シオンの選ぶ道3
地下室に運ばれ、治療を終えたシオンは意識を取り戻し、瞼を開けようとする。
「うーん……」
「あ! 起きた?」
シオンが瞼を開けると、そこには満面の笑みを浮かべたシャフリの顔があった。
「わッ!! に、人間!!」
勢いよく飛びあがろうとしたシオンだったが、体中に痛みが走り、再び横になる。
「驚かせてごめんね。ゆっくり起きないと、また傷口が広がるよ?」
「驚くのも無理はないですよ。シャフリ様。シオン様は人間が少し苦手なのですから」
シャフリの背後から現れたジークの姿を見て、シオンは軽く微笑む。
「ジーク!」
自分の時とは反応が違うことに不満を抱くシャフリは、頬を膨らませて、ジークに視線を向ける。
「分かってますよ〜。だけど、湧き上がる好奇心が抑えられなくて……」
「今は我慢してください。シオン様。シオン様のお陰で助かりました。なんとお礼をしていいのでしょうか……」
シオンはゆっくり首を横に振り、ジークに言葉を返す。
「ミーナと……ジークに……お礼、しただけ。気にしない……で」
シオンの言葉を聞いて、ジークはニッコリと優しい笑みを浮かべる。
「しばらく様子を見ていてくれと、お嬢様から命令を受けていますので、何なりとお申し付けください」
「ジーク……それじゃあ、ご飯。ご飯、食べたい」
「空腹ですか? 承知しました。それでは……」
ジークはシャフリに目を向け、シャフリは首を少し傾げる。
「シャフリ様。頼みましたよ」
「ええ!? 私ですか!? そんな無茶な……」
「調理場の物は好きに使ってもらって構いません。それと、自分がここに残った方が、シオン様は落ち着くと思いますので」
「うう……分かりました。頑張ってみます」
シャフリはトボトボと調理場へ向かい、ジークはシオンに向けて笑みを浮かべる。
「ありが……とう。どうしても、人間……苦手」
「自分も人間ですよ? 席を外しましょうか?」
「ジークは……ジークは、大丈夫。ジーク。優しいし」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
ジークはシオンに背を向け、テーブルの上に置いてあったティーポットを持って、紅茶の残量を確認した後、ティーカップに紅茶を注ぐ。
「先ほどの方。シャフリ様と言いますけど、シャフリ様はミーナお嬢様の大切なお友達です」
「友……達?」
「ええ。お嬢様の最初の友達。初めの頃は衝突もあって上手くいかないことが多かったのですが、今ではお互いに絶対的な信頼を置いている仲です」
「さっきの……人間が?」
シオンはシャフリが出ていった扉に目を向ける。すると、視界の端にティーカップが現れ、視線をジークに戻す。
「紅茶……飲めますか?」
シオンはゆっくりと上半身を起こし、ジークからティーカップを受け取る。
湯気が僅かに立っている紅茶を見つめて、シオンは表情を曇らせる。
「……これ、初めて」
「そうでしたか……別の飲み物をご用意しましょうか?」
「……これ、甘い? それとも、苦い?」
「多少甘さを感じますが、甘い方が好みであれば、調整しますよ」
シオンはジークにティーカップを返し、ジークは再びシオンに背を向けて、紅茶にあるものを入れる。
「これでどうでしょうか?」
再度シオンにティーカップを渡し、匂いを嗅いだシオンは目を見開く。
「甘い……匂い。飲んでも……良い?」
「どうぞ」
吐息で紅茶を少し冷ましたシオンは、ゆっくりと紅茶を啜る。
「ん? これ……美味……しい」
「それは良かったです。先ほどの紅茶にミルクと砂糖を少し入れました。甘過ぎず、紅茶の味もしっかり残る調整を施しております。ジーク特製のミルクティーです」
テーブルの上からジークは小皿を取り出し、軽く指を鳴らす。何乗っていない小皿の上にクッキーが現れ、それを見たシオンが目を輝かせる。
「それ……何?」
「初の試みです」
ジークは胸ポケットからチョコレートソースが入ったスポイトを取り出し、クッキーにかける。クッキーにチョコレートソースがかかった瞬間、シオンは思わず「わぁ〜」と声を上げ、ジークは小皿をシオンに手渡す。
「チョコソース・クッキー。恐らくですが、ミルクティーに合うかと」
躊躇うことなく、シオンはチョコソース・クッキーを頬張り、即座に満面の笑みを浮かべる。
「これも……美味しい」
あっという間に残っているチョコソース・クッキーも口に運び、ミルクティーを流し込む。
緩んだ表情を浮かべるシオンを見て、ジークは笑みを浮かべる。
「気に入っていただけましたか?」
シオンは鼻息を荒くして、何度も首を縦に振る。
「もっと……食べたい!」
おかわりを要求するシオンだが、ジークは苦笑いを浮かべて言葉を返す。
「おかわりを要求していただけるのは嬉しいのですが、ちゃんとした料理を食べた後でないと、お出しすることはできません」
シオンは頬を膨らませて「ヤダ」と駄々をこね始め、中々理解してくれず、ジークは困り果てる。
その時、扉が開き、ワゴンを押すシャフリが部屋に入ってくる。
シャフリの姿を見たことによって、シオンの表情が強張り、目つきも鋭くなる。
「おや? 随分早いですね」
「ちゃんと調理はしましたけど、簡単なものにしてしまいました」
シャフリはシオンの横にワゴンを止め、銀の蓋を開ける。
シャフリが持ってきた料理を見たシオンは、強張らせていた表情を徐々に緩める。
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