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17.潜入 その2

 レオンは、バーボンをストレートで注文して、一気にあおった。

 マリーは驚いて、

「お酒、強いのね?」

「弱くはないね」

「私はふだん飲まないから、そんなことをしたらひっくり返ってしまうわ」

 レオンはにやりと笑って、

「OK。では、マリーが酔っぱらう前に情報交換をしよう」

 レオンがさっきの店の奥の部屋にダニエルと呼ばれる男がいたと話すと、

「ダニエル・ボルトンだわ。麻薬取引で指名手配されてる」

「最後に奥の部屋から顔を出したのがダニエルだよ。だけど、あいつはまだ下っ端だと思う。もっと上がいるはず」

「もう一度さっきの店に戻って、ダニエル・ボルトンを捕まえて来ようかしら」

「いや、用心深いやつだから、簡単には捕まえられないと思うよ。それにマリーひとりでは無理だ」

「でも、キャプテン・ジョーカーがここにいるわ」

「オレはマリーとは組まない。オレがやることは非合法だから。マリーがいると邪魔だ」

「何よそれ」

 そのときアルテミスから連絡が入った。

「ターゲットが動いたわよ」

 レオンはマリーに向かって、

「さっきダニエルと握手をしたとき発信機を袖口につけておいたんだ。これで行先がわかる」

 また、アルテミスから連絡が入った。

「サンセット大通りの178番地。フレデリック・ベルリオーズという人の家のようだわ」

 それを聞いたマリーが叫んだ。

「フレデリック・ベルリオーズ!ルドルフ第一皇子の側近だわ」

「本命に近づいたかもな」

「私も行く」

「だめだ!ここからは別行動だ」

「嫌よ、絶対行く。決めたの」


 レオンはスカイスクーターを借りて、後ろにマリーを乗せてフレデリック・ベルリオーズの邸宅に向かった。

 作業着の男に後ろにロングドレスの女性が二人乗りしている格好はなかなか目立つ。

 車の間を縫うように走り抜けると、どの車もマリーの肢体に目が釘付けになっていた。


 二人はサンセット大通りのベルリオーズ邸に到着した。

 かなり広い屋敷で、四方を高い塀で囲まれていた。

「シールドが張られているわね。正面の入り口からしか入れないわ」

「そんなことないさ」

 レオンはアルテミスに連絡をした。

「アルテミス!頼みが・・・」

「レオン、そのシールドを切ればいいのね?」

「全部見えているのか?」

「軌道上のスパイ・アイからすべて見てるわ。可愛い女の子と一緒なのも」

「仕事だ。やきもち焼くなよ」

「いまシールドを解除したわ。いってらっしゃい」

 マリーはその会話を聞いて、

「シールドを解除だなんて、あなたの彼女は優秀なのね」

 優秀じゃ済まされない。他の星から干渉して、個人宅のシールドを切断する芸当は、アルテミスしかできないだろう。二人はスカイスクーターを足場にして、塀からフレデリック・ベルリオーズの邸宅に忍び込んだ。

「さすが泥棒ね。不法侵入もお手の物じゃない」

 とマリーが小声で言った。


 邸宅のリビングルームでは、二人の男が言い争っていた。フレデリック・ベルリオーズとダニエル・ボルトンだった。ダニエルが大声で怒鳴った。

「うちの店に来た麻薬捜査官を何とかしてほしいと言っているんだ。フレデリック・ベルリオーズ。お前ならなんとかできるだろ」

「その程度の火の粉は自分で払ったらどうだ」

「お前にいったいいくら貢いだと思ってるんだ」

「やかましい。お前との関係がルドルフ皇子にばれたら終わりだ。お前の替わりはいくらでもいる」

「なんだと?」

「その女をお前の得意な麻薬漬けにして、行方不明にすればいいだろ。カトリーヌ皇女のように」

「その女を始末してもまた次が来る。だから上層部に圧力をかけてくれと言ってるんだ」


 レオンとマリーは、隣の部屋の窓ガラスを切り取って侵入し、この会話を聞いていた。

 カトリーヌ皇女をさらったのはダニエル・ベルトンだ。マリーが、

「許さない!」

 と飛び出そうとしたのを、レオンが制した。

 そして、小声で、

「お前武器は持っているか?」

 マリーは内股からナイフを取り出した。

「それじゃあ心もとない。この銃を貸してやる」

 そういうとリボルバーを渡した。マグナム弾が装填されている。

「こんな銃、使ったことがない」

「安全装置を外したら、あとは引き金を引くだけだ。いざという時は、当たらなくてもいいからぶっ放せ。壁一枚は吹き飛ばす威力がある。反動が大きいから両手で持って、撃ったら肘を曲げて衝撃を後ろに逃がせ。気をつけろよ」

 そう言うと、レオンとマリーは隣の部屋からリビングルームに入った。


「お二人の会話は聞かせてもらった」

 ダニエルはレオンのほうを向いて、

「きさま、アラン!やっぱりその女とつるんでいやがったか」

「いや、たまたま出会っただけだ」

 レオンが指をパチンと鳴らした。すると、リビングルームのモニターが勝手に作動した。

 そして、先ほどの二人の会話を録画した映像が流れた。

 『その女をお前の得意な麻薬漬けにして、行方不明にすればいいだろ。カトリーヌ皇女のように』

 そう言ったベルリオーズの顔がしっかり映っていた。

 それを見たベルリオーズは、服からなにやら機械を取り出し、そのボタンを押した。

「お前たち生きて帰れると思うなよ」

 すると、ドヤドヤと5名の屈強な男たちが銃を構えてリビングルームに入ってきた。

「この二人を殺せ!」

 とベルリオーズが指示した。マリーはリボルバーを構えた。顔が引きつっていた。

 その時、アルテミスののんきな声が聞こえた。

「このシーンも録画する?」

 レオンものんきに答えた。

「いらない」

 そして、レオンは銃を構えた5人に飛びかかると、素手であっという間に3人を倒していた。最初の一人の鳩尾にめり込むほどにパンチを浴びせ銃をもぎ取ると、奪った銃の台尻で2人の頭を殴り倒した。時間にして5秒ほどだ。元特殊工作員に敵うはずもない。

 そこにリボルバーの轟音が響いた。マリーが引き金を引いたのだ。キッチンに通じる壁が吹っ飛んだ。残り2人は武器を置いて両手を挙げた。こんなもので撃たれたら、生き残れるはずがない。


 レオンは奪い取った銃で、ベルリオーズとダニエルの足を撃ち抜いた。ふたりともソファから転げ落ちた。

「キャプテン・ジョーカー!殺してはだめ!」

「なんだと?キャプテン・ジョーカー?」

 ダニエルは痛みに耐えながら、レオンを睨んだ。

「死神が何の用だ?」

「オレはあいにくと麻薬が嫌いでね。お前の仕入れ先を聞いて、挨拶に行こうと思って」

 レオンはもう片方の足を撃ち抜いた。

「死んだって言わない」

「そうか」

 レオンは、銃口をベルリオーズに向けた。

 ベルリオーズぎょっとして口を開いた。

「待て、撃たないでくれ。惑星ケアスだ。あそこで麻薬を製造している」

 ダニエルがベルリオーズに向かって、

「余計なことを言うな!」

「教えてくれて、ありがとよ」

 レオンは、銃をマリーに渡すと、

「マリー、警察が来たようだから、帰る。こいつらの処分は任せた」

 銃声を聞きつけたか、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

「キャプテン・ジョーカー、助かったわ。カトリーヌ皇女を頼むわね」

「了解!さっきの映像はマリーに送っておくよ。連絡先を教えてくれ」

 レオンは、マリーと連絡先を交換するとその場から消えた。


 マリーは到着した警察に身分証を見せると、ベルリオーズとダニエルを捕縛するように指示した。

「カトリーヌ皇女の誘拐と麻薬密売の容疑で逮捕します」

 一人の警察官が、派手に壊れた壁を見て、

「ずいぶん派手な銃撃戦だったんですね」

 と言った。マリーは、いや銃弾はたった1発だけなんだけど…とは言えなかった。


 レオンは隠しておいたレディホークに戻ると、惑星ケアスに向けて出発した。

 ダニエルは密売に関与していたとしても、麻薬の製造は別の組織があるはずだ。

 ケアスに麻薬の精製工場に違いない。まずはそこを破壊しよう。


 そのころ、アルテミスとカトリーヌ皇女は、別荘から街へショッピングに出かけていた。

 二人はカトリーヌ皇女の服や靴を見て回った。一般市民の服装が珍しいのか、カトリーヌ皇女はあちこちの店に入っては、いろいろな服を手に取っていた。

 その様子をエアカーの中から見ていた男たちがいた。

「あれは俺たちが誘拐したカトリーヌ皇女じゃないか?」

「麻薬漬けにして、奴隷として売り飛ばしたのに、なぜここにいる?」

「隣の女は別嬪だぜ」

「後をつけようぜ」

 男たちは帰路に着いた二人を尾行した。

 湖畔の別荘に入っていくのを見届けると、男たちのひとりがボスに連絡した。

「ボス、カトリーヌ皇女を見つけました」

「何だと?見間違いじゃないのか?」

「間違いありません」

「そうか、住まいを確認しておけ」

 ボスと呼ばれたのはサルタンという男だった。強靭な体格をして、約1,000人の子分をもつ大宙賊団『ホワイトモスファミリー』のボスだった。サルタンはダニエル・ベルトンから、カトリーヌ皇女を誘拐する仕事を請負い、すでに金をせしめていた。このままでは、せっかく攫った意味がない。金も返せと言われる。

「もう一回攫うか」

 ボス・サルタンは部下に今晩もう一度カトリーヌ皇女を攫うように指示した


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