プロローグ:もうやめる
大人になれば、ぼくらはもう一緒にいられない。だから好きになりたくない。
「笑ったほうがいいよ」
と、よく言われていた。
いつも目がなくなるほど、くしゃくしゃに笑う子だった。だから深緋も、少しだけ笑うことを覚えた。やっと上手に、微笑むことができるようになってきたばかりだった。もうその子は、そこにいない。
三人部屋の入口の名札は、奥の二人分がどちらも外されている。先月、管理部が外していった。
ベッドも、机も、オープンクローゼットもがらんどう。大人の許しがなければ出られない部屋に残った自分は、ただの瓶詰めみたいだ。
*
ドアがノックされる。コンコン。
コンコン。
このノックは管理部の織部だ。何かと大人から声をかけられるのが、本当は苦手だ。全部、知ってるくせに、全部見てきているくせに、と思うから。
「深緋を紹介するわね」
濃い青の髪の、几帳面そうな子。
もっと小さくて金色の綿毛が歩いてるような、鳶色の目の子。
「深緋、この子が青藍、この子は鶸。どちらも南一班になります」
「……はい」
嫌そうに聞こえないように、返事をする。
二人増えて、三人の班ができた。
「よろしくね」
所在なげな二人へ、声をかけてみる。
覚えた微笑みを、こんな風に使うなんて。
深緋は少し俯く。
きっと、またこの日が来る。
だから好きになることはやめよう、と思っていた。




