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トウヤVSレイドレック

「来やがったな」


 向こうは重装歩兵を前面出してジックリと攻め込むつもりだろう。

 フランツの街は勇者トモノリが死亡した事により、戦闘面にはかなりの不安がある。それは向こうも分かってるだろうし、攻めるなら今の内って事なんだろうな。


「そういやこっちの援軍はどうなってんだ? 勇者トモノリが死んだ事は本国に伝わってるんだろ?」


 俺は横にいるロゼに視線を送ると、やや険しい表情で返してきた。


「はい、勿論伝わってます。ですが実際守備兵を増員するとなれば、こちらから近隣の領主に頼む以外に手は有りません。本国は事実調査と後任の選出は行いますが、援軍を派遣するとなれば日数がかかり過ぎてしまいます故……」


 そうだとは思ったが、ここが前線になってるならもう少し守備力的な部分を考え直してもらいたいね。まぁ今更言っても手遅れな訳だが。


「ですが援軍に関してはセリオス様が依頼を出しましたので、数日内にこちらへ到着すると思われます。なのでここを凌げば実質危機は脱っしたと考えてよいでしょう」


 つまり、ここで殲滅もしくは撃退出来れば俺の勝ちって訳だ。

 この街が安定すりゃレイドレックの野郎も追手を出す事は出来ないだろうしな。


「ところで、()()()は考えていただけましたでしょうか?」


「ああ、()()()な。一応まだ検討中だが、この戦いが終わったら返答するぜ」


「分かりました。ではさっさとプラーガ共を蹴散らしてやる事にしましょう」


 ロゼは好戦的な眼差しを迫り来るプラーガ兵に向けると、騎兵を引き連れて突撃を開始した。

 街で防衛戦を行わないのは、某勇者によって外壁が破壊されまくったからだ。それに重装歩兵相手に弓は大した効果を出せないので、騎兵によって一気に潰した方が得策だと考えたからだ。

 一応魔法士も居る事ぁ居るが、こちらも某勇者によって多数の死者を出したため著しく弱体化してるって事で、野戦で敗北した時のために街に残す事にした。

 因みに先程話してた()()()とは、俺にフランツの街の領主をやってほしいってお誘いだ。行く宛がない俺としちゃ有り難いが、これに関してはフォルネとよく話し合って決めたい。

 もう()()を破る事ぁしたくないからな。


「さて、一丁やるか!」


 前方でロゼ達が接敵したのを確認すると、俺は飛翔転移(ポータルジャンプ)で敵の後方へと転移した。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 後方の南側――つまり魔女の森と呼ばれてる森の中に転移した俺は、茂みから街道を注視してプラーガ兵の様子を(うかが)った。


「進めぇ! 勇者の居ない街なんぞ恐れるに足らず! 軟弱なミリオネック共を捩じ伏せてやるのだぁ!」

「「「オオーーーォ!!」」」


 さて、部隊を率いてるのは報告に有った通りレイドレックな訳だが、見ると随分士気が高いように見える。クソ野郎を討ち取った筈だが、こちらも勇者を殺られてっから後は力勝負だとか上手い事言ったんだろう。


「伝令ーっ! 前方に敵兵出現! 戦闘に突入しました!」

「来たか。だが奴等は消耗してる筈だ。一気にたたきつぶせぇ!」

「「「ハッ!」」」


 チッ、やっぱ士気は高いようだな。

 だがそうなると俺としちゃ面白くねぇ。やる気満々な奴等を相手にするのは骨が折れる。

 つ~訳でここは一つ、俺からのプレゼントをくれてやろうじゃねぇか。


名前:海原豆矢 レベル:82

HP:626  MP:753

 力:677  体力:632

知力:742  精神:658

敏速:1856   運:20 

【スキル】加速Lv3 隠密Lv3 剣Lv5 短剣Lv4 弓Lv3 盾Lv8 身体強化Lv3 相互言語 MPドレイン 鑑定 飛翔転移 アビリティドロー

【魔法】風魔法Lv3 火魔法Lv1


 どうやらクソ野郎を相手にしてたのが良かったのか、相当レベルが上がったからな。今の俺のステータスなら雑魚兵に遅れはとらねぇ。


「いくぜ、フレイムボム!」

 MP743→MP713


 炎の塊を兵が密集してる場所に投げ込んでやる。

 直後激しい爆音と共に火柱が立ち上がり、中心にいた何人かは黒焦げになって倒れたようだが、さほど大きな被害にゃなってねぇ。装備の関係か、魔法防御が高いんだろうな。


「クソッ、敵だ! 側面より敵襲ーっ!」


 チッ、どうやらてきの中にここから放ったのを見てた奴が居たらしく、側面から奇襲されたのがバレたみてぇだ。


 こうなりゃ仕方ねぇ。乱発は止めときたかったが、奴等の士気を下げるためにも別の魔法でいくしかねぇな。

 有用な魔法を頭の中で探してると、ちょうど良さそうなのを見つけたぜ。


「ぶっ飛びやがれ! ハリケーン!」

 MP713→MP683


 こっちに迫ってくる敵兵に対し、広範囲に指定した風魔法を放つ。


「ウワァァァ!」

「クソッ、風魔法まで使う奴が居るのか!?」

「マズイ、軽装の弓兵じゃ無理だ。重装歩兵を前にして、後ろから援護しろ!」


 風魔法のレベルが高いからか威力はさっきよりも上だな。


「もう一丁いくぜ、ハリケーン!」

 MP683→MP653


「ギェェェ!」

「ま、まただ! 低く構えろぉ!」

「クソッ、何でもいいから茂みに向かってぶっ放せ!」

「り、了解、スプラッシュファイヤーボール!」



「ヤベェ!」

 MP653→MP643


 火の玉が複数飛んできたのを見て、俺は慌てて反対側面に転移する。

 転移先は見通しの良い平原になってるようで、ここでの長居は無用だな。

 だが敵も消耗してきてるし、このまま奇襲を続けりゃ追い込めるだろ。


「ほらよ、もう一丁くれてやらぁ、ハリケーン!」

 MP643→MP613



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「ええぃ、いったい何が起こってるというのだ! さっさと状況を説明せんか!」


 一方でトウヤの奇襲を受けた側は徐々に混乱しつつあり、指揮をとっているレイドレックは配下の1人を咎める。


「どうか落ち着き下さい! 敵の奇襲を受けてるようですが、時期に刈り取る事が出来るでしょう。それまで暫しお待ち下さい」


 何者かに襲撃されてる事は、レイドレックにも分かっていた。

 しかし、前方の敵を前にして後ろを撹乱されてはたまらない。


「クッ……。前方はどうだ? 前方はどうなっている!?」

「そ、それが、後方を撹乱されてるのが士気に影響してるようでして……」


 もっともである。

 後ろを脅かされてると気付いたら、誰だって前に集中する事は出来ない。

 しかもいまだに奇襲を行ってる者を撃退出来てないのだから、ここから士気が上がるのは難しいだろう。


「辺境伯様、僭越(せんえつ)ながら申し上げますが、一度撤退して兵を整え――「ならぬ!」


 撤退という二文字を真っ向から否定したレイドレックは、発言を行った配下を睨み付けると片手で胸ぐらを掴んでグィッと引き寄せる。


「我等に撤退は有り得ん。残された道は二つに一つ。フランツの街を奪うか、ここで果てるかのどちらかだ」


「し、しかし、依然として士気は下がる一方で、このままでは――「ムン!」――ギャァァァ!」


 再び反対意見を述べた配下は、その場で心臓を一突きにされた。

 やったのは勿論レイドレックであり、亡骸となった元配下を無造作に投げ捨てると、周囲を睨み付けながら口を開く。


「他に不満のある奴は前へ出ろ。貴様らにも選ばせてやる。俺に従うか従わないかをな……」


 血塗られた剣を背中に担いだ姿はまるで死神のような雰囲気を感じさせると、当然今のレイドレックに逆らう者はいなかった。


「奇襲してる奴は俺が相手をしてやる。貴様らは前方のみに集中せよ!」


 その雰囲気に圧されたのか、兵達はレイドレックの側を離れて前方へと駆け出して行く。


「これでいい。さぁ出て来い卑怯者めが! 指揮官である俺が相手になってやる。どこからでも掛かってくるがいい! それともこの俺を前にして臆したか!?」


 一人残されたレイドレックが、剣を振り払いながら姿の見えぬ襲撃者を挑発する。

 そんな彼に遠くから風の刃が迫ってくるが、落ち着いてそれを避けると飛んできた方向を睨み付けた。


「そこかぁ! ストーンジャベリン!」


 襲撃者が居るであろう茂みに向かって複数の石の槍を飛ばす。

 だが、声が聴こえたのはレイドレックの背後からであった。


「そういや風魔法以外も使えたんだったっけか? ま、今更だけどな」


 レイドレックが後ろを振り向いて飛び退くと、彼が憎むべき対象がそこに居た。


「き、貴様は……」


「よぉ、数日振りだなぁ?」


 お? 顔を真っ赤にしてるとこをみると、思い出したようだな?


「……そうか……貴様だったのか……。貴様が勇者サトルを殺したのだな!?」


「いや、殺したのは別人だが、切っ掛けを作ったのは俺だから……俺って事になるか?」


「ムググググ……許さん……、絶対に許さんぞ貴様ぁ! フラッシュトーチ!」


 ぐおっ!? いきなり激しい光が!

 だが今の俺には緊急回避可能なスキルがあるんでな。


「よっと!」

 MP255→MP245


 俺はレイドレックから離れた場所に転移して目が慣れるのを待つ。

 その間にも奴は「どこだぁ!」とか「出て来~ぃ!」とか言ってやがるが、俺としちゃあ馬鹿正直に相手するつもりはない。


「よし、頃合いだな。スプラッシュファイヤーボール!」

 MP245→MP240


 一度火の玉を撃ち込んで、俺の居る方向を教えてやる。


「そっちかぁぁぁ!」


 フッ、思った通りに奴が釣れた。

 後は落ち着いて対処するだけだ。


「腰抜けがぁぁぁ! さっさと姿を現さぬかぁぁぁ! この俺が直々に相手をしてやると言ってるのだぞぉぉぉ!? さぁ早く――」






 ザクッ!


「ゴフゥ!?」


「テメェの要望に応えてやったぜ?」


「ぎ……ぎざま……」


 但し、姿を見せたのは背後からだけどな。

 その後は簡単だった。何せそのまま心臓を一突きにしてやるだけだからな。

 既に冷静さを欠いているコイツなら対処は難しいと考えたシンプルな作戦だが、思いの外上手くいったな。


「ようやくケリが着いたな。フォルネは俺が()()()してやるぜ。だから精々あの世で眺めてるんだな」


「……グハァ!」


 最後に何か言いたそうだったが、そのまま逝きやがったか。

 ま、どうせ恨み節だろうし、聞く必要もないだろう。


「おっと、いけねぇ、まだあっちじゃ戦闘が続いてるんだったな」




 俺は急いでロゼのところに戻ると、ロゼは前頭に立って善戦していた。


「む? トウヤ様、ご無事で!」


 俺に気付きながらも剣を振るう動きは、正に一騎当千って感じがするな。

 コイツも勇者を倒した事でレベルが上がったんだろうが。


「待たせたなロゼ。辺境伯は討ち取ったぜ!」


 一緒に転移したレイドレックの亡骸を敵兵に向かって投げ込む。

 すると敵兵は何事かと投げ込まれたソレに注意を向けたところで、俺が堂々と言い放つ。


「テメェらの指揮官であるレイドレック辺境伯は死んだ。もうテメェらに勝ち目はねぇぜ!」


「こ、これは正しく辺境伯様……」

「って事は本当に討ち取られたと!?」

「間違いない。ならばこの戦いはもう……」


「言った通りだ。これ以上やるってんなら命の保証はしない。そこの辺境伯の後を追うだけになるだろうぜ」


 そして亡骸を見た敵兵の一部が大慌てで逃げ出すと、それを皮切りに残りの兵達が動物の群のように続いた。


「退却だ……辺境伯様が討たれた! 退却だぁぁぁ!」

「「「うわぁぁぁ!」」」


 これで当分は攻めてこれないだろう。


「敵の敵将は討ち取った、我々の勝利だ!」

「「「おおぉぉぉ!!」」」


 何かいつの間にかロゼが隊長のように振る舞ってるな。いや、元々役職持ちだったのか?

 まぁどうでもいいが。

 とりあえずは帰ってから話し合わなきゃならねぇが、さて、フォルネは何て言うだろうな。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「――以上で、辺境伯任命の儀を終了とする。ではトウヤ辺境伯殿、貴殿の働きでこのフランツの街を宜しくお願い致す」


「はい、辺境伯の任、しかと承ります」


 はぁ……漸く終わったぜ……。

 んで、何が終わったかってぇと、辺境伯という地位を賜るための任命式みたいなもんを、朝早くからやってた訳さ。しかも首都からお偉いさんがお越しくださったくらいにしてな。

 勿論これはフォルネと話し合った結果だ。

 あの後帰ってから話したんだが、なんて事ぁない、フォルネは両手上げて賛成してくれた。


「トウヤさ――じゃなかった、トウヤ様、お疲れ様です」


「ああマジで疲れた……。つ~かフォルネ、呼び方は今まで通りでいいんだぞ?」


 ただでさえロゼやセリオスからは様付けで呼ばれてんだからな。


「いえ、皆の前では同じように呼ばなければ不興をかってしまうかと……」


 考え過ぎだと思うがなぁ。

 それにこの国は少々特殊で、商家として名を上げた者が爵位を賜る事になってるくらいだから、貴族であっても貴族じゃない連中が殆どらしい。だから一般人の俺を辺境伯に立てるのも抵抗が無いんだろう。

 だがそうなると何故商家の人間でもない俺が辺境伯に抜擢されたのかってぇと、敵国の勇者を倒した(正確にはロゼだが)のと、攻めてきたレイドレック辺境伯を討ち取った功績によるものだったりする。


「トウヤさ――トウヤ様、やっぱり慣れるまで苦労しそうですね……」


「ああ、なんつーか聞いてる側の俺としても、慣れなくてムズムズしてくるな。あ、けどよ、一つだけ今までと同じように呼ぶ方法があるぜ?」


「え、本当ですか!?」


 やけに嬉しそうだな。大した日数じゃないにしろ、さん付けが慣れちまってるからなんだろうが。

 さて、ここからは少々勇気がいる。なんたって今後の人生を左右する告白をしなきゃならねぇんだからな。


「ああ、それでその方法とやらが厄介でな、()()()()()がなけりゃ上手くいかねぇんだ」


「そ、そうなのですか?」


 あ、何か不安な表情をさせちまった。これ以上回りくどい言い方をしない方が良さそうだ。


「その方法ってのが――コレを()()()()()に填めてもらう事なんだが……」


 俺は前もって用意しておいた指輪をフォルネに差し出す。


「トウヤさん、これって……」


「まぁ……なんだ、俺は不器用だから上手く言えねぇが……あ~つまりあれだ、俺と――「クスクスクス」――っておい!」


 フォルネが突然吹き出しちまった。

 なんか前にも見た事があるような気がするが、デジャヴってやつか?


「ご、ごめんなさいトウヤさん。フフ、あまりにも真剣な顔で困ってるように見えたので」


「いや、どっちかつーと、今の方が困ってるんだけどな……」


 どうすっかなぁ、また拗ねたくなってきた……。


「フフ、トウヤさん、まだ返事をしてないんですから拗ねないで下さい」


 どうやら俺の顔が拗ねてるように見えたらしい。

 ま、半分は正解だが。


「トウヤさん、まずは一言言わせて下さい」


「おう」


 な、なんか緊張するな。こんなに緊張したのは高校受験の面接以来だぜ。


「え~と……トウヤさん、まずはごめんなさい」


「え?」


 それってまさか、ここまで来てNOって事なのか!? そりゃ確かに知り合って間もない関係だが、もう一人にしないって事はこれくらいしか方法が……


「あ、すみません、今のは先程笑ってしまった事に対する謝罪です」


 な、なんだよ、驚かさないでくれ……。


「……コホン。トウヤさん、ありがとう御座います。このまま捨てられてしまったらどうしようかと思ってました」


 んな訳あるかよ。

 少なくとも俺の中ではフォルネを捨てるなんて選択肢は存在しねぇ。


「でもこうしてトウヤさんの気持ちがハッキリ知る事が出来て嬉しいです。だからトウヤさん……」


「お、おう」


「不束者ですが、宜しくお願い致します」


「あ、ああ、これからも宜しくな」


 こうして俺は辺境伯という地位と同時に、美人妻を手に入れる事が出来た。

 つまりさ、もう元の世界にゃ戻りたくねぇのさ。なんつったって、俺の居場所――いや、俺とフォルネの居場所が出来たんだからな。

 いずれあの女神も俺の前に現れるだろうから、そん時にはそう言ってやるつもりだ。


「失礼します、トウヤ様。隣接する領地から領主様が挨拶に見えられてます」


「分かった、すぐ行く」


 とまぁこんな感じに忙しくなりそうだが、これが仕事だと思えばどうって事はねぇ。

 寧ろ俺にはこっちの世界が合ってんのかもしれねぇな。


「小悪党改め、辺境伯を宜しくな! ってな」


 END


ありがとう御座います。

これにて完結とさせていただきますが、もしかしたら後日談を乗せるかもしれません。


因みに本編である【誘われしダンジョンマスター】はまだ連載中ですので、そちらは引き続きお楽しみ下さい。

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