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私が好きになった人の笑顔は――

 コツコツ――

 耳に馴染む足音が、廊下に響く。

 あと、三歩、二歩、一歩――

 そうして、教室の扉が開かれた。顔を出したのは予想通りの人物で、会うのはおよそ十日ぶり。

「伊藤ちゃん……」

「中西先輩、ちょっと時間よろしいですか?」

 神妙な顔で頷く先輩と二人で連れ立って屋上へと向かう。



 開口一番目の言葉。

「もう、いいわけ?」

 その言葉に、やはり先輩も私が彼を避けていた事実を知っていたことを突きつけられる。そして、やや皮肉気に言われた科白から、その行為に僅かばかりでも憤りを覚えていたことも。

「はい。今まですみませんでした」

 頭を上げて謝る私から先輩がパッと顔をそむけて辛そうに言葉を発する。

「俺は、気持ちに整理をつけたかったならそれを伝えてほしかった。いきなり避けるなんて真似を好きな子からされてさ、それで怒らないでいられるほど、俺も大人じゃないよ」

 ゆっくりと一言一言を大事にするような調子で言われ、本当に申し訳ないと再度謝ろうとして一瞬思考が停止した。

「ぇ、今……」

――好きな子って言われた……?

 考えれば考えるほど自分の顔に血が集まっていくのが分かり、同時に手を頬に当ててみればそこは驚くほど熱を持っている。

「伊藤ちゃんだって俺の気持ちに気付いてたから避けはじめ……伊藤ちゃん?」

 私の顔に起こる異常事態に先輩は気づいてなかったらしく、そっぽを向いていた表情をこちらに向け驚いた様子。

「ちょっ……今は見ないでください」

 バッと顔を両手で覆って、相手の言葉一つで真っ赤になっている情けない顔を隠そうとするのに、それを先輩の手で阻まれる。

「え、これ、俺の言葉でこんなになってるの……?」

「違っ、違います……!!」

 実際はその通りで。

 しかも、今から自分の気持ちを告白するつもりで此処まで来たというのに意地っ張りな私は相手の言葉を否定することしかできなくて、返答した傍から後悔してる。

(何で、「その通りです」って返せないのかな、自分っ!!)


 そんな自己嫌悪に駆られていた私は、先輩の表情が意地悪そうに吊り上るところなど見ていなかった。

「へー、本当?」

 えっ? と言葉を発する前に、既に先輩の真剣な表情が近くまで迫っていた。

「俺、伊藤ちゃんのこと好きだよ」

 その言葉に、自分でもこれまでかというほど頬や、身体全体が赤くなるのが感じられた。

 私の手を捕える先輩の手の冷たさと比較できるからこそ、体の異常な熱さは自分でも把握できていて、その変化を目の当たりにして先輩が感づかないはずがない。

「は、ははは……なんだ、伊藤ちゃん、俺のこと好きでいてくれてるの?」

 嬉しそうに目の前ではにかむ先輩。その表情に胸がきゅぅと苦しくなった。


 いつもなら間髪入れずに否定している言葉。

 でも、今を逃したならば一生先輩に自分の想いを伝えるチャンスはない気がして……。

 それに、凄くアレだけれど。滅茶苦茶自意識過剰かもしれないけれど、先輩の表情を見ていたら先輩がどれだけ自分のことを思っていてくれているかが分かるわけで。

 それなら、自分の気持ちを伝えることでもっと相手を喜ばせたいなんて、馬鹿みたいに恥ずかしいことを思ってしまったのだ。

「……そ、うですよ。私は、中西先輩が……好きです――」

 音が消え、時間が止まったようなそんな錯覚。

 先輩は目を丸めて停止し、私も恥ずかしくなって顔を下へと俯けた。

 一陣の強い風が吹き、その瞬間力強く体が抱き込まれた。

「……っつ!?」

「……あー、今すごい嬉しい。幸せ感じてる」

 もうちょっとだけこのままでと耳元で掠れた声を出す先輩に従ったわけではないけれど、私自身も離れようという気は起こらず、おずおずと相手の背中に腕を回した。

 そして、どれほどの時間が経ったのか私たちは自然と離れていた。でも、離れ際にするりと取られた手が先輩と所謂恋人つなぎというもので絡まれていて。


 背をフェンスに預け、手は繋いだままなんとはなしに喋り出した。

「……タイミング的に今言うのもどうかと思うけれどさ、菅谷君のことは、吹っ切れたの?」

「本当、今!? って感じの質問ですね」

 漏れそうになる笑みを押さえながら先輩の方を見れば、その表情にわずかばかりの不安が残っているのが感じられ、なんとなく納得する。


――この人は、私が菅谷のことをずっと好きだった間を見てるんだもんなぁ。


「吹っ切れましたよ。実は、昨日好きだったことも伝えて気持ちを清算したんです」

 私の言葉に、そっかと安心したように花を綻ばせて笑う先輩に釣られて笑みが漏れた。そして、昨日の菅谷との出来事を思い出している際に、屋上から見た光景も一緒に思い出す。

「先輩、昨日告白されてましたね」

「えぇっ!? なんで伊藤ちゃんが知ってるわけ?」

「昨日、此処から見えました」

 屋上を指差して言う私に、先輩は呆気に取られた表情を作り、「目いいんだね」と漏らす。

 確かに目はいいけど、菅谷ほどじゃない。とどうでもいいことを考えてしまい慌てて頭を振る。

「今はそんなことじゃなくって、せ、先輩は……私と、付き合ってくれるんです、か?」

 切れ切れなる言葉を何とか繋いで、言い切ったと安心するほうに気を取られているとよしよしとばかりに、繋いでない方の手で頭を撫でられた。

「な……?」

「いや、可愛いなって」

 一瞬で真っ赤になっただろう私の顔をみて吹き出しながら先輩が口を開く。

「ちゃんと言わなかった俺が悪いよな。好きだよ、付き合ってください――」

「は、はい……!!」

 慌てて頷いた私を見て先輩が笑う姿から、経験値の違いを見せつけられる。

 まだ笑ってる先輩の気を逸らすためにと、昨日の話題を引っ張り出す。

「それで、昨日の人は……」

「あぁ、アイツね。クラスメイトで、今付き合ってる人がいないなら考えてみてくれって言われたんだよ。でも、俺は今伊藤ちゃんと付き合ってるんでしょ?」

 口調からしてからかわれていることは分かったが気にしないことにして頷いて見せれば、再度満足そうに頭を撫でられた。理由を問えば、今度はいい子だったからと返される。

「ちゃんと、明日にでも断るから」

 続けられた言葉に、先輩に告白した人には申し訳ないけれど、やっぱり安心させられる。

 横で嬉しそうに笑ってる先輩を見てたら自分が意地っ張りだからとかプライドとかそんなのがすべてどうでもいいことのように思えて。

――今日は出血大サービス!!

 心の中で意気込んで、繋いでいる手を強く握り、先輩の顔を正面から見つめる。

「どうしたの?」


「中西先輩、大好きです――っ!」

 案外するりと口にすることが出来た言葉に、一瞬の間を開けてから先輩は頬に朱色を走らせると、笑った。

 その笑みは、私が彼を好きになったきっかけの、優しい優しい笑顔だった――


これまでお付き合いいただき、ありがとうございました<m(__)m>

今回の話二話に分けるかどうか悩んだんですが、一話にすべておさえることにしました。ですので長くて読みにくかったのでは? と思います、申し訳ないですorz



さてさて、以下は余談になります。

実は今回の話、諦めなければ恋は叶うをテーマに、主人公:伊藤を菅谷とくっつけて終わりのはずだったんです。

ですが、予想外に菅谷が勝手な行動ばかりとってしまい、収集がつかなさそうだ!! ということで、(二人に比べれば)大人な先輩にすべてを片づけてもらうことになったんです。だから途中からだいぶ話に行き詰ってしまい読者様をお待たせする形になってしまったんですね!! 申し訳ない(汗)


しかもあえて言うならば、肉食オラオラ系が好きな空乃なのに、今回はそれに該当するキャラが一人もいないっていう……!! なんたる失態。

……他の作品で頑張りましょう。



ここまでおつきあいくださった皆様ありがとうございました。

また別の作品でお会いすることが出来ましたら、それは空乃の幸せです。

失礼しました^^

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