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第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第63話

第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第63話

第63話【宮本 健】


「たまには真面目な話をすると、だ。俺は、ジャパンカップのチャレンジレースと、ツールドおきなわのジュニアを走ったら、もうロードレースには出ない。いよいよ競輪一筋だ。

 だから、だ。今回は負ける訳にはいかない。ほんとのことを言ったらさ、俺は競輪じゃなくてロードレースの方が好きだ。走っていて面白いからな」


 輪太郎の言葉は、また僕を驚かせた。

 マックのテーブルで向かい合って、男子高校生が熱く語り合ってるように見えるよな、きっと。僕は輪太郎の熱さがうらやましかった。

「俺には競輪以外の将来の選択肢がない。競輪選手の子供に生まれて小さい時から自転車がオモチャで、ちょっと大きくなったら自転車の大会では優勝の常連。高校の自転車部に入ってインターハイ優勝。そして競輪学校に無事に入学する。もう選択の余地はない。ホント言うとなあ、ムサシが羨ましい」


 輪太郎がオレンジジュースのストローをいじりながら言った。

「そう言うことを輪太郎が僕に話すのが、ちょっと不思議」

 輪太郎らしくないセリフだなと思ったことを、素直に口に出した。


「背中を押してやろうと思ってな、友達がいのある友達だろ。いいか、俺と勝負するなら全力じゃないと勝てないぞ。ムサシってさ、甘いんだよ。知ってるか知らないかは別として才能に甘えてるんだよ。最後にガムシャラになれないんだよ。エエカッコしいなんだよ。それでよく剣道で勝てたな」


 輪太郎は更に真面目な話と僕へのダメ出しを続けた。ロードレースで強くなるには、目的意識を持ったトレーニングをハードに継続していく必要がある。それでおそらくホビーレースなら勝てるようになる。


 そこから先は、例えば全日本クラスになれば、持って生まれた才能も発揮していかないと勝ち抜けない。トップを目指すなら、努力と才能と運が全て揃わないとトップに到達できない。僕にはそれが揃う可能性があると言う。可能性の話だけど。


 エエカッコしいと言われた僕は、反論できなかった。

 確かに僕はガムシャラになって壁に向かってというのは、避けていた気がする。失敗が怖かったのもある。

 でも、もしこの先に進んでいくなら、フィジカルで恵まれてるなら、そのメリットを生かして、気力も体力も運も全て使って全力で挑戦していく必要があるということを輪太郎は言いたかったんだ。

 

 そういうことを輪太郎はずっと話していた。意外だった。僕には目からウロコだった。輪太郎は、どちらかというと「理屈をこねるなら走れ」というタイプに思える。僕は、ロードレースで強くなりたくて、輪太郎にチャレンジレースで勝ちたくて、このところ追い込んで走ってきたつもりだった。しかし、全然甘い。僕はどうしたら強くなれるかとか強くなるための要素とかを知らな過ぎる。


第63話に続く

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