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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第10話:極上蟹雑炊と、異常すぎるステータス

第10話:極上蟹雑炊と、異常すぎるステータス

ふわりと、鼻腔をくすぐる優しい匂いでガレスは目を覚ました。

「……ここは……?」

ゆっくりと目を開けると、そこは緑の地獄ジャングルではなく、淡い光に照らされた清潔な布の天井だった。背中にはゴツゴツとした木の根ではなく、雲のように柔らかく温かいマットレスの感触がある。

「あ、気がついたか。急に起き上がらない方がいいぞ、数日まともに飲み食いしてないんだろ?」

声のした方を向くと、そこには小型の魔力コンロの前に座り、鍋をかき混ぜている青年の姿があった。その傍らには、ガレスを襲おうとしていた魔物を一瞬で屠った漆黒の狼が、鍋を凝視しながら「ハッ、ハッ」と行儀よくお座りをしている。

「お前たちが……俺を助けてくれたのか……?」

「まあな。俺はトウヤ、そっちの黒いのは相棒のクロだ。とりあえず、詳しい話はこれを胃に入れてからにしよう」

トウヤが差し出したのは、木製の深い器だった。

中に入っているのは、黄金色に輝くスープで柔らかく煮込まれた『雑炊』だ。

餓死寸前で胃袋が極限まで弱っているガレスのため、トウヤは重い肉料理ではなく、異空庫に大量ストックしてある『巨岩蟹ケイブロッククラブ』の出汁を極限まで濃縮した特製のカニ雑炊を作ったのである。

フワァッ……と、磯の香りとカニの濃厚な旨味が混ざり合った、暴力的なまでに食欲をそそる匂いが立ち昇る。

「……いただ、く……」

ガレスは震える手でスプーンを握り、熱々の雑炊を一口すくって口に運んだ。

「――――ッ!!」

瞬間、ガレスの目からボロボロと大粒の涙が溢れ出した。

口の中でホロリとほどける米粒。そこに染み込んだ、カニの暴力的なまでの深い旨味と甘み。トッピングされたカニのほぐし身のフワフワとした食感と、仕上げに落とされた半熟卵のまろやかさが、荒れ果てた胃の腑へと優しく、そして力強く染み渡っていく。

それは単なる食事ではなく、冷え切っていた彼の心と体に「生」の活力を強制的に叩き込む、究極の命のスープだった。

「う、う美味い……こんなに美味いものが、この世にあるのか……っ」

「熱いからゆっくり食えよ。おかわりはいくらでもあるからな」

ガレスは涙と鼻水を流しながら、一心不乱に雑炊を掻き込んだ。

裏切られ、全てを失い、冷たい泥の中で死ぬはずだった自分。そんな自分を、縁もゆかりもない青年が助け、こんなにも温かく美味しい食事を与えてくれている。

三杯目の雑炊を平らげた時、ガレスの体には確かな力が蘇り、瞳には再び騎士としての強い光が宿っていた。

「トウヤ殿。……俺の命を救ってくれたこと、何と感謝していいか分からない」

ベッドから降りたガレスは、その巨体を折って深く頭を下げた。

そして、彼が騎士団を追われた経緯、貴族の罠にはめられて部下を失った過去を、ぽつりぽつりと語り始めた。

「俺は、国から追われる身だ。だが、この温かい食事で目が覚めた。俺は生きて、いつか必ず部下たちの無念を晴らさなければならない……! だから、どうか俺をあんたのパーティーに入れてはくれないか! あんたとクロ殿の盾となり、必ずや命を懸けて前衛を務めると誓う!」

必死の懇願。しかし、トウヤの反応は驚くほど軽かった。

「別にいいぞ。俺たちも前衛のタンク(盾役)が欲しかったところだし」

「……え? そ、そんなにあっさりと……? 俺は追手がかかっているかもしれないんだぞ?」

「追手ったって、ここは誰も踏破したことのない大迷宮の第4階層だぞ。そんな面倒な場所まで追ってくる物好きがいれば、返り討ちにするだけだ。それに……」

トウヤは鍋の残りをクロの皿によそってやりながら、笑って言った。

「俺の目的は、この大迷宮の『踏破』だ。普通の冒険者みたいに浅層で金策して帰る気はない。拠点創造のスキルと美味い飯で、快適に、ゆっくりと、だが確実に一番下の階層を目指す。……『スロー踏破』が俺たちの目標だ。お前が壁になってくれるなら、これほど心強いことはないさ」

その言葉のスケールの大きさに、ガレスは呆然とした後、フッと憑き物が落ちたように笑った。

「……数十年間誰も成し遂げていない迷宮踏破を、ゆっくり快適に目指す、か。ははっ、痛快だな。あんたのような器の大きい男について行けるなら、俺の命、いくらでも張ってやる」

「よし、商談成立だな。とりあえず、迷宮踏破を目指すってことで、仮のパーティー名は『悠久の踏破者エターナル・ウォーカー』とでもしておくか」

「『悠久の踏破者』……いい名だ!」

こうして、トウヤ、クロ、そしてガレスの、一人と一匹と一人のパーティーが結成された。

***

「さて、仲間になったことだし。今後の連携を考えるために、お互いのステータスを確認しておきたい。ガレス、見せてもらえるか?」

「もちろんだ。……『ステータス・オープン』」

ガレスが空中にステータスボードを展開する。

====================

【名前】 ガレス

【職業】 重戦士(元・騎士)

【レベル】 28

【HP】 850 / 850

【MP】 120 / 120

【筋力】 B+

【敏捷】 D

【耐久】 A

【魔力】 E

【スキル】

・大盾術 Lv.6

・鉄壁 Lv.5

挑発ヘイト・クライ Lv.5

・自己再生 Lv.3

====================

「おお、すげえ! レベル28に、耐久【A】! 完璧な純タンクじゃないか。これなら少々の魔物の攻撃はビクともしないな」

「ああ。攻撃はトウヤ殿たちに劣るが、守りだけなら誰にも負けん自信がある」

頼もしいステータスにトウヤが頷く。

「よし、次は俺たちだな。クロのステータスからだ」

トウヤがスライドさせると、クロのステータスが空中に浮かび上がった。

====================

【名前】 クロ

【種族】 シャドウウルフ(個体変異)

【主】 トウヤ

【レベル】 22

【筋力】 A-

【敏捷】 S

【耐久】 C

【アクティブスキル】

・影渡り(シャドウリープ) Lv.2

影分身シャドウクローン Lv.4

・ヘイトコントロール Lv.4

【パッシブスキル】

・主人の料理狂信 Lv.MAX

====================

それを見た瞬間、ガレスの目が限界まで見開かれた。

「び、敏捷【S】!? しかも『影渡り』だと!? 単なるシャドウウルフが持っているようなスキルじゃないぞ! それに……なんだこの『主人の料理狂信』という異常なパッシブスキルは……」

「ワフッ!」

名前を呼ばれたと思ったのか、クロが嬉しそうに尻尾を振ってガレスにすり寄る。

「まあ、クロは俺の飯を食って進化してる節があるからな。で、次が俺のステータスだ」

====================

【名前】 トウヤ

【職業】 探索者(遊撃手 / キャンプマスター)

【レベル】 19

【HP】 450 / 450

【MP】 250 / 250

【筋力】 D

【敏捷】 B

【耐久】 D

【固有スキル】

・拠点創造 Lv.5(結界強度↑、空間拡張↑、魔力コンロ火力↑)

異空庫アイテムボックス容量拡張 Lv.4(冷蔵・保温機能あり)

【戦闘スキル】

・短剣術 Lv.7

 ┗ 派生:無音連殺サイレントチェイン Lv.2

・弓術 Lv.6

 ┗ 派生:精密連射 Lv.4

・現代調理術 Lv.MAX(異世界食材補正)

====================

ガレスはステータスボードを二度見、いや三度見した。

「な、なあ、トウヤ殿……。ツッコミどころが多すぎるんだが……」

「ん? そうか?」

「まず、この『拠点創造』! 今俺たちがいるこの安全で快適なテント、魔法のアーティファクトかと思えば、あんたのスキルなのか!? 空間魔法の常識を根底から覆してるぞ! しかも魔力コンロの火力が上がるとか、生活に寄り添いすぎだろ!」

ガレスのツッコミは止まらない。

「それに、戦闘スキル! なんで基礎ステータスが低いのに、短剣術の派生が『無音連殺』なんていう、裏社会のトップ暗殺者が持つような凶悪スキルなんだ!? おまけに生活スキルの『現代調理術 Lv.MAX』ってなんだ!? 暗殺者なのか料理人なのかハッキリしてくれ!」

「いやあ、クロが囮になってくれるから、後ろからコソコソ狙ってたらこんなスキルが生えちゃってさ」

頭を掻いて笑うトウヤと、尻尾を振る敏捷【S】の影狼。

彼らが自分を助けてくれた「パンサーの一撃討伐」のカラクリが、ガレスには完全に理解できた。

(……この一人と一匹、常識の枠に全く収まっていない……!)

だが、だからこそ。

数十年間誰も踏破できなかった『悠久の大迷宮』を、本当に、しかもこんなに美味い飯を食いながら笑って踏破してしまうかもしれない。ガレスはそう確信した。

「ははっ……あっはっはっはっ!」

ガレスは腹の底から大声で笑った。この数日間の絶望が、嘘のように吹き飛んでいくのを感じていた。

「どうやら俺は、とんでもないパーティーに拾われたらしい。トウヤ、クロ殿! これからよろしく頼む。俺の命とこの盾は、あんたたちを守るためにある!」

「ああ、よろしくなガレス。……よし、顔合わせも済んだし、お前のおかわり用のカニ雑炊、火にかけるぞ」

大迷宮の第4階層。死と隣り合わせの密林の奥深くで、結成されたばかりの『悠久の踏破者』のテントからは、極上の美味の匂いと、明るい笑い声がいつまでも響き渡っていた。

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