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challenging-現在進行形な僕らは 第2章 2011年9月 マロニエトライアスロン 第19話

 第19話


 井の頭公園での試走や試泳のあと、4人でのメールやSNSでのやり取りは依然より頻繁になった。結果的に僕と香川さんとのやりとりも増えた。香川さんは長めの文章のメールはパソコンのアドレスになる。スマホでのメールやSNSが面倒な僕にはかなり嬉しい進展だ。


 香川さんのメールは今風の絵文字のメールとかじゃない。それとも僕のメールに合わせてくれてるのかな。その辺は福井さんの方がイマドキで、可愛い絵文字のメールを僕にもよく送ってくれる。


 僕らはトレーニングに熱が入った。その集中具合が青春を実感させてくれる。僕らは青春の真っただ中にいるのを実感する。

 

 マロニエトライアスロンの当日まで、輪太郎、香川さんと福井さん、お互いに準備期間は短かったけど真剣に練習したと思う。輪太郎と僕で言えば、夏場の練習は、例え5時30分からだとしても汗ダクダク状態で、この夏はマロニエトライアスロンに向けて何リットルの汗をかいたのかと思った。あ、僕は走らないけど、それでも練習で輪太郎とクタクタになるまで追い込で走るのは楽しかったんだ。


 僕はこのトライアスロンが終わったら告白するつもりだ。今までだって僕の気持ちはバレバレだ。でも、まだきちんと僕は僕の気持ちを香川さんに伝えていない。優勝という目標を達成したら盛り上がって気持ち的に告白しやすい。

 輪太郎には「自分が走る訳じゃないのになぜか意気込みだけはたっぷりあるな」と言われている。もし、残念な結果だったら、きっと意気消沈しちゃって付き合ってくださいとはなかなか言いにくいに違いない。だから僕もチームのために自分のためにテンションあげていかないと。 


 いよいよ当日だ。レースの日の朝は早い。受付が6時からだ。僕らにとっては普通に朝練している時間だけど、福井さんと香川さんは土浦からやってくるから大変だ。僕らは5時に宇都宮をロードバイクで出発し2人の到着を駐車場で待っていた。


 朝の公園はこれまでの夏真っ盛りな雰囲気が一段落して、夏特有の粘り気のある朝の空気もずいぶん澄んできた。駐車場にはどこかにキンモクセイが咲いているのか、緩い風にはあの甘い秋を感じさせる香りがしていて、確実に秋が深まっているのを感じさせてくれる。


 受付開始になるちょっと前に、駐車場にスバルのワゴンがやってきた。

「おはよう」

 2人の笑顔の挨拶だけで嬉しい。福井さんの夏の空に映えるヒマワリのような笑顔と、香川さんのパンジーのような可愛らしい笑顔。まだちょっと遠慮気味の香川さんの笑顔が満開になると良いな。


「今朝くらいだとプールは寒いんじゃない?」

と心配になって僕は聞いてみた。

「大丈夫、私、ウェットスーツ持ってるのよ」

え、ウェットスーツ持ってるの。

 香川さんは、意外なことで僕らをびっくりさせてくれる。福井さんが言った。

「律ちゃんね、競泳だけじゃなくてトライアスロンやってだんだって。びっくりでしょ。女子のジュニアだったらトップレベルだったんだって。驚きでしょ?」


 意外も意外。驚きである。どれだけびっくりさせてくれるのだろう。言ってくれれば良いのに。確かに、スイムは速いし、お父さんもお兄さんもロードバイクを本格的にやっていたらしいし香川さんもちょっとはバイクにも乗ると言っていた。そしたらあとはランだけだからな。しかしトライアスロンでトップレベルとはすごいもんだ。


「私、ランが弱くてね。スイムでトップで通過してバイクでなんとか順位を維持してもね、最後にランで抜かれちゃって。レースで最後に抜かれるというのは嫌なんだけどね。負けず嫌いだったら良かったけど、私、闘争心が生まれつきないのかも。ランは苦手だからと諦めちゃっていた自分も嫌だったの」

 嫌という割には嫌な顔をしていなかったし話す様子も全然嫌な感じがしないので、トアイアスロンが嫌いな訳ではないのだろう。僕はトライアスロンに出ることになってからトライアスロンのことを調べ始めて、スイムではウェットスーツを着た方が有利だと言うことは分かったけど、まさかウェットスーツを持っていたとは。そのうえ、女子のジュニアでトップレベルだったとは。


「マネージャー、ほれ、受付始まってるよ。頼むぜ。」

 と、輪太郎が言う。はいはい。今日は僕はマネージャーですから。チームの受付をして、ゼッケンやら計測チップをもらってくる。そのほか、せっせと荷物運びやらワゴンに積んであった折りたたみテーブルの設置やらを行う。こういうのは段取りが大事なんだ。リラックスしてレースをするにはこういう役割が必要なんだと自分に言い聞かせる。


「朝ごはんは食べたの? 食べてなかったらお昼の分だけど、いま食べても良いわよ。今日は簡単に作っちゃったけど」

とのことで、いつも香川さんに申し訳ない。僕らは朝ごはんはコンビニのオニギリで済ませてあったけど、早起きして作ってくれたのかと思うと、それだけでジンとしちゃう。お昼に食べるのを楽しみにしておこう。


「ムサシ、お前は今日は昼飯を食う権利ないぞ。その辺で売店の焼きそばでも買って食ってろ」

とわざわざ輪太郎が言う。確かに僕は今日は走らないし泳がない。仕方がないので、

「分かったよ。レース後のソフトクリームでどう?」

福井さんがすかさず、前回のプールのことを覚えていて、

「これからムサシ君はソフトクリーム係ね」


 それを聞いた輪太郎が言う。

「あ、怖いね、女番長。男を使い走りにするとは」

と言いだす。彼女にしたい年上のきれいな女の子に女番長は無いだろ。福井さんも黙っていない。

「もし、付き合ったら、あなたが使い走り1号ね。ずっと使い走りヨロシク。パシリ君と呼ぶわ」

福井さんは輪太郎に宣告した。それを聞いた輪太郎は、

「俺を使い走りにしたけりゃ、1位でゴールだから。そしたら付き合う約束だから」


 なんだか訳が分からなくなってきてどうでもよくなってきたけど、僕らのモチベーションは高かった。福井さんも香川さんもそれなりにトレーニングしていて、この1ヶ月でずいぶん体も慣れてきたと言っていた。それは輪太郎と僕も一緒だ。トライアスロンのバイクパートに備えてかなり追い込んだトレーニングをしてきた。


 準備が終わって選手の招集時刻を待つ。香川さんはすでにウェットスーツに着替えが済んで招集を待っていた。香川さんと福井さんとで何やら話しこでいるところに輪太郎が割り込んで、アナタはジャマだと言われて追い返されていた。


第20話に続く


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