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case014:惨状


 雨宮は唄の電話を取る。

「どうしたの唄さ……」


『雨宮さん! 助けて!! 私……わたし……』

 緊迫した声で助けを求める唄。それのみを伝えて電話は切れてしまった。

「どうしたの!? 唄さん!? 唄さん!!」


 電話が切れたことを確認した雨宮は、すぐさま屋敷に連絡を取る。

「屋敷隊長! 千堂唄さんに何かあったようです! 彼女の住所を調べてもらえませんか!? ここから近いはずです! 私が向かいます!」


『落ち着け雨宮! 俺から当直に言って住所は調べてもらう。分かり次第、110番をしておく』

 屋敷は言い終えると、終話した。


「とにかく、唄さんが行った方向に……! そうだ……!」

 雨宮はインターネットで“千堂 夫妻 音楽 スタジオ”と検索した。

 すると、現在地から徒歩約10分の場所に“SENDO STUDIO”という音楽スタジオがあった。

「これだ……!」


 雨宮は、地図ホログラムのルート案内を頼りに全力で走りだした。

「唄さん……!」



 途中、屋敷から千堂家の住所が伝えられたが、雨宮が調べた音楽スタジオと同じ住所だった。


「ここだ……!」

息を切らせながら彼女が千堂家にたどり着くと、鉄の門扉は開いたままになっていた。豪邸の2階の一室に電気がついていたため、雨宮はそこを目指して走り始めた。


 玄関戸を開けると、自動で電気が点灯した。玄関廊下には土の足跡が残っており、その足跡は2階への階段へと続いている。

 すると、2階から悲鳴にも似た女性の泣き声が上がった。


「唄さん!」

 雨宮は階段を急いで上がる。その時くらいから、パトカーのサイレンが鳴り響き始めた。屋敷が通報したからだろう。


 階段を上がりきった雨宮は、ドアが開いていることにより光が漏れている部屋へと駆け込んだ。

「唄さん!! 大丈夫!?」


 部屋の中には、大きな血だまりとその中にうつ伏せで倒れる男女。その傍らには、仰臥で倒れている時雨。そして、部屋の隅で縮こまってへたり込む唄がいた。


「あ、雨宮さん……私……私……!」


 雨宮は唄に駆け寄ると、怪我がないか確認した。

「もう大丈夫……! 警察も来るから!」


 雨宮は振り返って、血だまりに倒れる夫婦を見る。

 血だまりには白い花瓶の破片が点々と落ちており、血だまりの上には花も乱雑に落ちていた。

 血だまりの上に落ちた黄色くきれいな花が皮肉にも美しく見えてしまった。


 唄は目を大きく見開き過呼吸気味になっている。

「雨宮さんっ……私……時雨先生を……」


 唄は一拍置いて大きく息を吸うと、はっきりとした声で告げた。

「殺してしまったかもしれません……!」


 その言葉を口にしてから、唄は泣き崩れた。


 倒れる時雨に目をやると、右側頭部から血が流れている。


 すると、下の階から、どたどたと複数人の足音が響く。

「警察です! 通報があって来ました!」


 雨宮は警察に対して声を上げた。

「2階です! 人が血を流して倒れています!! 救急車を!」


 ほどなくして警察が駆け付け、唄は保護された。

 それから約5分後、救急隊が到着して唄の両親と時雨が救急搬送された。


 腰の抜けてしまった唄は、そのまま自宅1階で警察からの事情聴取を受けることとなった。

 あとで駆け付けた屋敷、マリリン、刑事の平岡も雨宮、警察とともに事情聴取に立ち会った。

 呆然として一点を見つめる唄。精神的被害が著しいのは言うまでもなかった。


「警視庁捜査一課の平岡です。ゆっくりで構いません。何があったのかを教えくれるかな?」

 唄は、ゆっくりと顔を平岡の方に向けると、少しフリーズしてから口を開いた。


「時雨……先生が、突然家に来て……」

 彼女の声は消えそうなほど小さかった。声は震えており、絞り出すことでやっと、という感じだった。


「大声で……お父さんとお母さんに怒鳴ってて……私は自分の部屋にいて……」

 彼女の言う自分の部屋とは、凄惨な現場である2階のこの部屋だった。


「そしたら……お父さんとお母さんが私のところに来て……先生も来て……刃物持ってて……」

 唄の目から涙がこぼれ落ちる。

「お父さんが花瓶で先生を殴ったけど、止まらなくて……」

 先ほど見た時雨の頭の負傷は父親が必死な思いで抵抗した痕跡だったのだろう。


「お父さんとお母さんが私を守って……先生に刺されて……」

 凄惨な光景を思い出した彼女は嗚咽した。


「私が隅に逃げて……やめてって叫んだら……突然先生が倒れて……」


 唄は自身の顔を両手で覆うと床に泣き崩れた。

「私が先生を殺したんだ……!」


 その説明に平岡は屋敷の顔を見る。

「これは……」


「ええ。おそらく特異感情能力の発現でしょう。平岡さん、ちょっといいですか? 鞠子と雨宮も来い」

屋敷は平岡、雨宮、マリリンを廊下へと連れ出した。


「平岡さん、おそらくこれは、両親を目の前で刺されたことによる負の感情の昂ぶりで能力が発現している可能性があります。能力の詳細は不明ですが、それによって時雨を殺害してしまったのでしょう」

 屋敷の説明に、平岡はため息をついて目元を押さえた。


「暴走状態による心神喪失、ということになるかな」

「ええ。今は能力暴走の危険性はありませんが、ある程度の概要を聞いたら、まずこちらで任意収容とした方がいいでしょう。いざとなったら薬剤打って緊急制圧します」


「わかった」

 平岡は再度ため息をつくと、唄の元へ戻る。


「辛いと思うけど、もう少しだけお話を聞かせてくれるかな?」

 唄の力無い首肯を確認すると、平岡はメモ用のホログラムを開いた。


 その様子を見ていた屋敷は少し離れたところでマリリンに指示を出す。

「鞠子、隊員を参集して、お前の思うように調査を進めろ。俺は雨宮と任意収容を進める」

「うい~。紀乃さんは?」

「連絡済みだ。もしもの時を考えてこっちに来るように言ってある」

「りょか~い」

 マリリンは気の抜けた返事をすると、その場を後にする。


 屋敷と雨宮は平岡の事情聴取に同席した。

「どうして時雨という男が君を狙っていたかは分かるかい?」


 唄は泣きながらも、なんとか質問に答える。

「たぶん……私が先生のことを探ってたから……」

「どうして君は先生のことを探っていたんだい?」

「先生が……最近の破裂事件の犯人だと思ったから……」


 平岡はホログラムにメモしながら聴取を続ける。

「どうして先生が犯人だと思ったんだい?」

 その瞬間、唄は気が抜けたのか脱力してソファに倒れこんだ。気を失ってしまったのだ。


「平岡さん、とりあえずこちらで任意収容の方向で進めます。彼女が起きたら同意を得て特対庁に向かいます」

「ふう……仕方がないな。わかった。こちらは捜査を進めておく。何かわかったらお前に連絡を入れる」

「ありがとうございます」


 平岡は部屋を出ると、2階の現場へと向かった。

「雨宮。彼女が起きたら任意収容の同意を確認しろ。俺は課長と監理課に連絡を入れてくる」

「わかりました」


 そう言って廊下に出ていく屋敷。雨宮はソファに倒れる唄を心配そうに見つめた。

「唄さん……」



「禁煙中の平岡係長、お疲れ様です」

 2階へとつながる階段の前で、廊下の奥から出てきた鑑識課の若手巡査部長、蜂谷(はちや)が声をかけた。

「禁煙失敗した蜂谷か。風呂場どうだ? なんかあったか?」

「いや、特にっすねえ……父親だと思いますけど、多分浴室でタバコ吸ってますね。浴室焦げてますわ。水で流した跡も。ライターも洗面所にありましたし」


「そりゃ重要な情報だな。ここでタバコ吸いたくなったら風呂場で吸えるわけだ」


「現場荒らすのやめてくださいよ? 今んとこはあの爺さんが一番怪しいっすか?」

「今のところはな。特務隊の奴らもあの爺さんで睨んでいるから、まあそうなんだろう」


「あれ? 特務隊大嫌い刑事の係長がどうしたんすか?」

「うるせえよ。鑑識結果は屋敷にも共有しといてやれ」


 平岡は無意識に取り出していたタバコとライターを一瞥し、首をかしげると、懐に戻した。

「嫌な事件だ」



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