第63話:天空の極上鯨と、拠点を進化させる「神の農園」
### 第63話:天空の極上鯨と、拠点を進化させる「神の農園」
『悠久の大迷宮』第19階層――『常闇の幻霊街』。
食えないアンデッドと幽霊たちへの八つ当たり(完全殲滅)を早々に済ませた『悠久の踏破者』たちは、いよいよ大きな節目となる大扉の前に到達していた。
「……第20階層。第10階層の黒竜王以来となる『大ボス』の間だ」
トウヤが、見上げるほど巨大な純白の石扉に手をかけながら、仲間たちを見回した。
「昨日の幽霊階層で溜まったストレス、そして俺たちの食欲……全てをこの扉の先の『特大食材』にぶつけるぞ。準備はいいな?」
「「「おおおおおッ!!」」」
エリスが大剣を構え、ジンが短剣を回し、ガレスが盾を叩く。マリアとルミナも「絶対に鮮度を逃がしません!」と魔法の準備を完璧に整えていた。
地上の王室すら「明日はデカいお肉だから光の柱が上がる」と確信するほど、彼らの食への執念は限界突破している。
ギギギギギギ……ッ!!
重厚な扉が開き、八人(六人と三匹)が足を踏み入れた先は。
「おおっ……!! これは、息を呑む絶景だな」
そこは、見渡す限りの『鏡のような水面』と、抜けるような『青空』だけが広がる無限の空間――『天海の水鏡』であった。
足元には数センチだけ水が張られており、空の雲を完璧に反射している。境界線がどこにあるのかすら分からない、美しく神秘的な階層だ。
そして。
「ピィィィッ!!(兄貴! 上から、すっごく大きくて美味しいのが降ってくるよ!)」
上空のクーが、歓喜の悲鳴を上げた。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォッ!!!!
青空の雲海を割り、太陽の光を遮るほどの『超巨大な影』がゆっくりと降下してきた。
体長は優に五十メートルを超える。全身が透き通るようなサファイア色の皮膚に覆われ、四枚の巨大な光のヒレで空を泳ぐ、神々しいまでの超巨大鯨。
第20階層・大ボス――『天海の神鯨』であった。
通常の冒険者であれば、その圧倒的なスケールと神の使いのような威圧感に、ひれ伏すか絶望して逃げ出す場面である。
しかし、トウヤの【神眼の指揮】は、その神々しい姿の『真の価値』を残酷なまでに見抜いていた。
「おい……お前ら。マジかよ、迷宮のやつ、分かってるじゃないか」
トウヤの声が、歓喜で震えた。
「あいつは『鯨』だ! 空を飛んでるが、中身は間違いなく極上のクジラ肉だぞ! 赤身の『バレニン』は疲労回復の超特効薬! 霜降りの『尾の身』はマグロの大トロすら凌ぐ究極の刺身! 皮下脂肪は甘くて口の中で溶ける本皮ベーコンになるぞ!!」
「「「く、クジラ肉ぅぅぅッ!?」」」
ジン、ガレス、エリスの大人組(?)が、ヨダレを撒き散らしながら絶叫した。
「竜田揚げ! クジラの竜田揚げにして、マヨネーズをつけて白飯と一緒に食ったら絶対に美味いですよね!?」
マリアが聖女の法衣を翻しながら、完全にジャンクな食欲を爆発させる。
「お刺身! 生姜醤油とニンニクでいただくクジラのお刺身……! お肉とお魚の良いとこ取りの最強食材ですわ!」
エリスも貴族の令嬢とは思えないほどの興奮状態だ。
「よし! あの超巨体のクジラ肉、一滴の血も、一ミリの脂も無駄にするな! 瞬殺だ!!」
「「「いただきますッッ!!!!」」」
「ブォォォォォォォォン……ッ!!」
天海の神鯨が、空間そのものを震わせるような重低音の咆哮を上げ、巨大な光のブレスを放とうとした、その瞬間。
「デカいだけで隙だらけなんだよ! 【直感回避・神速】!」
ジンが新装備『幻霊の不可視外套』の能力を使い、ブレスを物理的にすり抜けながら超音速で鯨の頭上へ跳躍し、眼球に閃光弾を叩き込む。
「暴れさせて肉を傷めるな! 【魔力城塞・天蓋】!」
ガレスが、鯨の巨体を上から押さえつけるように、ドーム状の巨大な炎の結界を展開して動きを封じる。
「よし、一気に血抜きと瞬間冷凍を同時に行うぞ! マリア、ルミナ!」
「はいっ! 最高の竜田揚げのために!」
「お刺身の鮮度は私が守ります!」
マリアの【絶対結界】が鯨の巨体を真空状態に近づけて気圧を操作し、ルミナの【アブソリュート・ゼロ】が血管内の血液だけを完璧に押し出しながら、極上肉を最も美味しい『マイナス60度』の超低温で瞬間冷凍していく。
カッ――――!!!!
水鏡の世界を白く染め上げる、圧倒的な閃光。
ズドォォォォォォォォォンッッ!!!
もはや「大ボス討伐」ではなく「ただの巨大な調理工程」として放たれた融合魔法が、特大で眩い『六本目の光の柱』となって、王都の空へと打ち上がった。
(※地上の王城では、国王ヴィルヘルムが「おお、やはり10階層区切りの大ボス。見事な特大冷凍ビームよ」と一人で納得し、オズワルドと優雅に拍手を送っていた)
「よし、完璧な血抜きと超低温冷凍の完了だ! 解体は俺に任せろ!」
氷像と化した五十メートルの超巨鯨に対し、トウヤが神話級包丁『神斬りの業物』を抜き放つ。
【空間斬り・千紫万紅】。
不可視の斬撃が網の目のように空間を走り抜け、巨大な鯨の『尾の身』『極上の赤身』『本皮(皮下脂肪)』『舌』といった部位が、まるでパズルピースが外れるように美しく切り出され、トウヤのアイテムボックスへと次々に吸い込まれていった。
大ボス、戦闘開始からわずか十秒で完全討伐(解体完了)。
「ふぅ……! やったな! 過去最大級の極上肉ゲットだ!」
トウヤが包丁を納めると、水鏡の床に、大ボス討伐ボーナスである『巨大で豪華な宝箱』がゴトリと出現した。
「ヒャッハー! 瞬殺ボーナスのお宝だぜ! さすがに20階層の大ボスだからな、とんでもない装備が入ってるに違いねえ!」
ジンが罠を解除して蓋を開ける。
しかし。
中から出てきたのは、武器でも防具でもなく――『手のひらサイズの、小さなジオラマのようなガラス玉』であった。
「……なんだこりゃ? アクセサリーか?」
トウヤが手に取り、システムのアナウンスを確認した瞬間。彼の目が、これまでのどんな極上食材を見つけた時よりも大きく、限界まで見開かれた。
「トウヤさん? どうしたんですか、そんなに驚いて……」
「お、おい……お前ら……。これ、装備でも魔導具でもない。……『設備』だ」
「設備?」
「ああ。俺の【拠点創造(星の箱庭)】に連結して、機能を追加するための神話級の拡張キットだ。その名も……『時空の豊穣農園&生簀』!!」
「「「農園!? 生簀!?」」」
トウヤは震える手で、そのガラス玉の圧倒的な効果を読み上げた。
「いいか。この設備を拠点に繋げると、巨大な『農畑』と『海・川の生簀』を持った別空間が追加される。そこに、今まで手に入れた『野菜の切れ端』や『生きた魚介類』、果ては『魔物の体の一部』を放り込んでおくと……」
トウヤがゴクリと喉を鳴らす。
「中では外の何十倍ものスピードで時間が進み、さらに『環境と魔力濃度が常に最適化』されるため……入れた食材が、勝手に増殖・養殖されて、いつでも無限に『最高の状態で収穫できる』ようになるんだ!!」
「「「ええええええええッッ!!??」」」
全員の絶叫が、水鏡の階層に響き渡った。
「つまり……第18階層で採った『極上のネギ』の根っこを植えておけば、勝手に増えるってことか!?」ジンが目を剥く。
「第12階層の『深海王昆布』や『バレット・ツナ』も、生簀に入れておけば無限に出汁やお刺身が手に入るということですか!?」ルミナが卒倒しそうになる。
「お、お肉は!? さすがに牛さんや豚さんは生け捕りにしていないから……」マリアが焦って尋ねる。
「いや! アナウンスによれば、『極上の細胞(お肉の切れ端)』を培養液につけておけば、植物のように『肉の塊』として増殖・収穫できるらしい! つまり、マンモスや恐竜の霜降り肉すら、無限に栽培できる!!」
「「「神の設備だァァァァァッ!!!!」」」
これまでは、あくまで迷宮で狩りをして「アイテムボックスにストックする」という形だった。しかし、この設備があれば。
一度でも最高の食材を手に入れれば、拠点の中で「完全な自給自足の無限グルメライフ」が完成してしまうのだ。
「ガッハッハ! とんでもねえもん引き当てやがったなトウヤ! これで俺たちのキャンプは、ついに『異世界最強の農業&水産リゾート』に進化するぞ!!」
「ええ! レア装備なんて目じゃありませんわ! 最強の宝物です!」
「よし! すぐにこの階層に拠点を展開して、新設備をインストールするぞ! そして今夜は、クジラ肉のフルコースと新農園の開設祝いだ!!」
「「「うおおおおおおッ!! 竜田揚げだァァァッ!!」」」
***
数十分後。
第20階層の水鏡の上に展開された【星の箱庭】の大豪邸。
その裏手に、新たに『豊穣の時空農園&生簀』という名の広大な別空間が連結された。
そこには、さんさんと疑似太陽の光が降り注ぐフカフカの黒土の畑と、深海から清流まで環境を調整できる巨大な湖が存在していた。
トウヤたちは早速、手持ちのネギの根、タケノコの欠片、昆布、そして「恐竜の霜降り肉の一部」を畑に植え込み、ウキウキで成長を待つ(システムにより、明日の朝には収穫可能になる)ことにした。
そして、リビングのダイニングテーブルには。
「さあ! 第20階層大ボス撃破&農園開設の宴だ! 今夜は『神鯨の極上竜田揚げ』と、『尾の身と本皮のニンニク生姜醤油・特上お刺身』! そして、鯨の出汁を吸った『極濃クジラ汁』だ!!」
「いただきますッ!」
マリアが、カリッサクッと揚がった竜田揚げを頬張る。
「んんんんッ!! クジラのお肉、信じられないくらい柔らかくて、噛むたびに血の気の全くない濃厚な赤身の旨味がジュワッと溢れます! マヨネーズの酸味と合いすぎて、白飯が無限に消えますぅ!」
「こっちの『尾の身』のお刺身もヤバいぞ! マグロの大トロと、最高級和牛の霜降りを足して二で割ったような舌触りだ! ニンニク生姜醤油をちょっとつけるだけで、脂が甘く口の中で溶けやがる!!」
ジンがビールを片手に、感動の涙を流して叫ぶ。
「ガッハッハ! この『本皮』のベーコンも、脂の塊なのに全く胃にもたれない! 酒泥棒とはまさにこのことだ!」
ガレスとエリス、ルミナも、規格外のクジラ肉のフルコースに完全に骨抜きにされ、限界まで胃袋を膨らませていた。
大ボスを瞬殺し、さらなる「食の無限ループ」を手に入れた『悠久の踏破者』たち。
地上では「また冷凍ビームか」と呆れられている彼らだが、その拠点内部は、世界中の王侯貴族が嫉妬で狂死するほどの「究極の自給自足・美食楽園」へと、さらなる進化を遂げたのであった。




