第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第62話
第62話【宮本 健】
「あとはな、最後はな、ムサシはきっと目が良いんだよ。剣道やってたって、きっとそうだろ。全国レベルだったら目が悪かったら勝てないよな。検査の視力とかじゃない。みえてるかみえてないか、だ。」
確かに、目が良いなと言われたのは最初じゃない。剣道をやっていて目が良いねと言われたことは何度かある。
「動体視力ももちろん良いだろうけど、それとは別にな、深視力とか俯瞰力というヤツ。ムサシは落車しないし骨折したりしてないだろ。あれだけ走ってて、落車も骨折もしてないなんて、奇跡だって。落車しないのは目が良いからだ」
難しい言葉を使うなあ。確かに僕は今までロードバイクで転倒や落車はしていない。おかげで大きな怪我もしたことがない。運が良いだけと思っていたけど、それは輪太郎からしたら『目がいいから』だという。
それなら僕にも分かる。つまり剣道なら相手の竹刀捌きの動きを読む必要がある。僕は調子が良い時は相手の竹刀が止まって見えていた。例えば、輪太郎に言わせると僕は下りが上手いらしいが、それは視線をどこに向けるか、どこを見てるか、によるとのこと。
「例えばだな、下りでコーナーを曲がっていくとき、初心者だったらスピードにビビって目先に視線が行ってさ、ガチガチにハンドルバーを押さえて、なんとか目先のコーナーをクリアしようとする訳だ。
それで次のコーナーで反応が遅れてアウトに膨らんで慌ててブレーキングしてスピードダウンしちゃうとかブレーキングが遅れてオーバースピードで突っ込んじゃうんだよ」
なるほど。確かに僕はそういうことはない。もともとスピード感が気持良いから、スピードにビビったことはない。顔を上げていつも先に視線を向けている。S次コーナーだと、2つ先のコーナーを僕は見ている。それは僕には自然なことだ。
剣道でもそうなんだ。相手の竹刀だけを見ていてもダメなんだ。相手の体全体を見ないと勝てない。竹刀の動き、足の動き、視線の動き。肩の動き。そう、動き出すときには肩に力が入ることも多い。技を仕掛けるときに視線が動くこともある。それらを全体を見て、より早く反応する。先手を打つ。
自転車も同じなのか。先に進む方向に視線を向けて、進行方向と、目の前の路面状況、両方把握しないと反応が遅れてしまう。そういう点が、普通はなかなかできないらしい。僕には意識しないでそれが出来ているらしい。意識していなかったけど、それはメリットらしい。
第63話に続く




