第476話 奈落の粘菌回廊・大蹂躙(迷宮の壁と、トウヤの『超弩級・消化直進』プラン)
第476話 奈落の粘菌回廊・大蹂躙(迷宮の壁と、トウヤの『超弩級・消化直進』プラン)
移動料亭要塞『星海大宴殿』は、次なる深淵――世界中のあらゆる有機物を分解・再構成し続ける生体の大迷宮【奈落の粘菌回廊】へと、その巨体を滑り込ませた。
要塞の外部モニターに映し出されるのは、不気味に脈打つ巨大な腸内のような光景。上下左右の壁面は、赤黒や蛍光グリーンに発光する巨大な粘菌に覆われ、絶え間なく消化液のような粘液を滴らせていた。
『警告。要塞外壁に多種多様な捕食粘菌の付着を確認。外殻の融解が……いや、始まらないな。こちらのシステムが勝っている』
ブリッジのサイラスが、ホログラムの数値を読み上げながらニヤリと笑う。
「ハッハッハ! 当たり前だ! 俺たちの要塞は今、宇宙最強の『胃袋』なんだからな!」
トウヤが甲板の最前線で黄金の大剣を肩に担ぎ、高らかに笑う。
第一フェーズ:要塞胃袋の圧倒的捕食
バシャァァァァッ!!
頭上の天井から、要塞を丸ごと飲み込もうと、数十トンにも及ぶ巨大な『強酸性・暴食スライム』が降ってきた。
しかし、それが大宴殿の外壁に触れた瞬間――。
シュゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!
「ギャァァァァァッ!?」とでも言うような粘菌の振動音と共に、スライムの巨体が瞬時に溶け崩れ、透き通った黄金色の液体へと変わっていった。
「見ろ! 【対粘菌・超溶解中和剤】の効果はバツグンだ!」
トウヤが指差す先で、要塞の外壁に常時噴射されている特殊なコーティング液――塩砂漠の『うま味結晶』、リルのスライム成分、そして『スモークオイル』の混合液が、粘菌の持つ毒素と酸を完全に中和し、強制的に「良質なアミノ酸スープ」へと還元していた。
「サイラス! 溶けたスープを一滴も逃すな!」
『フッ……言われるまでもない。全周バキューム、最大吸引!』
ズゴォォォォォォォォォッ!!
大宴殿の甲板全周に配置された高粘度バキュームシステムが、外壁を伝って流れ落ちる極上のアミノ酸スープを猛烈な勢いで吸い上げ、精製ラインを経て氷室のタンクへと送り込んでいく。
毒と酸の塊であったはずの魔獣が、大宴殿に触れただけで、自動的に「旨味たっぷりの極上スープ」に変換されて収穫されていくのだ。
「フフッ、外の処理は要塞がやってくれますが、中へ入り込んでくる大物たちはお掃除しなくてはいけませんわね」
エリスが白銀のレイピアを抜き放ち、甲板に飛び降りてきた巨大な『寄生核の鎧粘菌』へとステップを踏む。
「【貴族剣技・超高周波・神経切断】!」
シィィィィンッ……!!
エリスのカスタマイズされたレイピアが、粘菌のブヨブヨとした外殻を無視し、その奥に隠された硬い「核」だけをピンポイントで貫き、超高周波で粉砕した。
「……遅い」
同時に、影から現れたジンが双短剣を閃かせ、別の粘菌の核を瞬時に両断する。彼らの武器に施された【超高周波・神経切断刃】は、物理攻撃を吸収する粘菌の特性を完全に無効化していた。
「トドメは私にお任せくださいませ! 女神の御名において! 【聖女の浄化炎・外殻防壁】!」
マリアが白神の杖を掲げると、要塞の外殻に巡らされた純白の炎が、核を失って飛び散った粘菌の破片を包み込む。これにより、粘菌特有の「分裂・再生」が完全に封じられ、残った肉体はサラサラの粉末出汁となって崩れ落ちた。
「ガッハッハ! 叩き潰す手間が省けるぜ! 吸って、刺して、焼く! 最高のルーティンじゃねぇか!」
ガレスも豪快に笑いながら、甲板に侵入したスライムたちを次々とアミノ酸スープの海へと蹴り落としていく。
第二フェーズ:迷宮の壁と、三日目の焦燥
大宴殿による粘菌の乱獲(スープ化)作業は、完璧な連携で順調に進んでいるように見えた。
しかし――回廊へ突入して「三日目」の朝。
作戦会議室の空気は、予想外の停滞感に包まれていた。
『……ダメだ。また行き止まりだ。迂回ルートを再検索する』
サイラスが忌々しそうにキーボードを叩き、ホログラムマップの構造を書き換える。
「あぁもう! 一体どうなってますの!? さっきまで右に道があったはずなのに、壁が勝手に動いて塞がってしまいましたわ!」
ルミナが星屑の杖を振り回して苛立ちを露わにする。
そう、これが【奈落の粘菌回廊】の真の恐ろしさであった。
回廊を構成する壁そのものが生きた巨大な粘菌であり、常に蠕動し、癒着し、分離を繰り返して地形を変え続けているのだ。
どれだけ周囲の粘菌魔獣をスープに変えても、巨大な生体迷路の中をウロウロさせられるだけで、一向にこのエリアの全体像(最深部)に辿り着けないのである。
「……スープの収穫量は申し分ないが、このままじゃ時間がかかりすぎる。一生この胃袋の中で迷子になるのは御免だぜ」
ジンが腕を組み、冷静に現状を分析する。
「うおおおんっ! ワシの胃袋はもっと新しい美味を求めておるのだ! スープだけでは腹がタプタプになってしまうわ!」
VIPルームから顔を出した元皇帝が、贅沢なクレームを叫ぶ。
「迷宮探索のセオリーが全く通用しない……。地球のダンジョンRPGなら、絶対にクソゲー呼ばわりされるマップ構造だな」
ケンジも胃薬を飲みながらため息をついた。
皆が疲労と苛立ちを見せる中、トウヤだけはホログラムマップの「動く壁」をジッと睨みつけ、指でトントンと顎を叩いていた。
「……トウヤさん? 何か良い考えでも?」
マリアが心配そうに覗き込む。
トウヤの口角が、徐々に、そしてどこまでも極悪に吊り上がっていった。
「……迷路を解こうとするから、時間がかかるんだ」
「え?」
トウヤがバンッ! と作戦会議室の円卓を叩いた。
「いいかお前ら! この回廊の『壁』ってのは、石でも鉄でもねぇ。全部が全部、俺たちの中和液で溶かせる『粘菌(アミノ酸スープの素)』なんだよ!」
『まさか、トウヤ殿……』
サイラスが、トウヤの狂気的な発想に気づいて目を見開く。
「そうだ! 道がないなら、迷路の壁を『食い破って』直進すればいい! これより大宴殿のプランを少し変更する! 名付けて【超弩級・消化直進モード】だァァッ!!」
第三フェーズ:プラン変更! 迷宮を喰らい尽くす直進劇
「ゼノス! サイラス! 要塞の先端の次元バンパーに、ありったけの空間圧縮魔力とバキュームの吸引力を集中させろ! 巨大な『ドリルの刃』みたいな吸引の渦を作るんだ!」
「フッ、空間を抉り取る巨大な口を創れというのだな。造作もない」
『了解した。全魔導炉の出力を前方へシフト。前方集中バキューム、形成開始』
大宴殿の先端、本来は障害物を弾き飛ばすためのバンパー部分に、ゼノスの漆黒の魔力とサイラスのバキュームが融合した、目に見えない「超巨大な吸引ドリル」が形成された。
「さらに、そこに【対粘菌・超溶解中和剤】の噴射ノズルを全集中させる! 前方の壁(粘菌)に中和液をブチ撒けながら、ドリルで抉り取り、そのままアミノ酸スープとして要塞のド真ん中から一気に飲み込み続ける!!」
「カッカッカ! 迷路の壁ごと食って真っ直ぐ進むって寸法か! 最高に狂ってて痛快じゃねぇか!」
ガレスが大爆笑し、戦斧を振り上げて賛同する。
「全機関、出力最大!! 前方の行き止まりの壁(粘菌の塊)に向かって、フルスロットルで突っ込めェェェッ!!」
ズガァァァァァァァァァァンッッ!!!!
大宴殿の魔導推進炉が蒼いフレアを限界まで噴き出し、要塞が猛烈なスピードで、道を塞ぐ巨大な粘菌の壁へと激突した。
いや、激突ではない。
ギュルルルルルルルルッッ!!!!
ジュワァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!
要塞の先端に形成された吸引ドリルと、大量に噴射される超溶解中和剤。
それらが分厚い粘菌の壁に触れた瞬間、壁は悲鳴を上げる間もなくドロドロのアミノ酸スープへと還元され、要塞の巨大な「口」にズゴォォォォッ! と飲み込まれていく。
『前方障害物、完全融解! 速度低下ゼロ! このまま直進する!』
サイラスの声が響き渡る。
「ヒャッハー! 道がねぇなら食って作ればいいんだよ!! どんどん進めェェッ!」
トウヤが甲板の先頭に立ち、黄金の大剣を振りかざして絶叫する。
右へ左へとうねる複雑な回廊のルートなど、もはや関係なかった。
大宴殿は、迷路の仕切りとなっている巨大な粘菌の壁を次々と強引に溶かし、食い破り、自らの背後に「一直線の巨大な空洞」を創り出しながら、猛烈なスピードで奈落の深部へと爆走していく。
壁を食い破るたびに、氷室のタンクには極上のアミノ酸スープが滝のように流れ込み、要塞の推進力はさらに増していく。
迷宮のギミックを「圧倒的な食欲と消化力」で物理的に無効化した開拓者たち。
この劇的なプラン変更により、大宴殿の進軍スピードは文字通り桁違いに跳ね上がり、彼らはついに、この生きた迷宮の心臓部――すべての粘菌を統括する『特大のメインディッシュ』が潜む最深部へと、一直線に牙を剥きながら迫っていくのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、こちらの新作「異世界・天下布武 〜魔族を従えた織田信長は、今度こそ本能寺を回避する〜」不定期執筆になりますがよろしく
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