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psycho〜親愛なる君へ〜  作者: 山居中次
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親愛なる君へ。

 保健室に駆け込むと、ベッドの上で上半身を起こして、ぼんやりとしている彩子がいた。


「軽い貧血だね。まあ、少し休んでいれば良くなるよ」


 保健室の先生は、慣れた雰囲気でさらりとそう言った。


「ご迷惑おかけしました」


 こめかみを押さえて彩子がそう言うと、みのりんが、「もう!サーちゃん、心配したよ。夏も一回倒れたんだから、注意しなきゃ駄目だよ。気分が悪くなったら、人に言う。いい?」と、まるて、彩子の保護者の様な口調で一気にそう言った。


「みのりんごめんね。びっくりさせて」


「もう、本当にびっくりしたよ。いきなりドタって音したと思ったら、サーちゃんが倒れてるんだもん」


「でも、頭とか打たなくて良かったよ。よく、貧血や、てんかんで、倒れた時に打ち所が悪くて、大怪我する人もいるからね」


 博識にコバが、そんな危険もあると述べて、「でも、本当に良かった。藤村さんに何もなくて」と、改めて、彩子の無事を喜んだ。


「本当に面目ない。みんなに迷惑を掛けて」


 そう言うと、彩子は、俺達に頭を下げた。


「うん、時々貧血気味で倒れる癖があるんなら、1度、精密検査とか、受けたほうがいいかもよ」


 保健室の先生が真剣な顔で、そう言うと、彩子は「はい、機会を見て1度受けに行こうと思います」と答えた。


「そのほうがいいよ」


 そう言うと、保健室の先生は、「ちょっと野暮用を済ませてくる」と言って、保健室を出て行った。


「本当に気をつけろよサイコ、まじで心配したんだぞ」


 俺がそう言うて、彩子は、「ありがとう、心配してくれて」と呟く様にそう言って、ニィっとあの、粘っこいサイコの笑い方でニヤけると、「みのりん、コバ、少し席を外してくれないか?タダシと2人になりたい」と言って、2人をこの場から、退場させた。


「サイコ」


 2人が、出て行ったのを確認して、俺は彼女の“名前〟をそう呼んだ。


「どうだった?愛しい人とは、弥生とは話せたのか?」


 サイコは初めて会った時と同じ様な表情で、俺にそう聞いた。


「ああ、話せたよ」


「どんな事を話したんだ?あの時はすまなかった。本当は君が好きだったんだ。でも、思いを上手く伝えられなくて、あんな風にしか、接することが出来なかった。今でも、好きだ。だから、許して欲しい。君が欲しい。そんなところか、お前の気持ちを全て彼女に伝えたのか?お前の手に入れたかったモノはちゃんと手に入ったのか?さあ、オレに教えろ!」


 狂った様に、一気にまくしたてる様に、そう言うサイコを、俺は正面から抱きしめた。


「許してもらえたよ。ありがとう、サイコ」


「オレはどうなってもいい。君が幸せなら、オレは何でも捨てられる。タダシを好きな気持ちなんて」


 震えていた。サイコの、声が震えていた。


 嬉しかった。サイコの藤村彩子の気持ちが。


「捨てさせない。絶対に捨てさせない。俺が今好きなのは、藤村彩子、君だ」


 そう言って、更に強く抱きしめると、彼女もまた、俺の事を抱き返してきた。


「うん・・・・もう、サイコでいられないや」


 藤村彩子の、初めて聞く、しっとりとした。それでいて、子供っぽい声だった。


 スルリ。


 彩子の身体から、力が抜けていくのが解った。彼女は、俺の腕の中で静かに眠り始めた。


 サイコに。


 会うことは。


 もう。


 2度と無かった。


 あれから、10年。


 サイコが消えた後も、俺は彼女を愛し共に過ごした。時々見せる愁いを纏う表情に、サイコの面影を垣間見る。


 彼女は“普通〟の女の子になった。


 何が“普通〟なのかは俺には解らないけど、彼女は確かに言った。「私は普通になった」と。


「奇抜である事よりも、普通であることのほうが難しい。普通は常に動く。常識は流れていく。その激流に身を任せる事はとても、怖い事だ。だから、私達は道を誤る」


 沼津の千本浜。


 駿河湾のキラキラとした海を見つめて、彼女はそう呟いた。


「俺は、救われたよ。君がいたから、立ち直れた」


 彼女の呟きに、俺はそう答えた。


 彼女がはにかむ。


 美緒は、無邪気に走り回っていた。


 玉石の敷き詰められた海岸を波と追いかけっこしながら。


「子供はいい。まだ、世界が、自分の味方だと信じて疑わない。見ているとこっちまで幸せになるよ」


 妻は、美緒を眺めると、満足気にそう言った。


「美緒にはいつまでも、世界が味方だと信じていてほしい」


「俺は味方だよ。いつでも、君と美緒の」


 妻の横に座り、同じ様に美緒を眺めて俺がそう言うと、「知っているさ」と彼女が俺に向かって言った。


 暖かい、春の陽射しと、心地よい潮風が、俺達家族を包みこんでいた。


「ママー。キレイ石見つけたー」


 そう言って、美緒が、小さな透明なシーグラスを持って、こっちに駆け寄って来た。


「はい、ママにプレゼント」


 キラキラとした笑顔でシーグラスを差し出す美緒を、彼女は、ギュっと抱きしめた。


 俺は、そんな美しい彼女の横顔を、穏やかな気持ちで眺めていた。



 終わり。

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