開く一輪目、裁きの力
「まず魔法というものを説明するには神話から語る必要がある」
「はい。とうさま」
魔法についての本を傍らに、父との授業が始まった。
「まずこの世は一柱の神、創神と、主の弟子である八柱の神々海神、空神、地神、風神、雷神、炎神、光神、闇神の九柱の神々によって創られた。創神様によると主より更に上の存在である太陽神という存在もあるというが、我々の世界に普段直接干渉し得るのは先述の九柱だ。ここまでは理解できるか?」
「はい」
天照大御神ねえ。閻魔様も居たんだしまあありえなくは無いけど…
なんで日本神話なのかしら。
「神々は厄災である魔獣に対抗する術として、世の生きる全ての生物に『魔法』という力を与えた。魔法は加護を与えられし神によって種類が変わる。俺の場合は闇神と光神の二つ。ハルの加護はこれからこの魔導具で確認する」
取り出したのは水晶玉の様なもの。
「これに触れてみろ」
いわれる儘にふれる。
すると水晶玉の中に文字が現れた。
『地神(上位加護) 創神 閻魔』
「ん?エンマ?地神の上位加護はユウからの遺伝だが…〔詠唱省略〕〈情報覗〉」
そういえば閻魔様、加護をくれるとか言ってたな。
「彼岸の大王……?まさか上位神か?上位神の加護は歴史上で三人しか確認されていない。凄い才能だ」
「そ…そうなのですか?」
「目を瞑って、閻魔王に祈りを捧げてみろ」
「はい」
閻魔様に祈りを?
いわれる儘、手を組んで、跪き、祈る。
閻魔様を思い出して。
◆◇◆◇
「ほう。もう次死ぬまで会えないものと思っとったが、上手く縁が繋がりおったか。全く、運がいいのか悪いのかよく分からん奴よ」
「あ、閻魔様!お久しぶりです。今日は美少女スタイルじゃないんですね」
目の前には中年のイケオジ。
恐らく閻魔様だ。
「ああ。家内に叱られての」
「家内?」
「家内と言っても儂と同じく性別は無いがな。ほれ。おぬしも三途の川を渡る時に会った筈じゃよ。人の姿が色々と便利故人の姿になっとるだけよ」
「まさかあの川渡しですか?」
「昔は『奪衣婆』と言って、死者の死装束を剥ぎ取る役をしておったのじゃが、最近に人を裸にするのを元人間の神から批判されてのう。その仕事が無くなった故、渡守をしておる。」
「あのイケメンが若い少女の服を剥ぎ取る絵面は犯罪臭がしますね。それはそうと、前情報といくつか違う点があるんですけど」
「そうじゃそうじゃ。身分:家無しと言ったが、あの夫婦はおぬしの転生が決まる直前までは確かに宿無しだったのじゃ。妻の妊娠が発覚して直後、森の中に家を建ておったのよ。儂は過去は読めても未来は読めん故な。まあ建築は下手くそなのに魔法は上手い故、気持ち悪い家になっとるがの」
「じゃあクズというのは?」
「それがのう。おぬしの妊娠が発覚する前までは二人共酒と賭け事に入り浸り、人を殺した金で生活し、夫は毎日のように別の女を抱き、妻の方は夫と一緒になって3Pまで……」
「あっもういいです」
知りたくない事を知ってしまった。
「全く、子ができた途端人が変わりすぎじゃ。彼奴等」
「それはラッキーですね」
「ラッキーなどでは無いわ。あの男、お主が生まれてから毎月のように国宝級の宝を盗み、『謎の大盗賊』として世間を騒がせとるわ。常に誰にも気づかれず盗み出し、宝物庫に『宝は貰っていく。盗賊F』というカードを残して去っていく。彼奴のせいで盗賊に憧れる少年なども出る始末。こちらからすればいい迷惑じゃ。将来の地獄行きが増えとるぞ」
「父様…まあ、少年に関しては自己責任なんで」
「ま、そちらの世界に馴染んどる様で良かったわ。そうそう。おぬしに神託を授けよう」
「はい?」
「『善悪裁くは己が意思 己が正義は敵の悪 真の道は己が心』」
「え?なんですか?」
「ほれ。時間じゃぞ。儂も忙しいでな。次会いたくば土産の一つも持ってくるんじゃな」
「えっちょっま……」
意識が遠のいていく。
◆◇◆◇
意識が戻る。
「神託は受け取ったか?」
「えっあっはい」
あの話を聞いた後だと少し気まずい…
「どんな事を?」
「え〜と…〔ぜんあくさばくはおのがせいぎ おのがせいぎはてきのあく まことのみちはおのがこころ〕」
その瞬間、自分の中の何かが開いた。
「魔力が覚醒した……な………」
赤い力が溢れ出す。油断すると意識が持っていかれそうだ。
「桁違いだ……」
勝手に魔法陣の様なものが展開される。
「と…とうさm…」
そこで、意識が途絶えた。
◆◇◆◇
次に目が覚めたのは、いつものベッドの上。
「お、起きたか」
「いったいなにがどうなって…」
「魔力暴走だな。大きな才能を持った子供によく起こるが、あれほどのものは初めて見たな」
「これは制御に時間がかかりそうね。でも制御できればとんでもなく強くなれるわ」
そういえばなんか魔力が桁違いとか言ってたな。
「それで、加護の効果はどんなものなんだ?魔力が覚醒したんだ。感じるだろう」
「えぇっと…『あいてのかさねたつみにひれいして、こーげきまじゅつのいりょくがあがる』らしいです」
二人が顔を見合わせる。
「…くれぐれも父さん達に攻撃魔法を撃たないでくれよ?」
閻魔様の話を思い出す。
「はーい」