第10話 天使に脳をトロトロに溶かされる
「……奏多くん……早く……来て……」
通話越しにわざとらしく甘えた拗ねたな声が落ちてきて、その語尾に絡む柔らかな甘さに、ぐらりと意識が揺れる。先ほどの怒れる天使から一変、なんだか今はトロトロ甘えんぼな天使なのだ!!何故だ!?
「ねぇ、まぁだぁ?奏多くん……遅いよぉ……?」
「はっ、はいぃい!」
電話越しにねっとりと絡みついてくる天使の甘い声色に、何度も何度も心臓が跳ね上がりながらも、どうにかこうにか言い訳やお世辞を織り交ぜてご機嫌を取りつつ、俺は急いでフレンド機能を彼女に飛ばして、送られてきた部屋のアドレス周辺に転移を実行する。
「い、今行ってる!もう着くから、ちょっと待って!」
「ふぅ~ん……?ほんとにぃ?……あの女のところ寄ってない?」
「寄ってない寄ってない!!直行!一直線!!」
必死に否定し焦りながらも、頭の中に反芻される甘い音色にメロメロのデバフ状態で、ようやく彼女の部屋へと到着した。
どうやら本当に操作が分からないらしく、部屋から一歩も出られないその初心者っぷりに少しだけ安堵し、キャラ名がそのまま「アメリ」だったのを見てじんわりと頬が緩む。ちなみに俺もそのまんま「カナタ」だ。
そして――部屋に入った、その瞬間。
「……は?」
思考が止まる。
ヘーゼルの大きな瞳にさらりと流れるライトブラウンの長い髪、細くしなやかな手足と柔らかな曲線を描く身体のライン、その中心にある大きなおっぱいの豊かな膨らみまで、現実で見ている彼女と寸分違わない完成度で再現されている。”白鳳の天使”がそっくりそのまんまアスファンに降臨していた。
……ちょっと待て、再現度高すぎだろ!!?
「奏多くん……?」
「……じ、自分そっくりにキャラ作ったんだね……」
「奏多くんもそっくりだね……」
ようやく絞り出した声は、自分でも分かるくらい上擦っていて、視線をどこに置いていいのか分からないまま、彼女のキャラをじっくり見てしまう。エリシアたんの色違いの双子の姉妹キャラに見えてしまう。
「えへへ……入ってきた時びっくりしちゃったよぉ……!あっ、今見てるでしょ……!」
「見てない!いや見てるわ!ごめん無理だ!」
「もう、どっちなのぉ?」
くすくすと笑う声が凄く楽しそうで、さっきまでの氷の棘が嘘みたいに溶けているようだ。二重人格か??
「キャラクリ、すっごく大変だったんだよぉ……ここ、何回もやり直して……ほら、この目の色とか……ちゃんと同じにしたくて……」
「……いや、完璧すぎるでしょ……すごい完成度だよ」
思わず本音が漏れると、通話の向こうで「えへへ……」と嬉しそうに笑う気配がして、その声だけでまた心臓が変な動きをする。
ここは彼女の部屋、二人きりの空間。柔らかな照明に包まれた空間の中で、向かい合う俺たちの距離がやけに近く感じられる。部屋の片隅に置かれたベッドが妙に現実味を帯びて視界に入り込んでくる。
意識するなと言うほうが無理だろ、こんなの!?
「ほんとに……天宮さんがここにいるみたいで……」
ぽろっと零した瞬間、怒りの天使が顔を出した。一瞬で声音が変わる。
「……天宮さん……??」
「はっ!?す、すみません!愛芽莉たん!!」
さっきまでのふわふわした甘さから一転し、不満が混じった言葉に背筋がぴんと伸びる。
「名前で呼んでくれないと、やぁだ」
「よ、呼びます!呼ばせて頂きます!」
途端にまた柔らかくなる声音。その振れ幅に翻弄されつつ、ドキドキしながら必死にゲームの基本操作を説明し始める。
「えっとね、まず移動はマウスで――そうそう、で、装備はこの画面から……」
「ん~……難しいよぉ……、奏多くん、もっと近くで教えて……?」
「えっ、目の前にいるけど!?」
「だってぇ……分かんないんだもん……もっとこっちに来て……」
「えっ、くっついちゃうよ!」
「うん……くっついたら、私でも分かるかも……♡」
何のご褒美だよ!?
甘えきったトロトロな声色でそう囁かれるたびに、顔は完全に緩みきって説明する声も震えておぼつかない。天使は声も可愛いのだ。
これ、アッカーン!!
初心者にゲームを教える、ただそれだけだったはずが……相手が完璧美少女の天宮さんで、しかも全く同じ容姿でリアルタイムに通話しながら、耳元で囁かれるときたもんだ。すさまじい破壊力に体が熱くなる。
そんな中、アレコレとUIを開いてみてる様子の彼女が「これかなぁ……?」と無邪気に何かのボタンを触った、その次の瞬間――
ぽんっ、と軽い効果音がした。
「きゃあっ!?」
「えっ、ちょっ――!?」
画面の中で彼女の装備が一瞬で消えた。
現れたのはシンプルな下着だけを身につけた、無防備すぎる”白鳳の天使”の姿だった。フル3D高品質のアスファンならではの再現で、リアルで瑞々しく完璧美少女をそのまんまに再現していた。動くたびに体の曲線と大きなおっぱいが、たゆんたゆんと揺れている!
「ちょ、ちょっとぉ!?なにこれぇ!?」
慌てたように部屋中でパタパタと動き回る、そんな彼女の姿が呆然とする俺にクリティカルヒットし眼福の絶景が脳に焼き付く。
「あぁっ、見ないで!やぁっ……、ねぇ、見てるでしょ……?えっち!」
「み、見てない!!……いや、ごめんちょっと見てる!!」
「もうっ……やだぁっ……やぁん!」
困って慌ててるけど、でもトロトロに甘く濡れた声が耳に流れ込んできて、体中に熱を感じて頭がピンクに染まってじわじわと痺れていった。俺は硬直して絶命寸前だった。
「それは装備一括解除のボタン押しちゃったんだよ!右上のその辺!」
「ど、どこぉ……?これぇ……?あっ、違う……やだぁ、戻らない……っ」
「ほら、右上のそこだよ!」
「やっ、そこをどうする気ぃ……?」
「ちょっとおおお!?」
操作に手間取ってその“状態”が長引いてしまい、視覚と聴覚の両方からじわじわと甘い刺激が流れ込んできて、脳が溶けていく。
「はぁ……はぁ……奏多くん、早く助けて……なんか、変な感じ、するの……」
「変な感じってなぁに!?」
「だって……こんな下着姿……み、見られてるって思うと……ダメなの……!」
その先を濁すように、吐息混じりの声が途切れに途切れて余計に妄想を掻き立てられる。
ほんとにやめろ!脳が破壊される!!
俺のアスファン、いつからエロゲーになったんや!?
「と、とにかくその装備画面開いて!そこから――右上のボタン押して!」
「あっ、戻った!!」
ようやく装備が戻った!
それを安堵し見届けながら、内心では絶景の名残惜しさが入り混じった、どうしようもない感情に支配されている。
「……び、びっくりしたぁ……」
「……俺もびっくりした……」
「でも……楽しかった……こういうゲームなのね?」
「違うからね!?まだ始まってもいないからね!?こういう遊び方するゲームじゃないからね!?」
くすくすと凄く楽しそうに笑う声が、こっちの反応を楽しんでいるようにも聞こえ、もう色々とグロッキーだった。基本操作を教える中、天使の囁きが頭を反響し続けて、脳がトロトロに溶けもう色々無理だった。
そして全部事細かに説明してようやく一段落したころは、いつの間にか深夜二時になっていた。俺、二日寝てないんだが!?
「今日はありがとう、おやすみ奏多くん……今度、お礼をするねっ」
「おやすみー、また明日ね!」
最後まで凄く楽しそうにはしゃぐ天宮さんは、可愛く囁くとログアウトしていった。
お礼……?
言い残された「お礼する」という言葉に、妙に心が騒いで震えてしまう。
……俺はきっと、興奮で今日も眠れない。
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