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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第182話:始原の幻界と羅針盤の狂い、そして深淵が牙を剥く『極上の手応え』

### 第182話:始原の幻界と羅針盤の狂い、そして深淵が牙を剥く『極上の手応え』

『悠久の大迷宮』第95階層での中ボス討伐と、神の気まぐれ(アップデート)による『魔導昇降機エレベーター』の開通騒動から数日後。

絶対同盟の軍事訓練(という名の出前配達員育成)をサイラスたちに一任したトウヤたちは、いよいよ迷宮の真の深淵……第96階層の大扉の前に立っていた。

「さあて。95階層までは『属性』や『環境』がチキュウの何かに似ていたり、極上食材がアホみたいに群れていたりしたわけだが……ここから先、96階層からはどうなることやら」

トウヤが、黒曜石と白金が混ざり合ったような禍々しくも美しい大扉を見上げる。

「残りわずか5階層ですものね。どんなプラチナ食材が待っているのか、想像しただけでお腹が空いてきますわ!」

エリスが、ゴクリと喉を鳴らして大剣の柄を握りしめる。

「ガッハッハ! これまでの神域と同じなら、またソロ・ハンティングで手分けして食材を乱獲(間引き)してからのスタートじゃな!」

ガレスも気合十分だ。

「よし、行くぞ」

トウヤが両手で大扉を押し開けた。

ギギギギギギ……ッ!!

重厚な音と共に開かれた扉の先。そこに広がっていたのは、これまでの階層の常識を完全に破壊する、形容しがたい【異常な空間】であった。

「な……なんだここは……!?」

ジンが、息を呑んで立ち尽くす。

空は存在せず、代わりに七色に蠢く『極光オーロラ』が空間全体を覆い尽くしている。

大地は透明なガラスのように透き通り、その下には星雲のような光の渦が流れている。さらに、生えている樹木や岩石は、数秒ごとに【半透明になったり、実体化したり】と、まるで空間そのものの位相フェーズが定まっていないかのように明滅を繰り返していた。

第96階層――『神域・始原の混沌と極光の幻界』。

「重力が……少しおかしいです。それに、魔力の流れが一定ではありませんわ」

ルミナが、杖を構えながら周囲の空間を警戒する。

「ああ。これまでの『自然環境の延長』じゃない。次元そのものが混沌カオスに包まれた、迷宮の原初の姿みたいな場所だ」

トウヤは、気を引き締めながら懐から『天啓の美食羅針盤』を取り出した。

「まずはボスの方向と、環境のギミックを確認するぞ。……ん?」

魔力を流し込んだ瞬間。

トウヤの顔から、余裕の笑みがスッと消えた。

「トウヤ、どうした? またプラチナ反応の光が強すぎて見えないのか?」

ジンが覗き込む。

「……いや、違う。光で潰れてるんじゃない。針が……【割れてる】んだ」

「割れてる?」

トウヤが羅針盤を仲間たちに見せると、全員が絶句した。

盤面の中央にある青い矢印が、なんと【6本】に分裂し、それぞれが全く違う方向を指して狂ったように高速回転していた。

さらに、食材の反応を示すプラチナの光は、脈打つ心臓のように明滅し、時折【漆黒】や【深紅】といった、これまでの羅針盤には存在しなかった『危険信号』の色を混じらせていたのだ。

「な、なんだこの羅針盤の動きは!? 壊れたのか!?」

「いや、羅針盤は正常にこの階層の真実を映してるはずだ。……つまり、この階層は『食材が多すぎる』んじゃなくて、【食材そのものの位相や魔力が常に変動・移動している】ってことだ。空間が歪んでるから、矢印も一つに定まらない」

トウヤは羅針盤を懐にしまい、仲間たちを振り返って鋭い声を発した。

「みんな、聞いてくれ。……この第96階層での【単独乱獲ソロ・ハンティング】は、一旦中止だ」

「「「えっ!?」」」

「この空間の歪みと、羅針盤の狂い方……今までのように『手分けして狩り尽くす』なんて雑なやり方じゃ、確実に不意打ちを喰らうか、迷子になって各個撃破される。ここから先は、俺たち6人と3匹、完全に陣形を固めた【連携探索】のみで進むぞ」

トウヤの真剣な表情に、仲間たちも事態の異常さを察知し、スッと戦士の顔へと切り替わった。

「(了解しましたわ。全員で互いの死角をカバーしながら進みますのね)」

「(ヒャッハー、久しぶりのガチの探索陣形だぜ。血が騒ぐな)」

一行は、ガレスを先頭に、トウヤとエリスが両翼、ジンが遊撃、ルミナとマリアが後衛という、結成当初の最も強固なフォーメーションを組み、極光の幻界へと足を踏み入れた。

歩き始めて数十分。

明滅するガラスの森を抜けた先で、空間がぐにゃりと歪み、巨大な影が音もなく実体化した。

『ルルォォォォォォォ……ッ』

現れたのは、獅子の巨体に、竜の鱗、そして背中に巨大な極光の翼を生やした異形の神獣。

『始原の幻影獣・アストラル・フェーズ・キメラ』。

その肉体は、周囲の景色と同じように、半透明になったり実体化したりを繰り返している。

「(来たぞ! プラチナ反応だが……魔力の質がこれまでの魔物と桁違いだ!)」

トウヤの神眼が、その食材の情報を読み取る。

「(あいつの肉、位相が変化するたびに『赤身の旨味』と『霜降りの脂』が入れ替わりやがる……! 完璧なタイミングで仕留めないと、肉質が崩壊するぞ!)」

「(なるほど! ならば、実体化した瞬間を狙って両断するのみですわ!)」

エリスが、いつものように神速で跳躍し、大剣を振り下ろした。

「(【渾身撃・無振動の――】!)」

ズバァァァッ!!

完璧なタイミング。エリスの大剣は、キメラの急所を確かに捉えた。

――はずだった。

ガキィィィィィンッッ!!!!!

「(なっ……!?)」

エリスが驚愕に目を見開く。

大剣が触れた瞬間、キメラの皮膚が【流体】から【超高密度の神聖結晶】へと瞬時に性質を変化させ、エリスの斬撃を完全に弾き返したのだ。

『グルルッ!!』

キメラが反撃の爪を振り下ろす。

「(危ねえっ!)」

ジンが幻影歩法でエリスの襟首を掴み、間一髪で後方へ退避する。キメラの爪が空を切った瞬間、そこにあった空間そのものが「パリンッ!」と音を立てて砕け散った。

「(す、凄まじい反撃ですわ……! 私の無振動解体が、傷一つつけられずに弾かれるなんて!!)」

エリスが着地し、冷や汗を流す。

「(物理法則をリアルタイムで書き換えてきやがった……! 相手の攻撃に合わせて、自分の肉体の性質を防御に最適化する能力か!)」

トウヤが舌打ちをする。

これまでの階層のボスすらも瞬殺してきた彼らの「必殺の一撃」が、通用しなかった。

だが。

「「「…………フッ」」」

その圧倒的な【手応え(絶望)】を前にして。

悠久の踏破者たちの顔に浮かんだのは、恐怖ではなく、ゾクゾクとするような『歓喜の笑み』であった。

「(ガッハッハ!! これだよこれ!! 深層の魔物たるもの、こうでなくてはな!!)」

ガレスが、大盾をガンッ! と打ち鳴らして咆哮する。

「(ワンパンで肉に変わる魔物ばかりでは、狩猟の腕が鈍るというもの! 久々に『料理』の前の『狩り』を楽しませてくれそうじゃわい!!)」

「(ええ!! 簡単に捌けない極上食材ほど、落とした時の喜びは大きいですからね!!)」

エリスも、再び大剣を構え直して闘志を爆発させる。

「(よし、みんな! 単発の攻撃じゃ性質変化で防がれる! 全員の技をコンマ一秒のズレなく叩き込んで、あいつの防御システムをバグらせるぞ!!)」

トウヤの号令と共に、世界最強のパーティーによる【真の連携攻撃】が開始された。

「(ルミナ、マリア! 空間を固定しろ!)」

「(【聖光結界・次元縛り】!)」

「(【絶対零度・極光凍結】!)」

後衛二人の極大魔法が、キメラの周囲の「位相の変化」を無理やり遅延させる。

「(ワシがヘイト(意識)をもらう! 【流転の盾・超重力挑発】!!)」

ガレスが、大盾から凄まじい魔力波を放ち、キメラの全感覚を自分へと向けさせる。

『ガァァァァァッ!!』

キメラがガレスに向かって、空間を砕く爪を振り下ろした。

その防御に全魔力が集中した、まさにその瞬間。

「(死角はもらったぜ!! 【幻影歩法・神速の魔力断ち】!!)」

ジンが、キメラの背後へ音もなく回り込み、双短剣で『性質変化を司る魔力回路』の節をピンポイントで切断する。

「(今ですわ!! 【渾身撃・無振動の甲殻砕き】!!)」

装甲が脆くなった瞬間を狙い、エリスの大剣がキメラの防御の要を粉砕する。

防御システムを破られ、完全に隙を晒した幻影獣。

その急所(星のコア)へ向けて、トウヤが自身の全魔力を込めた一撃を放った。

「(極上の肉……俺たちの連携で、完璧に捌き切る!! 【渾身撃・始原の神獣解体】!!!)」

ズバァァァァァァァァッッ!!!!!

仲間たちの手によって一切の抵抗を封じられたキメラは、トウヤの剣閃によって、ついにその命と存在を両断された。

光の粒子となって弾けたキメラは、凄まじい魔力の残滓を撒き散らしながら、特大の『神話級・フェーズ・キメラの究極霜降り肉』となってアイテムボックスへと収まった。

「……ふぅっ!」

トウヤが剣を振り抜き、残心をとる。

「ヒャッハー!! やったぜ!! マジでギリギリのタイミングだったな!!」

「ええ……! 少しでも連携がズレていれば、お肉の鮮度が落ちるか、こちらがやられていましたわ!」

一匹の魔物を倒すために、これほどまでの全力を出し切ったのは、一体いつ以来だろうか。

額に汗を浮かべながらも、六人と三匹の顔は、極上の達成感と『真の探索の楽しさ』に満ち溢れていた。

「……すげえな、96階層」

トウヤが、手に入れたばかりの肉の重み(アイテムボックスの感覚)を確かめながら、ニヤリと笑う。

「ただの道中の雑魚モンスター一匹で、これまでの階層のボス以上の【手応え】だ。羅針盤が狂うのも無理はねえ」

「ガッハッハ! だが、これでこそ『悠久の大迷宮の最深部』というもの! 我らが食欲の前に、いかなる理不尽も叩き斬ってくれるわ!」

ガレスの豪快な笑い声が、極光の幻界に響き渡る。

単なる「作業」と化していた乱獲の日々は終わりを告げた。

ここから先は、一歩進むごとに命を削るような死闘と、それを乗り越えた先の『究極の美食』が待つ、真のサバイバル。

「よし! この階層は矢印が出ない以上、地道に探索してボスの部屋を探すしかない! 全員、気を引き締めて極上食材を狩りに行くぞ!!」

「「「オォォォォォォォッッ!!!!」」」

異常な環境と、神話級のさらに上を行く『始原の魔物たち』。

かつてない手応えに美食家としての魂(食欲)を燃え上がらせたトウヤたちは、狂った羅針盤を頼りにすることなく、己たちの絆と連携だけを武器に、迷宮のさらなる深淵へと足を踏み入れていくのであった。


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