第13話 一緒にご飯食べよ?
いつものように、授業を聞きながら清楚で静謐に佇む白鳳の天使をギンギンに見つめ続けてると、やがて昼休みを告げるチャイムが鳴り響き、解放された生徒たちが一斉に立ち上がって食堂へと流れ込んでいく。
そのざわめきの中、俺は動かずに席に残る。
食堂は広くて飯も安くて美味いんだけど、全学年の生徒と先生が集まって人が多く込みすぎだ。陰キャボッチな俺にはハードルが高く、あまり利用してない。
結果として登校途中に買ったパンや弁当を、人の少ない静かな教室でひっそり食べるのが日常になっている。最近は特に夜更かしするので、そのまま机に突っ伏して寝てる。
そういや、愛芽莉たんはどこで食べてるんだろ?いつもチャイムと共に教室から立ち去ってる。たまにしか行かないけど食堂じゃ見なかった。
そんな事を思いながら鞄からコロッケパンを取り出して、さて食うかと思った、その時――気づけば目の前に、天使がいた。
「えっ?」
「奏多くん、一緒にご飯食べよ?」
柔らかく微笑む愛芽莉たんがいつの間にか俺の前に立っていて、当たり前のようにそんなことを言いだした。
えっ、マジで?
夜はイチャイチャプレイしてるけど、学校ではこれまでどおりの引いた関係だった。頭の処理が追いつかないまま固まっていると、彼女は迷いなく俺の腕を掴んで、そのままぐいっと引き上げた。
「ちょ、ちょっと待っ――」
そのまま教室から連れ出される俺。背中に突き刺さる生徒の視線、明らかにざわつく空気、ひしひしと伝わってくる無言の圧、あまりに不釣り合いな二人なのに一切気にしていない様子で、にこにこと歩く彼女に引きずられていく俺。
「あの、いいの……!?」
「何の事?」
「い、いや、その……学校ではあんまり俺に近づかない方が――」
「どうして?そんなつもり全然ないよ?」
あっさり言い切られてしまう中、食堂とは真逆に向かってる愛芽莉たん。
「あ、あれ?食堂に行かないの?」
「うん、私の個室があるの」
「ええ!?」
話を聞くと、白鳳学園は天宮財閥の傘下らしく特別に個室を貰ってるらしい。財閥令嬢とかそんなん知らん、天使はマジもんのお嬢様だった!ビビるわ!!
理解が追いつかないまま現実は進んでいく。食堂とは逆方向へ進み、人の気配がどんどん減っていく校舎の奥、普段まず来ないエリアへと足を踏み入れたところで、彼女は一つの扉の前で立ち止まり、慣れた手つきで鍵を取り出して解錠した。
「はい、どうぞ~!」
「失礼します……」
理解が追いつかないまま、さらにその内側、もう一つの扉も開けられて案内される。そしてその先に広がっていたのは――柔らかくて甘い空間、正に女の子の部屋だった。
淡い色合いで統一されたインテリアに、ふわふわしたクッションが山のように積まれたベッドのように大きなソファ、丸みのある小さなテーブルと向かい合う二脚のチェア、壁際には整然とした勉強机、その横にはさりげなく置かれた小型の冷蔵庫、棚には参考書と共に可愛らしい雑貨やぬいぐるみが丁寧に並べられていて、どこを見ても“女の子らしさ”が詰め込まれている。
そして、ほんのりと漂う女の子の甘い香りが、現実感をじわじわと侵食してくる。
て、天使の……部屋ァ……!!?
心臓の音が高く跳ねた。
「たまにいなくなるとき、ここにいたんだ……」
「あっ、ちゃんと見てたのねっ!」
思わず観察していたことを暴露してしまった自分を呪っていると、逆に本当に嬉しそうに笑う愛芽莉たんが居て唖然とする。普通の女子は逆の反応するからね!?
そんなこんなで、そのまま流されるように小さなテーブルに着く。
天使と真正面から向かい合う距離が、めちゃんこ近い!
近すぎてやばい!可愛すぎるお顔が、長い睫毛の一本まではっきり見える!!
テーブルが小さいせいで、膝が触れそうな距離感。当たらないように避けたら、愛芽莉たんは構わず足を延ばして絡ませてきた。
「ギャアギャア」と俺の男の子が心の中で叫ぶ中、目の前に置かれているのは金箔の絵が描かれた高級そうな大きな黒漆の弁当箱と二つのお椀。
「じゃ、じゃあ、ご飯食べよっ」
「う、うん」
彼女が蓋を開けた瞬間、出来立てを告げる湯気と共に広がる香りに、思わず息を呑む。
そして彩り豊かな箱の中身が露になる。それはまるで老舗の高級料亭が丹精込めて仕立てた料理を、そのまま箱の中に閉じ込めたかのような和の世界だった。
伊勢海老の姿造りに透き通るような刺身、香ばしく焼かれた魚、艶やかな筑前煮、丁寧に巻かれた卵焼き、炊き合わせの里芋と南瓜、季節の野菜、一口大に整えられた炊き込みご飯――一つひとつが明らかにレベルが違う、高級な懐石料理にしか見えない。
見ただけで分からせられる完成度に、コロッケパンを握る手が小刻みに震える。
「あの……い、いつもこんな料理を食べてるの……?」
「うん、和食が好きなの」
い、いや、そういうことじゃなくてェ……!お料理の次元が違うんですゥ!!
天使の食卓と、自分の手にあるコロッケパンとの落差が激しすぎて、何故かそれをお守りみたいにぎゅっと握りしめてしまう。
で、でも、あまりに量が多くない……?
いや、絶対食べきれないよね……男子でも無理じゃね!?
細くてスタイル抜群の天使のどこにこのご飯がいくのか!?こんな高級料理を沢山食べてるからこんなに可愛い天使になっちゃったのか!?
「それじゃ、一緒に食べよっ!いただきます」
「い、いただきます……??」
「一緒に食べよ」という意味ありげな言葉が、頭の中に反響する。
そして自然な動作でお吸い物のお椀が差し出された。ふと気づくと手元に箸まで置かれている。その瞬間、俺はこれが天使によって準備されていたイベントだと言うことに、ようやく気が付いた。
これは、最初から“二人で食べる前提”で用意されてる。
でも弁当箱は一つ。
………これって、どういうことぉ??
「…………」
言葉にならないまま固まる俺の前で、彼女は何の迷いもなく卵焼きをお箸でひとつ摘み上げた。
柔らかな黄色は窓から差し込む光を受けてきらりと輝き、指先の動きひとつで揺れるたび、妙に艶めいて見えてしまう。
そしてそのまま、ゆっくりと――わざと見せつけるように、彼女はそれを唇へと運んでいく。悪戯っぽく、俺と目を合しながら。
……や、や、やめてくれェ!!
ガン見してる中、ぷるんと潤んだ薄桃色の唇がわずかに開き、卵焼きの端がそこに触れた瞬間、喉がごくりと鳴った。
あっあっあっ、卵焼きになりたぁい……。
やがてぱくりとそれを咥えると、白く整った歯がやさしくそれを挟み、柔らかく噛み切られた半分がするりと彼女の口の中へと消えていく。唇が閉じた時、箸に残った片割れの卵焼きの断面が湿り、光を帯びた。
エッロおおぉ!色っぽすぎりゅ!!
もぐもぐと静かにゆっくり咀嚼して、ほんの少しだけ頬を緩める天使。その仕草ひとつひとつが洗練されて、妙に色っぽくて、目が離せず無意識に息を止めて見てしまう。
あっ、あっ、あっひぃいい……♡
箸に残った半分の卵焼き、その齧られた断面を天使は自然な仕草で小さく舌を伸ばして、ぺろっと可愛く舐めた。
ふぉおおぉぉ!かわよおぉおお!!!
彼女の箸の先で残った卵焼きが、禁断の果実のように熟れておる!
ああっ……!そ、そしてぇ!!?
箸に残るその卵焼きをおぉ!俺に向けてぇ!!向けてぇ!?……てぇてぇ??
……えっ??
すっと、俺にお箸で差し出される、齧られた卵焼き。
「はい、奏多くん……、あ~ん?」
…………マジで???
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