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希望の一手3

 人間と人外種の架け橋になることを決意した私はヒビキさんの瞳を見つめる。私と数秒視線をぶつけたヒビキさんは、満面の笑みを浮かべて私の頭をガシガシ撫でた。


「全く……ジークと貴女は良い目をするよ。決して覆らない覚悟、確認させてもらったよ。ジアスさん。それではやろうとしていたことをやってください」


「やれやれ……結構時間を掛けてしまったな」


 祖父は服の内ポケットから血の入った試験管を取り出し、私に手渡す。


「血? 一体誰の?」


「さっきまでお前の名前を叫んでいた者たち……シャフリちゃん、ソフィア、サラス、シオン、そして……ジークくんの血だ」


「5人分!? なんでこんな物を?」


「以前にも話した通り、お前は他人の血を取り込んで、その者の力を使うことができる。1つ取り込むだけでも強力だが、一気に取り込むとどうなるか? これは私の仮説だが……5人の血がお前の本当の力を目覚めさせる鍵だと思っている」


「私の……本当の力?」


「他人の力を使えるのはお前の力ではないと以前話した。しかし、一瞬だが、お前の力は間違いなく目覚めかけていた。自覚はないと思うがな」


 再び試験管に目を向け、私は噛み砕こうと口に運ぼうとする。


「待て! 前例のないことだ。最悪の場合、お前か血を取り込まれた者は命を落とすかもしれない」


 一瞬だけ手が止まったが、私は試験管を口に近づける。


「リスクがあるのは承知の上です。それに、お祖父様がこれを持っていたということは、ジークたちも承知の上ですよね?」


「そうだ」


「それなら私の……いや、私たちの答えは決まっています」


 シャフリ、ソフィア、サラス、シオン、ジークの5人を思いながら私は試験管を噛み砕いた。


 血を取り込んだ瞬間、体が熱くなり、胸も苦しくなり、吐き気がした。


「うぷッ……があああああッ!!」


 視界もボヤけ、立つことすらできない状況に陥る。


「ミーナ!! やはり無謀だったか……」


「諦めるのは早いですよ。ジアスさん。彼女は今……全員の想いを受け止めようとしています。もし受け止めることができたら……彼女の本当の力が目覚めます」


 苦しみながらもジークたちのことを思い、声を脳内で何度も再生する。


 瞼を閉じて苦しみに耐えながら立ち上がり、大きく息を吸い込む。すると数秒前の苦しみが嘘のように消え、吐き気も治る。ゆっくりと息を吐き、私は瞼を開ける。


「……ようやく目覚めたね。貴女の本当の力」




 ◇◇◇




「チョロチョロと人の邪魔をする人外種め。さっさとくたばれッ!!」


 リギルの剣がサラスに迫るが、サラスはイージスで受け止め、背後にいるサロミアに目を向ける。


「奥様……下がってください。私と言えども、これ以上は……」


「私に構わないで。コイツだけは……コイツだけは野放しにできない! このままだとヨハネスが描いていた国が!」


「死んだヤツの思想を抱いてるとは滑稽だな。立ってるのもやっとのクセに。一思いにトドメを刺してやるよ!」


 力任せにリギルはサラスを吹き飛ばし、動けないサロミアに迫る。


「しまった!! 奥様!!」


「思い通りにはさせません!!」


 ジークが間に入ろうとしたが、とある人物に足を止められる。


「それはこちらのセリフです」


 ファルトマンがジークの行手を遮り、ジークはファルトマンの剣に拳をぶつける。


「ジークさん!!」


「ソフィアさん!! 自分の代わりに奥様を!!」


 ジークの指示を受けたソフィアはフォルティッシモを発動させ、サロミアの元に向かうが、飛行魔導部隊が弾幕を張って、ソフィアの行手を遮る。


「間に合う? いや……間に合わせる!」


 距離も思ったより遠く、間に合わない不安を抱えつつも、ソフィアは加速する。


 その時、幼い少年の涙声が響き、リギルの動きが止まる。


「……チッ! どういうつもりだ……クロノ」


「もう……やめてください。これ以上……他人を傷つけないでください!! 義兄様ッ!!」


 突如、リギルとサロミアの間に入ったクロノが腕を広げてリギルを説得しようとする。しかし、リギルは聞く耳を持たず、攻撃対象をクロノに変える。


「そいつは人外種だ。人外種を庇うのなら、お前も殺す」


「どうして義兄様は人外種を嫌うのですか!? 理由を聞かせてもらいたいです!!」


「理由を口にすればそこをどくか? そんなわけないよな? まあ良い。話してやる。俺の母は……人外種に殺されたんだ」


「え?」


 クロノは目を丸くし、リギルは剣の切先をクロノに向けたまま話の続きを口にする。


「側室の子であるお前には分からないよな? お前の母は病気で亡くなったな? 悲しいよな? ちゃんと哀悼したな? だが、俺は違う。ついさっきまで元気に生きていた母が、目の前で殺されたんだ。哀悼する暇もなく、酷い方法で殺され、当時のシーンが脳裏に焼き付いている。あの時から俺は人外種を恨んだ……復讐してやると思った。根絶やしにしてやると思った。そのためには力が必要だと思った。そして、手に入れた。俺の前に立ち塞がる者は誰もいない。鬼の次に恐れられていた吸血鬼も追い詰めることができる。この戦いは理想の世界を創り上げるための必要なことだ」


「……確かに、お母様を殺されて、憎しみを抱くことを察します。ですが!! 報復という形は納得しません!!」


 食い下がってくるクロノに対し、眉をピクリと動かすリギル。


「何だと?」


「命とは尊いものです!! 以前から思っていましたが、義兄様は命を軽視しています!! それは王としてあるべきの前に、人間としてどうかと思います!!」


「……言いたいことはそれだけか? 無駄話をし過ぎたな」


 リギルはクロノの首をめがけて剣を振る。クロノは自らの死を覚悟し、クロノの味方をする兵士たちが声を上げる。


 しかし、剣がクロノの首に触れることはなかった。


 突如、上空から青い線がリギルの腕を通過し、切断する。


「何ッ!?」


 腕を切断されたリギルは顔を歪ませ、反射的に後退する。しかし、退いた直後、青い物体がリギルに直撃し、リギルは対抗することが出来ず、王宮市街地の果てまで吹き飛ばされる。


 死を覚悟していたクロノが恐る恐る目を開けると、青く燃える炎の翼を持った、青目の少女が舞い降りてきた。


「あ……貴女は」


『ミーナ様!?』


 雰囲気と少し姿が変わっていたが、ジークたちは瞬時にミーナだと分かり、声を上げる。

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伊澄ユウイチです!


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