家庭教師をはじめよう
第三十二話 家庭教師を始めよう
俺とゲル、セリーリアで馬車に乗っている。馭者の横にはヘンリッキが座っている。俺たちは家庭教師を受注した。誰の家庭教師かって? 聞いて驚くな。ガレンドール公の長男と長女だそうだ。長男はエリヤスエーミル・ガレンドール、十四才。長女はマーヤマレーナ十三才。剣術と一般常識を教えて欲しいと言われた。講義内容は俺に任せるらしい。
なんだそりゃ、と思うが、本来ならミセコール卿当たりが家庭教師を行えばいい気がするし、王国にそういう学校があるような気がする。俺に頼むということは、恐らく廃嫡の可能性が大きくなったのであろう。馬鹿殿と言う奴だ。長女が居るのが良くわからない。因みに二人は正妻の子だそうだ。正妻と言うからには第二婦人とかがいるのだろう。
ヘンリッキの要請にガッコフルーグが「わかったのじゃ!」と一言で受けてしまったのだ。ミセコール卿のお願いらしい。ガッコフルーグはミセコール卿に弱い。まぁ仕方ないね。
馬車はガタガタと揺れている。俺の隣にはゲル、目の前にはセリーリア。美人に囲まれ、いつもなら股間を押さえるために般若心経を唱えるのだが流石にそわそわする。
「ちょっと、何か話しなさいよ。セリーリアちゃんまで硬くなっているじゃない。いっつもセリーリアちゃんの胸ばっかり見てるのにね」
ゲルが毒を吐いてくる。止めて欲しい。俺はそんなに胸ばかりみているのか?
「ゲルちゃん、エージ様はお母様の方が好みなのかなって・・・お母様のおっぱいとお尻ばっかり見てて・・・私ショックだったんです」
「あー。お母様お綺麗だったもんねー」
「ちょっと声に出さないでくれるかな・・・でもその件はメリヌさんが悪いと思うんだよ。ゲルも思うだろ?」
セリーリアの母親は三十才と若く、大人の色気に溢れた人で、胸がバックリと割れた服を着て、しかも体のラインが出まくり、お尻の割れ目まで見える服だった。
「うん・・・まぁ・・・そうね・・・」
ゲルは微妙な返事をする。やはりやり過ぎだと思っているのだ。ゲルのメリヌを見る目が驚いていたからね。
「うふふ。やっと顔が明るくなりましたね。ほら、ゲルちゃんのおっぱいを触ってもっと元気になってくださいな」
セリーリアは俺の手をゲルの胸に押し当てる。おお、スゴイ弾力だ。
「ぎゃぁぁぁ! ちょっと、セリーリアなにすんの!」
「え? お二人はそう言う仲じゃ無いんですか?」
「違う! キスしただけです!」
「あら、やっぱり。うふふ。良いんですよ、清い交際で。それ以上は夫婦になってからで」
おーい。余り個人情報を流さないでほしいぞ。
「違うの、本当に、いやいやね」
ゲルが顔を真っ赤にして焦っている。おっぱいの感触がたまらない。
「エロご主人も何時まで触っているの!」
「え? あ、ゴメン」
「うふふふ。いいなぁゲルちゃん。私もエージ様みたいな人がね・・・」
「いやぁ、エロご主人の回にいると大変よ。この前も突然お偉いさんが来るし、今日もご領主さまのお館まで行くとかね」
「そうですね・・・波瀾万丈ですよね」
そこ納得しないで欲しい。
馬車が止まり、ドアが開けられる。
「エージ君、着きました。ガレンドール公のお屋敷です。セリーリア、荷物を忘れないように」
ゲルとセリーリアはバスケットを持つ。ゲルのバスケットはクレープが、セリーリアのバスケットは紅茶のセットが入っている。紅茶のカップは俺がお願いした造りになっている。試作品が出来たのだ。
「おおお」
お屋敷というより、城になっている。振り返ると、小高い山の上に城壁のなかに石造りの城があった。降りると護衛の騎士がずらっと並んでいた。真ん中には身なりの良い執事がいた。白髪に髭だ。
「ようこそおいでくださりました。私、執事長のラスムスと申します。既に準備は出来ております。お部屋に案内します」
俺はヘンリッキについて屋敷の中に入る。前庭が広い。兵を置くためだろうか。運動場のような前庭を通り、屋敷に入る。護衛の騎士がドアを開けてくれた。ふかふかの絨毯を歩き、左右きょろきょろしながら歩いて行く。壁の肖像画は代々のガレンドール公かな?
通されたのは前庭に出ることが出来る一階の部屋だった。部屋にはメイドが四人、後ろに騎士が一名。騎士は羊皮紙に記録をする準備をしている。俺が出した条件は二つ。一つ目は講義の内容を記録すること。二つ目はガレンドール公に長男から報告させること。後ろの騎士は書記だろう。
俺たちが中に入ると、中年の騎士が待っていた。
「わざわざすまぬ、ヘンリッキ。こちらの方か? 私は護衛騎士長のトーレ。これからエリヤスエーミル様とマーヤマレーナ様をお願いする」
「この度はご用命ありがとうございます。家庭教師は私、エージが務めます。補助として当商会よりゲル、グエルターク商会よりセリーリアがつきます。この三名で行います。よろしくお願いいたします」
「うむ。そうとう若いが、大丈夫なのか?」
護衛騎士長のトーレがヘンリッキを向く。
「全く問題有りません。剣術も相当の腕前とお聞きしています。ご安心を」
ヘンリッキが自信満々に答える。なにが俺で大丈夫なのだろう?
「では、エリヤスエーミル様とマーヤレーナ様をお呼びする。座って待っていてくれ」
護衛騎士のトーレは部屋を出て行った。しばらくして戻ってきた。俺たちは立って出迎える。トーレの後ろは金髪の美しい鎧騎士がいた。体がまだ細いが、長身だ。後ろに気の弱そうな金髪の男の子がいる。うん? 姉と弟だっけ? 逆だった気が?
「おぬしが新しい家庭教師か? なんだ、弱そうではないか。役に立つのか? 兄の家庭教師には不足ではないのか」
女騎士がトーレに言い放つ。
「マーヤレーナ様、かなり腕が立つと聞いています。お立ち合ってはいかがでしょうか?」
ん? もう? 血が多い一族なのか? セリーリアが不安そうに俺を見る。ゲルは余裕そうだ。
「いいですよ。外行きましょう」
俺は外に出る。俺はグエルターク商会で着せられた貴族もどきの服だ。腰には愛用の剣を吊している。家庭教師なのに帯剣するのはどうかと思うのだが。
妹のマーヤレーナは上等な鎧を着ている。革の鎧に薄く伸ばされた鉄片を縫い付けたものだ。鉄片は磨かれて銀色に光っている。身長も高いし、筋力は並の女性よりあるのかな?
「私が勝ったら家庭教師は首だ。出てって貰う」
「良いでしょう」
「さぁ掛かってこい」
マーヤレーナは剣を上段に振り上げる。剣は長い。長剣だ。重すぎないのか? 筋力とミスマッチの剣、振り上げたときの慣性による回転力に筋肉が対応出来ず、一瞬の間が産まれる。ガッコフルーグも、フレヤもそうだった。なら簡単である。
俺は右足を大きく踏み込み、鞘から一瞬で剣を抜き、マーヤレーナの剣を弾く。俺は反動で剣を鞘に収める。弾かれた剣はマーヤレーナの手から落ち、地面に突き刺さる。居合いが完璧に決まった。剣が見えた奴はいるかな?
「家庭教師のエージと申します。お嬢様、剣術からやりましょうか?」
俺は呆然と立ち尽くすマーヤレーナに剣を拾って手渡す。やはり重い。女性には、しかも成人前の子供には重すぎだ。
「剣が見えなかった・・・」
俺が踏み出しただけでマーヤレーナの剣が弾かれた様に見えたに違いない。
「はい。居合いという技です。この技でAランク冒険者のガッコフルーグと、同じくAランク冒険者フレヤも破りました。悲観する必要はありません。さ、一度すわりましょう」
「私にも教えてくれぬか、その技」
俺はゲルとセリーリアに目で合図する。お茶を淹れさせる。呆然とするマーヤレーナの手を取り、席へ案内する。座っても心あらずの様子だ。長男のエリヤスエーミルはきらきらした眼で俺を見る。こいつは少し幼いな。なるほど。
「エリヤスエーミル様、マーヤレーナ様、初めまして。私はグエルターク商会よりお話を頂きまして、この度家庭教師を務めさせていただくワイヴァーンアックス商会のエージと申します。エージと呼び捨ててください。さて、まずは紅茶でも飲みながら話をいたしましょう」
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