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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第184話:極光の幻界を抜ける『美味の嗅覚』と、神界のスタンディングオベーション

### 第184話:極光の幻界を抜ける『美味の嗅覚』と、神界のスタンディングオベーション

『悠久の大迷宮』第96階層――『神域・始原の混沌と極光の幻界』。

羅針盤が狂い、空間が常に明滅し、魔物の性質すらも流転するこの理不尽な環境において、トウヤたち『悠久の踏破者』は、かつての泥臭い「普通の探索」の喜びを完全に思い出していた。

「(ジン! 右の位相がズレたぞ、足元に『幻影の沼』が口を開ける!)」

「(ヒャッハー、見えてるぜ! エリス、そっちに『プラチナ・フェーズ・ボア(神話級の幻影猪)』を蹴り飛ばす!)」

「(お肉、パス受け取りましたわ! マリア、ルミナ!)」

「(「はいっ! 【聖光結界・空間固定】!!」)」

「(ワシが盾で魔力波を相殺する! トウヤ、行けィ!)」

「(おうっ! 【渾身撃・無振動の神猪解体】!!)」

ズバァァァッ!!

一瞬の淀みもない、完璧な流れるような連撃。

始原の環境に適応した神話級の魔物ですら、彼らの前では自らの能力を発揮する間もなく、極上のブロック肉へと変えられていく。

「ふぅ……よしっ! これで今日のノルマ(晩飯のオカズ)は達成だな!」

トウヤが剣を収め、満足げにアイテムボックスを叩いた。

この第96階層での探索は、彼らにとって想定外の『恩恵』をもたらしていた。

強力な個の力に頼ったソロ・ハンティングをやめ、互いの死角をカバーし合う緻密な連携探索へと切り替えたことで、ただでさえ世界最高峰であった彼らの【パーティー連携力】が、限界を突破してさらに上の次元へと引き上げられていたのだ。

「いやぁ、本当に楽しいですわね! 空間の歪みすら、皆の呼吸を合わせるための心地よいリズムに感じてきましたの!」

エリスが、汗を拭いながら満面の笑みを浮かべる。

「全くだぜ。羅針盤が使えねえから、俺の索敵とトウヤの『匂いセンサー』だけが頼りだが、それがまた冒険してるって感じでたまらねえ!」

ジンも双短剣を鳴らしながら笑う。

狂った羅針盤の矢印は、相変わらず6方向に分裂してグルグルと回転している。

そのため、彼らは「こっちの方向から、極上の出汁ボスの匂いがする」というトウヤの【異常なまでの美食家の直感】だけを頼りに、極光のオーロラの中を進んでいた。

「よし、今日も良い連携だった。トウヤ、次はどっちへ進むんじゃ?」

ガレスの問いに、トウヤは空中のオーロラの流れをスンクンと嗅ぎ、一つの方向を指差した。

「あっちだ。あっちの奥から、今までの幻影獣とは比べ物にならないくらい……『強烈な熟成肉』みたいな、ヤバい匂いがプンプン漂ってきやがる」

「おおっ! ついにこの階層の『大ボス』の匂いですわね!」

「よし、気合入れて進むぞ!」

トウヤの嗅覚を信じ、陣形を崩さずにオーロラの霧を抜けていく一行。

そして、数十分ほど歩いた――その時だった。

「…………あれ?」

先頭を歩いていたジンが、間の抜けた声を上げた。

「どうしたジン、罠か?」

「いや……扉だ。真っ白な、次の階層へ続く『大扉』が……目の前にあるぞ?」

「「「…………え?」」」

オーロラの霧が晴れた先。そこには間違いなく、第97階層へと続く巨大な純白の扉が神々しくそびえ立っていた。

「う、嘘だろ……?」

トウヤが羅針盤を取り出して確認するが、矢印は相変わらず狂ったままだ。

「俺たち、この階層に入ってからまだ数日しか経ってないぞ? 何の情報もない混沌の迷路で、たまたま進んだ方向が【最短ルートのド真ん中】だったってのか!?」

「ガッハッハ! トウヤの『美味い肉センサー』が、迷宮のギミックを完全に置き去りにしたようじゃな!」

ガレスが腹を抱えて笑い出す。

彼らは知る由もなかったが、この第96階層は「数万通りのダミールート」と「空間の無限ループ」が張り巡らされた、悪夢のような知恵の輪であった。普通にマッピングをしていれば、どれほどの強者でも【最低1ヶ月】は彷徨う構造になっていたのだ。

しかし、トウヤの『食欲』というシステム外の直感と、奇跡的な運の良さが重なり、彼らはその全てのギミックを素通りしてボス部屋まで直行してしまったのである。

「ま、まあ着いちまったもんは仕方ねえ! 扉の前にいるってことは……来るぞ!!」

『ゴルルルルルォォォォォォォォォッッ!!!!』

空間そのものが砕け散るような咆哮。

扉の前方の空間がガラスのように割れ、そこから超巨大な『漆黒の竜』が這い出してきた。

全身の鱗が宇宙の星雲のように明滅し、四肢には重力と次元を歪める極光を纏っている。

第96階層大ボス――『アストラル・カオス・バハムート(神話級・始原の幻影神竜)』。

「(来たぞ! 96階層の大ボスだ!! あいつの肉、次元の歪みで極限まで圧縮された『究極の超高密度熟成肉』だ!! 傷をつければ旨味が次元の彼方へ吹き飛ぶぞ!!)」

トウヤの神眼が、神竜の理不尽な特性を見抜く。

「(傷一つ、振動一つ与えませんわ!!)」

「(この階層で鍛え上げた最高の連携、見せてやるぜ!!)」

これまでの階層のボスよりも遥かに強大で、周囲の空間ルールすら書き換える絶望の神竜。

だが、96階層の探索で【連携力】を限界突破させていた六人と三匹にとって、それは「極上の調理実習の的」でしかなかった。

「(ルミナ、マリア! 空間を絶対零度で凍結し、次元のブレを止めろ!)」

「(【聖極氷結・次元固定】!!)」

神竜が次元の狭間に逃げ込もうとした瞬間、魔術師二人の魔法が周囲の位相を完全にロックする。

「(ワシが重力の牙を砕く! 【流転の盾・特大重力バッシュ】!)」

ガレスが、神竜の放つ重力ブレスを大盾で真っ向から受け止め、そのエネルギーを反射して竜の体勢を大きく崩す。

「(魔力回路、いただきだぜ!! 【幻影歩法・始原断ち】!)」

「(装甲の継ぎ目、剥がさせていただきますわ! 【渾身撃・無振動の鱗剥がし】!)」

ジンとエリスが、神竜の巨体の左右から神速で駆け抜け、防御システムを紙切れのように無力化する。

完全に無防備となった超高密度の熟成肉(神竜の急所)へ向けて、トウヤが踏み込んだ。

「(これが俺たちの、最強の絆(食欲)だ!! 【渾身撃・始原の神竜解体】!!!)」

ズバァァァァァァァァッッ!!!!!

次元を統べるはずの神竜は、自らの能力を一つとして発動することなく、痛みすら知らぬ間に完璧に三枚に下ろされた。

光の粒子となった神竜は、途方もない魔力を放つ『神話級・カオス・バハムートの究極熟成ブロック肉』となって、彼らのアイテムボックスへと収まった。

カッ――――!!!!

【第96階層クリア。マナー遵守・完全無振動連携ボーナス獲得】

ファンファーレと共に現れた宝箱の中身は、『神話級・万能魔導カッティングボード(どんな食材も肉汁を一滴も逃さずに完璧にカットできる究極のまな板)』であった。

「よしっ! 完璧な瞬殺だ!!」

トウヤがガッツポーズを取ると同時に、ピピッ! とアイテムボックスから警告音が鳴った。

「おっと……! バハムートの肉がデカすぎたのと、道中で狩りすぎたせいで、全員のアイテムボックスがいよいよ【容量100%(完全満載)】になっちまった!」

「おおっ! ちょうど良いタイミングですわね!」

エリスが、大剣を収めながら弾けるような笑顔を見せる。

「神竜の極上熟成肉に、究極のまな板……これはもう、一度【迎賓館】に帰って大宴会を開くしかありませんわ!!」

「ガッハッハ! 賛成じゃ! いやぁ、この階層は長く苦しい探索になるかと思ったが、あっという間じゃったな!」

誰も自分たちが【最低1ヶ月かかる迷路を匂いだけで踏破した】ことなど露知らず、悠久の踏破者たちは満面の笑みで転移結晶を掲げ、迎賓館への帰路につくのであった。

***

【閑話:神界の玉座、歓喜と悔しさのスタンディングオベーション】

「…………え? 嘘でしょ?」

次元の彼方、白亜の神殿。

巨大な魔力スクリーンの前で、ポップコーンを片手にくつろいでいた【迷宮神】は、ポカンと口を開けたまま完全に硬直していた。

数秒の沈黙の後。神は手の中のポップコーンを床にぶちまけ、頭を抱えて絶叫した。

「な な な、なんで数日でボス部屋に着いてるのォォォォッ!?」

神の悲鳴が神殿に響き渡る。

無理もない。第96階層の『始原の幻界』は、狂った羅針盤と、数万通りのダミールート、そして空間の無限ループを張り巡らせた、迷宮神が数百年かけて設計した【最高難易度の知恵のパズル】であった。

普通の探索者なら一生出られない。トウヤたちのような規格外の強者であっても、マッピングをしながら進めば「最低でも1ヶ月」は掛かるはずの、神の自信作だったのだ。

「羅針盤の矢印が割れてるのに! 空間が歪んでるのに! なんでトウヤ君の『お腹すいたセンサー(匂い)』だけで、正解の最短ルートを一直線に歩けるの!? 私の数百年の苦労、完全にただの散歩道にされたんだけど!!」

神は、カウチソファの上でジタバタと暴れ回った。

ゲームクリエイターが、自慢の超難解ダンジョンを「なんかこっちから良い匂いがする」という理由だけでバグ抜け(RTA)されたような、強烈な悔しさ。

「しかも! しかもあのボス……『カオス・バハムート』だよ!? 次元の壁を越えて攻撃してくる、神話級の中でも最上位の化け物なのに……!! なんであんな、マグロの解体ショーみたいに綺麗に三枚に下ろされてるの!?」

スクリーンの中では、トウヤたちが手に入れたばかりの『究極のまな板』を囲んでハイタッチし、ウキウキで帰還していく姿が映し出されている。

神は、床に座り込み、涙目でその映像を見つめていた。

悔しい。自分が仕掛けた最高のギミックが、食欲と奇跡の豪運の前にあっけなく粉砕されたことが、悔しくて悔しくてたまらない。

――けれど。

「…………ふふっ。あははははっ!」

神の目からポロポロと悔し涙がこぼれると同時に、その口元からは、どうしても抑えきれない歓喜の笑い声が漏れ出していた。

「あーあ……負けた。完全に私の負けだよ、君たちには」

神は立ち上がり、ゆっくりとスクリーンの前へ歩み寄った。

理不尽な環境に文句を言いながらも、その状況を心から楽しみ、絆を深め、さらなる高みへと昇華したトウヤと仲間たち。

「……本当に、トウヤ君というイレギュラー(転生者)をチキュウから喚び出して正解だったよ」

神は、誇らしげに独り言をこぼす。

「彼に影響されて……本来なら迷宮の過酷さに絶望し、野垂れ死ぬか心を壊す運命だった『この世界の現地の子たち』が、あんなにも最高の笑顔で迷宮を駆け回っている。ガレスも、エリスも、ジンも……彼らはもう、ただの現地人じゃない。トウヤ君の食欲に完全に染まりきった、世界最強の『美食ファミリー』だ」

パチッ……パチッ……パチッ……。

神殿の静寂の中に、拍手の音が響き始める。

それはやがて、大きく、力強いものへと変わっていった。

「素晴らしい! 最高の探索だったよ、悠久の踏破者たち!!」

神は、スクリーンの向こう側のトウヤたちへ向けて、一人きりの神殿で【スタンディングオベーション】を送っていた。

悔し涙を拭いながら、これ以上ないほどの満面の笑みで、彼らの非常識すぎる強さと運の良さに、惜しみない賞賛の拍手を鳴らし続ける。

「異世界から来た料理好きの青年と、彼に救われた現地の英雄たち。君たちのそのデタラメな歩みが、私の創った箱庭をこんなにも無茶苦茶に、最高に輝かせてくれるなんてね!!」

神の拍手は、彼らがスクリーンから姿を消すまで鳴り止まなかった。

「さあ、いよいよ次は第97階層。迷宮の底はもう目の前だ。君たちが次にどんな無茶苦茶を見せてくれるのか……特等席で、最後まで楽しませてもらうよ!!」

絶対同盟の待つ迎賓館へ帰還し、神竜の熟成肉で大宴会を繰り広げるトウヤたち。

ただ一人異世界から来た青年と、彼に胃袋と心を掴まれた現地の仲間たちの底なしの食欲は、ついに神をも笑い泣きさせ、迷宮の最深部へと続く最後の扉へと、着実にその手を伸ばしていくのであった。


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