第22話:空の相棒と、完成された五星の陣形、そして魅惑のフルーツタルト
第22話:空の相棒と、完成された五星の陣形、そして魅惑のフルーツタルト
甘いパウンドケーキの匂いに釣られ、誇り高き風の魔鳥『ウィンドホーク』があっさりとトウヤの胃袋掌握に屈した翌朝。
「いやぁ、まさか鳥の魔物まで飯でテイムできるとは思わなかったな」
「ピィッ!(美味しいご飯のためなら当然!)」
快適なマジックテントの中で、トウヤの肩に止まったウィンドホーク――『クー』が、誇らしげに(そして食欲に満ちた声で)鳴いた。美しい翠色の羽根を持つ大鷲のような姿だが、その瞳は完全にトウヤの料理の虜となっている。
「トウヤ、お前のその『胃袋掌握』は本当に恐ろしいな。まさか上空の魔物まで手懐けるとは」
ガレスが大盾を磨きながら苦笑し、ルミナも「エルフの里でも、魔鳥をテイムできた魔法使いなんて歴史上に数えるほどしかいませんよ……」と呆れたように肩をすくめた。
クロに至っては「新しい弟分ができた」とばかりに、尻尾を振ってクーを見上げている。
「まあ、頼もしい仲間が増えたのはいいことだ。さっそくクーのステータスを確認しておこう。――『ステータス・オープン』」
空中に半透明のステータスボードが浮かび上がった。
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【名前】 クー
【種族】 ウィンドホーク(個体変異)
【主】 トウヤ
【レベル】 28
【HP】 210 / 210
【MP】 350 / 350
【筋力】 D
【敏捷】 S
【耐久】 E
【魔力】 B
【アクティブスキル】
・風の刃 Lv.5
・急降下爆撃 Lv.4
・暴風の加護 Lv.3
【パッシブスキル】
・超高高度索敵 Lv.MAX
・主人の甘味狂信 Lv.MAX
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「おお……! 敏捷【S】に、魔力も【B】か。完全に後方(上空)支援特化だな」
トウヤが感心して頷く。
「『超高高度索敵』のおかげで、これからは魔物に奇襲されることは絶対にないし、迷宮の地形も手に取るように分かる。それに風魔法も使えるのか。ルミナとの相性も良さそうだ」
「はいっ! 私の精霊魔法とクーちゃんの風魔法を合わせれば、もっとすごいことができますよ!」
ルミナが目を輝かせる。
「ただ……やっぱり一番下にある『主人の甘味狂信』が気になるな。クロの『料理狂信』といい、お前たち、どんだけ俺の飯が好きなんだよ」
トウヤがツッコミを入れると、クロは「ワォン!(お肉最高!)」と吠え、クーは「ピルルッ!(甘いもの最高!)」とトウヤの頬に頭を擦り付けた。
「ははっ、まあいいさ。よし、クーの力も加わって、俺たちの陣形はどう進化したのか。今日は第6階層で、徹底的に連携のテストと食材集めを行うぞ!」
***
『烈風の大渓谷』に、昨日までとは比にならないほどの絶望的な蹂躙の嵐が吹き荒れていた。
「ピィィィィィッ!!」
遥か上空、雲を抜けるほどの高高度を旋回していたクーが、鋭い鳴き声で地上のトウヤたちに敵の接近を知らせる。
『前方二キロ、岩陰にグランドホーンの群れ。さらに上空からウィンドイーグルが急降下中』――テイムによる念話のような繋がりで、クーの視覚情報が直接トウヤの脳内に共有されていた。
「クーの索敵、完璧すぎる……! ガレス、前衛の群れを頼む! ルミナ、上空のイーグルを落とせ!」
「応ッ! 【挑発】!!」
「精霊よ、集え! 【ウィンド・ブラスト】!!」
ガレスの咆哮で地上の魔物たちのヘイトを完全に固定し、ルミナの極大魔法が上空のイーグルたちを吹き飛ばす。
しかし、吹き飛ばされて体勢を崩したイーグルたちに、今度は上空に待機していたクーが襲いかかった。
「ピルルゥゥゥッ!!」
クーの翼から放たれた無数の【風の刃】が、イーグルたちの翼を容赦なく切り裂く。さらにクーは、空中で巨大な岩石を掴み上げると、【急降下爆撃】のスキルに乗せて、地上のグランドホーンの群れの中央へと精密に投下した。
ズドォォォォンッ!!!
隕石のような一撃で魔物の陣形が完全に崩壊する。
「いけっ、クロ!」
「ワォンッ!!」
混乱の極みにある敵陣のど真ん中へ、クロが【影渡り】で跳躍。四体の【影分身】と共に、手負いの魔物たちの急所を次々と噛み砕いていく。
そして、逃げ惑う残党の魔物たちには、トウヤの【共鳴連撃】による必殺の矢が、寸分の狂いもなく脳天を射抜いた。
戦闘終了。
もはや「戦い」とは呼べない。上空からの絶対的な索敵と爆撃、広範囲魔法、絶対防御、そして神速の遊撃と暗殺。
陸・空・魔法が完全に噛み合った五人の連携は、大迷宮の生態系を真っ向から破壊するほどに凶悪な完成度を誇っていた。
「……す、すごすぎる。俺たち、もはや軍隊でも勝てないんじゃないか?」
ガレスが大盾を下ろし、自分たちの強さにドン引きしている。
「クーちゃんのおかげで、私の魔法の命中率も格段に上がりました! 空中からの風の支援、最高です!」
ルミナがクーを抱きしめて頬ずりし、クーも嬉しそうに「ピィッ!」と鳴いた。
「よし、連携は完璧だな。これなら、どんな未知の階層でも安全に対処できる」
トウヤは『ファントム・エッジ』で手早く魔物たちを解体しながら、ほくほく顔で頷いた。
「しかも、クーのおかげで、崖の上の高い所に生えてる『迷宮果実』や『レアな木の実』も取り放題だ! クー、あそこの絶壁に生えてる赤い実、採ってきてくれるか?」
「ピィッ!」
クーは弾丸のように飛び立ち、人間では絶対に手の届かない絶壁から、甘い香りを放つ果実の房を次々と掴み取ってはトウヤの元へ運んできた。
凶悪な連携も、上空からの偵察能力も、トウヤにとっては「最高の食材調達システム」に過ぎないのだ。
***
「よし、今日の収穫祭の締めくくりだ! クーの歓迎と大活躍を祝って、最高のお茶会(飯テロ)にするぞ!」
岩陰に設営された快適なテントの中。
本日のメインは、クーが絶壁から採集してくれた『迷宮ベリー』と『風切りのクルミ』をふんだんに使った、特製の『宝石フルーツタルト』だった。
トウヤは異空庫にストックしていたバターをたっぷりと練り込み、サクサクのタルト生地を焼き上げる。その上に、濃厚なカスタードクリームを限界まで敷き詰め、艶やかなルビーのように輝く迷宮ベリーを山のように盛り付けた。
仕上げに、香ばしくローストした風切りのクルミを散らし、ハチミツを煮詰めたシロップで全体をコーティングする。
「うおおお……甘くて、香ばしい匂いがテントいっぱいに……!」
「ル、ルビーの山みたいです! 綺麗……!」
ガレスとルミナが目を輝かせ、クロとクーに至っては、我慢できずにトウヤの足元で「ワフワフ」「ピヨピヨ」と暴れ回っていた。
「完成だ! クー、お前が採ってきてくれた果実だ。一番最初に食っていいぞ」
トウヤが大きく切り分けたタルトを小皿に乗せて差し出す。
クーは猛然と嘴を突っ込み、タルトにかぶりついた。
サクッ……! トロッ……。
タルト生地の軽快な音の直後、クーの翠色の瞳が、驚愕に見開かれた。
サクサクの生地と、濃厚で甘いカスタードクリーム。そこに、迷宮ベリーの鮮烈な酸味と果汁が弾け、極上の甘さをスッキリとまとめ上げる。さらにクルミのカリッとした食感と香ばしさが、味覚の奥深さを際立たせるのだ。
「ピィィィィィィィッ!!!(美味しすぎるぅぅっ!!)」
クーは歓喜の鳴き声を上げ、両翼をバサバサと羽ばたかせながら、完全に理性を飛ばしてタルトを飲み込み始めた。
「俺たちもいただくぞ!」
ガレスとルミナ、クロも一斉にタルトに食らいつく。
「美味いっ! 俺は甘いものはそこまで食わんが、このベリーの酸味とクルミの香ばしさのおかげで、無限に食えるぞ!」
「んんんん〜〜っ!! トウヤさん、私、毎日このタルトが食べたいです! エルフに生まれてよかった……じゃなくて、家出をして本当によかったです!!」
極上のフルーツタルトを頬張りながら、四人と一匹の笑顔がテントの中に咲き乱れる。
新たな空の相棒を迎え、凶悪なまでの戦力と、最強の食材調達能力を手に入れた『悠久の踏破者』たち。彼らのスローで美味すぎる迷宮攻略は、ますます勢いを増して深淵へと向かっていくのだった。




