、俺は思ったんだ。
我が家に帰ってきたけど、灯りも無いし、布団も無い。埃っぽい部屋で無理矢理眠ったよ。寝るしかする事は無いし、少し退屈だよね。
翌朝、俺はザックの中身を二階の寝室予定地に出して、買い物に出かける事にした。朝食はパンを食べるだけだったのであっという間だったよ。俺はザックを背負ってガレンドールまで歩いて行った。する事がないから、家を飛び出して来たけど、まだ陽が昇ったばかりだ。朝陽が眩しいね。
俺は大きな疑問があるんだ。今は何月なんかね。夏っぽいけど、そこまで暑くないんだ。秋かな。フレアさんの畑はキャベツがなっていたしね。っていうか、太陽暦じゃないよな。太陰暦なんだろうな。閏月が入る奴。カレンダーも作らないとな。もちろん太陽暦でな。
あ、考え事をしていたらガレンドールが見えてきたぞ。




