第28話:隻眼の合流と、お約束のステータス大渋滞
第28話:隻眼の合流と、お約束のステータス大渋滞
『悠久の大迷宮』第7階層、地下廃都。
冷たい石畳と崩れかけた建造物が連なるこの階層で、今日も今日とて『悠久の踏破者』たちによる理不尽なまでの蹂躙劇が繰り広げられていた。
「ピィィィッ!!(頭上から三体、右の路地から四体!)」
「了解だ! クー、そのまま爆撃頼む! ガレス、前衛のヘイトを取れ!」
「ガッハッハ! 来い、骨董品ども! 【挑発】!!」
上空から瓦礫の雨を降らせるクーの急降下爆撃が、屋根から奇襲をかけようとしていた『ストーン・ガーゴイル』たちを叩き落とす。同時に、路地の奥から現れた骸骨の騎士『スケルトン・ナイト』たちのヘイトを、ガレスの地鳴りのような咆哮が完全に固定した。
「ルミナ、一掃しろ!」
「はいっ! 炎の精霊よ、灰燼に帰せ! 【フレイム・バースト】!!」
ルミナの無詠唱の極大炎魔法が廃都の暗闇を真昼のように照らし出し、スケルトン・ナイトたちを文字通り骨の髄まで焼き尽くす。
そして、炎を逃れて体勢を崩した残党のガーゴイルたちには、クロの【影渡り】と【噛み砕く牙】が襲いかかり、最後にトウヤの【共鳴連撃】による矢が、魔力コアを寸分の狂いもなく射抜いて完全沈黙させた。
戦闘時間、わずか三十秒。
敵の奇襲を完全に読み切り、一切の反撃を許さずに無傷で殲滅する、完璧な『五星の陣形』だ。
「よし、お疲れ! 発光ネギと遺跡マッシュルームの群生地も近いから、このまま収穫に……」
トウヤが弓を下ろして振り返ろうとした、その時だった。
「……いやぁ、相変わらずバカげた戦闘してやがるな、アンタら」
パチパチパチ、と呆れたような拍手の音と共に、廃都の暗がりから一人の青年が姿を現した。
ボサボサの黒髪に、黒い眼帯。暗殺ギルドを抜け、王都から晴れて自由の身となった隻眼の斥候、ジンである。
「お、ジン! 思ったより早かったな。無事に終わったか?」
トウヤが笑顔で出迎えると、ジンは深く息を吐き出して、憑き物が落ちたような爽やかな笑みを浮かべた。
「ああ。トウヤの兄貴の資金と、ガレスの旦那の紹介状のおかげで、孤児院の連中は安全に隣国へ向かったよ。暗殺ギルドの方も、俺が『宝に目が眩んで深層に籠もったバカ』ってことで完全に手を引いた。……これで俺は、正真正銘のフリーだ。改めてよろしく頼むぜ、リーダー」
「よくやったな。歓迎するぞ!」
「ワォン!」「ピルルッ!」
ガレスがジンの肩をバンバンと叩き、クロとクーも新しい仲間の帰還を喜ぶように鳴き声を上げた。
「……で、だ」
ジンは笑顔を引っ込め、ジト目でトウヤたちを睨みつけた。
「さっきから見てたが、アンタらの今の戦闘、やっぱり異常だろ!? なんで第7階層の魔物の群れ相手に、散歩でもするみたいに欠伸しながら無傷で殲滅してんだよ! 俺がいない間にもう下の階層のボス倒してきたのか!?」
「いや? まだ7階層のままだぞ。お前が戻ってくるのを待ってたのもあるが、連携強化と食材収穫がまだ終わってなくてな」
「食材……?」
ジンが訝しげに眉をひそめると、トウヤはコホンと一つ咳払いをし、いつもの「リーダーの顔」を作った。
「いいかジン。俺たちが目指しているのは、ただの金策じゃない。誰も成し遂げたことのない大迷宮の完全踏破だ。だからこそ、慢心は絶対に許されない。自分のステータスの経験値が――(中略)――というわけで、要するに『絶対に安全第一で、この階層の美味い食材を一生分収穫し尽くすまで下には行かない』ってのが俺のルールだ。分かったか?」
「……途中から完全に脳が料理の事しか考えてなかっただろ、アンタ」
ジンが呆れ果ててため息をつく。
すると、ガレスとルミナがポンポンとジンの両肩を叩いた。
「はははっ! ジン、気持ちは分かるぞ。俺も最初はそう言ってツッコミを入れたもんだ」
「ジンさん、安心してください。トウヤさんの常識外れな行動も、三日もすれば『今日のご飯は何かなぁ』という思考に完全に塗り替えられますから。エルフの私が言うので間違いありません」
「いや、エルフがそれ言っちゃダメだろ……」
もはや完全にトウヤのペース(と胃袋掌握)に染まりきったパーティーメンバーの姿に、ジンは頭を抱えるしかなかった。
「ま、固い話はここまでだ! ジンも戻ってきたことだし、早速テントを張って、今後の陣形のために全員の『ステータス確認』をしておこう」
トウヤが指を鳴らすと、何もない廃都の広場に、巨大で快適なマジックテントが魔法のように展開された。
***
魔力コンロで淹れた温かいコーヒーの香りが漂うテントの中。
六人がテーブルを囲む中、トウヤは空中に青白いステータスボードを展開した。
「じゃあ、まずは新入りのジンからだな」
====================
【名前】 ジン
【職業】 斥候(元・暗殺者)
【レベル】 25
【HP】 220 / 220
【MP】 110 / 110
【筋力】 C
【敏捷】 A
【耐久】 D
【魔力】 E
【スキル】
・短剣術 Lv.6
・隠密行動 Lv.7
・気配察知 Lv.6
・罠解除 Lv.5
・鍵開け Lv.5
====================
「おお! 隠密と気配察知がレベル6以上で、罠解除まで持ってるのか。完璧な裏方特化だな。クーの空中索敵とジンの地上探知が合わされば、宝箱の罠も魔物の奇襲も完全にシャットアウトできるぞ」
トウヤが満足げに頷く。
「へへっ、伊達に裏社会で生き抜いてきたわけじゃねえからな。索敵と罠の解除なら、俺に任せておきな」
ジンも誇らしげに鼻をこすった。
「よし、次はガレス、ルミナ、クロ、クーだな。……うん、この数日でまた少しレベルが上がってるな」
四人のステータスが流れるように表示される。ガレスの耐久【A】や、ルミナの魔力【S】、そしてクロとクーの敏捷【S】と異常なパッシブスキル(料理狂信)を見たジンは、すでに目を白黒させていた。
「な、なんだこのバケモノの博覧会みたいなステータスは……。俺が一番まともに見えるぞ……」
「そして、最後が俺だ」
トウヤがあっさりと自分のステータスボードを開く。
====================
【名前】 トウヤ
【職業】 探索者(遊撃手 / キャンプマスター)
【レベル】 24
【HP】 520 / 520
【MP】 280 / 280
【筋力】 D
【敏捷】 B
【耐久】 D
【固有スキル】
・拠点創造 Lv.6(結界強度↑、空間拡張↑、魔力コンロ火力↑、簡易風呂機能)
・異空庫容量拡張 Lv.5(冷蔵・保温・冷凍機能あり)
【戦闘スキル】
・短剣術 Lv.8
┗ 派生:無音連殺 Lv.5
・弓術 Lv.7
┗ 派生:精密連射 Lv.5
・連携指揮 Lv.4
┗ 派生:共鳴連撃 Lv.3
・現代調理術 Lv.MAX(異世界食材補正)
====================
数秒の沈黙の後。
テントの中に、ジンの鼓膜を破らんばかりの絶叫が響き渡った。
「っっっっツッコミどころが多すぎるんだよォォォォッ!!!」
ジンはバンッ! とテーブルを叩いて立ち上がった。
「まず基礎ステータス! なんで俺より敏捷が低いのに、戦闘スキルの派生が『無音連殺』なんだよ!? それ、暗殺ギルドのトップだった元老クラスしか持ってない超絶凶悪スキルだぞ!? 俺でさえ持ってねえのに、なんでただのキャンパーが持ってんだよ!!」
「いやあ、クロがヘイト集めてる間に、後ろからコソコソ刺してたら自然と生えちゃって……」
「コソコソ刺して覚えるようなもんじゃねえんだよ!!」
ジンのツッコミのボルテージは最高潮に達する。
「それに、なんだこの『拠点創造』って! 今俺たちがいるこの快適すぎるテント、魔法道具じゃなくてアンタのスキルなのかよ! しかも風呂付きって! 迷宮探索舐めてんのか! さらに一番下の『現代調理術 Lv.MAX』ってなんだ!? 暗殺者なのか料理人なのかハッキリしろォ!!」
ゼェゼェと肩で息をするジン。
その完璧なまでの「お約束のツッコミ」に、ガレスとルミナはウンウンと深く頷きながら拍手を送った。
「素晴らしいツッコミだ、ジン。俺の言いたかったことを全て代弁してくれた」
「ジンさん、百点満点です。これであなたも立派な『悠久の踏破者』のメンバーですね」
「アンタら、完全に毒されてるじゃねえか……っ!」
へたりと椅子に崩れ落ちるジンをよそに、トウヤは笑いながら立ち上がった。
「ははっ、まあ細かいことは気にするな。これで斥候も加わって、いよいよ俺たちのパーティーは完全体になったわけだ」
トウヤはコンロの火をつけ、スキレットに油を引いた。
「よし! ジンの合流と完全体パーティー結成を祝って、今日は第7階層の特産キノコとネギをたっぷり使った、超特大の『激旨・豚肉とキノコのニンニク醤油炒め定食』にするぞ! 白飯も無限にあるから覚悟しろよ!」
「うおおおおッ!! 待ってました!!」
「トウヤさん、私お肉多めでお願いします!!」
「ワォォン!」「ピルルッ!」
ジュワァァァァァッ!! という暴力的な焼き音と、ニンニク醤油の焦げる狂気的な匂いがテント内に爆発する。
その匂いを嗅いだ瞬間、ジンの胃袋がキュルルゥゥと高らかに鳴り響き、彼の脳内にあった「ステータスの異常性へのツッコミ」は、一瞬にして彼方へと吹き飛んでしまった。
「……クソッ。腹減った。俺も、飯大盛りで頼む」
「おう、任せとけ!」
常識外れのスキルと、最強の飯テロ。
全てのピースが揃い、絆(と食欲)で結ばれた六人のスローな迷宮攻略は、ここからさらに加速し、迷宮の深淵へと美味しく突き進んでいくのだった。




