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ボールレストランを開こう

第三十一話 ビールレストランを開こう


 ミセコール卿がヘルメット、籠手、剣を騎士達に渡すと、入口に入って来る。


 「いらっしゃいませ」


 俺はドアを開けて招き入れる。俺の挨拶でメイド達が頭を下げる。俺はミセコール卿をテーブルに案内すると、真ん中の椅子を引く。ミセコール卿が頷くと椅子に座った。


 ミセコール卿が座ると礼服の若者、息子だろう、とドレスの二人が座る。メイド達が椅子を引いてくれる。最後に後ろからグエルターク商会会頭ご夫妻が入って来る。


 「師匠、フレアさんも座ってくれ」


 会頭ご夫妻より先にガッコフルーグとフレアが座る。最後に会頭ご夫妻が座った。


 「本日はご来店ありがとうございます。ミセコール卿に新しいお酒をご披露出来る事を嬉しく思っております。醸造元はご承知かと思いますが、ワイヴァーンアックス商会。散り扱いはグエルターク商会の専売となっております」


 ヘンリッキが説明に入る。


 「うむ。わからないのが師匠やフレヤさんでは酒は造れないだろう。どういう事なのだ?」


 「エージ君」


 フレヤに名前を呼ばれたので、俺はテーブルに赴く。


 「うちの主任醸造家のエージじゃ。酒はエージの指揮なのじゃ」


 ミセコール卿は俺をじろじろと見ている。


 「ふむ。レザーアーマーか。良い鎧だ。良い鎧に旨い酒ありだ。本日は頼む」


 俺は頭を下げて料理の準備に入る。良いことを言われた気がするが、意味不明だ。脳筋だな、ミセコール卿は。


 俺はゲルとロキに目で合図を送る。ゲルがグラスに魔法で氷を入れる。受け取ったゲルはグラスにビールを注いでいく。セリーリアに配膳するよう目で合図する。セリーリアが動くと残りの二人も動き出す。俺は一人こちらに呼ぶ。グラスはテーブルの八人に配られた。


 「おお、透明だ。美しい」


 「あなた、お綺麗なエールですわね」


 ミセコール卿夫妻が感想を述べている。


 「ミセコール卿、ご試飲をお願いいたします。お客様で初めてお飲みになられるのは、ミセコール卿が初めてとなります」


 「これが師匠の酒か。では頂く」


 ミセコール卿は一気に飲んだ。ふうと息を吐く。


 「旨い。師匠やったな」


 ミセコール卿の感想で皆がビールを飲み始めた。俺はメリヌとメイドにポトフを配るようお願いする。メイドの二人はビールをつぎ直している。


 俺はポトフを持った二人と共にテーブルに行く。


 「野菜スープ、ポトフという料理です。スープは昨日、鶏ガラを煮込んだ物を使用しています。腸詰めと共に食べてください」


 俺の説明で皆がポトフを食べ始める


 「美味しいわ。初めて食べる味ね。お若いのに凄いわね」


 大奥様だろうか? お褒めの言葉を頂いた。でも残念ながらオッサンなんだよね。


 ポトフを食べている間に再びビールが配られる。


 「師匠、この酒を説明して頂けぬか」


 「ミセコール卿、ビールという新しい酒じゃ。エールと似ておるが、透明度とスッキリとした苦みが特徴じゃな。泡も細かくて旨いじゃろ。保存もエールより良いと思っておるのじゃが、試作の樽はあっという間に飲んでしまったのじゃ。保存性はわからないのじゃ」


 「エールではないのですか。確かにスッキリとしていて美味しいですわ。苦みがたまりませんわね」


 大奥様が美味しいと話してくれました。嬉しいな。


 「ミセコール卿、この酒を飲んだとき冒険者引退を決意したのじゃ。わかってくれるじゃろ」


 「なんと。本当ですか。でもわかります。済まない、もう一杯くれ」


 セリーリアがグラスを受け取り、ビールを注ぎ、ミセコール卿に配膳する。


 「私がな、師匠と呼んでいるのを不思議に思っているだろう」


 「ええ、初めてお聞きしましたわ」


 「あれは十年前だろうか、領地でワイヴァーンが飛来したことがあっただろう。あの時、ご一緒させて頂いたのだ。私もまだひよっこでな、私の隊は全滅し、私も瀕死の重傷だったのだ。もう駄目だと思ったぞ。ワイヴァーンに食われようとするとき、師匠が単身で乗り込んで来て、斧で一撃、真っ二つさ。その時だな」


 お、いい話じゃないか。しかもためを作るとは。


 「絶望してから生き抜くのが冒険者じゃ、まだ青いのう、ってな。そこから師匠と呼ばせて頂いている」


 「まぁ恩人ではありませんか」


 「話はまだあるのだ。私は鎧を脱がされてだな、止血をして頂き、魔法薬で手当をして頂いた。師匠も鎧と斧を捨てると、私をガレン山の山頂から背負って降ろしてくれたのだ。凄いだろ」


 「まぁ、あの高いガレン山を? 担いで?」


 「私は本当に強いと言うことを教えて貰ったのだ。下山してから如何に生き抜くか、師匠に教えられた気がしてな。因みに捨てた装備はミスリルの鎧だ。参ったよ」


 「まぁ」


 「ミスリルは体に蕁麻疹が出来て合わなかったのじゃ」


 ミスリルアレルギーか。そんあ訳あるかい。でもいい話だ。俺はセリーリアにテーブルのハーブチキンを配るよう指示する。セリーリアは頷いて配膳を始める。


 「フレヤさんは暖かい物を食わしてやるって言ってくれてさ」


 「まぁ」


 大奥様は感心している。本当に料理を?


 「私の寝ている横で鍋にファイヤーボールを打ち込んで来たんだ! 死ぬかと思ったよ! 肉は吹き飛んで四散した! ハッハッハ!」


 「コニー。止めてよ。昔の話しじゃない」


 そこか! 成る程! でも皆笑っている。落ちも完璧でいい話だ。


 「これがハーブチキンですね。あなた、食べて見ましょう」


 「うむ。実はずっと気になっていたのだ」


 ミセコール卿はぱくぱくとチキンを食べる。ビールを飲む。


 「師匠、ビールに合うな。ハーブチキン、止まらないな」


 俺は頃合いだと思い、ミセコール卿に近づく。


 「外でお待ちの騎士様に、ビール一杯づつとこちらのパンの腸詰め挟みを差し入れさせて頂いてよろしいでしょうか」


 「かたじけない! 皆に頼む」


 俺が頷くとメイド達がパンを持って外に出た。俺も外に出る。騎士達が不思議そうな顔をする。


 「お勤めご苦労様です。ミセコール卿からパンとお酒の差し入れです。パンとお酒はこの度新しく造られたものですので、味見をしてくださいませ」


 騎士達はビールとパンを受け取る。


 「お心使い恐れ入る。これはエールであろうか?」


 年配の騎士が代表して訊ねてくる。


 「ビールという、新しいお酒です。希少ですので、グラス一杯で銀貨一枚です。パンは当商会特製です。是非ご賞味ください」


 「銀貨一枚! 本当か! では頂くぞ」


 騎士達はビールを一斉に飲み始める。息が合っていて凄い。少しほほえましい。


 「旨い! でも銀貨一枚か・・・」


 「パンも食べてくださいませ」


 「ん? 柔らかい。旨い。鷹狩りや馬車の中でおとり頂いても良いのではないか?」


 「分隊長、天幕でもサッと食べれてよろしいかと」


 「このパンは素晴らしいな。後で隊長に報告しておく」


 俺は頭を下げて中に入る。最後の料理、ピザを焼く。皆は楽しそうに話をしている。ピザはすぐに焼ける。俺は切り分け、メイドに渡す。メイドはピザを分配してくれる。


 「最後の料理はホワイトソースのピザという物です。手で食べてください。先ほど、テーブルの上のパンを切らない状態で騎士様に食べて頂きました。鷹狩りや馬車、天幕などでのお食事に良いのではと申されておりました。是非、ご賞味ください」


 俺は説明を終えると下がっていく。


 「成る程、行軍に良いな。これは先日頂いたパンと同じか、ばあや」


 「ええ。同じ物ですわ」


 「かなり味が変わるな。面白い。私はお菓子だと思っていた」


 「私はお腹が一杯なのでこちらのピザが嬉しいですわ。お茶会に食べたいですわ」


 大奥様が上品にピザを食べている。ピザ、ピザ、丸い・・・クレープでも焼こうかな? すぐ焼けるしね。俺はグエルターク商会の奥様、アンジュにお茶を出すかどうか確認する。


 「エステル様、レーアネーア様、我々女性陣は紅茶にしませんか」


 「ばあや、素敵ですわ。是非」


 俺はセリーリアに目で合図する。セリーリアはお茶を淹れる準備を始める。俺は小麦粉を溶き、クレープを焼く。冷えたらブルーベリージャムと蜂蜜、フルーツをメリヌから貰い、くるくると包む。ヘンリッキを呼び、クレープを出して良いか確認する。ヘンリッキは頷いて許可をくれた。女性陣に三つ作る。メリヌに配膳して貰う。クレープはすぐに焼けていいな。


 メリヌは俺に説明しろと目で訴えている。


 「あら、新しいデザートかしら。初めて見るわ」


 若い方の奥方が嬉しそうな声を上げる。レーアネーア様と言うらしい。


 「はい、即興で作らせていただきました。奥方様に当商会からのサービスです。クレープというお菓子です。季節の物を入れると味がどのようにでも変わります」


 ミセコール卿がちらりと俺を見る。食べたいのか? 一応聞いておくか。


 「ちょっと甘いですが、お食べになりますか?」


 ミセコール卿は頷く。俺はクレープを五枚焼き、配膳して貰う。ミセコール卿はビールを飲みながらクレープを食べている。合うのだろうか?


 料理を出し終え、俺の仕事がほぼ終わった。メリヌも一息ついた顔をしている。仕事が終わらないのはゲルとロキ。ずっとビールをついでいる。


 「師匠、ビールは沢山造れるのか?」


 「それがのう、材料の関係であの樽に二つじゃ。半分の樽二つをミセコール卿に納めさせていただこうと思っとる。残り樽二つは今回みたいに提供させて貰おうと思っておるんじゃ。ビールはできたてが旨いからのう」


 「わかった。残りのビールは当家が買い取る。他家には流さないでくれ」


 「すまんのう。グエルターク商会に言ってくれたら、準備するから、必要な時に言って欲しいのじゃ。新鮮なビールを提供したいからの」


 「それと、師匠の若いの」


 俺か? 料理を褒められるか?


 「済まないが、君のレザーアーマーを着させて貰ってもいいだろうか? さっきから気になっておったのだ」


 俺はゲルを呼んで鎧を脱がせて貰う。ミセコール卿はエステル様に脱がせて貰っていた。鎧を渡すと、エステル様がミセコール卿に着せ始める。


 「あなた、無理言っちゃ駄目じゃない」


 「仕方ないだろ、ガルーグ工房の新作だぞ、恐らく。ガレンドールまで情報が流れて来ないのだからな」


 女性にはわからないだろうが、良くわかる言い訳だ。俺の革の鎧を着たミセコール卿はご満悦だった。


 「やはり軽い。何よりかっこいい。師匠の若いの、ガルーグ工房の新作だろ」


 「新作だけど高くて売れないと、女将は言っていました。製作は一季節だそうです」


 俺の鎧騒ぎでお開きになった。騎士達は余ったパンとチキンハーブは全て持って帰った。チキンは余して欲しかった。


 「ちょっと、エージ君。私クレープが食べたいわ」


 メリヌが豊満な肢体で迫ってくる。この人は俺がおっぱいとお尻に弱いのをわかってやっているな。仕方が無い。焼こう。ガッコフルーグとフレヤ、会頭ご夫妻は仕事が終わった顔で休んでいる。


 「私お茶入れますね。みんなで頂きましょう!」


 セリーリアはお茶を淹れ始める。俺は人数分クレープを焼く。残念ながら、ロキ、ゲル、メリヌ、メイド二人の女性陣五人でジャムと蜂蜜が無くなった。女性陣に届けると、歓声を上げて喜ばれた。


 「エージ君、お疲れ様。君に給仕の才能があるとは思いませんでしたよ。喜んでいただけたようですし、お茶もビールも、パンもお買い上げが決まりました。明日、又話しましょう」


 片付けが終わり、皆が帰ると俺は夕焼けの中、桟橋に寝転がったら、ゲルがやって来て膝枕をしてくれた。


 「お疲れ様。ちょっと、ご主人様ったら。うちに鎧を外させたでしょう、もう。冷やかされて大変だったんだから」


 ゲルの膝枕と、風が心地よい。幸せだ。

皆様、お読みいただいてありがとうございます。

4000PV超えました。本当に嬉しいです。

一日のPVを初の400PV超えです。

本当にありがとうございます。

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