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case001:秒針の止まった日



「まって……まだ……」


「男児1人確保! 意識あり!」


『了解、よくやった! 早く戻れ!』


「奥にもまだ要救助者がいる模様!」


「ダメだ! もう戻れ! そこも直に崩れる!」


 その声の主が去って数分後、建物が崩れ落ちた。

 いや、崩れ落ちる未来を見た。

 今思えば、あの時が初めての能力の発現だったのだろう。


 2人と離れたくない。生き返らせたい。

 痛みの感覚すらないまま自身の終わりを感じた時、ひたすらにそう願っていた。


 願いが届いたのか、気づくとまた救助隊員の声が聞こえた。

「奥にもまだ要救助者がいる模様!」


「ダメだ! もう戻れ! そこも直に崩れる!」


 行かないで。まだここにいる。


 その感情の昂りが、現場離脱するレスキュー隊の足を止めた。

 レスキュー隊はなぜすぐに逃げなかったのか、なぜ取り乱していたのか。

 当時はそれが理解できなかった。

 とにかく母と弟から離れたくなかった。

 それが別れになることが4歳ながらも何となく分かっていたからだ。


 僕はすぐに救助された。

 だけど、母と弟は……見捨てられた。

 そうして数分後に建物は崩れ落ちた。


 あの日のことが脳裏に焼き付いている。

 トラウマはある程度克服したが、時計の秒針が動くチクタクという音がトリガーとなって息が乱れることはたまにある。


 僕は時計が好きだった。

 2歳のころから母の腕時計に興味を持っていたそうで、チクタクという音の真似をしていたらしく、初めて喋った言葉は“ママ”でも“まんま”でもなく、“チッチッ”だったそうだ。


 3歳になると、よく母の腕時計を見よう見まねで手首につけていた。

 つけていたといっても、ぶかぶかで腕時計が腕にぶら下がっていただけだ。

 

 秒針の音を聞きながら、“チクタク”と口ずさんでいた。

 

 不思議だった。

 毎回同じリズムで刻まれる時間。


 時間というものは当時抽象的で難しかったが、音がそれを表現してくれていたおかげで、時間の音だと思えて面白かった。


 僕は不思議な子だったんだと思う。

 普通、3歳、4歳でそんなことは考えない。

 別に僕自身も深く考えていたわけじゃないけれど。


 4歳の誕生日に子供用の腕時計を買ってもらった。

 おもちゃではなく、時計屋で売っているちゃんとした時計だ。

 特に秒針の音がチクタクと大きくなるものだった。


 あの事件の4日前の話だ。


 今もその腕時計を持っている。

 あの事件のせいで壊れてしまい、今はカチカチと音が鳴って秒針が振動しているが、針が進むことはない。


 あの日から秒針は止まったままだ。 

 僕はあの日から、秒針のチクタクという音を拒絶するようになった。


 20年近く経ち、“苦手”という程度にはトラウマを克服したが、それでも集中して聞けばあの日のことがフラッシュバックする。


 あの事件は、被疑者不詳の特異能力者によるテロに近い事件だった。

 組織的なものなのか、はたまた単独犯なのか。政治関係なのか、宗教関係なのか。


 何も明らかになっていなかった。


 あの時の感情の昂りで、僕は幼いながらに特異感情能力を発現していた。

 そして無意識にレスキュー隊の足を止めていた。

 けれど、あの時誰かが僕の能力に抗っていた。

 あのときは幼く、感覚も敏感だったからか、誰かに押し返される感触を感じ取っていた。


 誰かが……僕たちの家族を狙っていた。

 特異感情能力を持った誰かが。



 僕はそいつを見つけるために……


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