兄の登場による激しい洋楽の強襲です(牧彦目線)
激しい洋楽はお好きですか?私はメタル系から洋楽にハマりました。そのいくつかのCDは家の中で行方不明になり、いくつかはゴミ箱付近にただ置いていたら爺さんに捨てられこの世から抹消されました。
「ありゃ?兄ちゃんだ」
里菜子はちょっとごめんね、と言いながら立ち上がって玄関の方へとかけていく。
話題にしていた兄貴が帰ってきたのかと牧彦が思っていると、
「どうしたの今日早いね」
と里菜子の声が玄関の方から聞こえ、
「午後の授業が休講になってさ」
という兄貴の声が近づいてくる。
そして二人分の足音がリビングに来たのでそちらに顔を動かすと、里菜子の兄だという男が一歩リビングに足を踏み入れて牧彦の姿を見つけ、ギョッとした顔で一時停止した。
見ると里菜子の背がもう少し伸びて男になったような見かけだ。
少し厚みのある髪の毛にひょろりとした体格に眼鏡。里菜子の兄だと紹介されなくても里菜子の兄なんだろうと思える見た目だ。
「友達の猿田牧彦くんだよ。今勉強してて。牧彦くん、これは私の兄ちゃんの北島巧、大学二年生」
「お邪魔してるっす」
一応年上なのでそれなりの言葉使いで対応し、里菜子の言葉にやっぱり友達扱いか、と思いながら巧という里菜子の兄に体を向けて軽く会釈しておいたが、どう見ても顔が強ばっている。
そして目をパチパチしながら里菜子へチラチラと目くばせしている。
おい、本当にこのガラの悪そうな男は友達なのか、と言いたげな顔つきだ。
ま、いいけどよ。
牧彦は目を逸らした。
初対面のやつらに自分のこの体格と見た目で怖がられるのも今更の事だ。
それでも里菜子は初対面で睨み落としても睨み返してきたので、お、こいつは骨のある女だな、と思ったが…(注:実際にその時が初対面ではない)どうやら兄貴のほうはそうでもないらしい。
「今は英語の勉強で、昨日兄ちゃんに借りたクイーンのCDで英語を…」
その言葉を聞くと、巧はガッと首を動かして牧彦を見るので、思わずビクッと肩が跳ね上がった。
「なるほど。まずは音楽を聴いて英語に軽く興味をもってから、という戦法か」
そう言いながらスライディングしながら正座をし、里菜子が座っていた所に兄だという巧がズシャッと滑り込んできて目の前で止まった。
「クイーンの曲、どうだった?」
「よ、よかったっす…」
先ほどとは違いグイグイ来るので思わず牧彦の方が引いてしまう。
「そうかそうか、やっぱり名曲だらけだからね、クイーンは!ちなみに英語の曲は聞いてて苦痛にはならないかな?」
「あ、そのクイーンのCD貸してほしいって牧彦くん言ってたんだけど、大丈夫?」
里菜子がそういうと巧は大きくうなずき、
「いいともいいとも!名曲はどんどん聴かれるべきだ、貸してあげるよ。その代わり…優しく触ってあげてね」
そう言いながらソッと優しい手つきでCDのパッケージを持ち、牧彦に渡してくる。
いや、ディスクはまだパソコンの中に入ってるし歌詞カードも外に出たままなんだが。
「ちなみにロックとかメタルとか激しい曲はお好きかな?」
なんとなくその一言でやはりこの巧という男は里菜子の兄貴だと感じた。言い方もこの有無を言わせない話し方も里菜子と似ている。いや、里菜子がこの巧に似たのか。
「嫌いじゃ…ないっすけど…」
かなりグイグイと来るので牧彦は少し引いて一歩後ろににじり下がる。
「じゃあいい曲があるんだよ!」
そう言いながら巧は立ち上がってダッシュで駆けて行った。そしてしばらく奥の方からガタガタと音が聞こえてきたが、足音がこちらに近づいてくる。
「これ!スリップノット!これすっごくテンポの早い曲が多くてテンション上がる!」
と言いながらCDを渡してくるので牧彦はそれを受け取って歌詞カードを開いてみたが、ウッ、と顔をしかめた。
歌詞の量がクイーンと違ってかなり多い。それだけで何もかもが嫌になって来る。
「ちょっと兄ちゃん、自分の趣味を押しつけるんじゃない」
里菜子もそう言って兄を止めようとしているが、
「何をいうか!」
と巧はパソコンのCDディスクを入れるところを開け、クイーンを取り出し代わりにそれを入れた。
「確かに速い曲が多いからその分文字は多い、しかも速い曲だから文字を追うのも難しい、それに普段学校で習わない言葉もかなり出てくるから聞き取れない箇所も多い。それでも!」
巧は拳を作って里菜子と牧彦に向いた。
「思った以上に小・中学校レベルの分かりやすい単語がたくさん出てくるし聞き取りやすい!この速い曲の中でそんな聞き取れる言葉がポンポン出てみろ、
『わあ、自分こんな速い曲聞いてるのにめっちゃ聞き取れてるぅ、天才じゃね?』って気分になってテンション上がる!ついでに曲のテンポでもテンション上がるし!」
と言いながらカチカチと音量を高くし、ふっと我に返ったかのような冷静な声で、
「じゃあまずは聞くだけ聞いてみようか。Dualityという曲を」
と先ほどのテンションとは打って変わって落ち着いたものになり、再生する。
急に囁くような男の声が聞こえ、しかもしっとりしとした出だしなので、これがそんなにテンション上がるか?
と思った瞬間、急にドンッと激しい曲調に変わりる、巧は体を揺らしていたがあるところで、
「ヴぉぉお゛お゛お゛お゛お゛!」
と叫んで飛び上がり、曲に合わせで頭をブンブンと振りだした。
「ちょっと恥ずかしいから向こうでやってよ」
里菜子はそう言いながら頭を激しく振っている巧を廊下へと押し出していき、扉を閉めた。
「いやあ変な家族を見せまして」
「…いや…」
あの兄貴と比べたら里菜子はまだマシなんだな、と牧彦は思った。
そう言っている間にも曲は進んでいるが、速いしボソボソした声でほぼ途切れなく歌って…いや囁いているような感じでなんと言っているのかなんてさっぱり聞き取れない。
が、サビに切り替わるところの盛り上がりは凄く、思わずゾワッとした鳥肌が立つ。それでもサビ部分も何と言っているのか全く聞き取れない。
聞き取れないが、確かにこれは聞いているとテンションが上がる。
なんて言ってるんだ?
牧彦は歌詞カードを慌てて取り出し、Dualityの日本語訳を探す。
…あ、こんな歌詞なんだ。
納得しつつ曲を聞いているうちに終わってしまったが、即座に次の曲に移り変わったのかピロピロピロピロという曲が聞こえてくる。
「はぁ、終わったか」
一仕事終えたような顔をした巧が戻って来て、いったん止める。
「どう?これ」
「結構いい」
牧彦もそこは素直に言う。巧は嬉しそうな顔をして、
「分かってくれるか猿田彦くん!里菜子あんまり好きじゃないんだよ、こんなにテンション上がる曲なのに」
巧は嬉しそうに牧彦の肩を掴んで揺らす。
っていうか、なんだよ猿田彦って。
名字と名前を変にくっつけるなと牧彦はムッとなって、
「猿田牧彦っす」
と返す。
「ああうん、猿田彦くん」
人の話聞いてねえだろ、と牧彦はイラッとした。
「けど全然歌詞聞き取れなかったんすけど?」
イライラしながら言うと巧は歌詞のページを開いて、
「そう?けど出だし部分よーく見てみて?ほら、この辺ほぼ小・中学校で習う単語しかないでしょ?」
そう言われてよくよく見てみる。
正直分からない単語もあるが、それでも確かに比較的分かりやすいし、小学校の時に習ったかのような単語もかなりある。テストに出てきても違和感ないレベルかもしれない。
自分が聞き取れなかっただけか…、と妙にガックリきたが巧は我関せずで話を続けていく。
「あとこのCDのThe Namelessっていう曲はね、クイーンのI Was Born To Love You並に熱烈に愛してるって歌なんだけど、本当に同じ愛を歌ってる曲かってくらい内容が違うよ。比較すると楽しいよ。あと、これもお勧め。フィンランドのハードロックバンドのローディ」
と言いながらパソコンのインターネットのYouTubeを開いて動画検索している。
「この歌ってる人が映像作るのも得意で、ミュージックビデオが中々凝ってるんだよ。このHard Rock Hallelujahのミュージックビデオが結構好きだな僕は」
と言いながら巧は再生する。
最初からズンと来る重いサウンドとだみ声の歌声、そしてシャウトしているような高い声がいきなりこちらを興奮させる。
「ねー、映像とか凝ってるでしょ。音楽と映像があってるっていうかさ」
「…おう」
「これの日本語訳も中々かっこよくてねぇ。あ、スリップノットとこのローディのCDも貸してあげようね。優しく触れてあげてね」
「…おう」
なるほど、YouTubeでこういうのを見ることも出来るんだな、と思ったが、このミュージックビデオには歌詞も日本語訳もないので結局は何を言ってるのか分からない。
自分レベルのヒアリングではタイトルにもなっている「ハードロックハレルヤ」くらいしか聞き取れない。これなら素直に借りた方がいいだろう。
「ところで来年の夏に外国のロックバンドが来るんだけど、どう?猿田彦くん一緒にライブいかない?」
巧の顔を見ると、キラキラとした目でこちらを見ている。
その目は仲間になりそうな奴を見つけたぞ、という仲間に飢えて仲間を求めている目だ。
「…いや…」
それは断っておいた。
なにが楽しくて男と二人でライブに行かないといけねえんだよ。
スリップノットは割と聞き取りやすい英語がポンポン出てくるので、歌詞を一部隠して学生に穴埋め問題として書かせたら丁度いいんじゃないかなって思ったりするんです。
関係ありませんが、ガンズアンドローゼズの「ウェルカムトゥザジャングル」を車で家族で聞いていたら一瞬車内が凍り付きました(聞けばどこで凍り付いたのかよーくわかります)




