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白鳳の天使は恋を自覚しない ー完璧美少女が俺の聖域を侵略中ー  作者: 霞灯里
第1章 白鳳の天使

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第12話 お呼びですか?お嬢様 ♀

「お呼びですか?お嬢様」


ノックのあとすっと扉が開いて、立花美咲(たちばなみさき)さんがいつもの涼しい顔で一礼した。その仕草ひとつとっても無駄がなくて、やっぱりこの人は出来る人だなって思っちゃう。


「うん、来てくれて有難う、美咲さん」


そう言いながら、私は恥ずかしくて目を合わせられない。こんな話を誰かに相談するのも、最近になってからだし……。彼女は私の傍付きの使用人の一人で、一番年が近くて話しやすく、そして何より――とても出来る人。ちょっと意地悪だけど、仕事も完璧で頼もしい優秀なブレーン。


先日は、「どうすれば簡単に効果的に男性に自分を意識してもらえるかな?」と勇気を出して相談したとき、彼女は一切迷わずに言い切ったのだ。


――男なんて前屈(まえかが)みで胸元(むなもと)を見せれば一発です。


あのときは、顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったけれど……勇気を出して実践した結果は、ホントに一発だった。あれ以来、奏多くんの視線が……なんというか、すごい。


壮絶ともいえる視線。刺さるように強くて、服が透けてるようで、体がじんわり熱くなって溶けてしまいそうになる。


「それで、どのようなご用件でしょうか?」


さらりと本題に入ってくるスマートな美咲さんに、私は慌てて意識を引き戻した。


「きょ、今日も相談があるの……」

「はい、なんなりと」

「えっと……あのね……?」


言葉を選びながら、指先をぎゅっと握る。


「あ、あのね?男性に、お礼をしたいんだけど……どういうのが、いいかなって……」

「お礼、ですか?」


美咲さんは少しだけ首を傾げて、それからすぐに意味ありげに目を細めた。


「……それだけ、でございますか?」

「……っ!!……その、それだけじゃなくて……」


慌てて付け足すと、彼女の口元が楽しそうに緩む。やっぱり彼女には心を見透かされている。


「お、お礼を兼ねて……その……わ、私を意識してほしい、というか……何というか……」

「やはり、お嬢様にはそういうお相手が現れたのですね?ご学友でしょうか?」

「ち、違うの!違うから!そういうのじゃなくて!」

「意識させたいと仰ってますよね?」


「にぃっこぉ~」と面白そうに美咲さんは微笑んだ。慌てて否定したものの自分でも何が違うのかよく分からなくて、余計に恥ずかしくて顔が熱くなる。


「彼を(たぶら)かす悪い魔女がいるの!だから、その……救い出したいというか……!」

「はて?魔女、でございますか?」

「う、うん……そうなの!とても手強いの……!」

「なるほど、恋敵(こいがたき)、というわけですね」

「も、もうっ……!!」


完全に楽しんでいる!


でも、この人はいつもこうして茶化しながらも、最後にはちゃんと答えをくれる。だから私は、じっと次の言葉を待った。


「そうですね……でしたら」


少しだけ考えたあと、美咲さんはさらりと言った。


「手料理……いえ、お弁当などは如何(いかが)でしょう?」

「お弁当……?」


思わず復唱すると、彼女は優雅に頷く。


「はい、古来より伝わる、“胃袋を掴む”というやつでございます」

「て、手料理なんて、私出来ないわっ……!」

「ご安心ください、私たちが用意いたします」

「え……?そ、それで、いいの?」

「重要なのは“誰が与えたか”という点ですので……」


その言い方が妙に断定的で、思わず背筋が伸びる。


「女から美味しい食事を与えられたという、その事実が男を(とりこ)にするのです」

「そ、そういうものなの……?」

「ええ、それだけで男は強く意識します、極めて単純です」


そして、彼女は少しだけ悪い顔をして――言い切った。


「男なんて所詮は獣、餌付(えづ)けすればよろしいのです」

「……!!!」

「イチコロですわ」


その一言が、胸の奥にすとん、と落ちる。


餌付け。


その響きに、私の頭の中で――大好きな鳥の姿がふわりと広がった。


――それはツバメ。


春になると屋敷の軒先にやってきて、巣を作る小さな渡り鳥。私はあの子たちが大好き。


幼い頃、広い家の中でひとりで過ごす時間が多かった私は、(ひな)を産み育てる為に命懸(いのちが)けで大陸を渡ってやってくる、ツバメをずっと眺めていた。


口を大きく開けて鳴く雛たちと、その周りを忙しなく飛び回る親鳥。


ツバメは空中で虫を捕まえては巣に戻り、それを何度も何度も繰り返す。小さな雛には食べやすいように、いったん飲み込んで柔らかくして与えるらしい。


一日に何百回も往復して、休むことなく餌を運び続けるその姿は、小さな体からは想像できないくらい力強くて、まるで命そのものが詰まっているみたいだった。子供のために、ただひたすらに飛び続ける。愛ゆえに。


私の両親は自分の為に子共を置いて世界を飛び回り、ツバメは子供の為に命懸けて世界を飛び回る。


自分の両親を嘆くと同時に、愛に溢れた渡り鳥を私は心から尊敬し、雛が羨ましかった。ツバメに生まれ変わりたいと思うほどに。その深い愛情が、どうしようもなく眩しかった。



「……餌付け」


ぽつりと呟くと、その言葉が今度は違う意味を帯びてくる。


誰かに食べ物を与えること。それは、ただの行為じゃなくて――相手を思って、相手のために動く、愛情そのもの。


「……それ、素敵ね」


気づけば、自然と笑みがこぼれていた。


「お嬢様?」

「美咲さん、今日も本当に素晴らしい提案をありがとう」


くすくすと自然に零れる笑みを噛みしめながら、優秀なブレーンを見つめる。彼女は少しだけ驚いたように目を瞬かせてから、すぐにいつもの微笑みに戻る。


「いえ、光栄でございます」

「ねぇ、明日からのお弁当は、二人分にしてもらえるかしら?」

「かしこまりました」

「栄養もしっかり考えて、ちょっと多めにね」

「承知いたしました」


やっぱり美咲さんは、天才だ!


「……ふふっ」


気づけば頬が緩んでいた。頭の中に、未来の光景が広がりはじめた。


「どうかなさいましたか?」

「ううん、なんでもないの」


私は首を振って、胸の奥に灯った小さな決意をそっと抱きしめる。


「これで、あの魔女にも負けないわ」

「お嬢様の餌付け作戦、楽しみにしております」

「ええ、任せて」


そうして私は、どこか誇らしい気持ちで宣言した。


――獣の餌付け大作戦、開始よ!

この物語を読んで頂き有難うございます。

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