第15話 本気で好きになっちゃった、かも
活動報告にキャラクターヴィジュアルイメージを掲載し始めました。最近ハマってる流行りのAI生成イラストです。作風コロコロ変わると思います。都度更新予定です、もしよければご覧下さい。
天使の餌付けが行われたその夜――
俺は自室のパソコンの前に座りながら、まだ落ち着かない胸を抱えていた。マウスを握る手が、ほんの少しだけ汗ばんでいる。
いや落ち着け俺……ゲームだ、ゲーム。いつものアスファンだ……
自分に言い聞かせるようにログインボタンを押すと、画面の向こうで見慣れた幻想世界が広がる。そんな景色を眺めていると、スマホがピロンピロンと機嫌よさそうに鳴った。
「奏多くん、こんばんわぁ!」
ヘッドセット越しに届いた声は、昼間と変わらず明るくて、元気いっぱいだった。愛芽莉たんは楽しそうに毎日アスファンにログインしてすくすく育ってる。そんな彼女が進めるメインクエストを、俺は付きっきりで手伝ってる。
「こ、こんばんは〜!」
一方の俺はと言えば、昼休みの“間接キッス以上キッス未満”を思い出してしまい、思いっきり声が裏返る。だが電話の向こうの愛芽莉たんはまったく気にしていない様子で、いつものようにウキウキと楽しそうだ。
石造りの街並み、夕焼け色の空、行き交うプレイヤーたち。リアル志向のグラフィックが売りのゲームだからこそ、そこに立っているだけで本当に異世界に来たみたいな気分になる。
そこに、ぴょんぴょんと白いローブを着た天使が跳ねながら走って来た。
「今日もね、メインクエストを進めたいの!」
「お、おう、任せろ!」
画面の中には、自分たちにそっくりのアバターがいる。俺は守護者、愛芽莉たんは回復師。並んで街を歩き、クエストを受ける。
ダンジョンに潜るり、綺麗な景色の草原や湖、賑やかな町並み、NPCたちとの会話。リアルなグラフィックだからこそ、本当にどこか遠い異世界を二人で旅しているような感覚になる。きっと愛芽莉たんも同じ気持ちなんだと、思いたい。
そう思うと、胸の奥が少しだけ温かくなった。最近ではこれがすっかり当たり前の日常になっていて、最初の頃よりもずっと自然に話せるようになっている。
だからこそ、前からちょっと気になっていたことを聞いてみた。
「そういえばさ、愛芽莉たん」
「うん?」
「こんなにゲームしてて、親に怒られたりしないの?」
お嬢様だし、女の子だし、天使だし、色々あるんじゃないの?という疑問。俺のようなネトゲ廃人と遜色無いログイン率は尋常じゃないと思うの。
「あー……」
ヘッドセットの向こうで、愛芽莉たんが少しだけ言葉を選ぶように戸惑ってた。
「そう言えば、ちゃんと話してなかったね」
「うん?」
「私の両親は仕事人間で、家に居ないの。奏多くんと同じね」
「あっ、そうなんだ!」
「うん、世界中を飛び回ってるの。ほとんど……いや、いつも家にいないのよ」
「えっ?いつも居ないの?」
「うん……小さい頃からほっとかれて、独りで寂しかったわ」
「子供の頃からずっと!?」
軽く返してしまったけど、胸の奥が少しだけ重くなった。彼女の声にいつもの明るさは残っているのに、どこか遠くを見ているような響きがある。
「小さい頃からずっと両親は仕事で忙しくて、家に帰ってくることがなくって。ほっとかれて広い家に一人でいたわ」
ゲームのキャラクターが街の石畳を歩く音が、単調にしばらく流れた。
「大きい家ってね、夜になるとすごく静かなの。使用人はいるけど、家族とは違うでしょ?」
「……うん」
「小さい頃はね、廊下を歩くだけでも怖くて。テレビつけっぱなしにして寝たりしてた」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
世の中にはこんなに可愛い天使を、ほっとく親がいるらしい。ありえなくね?俺だったら確実に家宝として扱う。いやむしろ軟禁して一生愛で続けるわ。
そんな物騒なことを考えながらも、口には出さない。ドン引きされる。
愛芽莉たんはぽつぽつと、子供の頃の話や家族の話を続けてくれた。誰もいない食卓、誕生日でも両親が帰ってこないこと、家には静寂しかないこと。
あまりに孤独な子供時代に切なくなった。幼い頃から親に放置されるって、辛いだろうな。言葉の端々に深い悲しみが溢れていた。
こうして俺とゲームしてる理由は寂しさの裏返し、それと似た境遇の俺に共感したからってことか。そうか、愛芽莉たんは寂しかったんだ。
また一つ、天使の素顔を見つけた。
「だからね」
彼女がふっと笑った。
「奏多くんの話聞いた時、ちょっとびっくりしたの」
「俺の?」
「うん、私と境遇が似てるなぁって、同じだって」
「……ああ、確かに似てるかも?」
「でしょ?」
そう言われて、俺もボッチな生活を思い出す。だがすまん、俺はむしろ一人を至極エンジョイしていたわ!
「だからかな、奏多くんと一緒に居ると安心するの」
嬉しそうな声だった。その言葉はまっすぐで、胸の奥にじんわり染み込んできた。
「今はね、楽しいよ!」
「え?」
「毎日こうして奏多くんと遊べるから」
「そ、それは良かった」
顔が赤くなってニヤけちゃう。こんなに続けて直球を言われたら照れちゃうな!
「アスファンは面白い?」
「うん、面白い!一緒に遊べるのが楽しい!」
すごく嬉しそうに、彼女は即答していた。
そっかぁ、そうなのかぁ、俺みたいなミジンコでも彼女の役に立てたんや……!
目頭がちょっと熱くなった、俺は天使を楽しませられてるらしい。それに感動していると、彼女がぽつりと呟いた。
「でも、他の目的もあるのよね」
「ん〜?なぁに?」
ニコニコしてたら、彼女が突然低い声で呟いた。
「エリシア、あの魔女を倒す」
「はっ、はいい!?」
突如として憤怒の天使が現れ、びっくらこいて跳ねる俺。
「あのふしだらな女、討伐してやるわ」
「い、いやっ!倒せないから!メインクエストのNPCだから!」
「えっ……無敵なの?」
「そうじゃなくて、味方!いい子!」
「奏多くんは騙されてるわ、あれは魔女よ」
「いやいやいや!」
どうしてこんなにエリシアたんを敵視すんの!?愛芽莉たんにそっくりのとってもいい子よ!?
俺が混乱しながら必死に弁護していると、愛芽莉たんがふっと小さく笑って、そして少しだけ間を置いて、静かに言った。
「じゃあ奏多くん、私だけを見てくれる?」
その言葉に、一瞬エリシアたんとの尊い日々が頭をよぎる。
「うっ、うん……」
「………消す」
「ちょおおお!」
エリシアたん命の危機!
もうすぐメインクエストに、エリシアたんが登場しちゃうんだけど!?
消される!?やばいかもしれん!
メインクエストを進めながら、俺はしばらくぼんやりしてしまってた。“私だけを見てくれる?”その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
う、う〜ん。しかし俺に見られたいってのと、視線を独占したいってのは、何でなんだろ?日記帳のSSS評価も、推しのエリシアたん嫌うのも、間接キッスも……。
いや、その答えの見当はついてる。俺はそれをちゃんと見ようとしてないだけだ。そんなの夢物語過ぎて「ね〜よ」っと、一蹴して見て見ぬふりしてる。
でも絶対ありえないと思いながらも、こうして毎日一緒に遊んでいるとどこか淡い期待しちゃってる俺がいる。雲の上の存在だった白凰の天使が、今やこんなにすごく身近に、すぐ傍に居る。
気付けばここ最近、俺の頭の中はずっと愛芽莉たんのことでいっぱいだ。
あー……やばい。もう俺、ダメかもしれない。
どうやら俺は――愛芽莉たんのことを、本気で好きになっちゃった、かも。
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