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創世の龍が愛した神父と導かれし者の物語  作者: ナギノセン
移ろいの日々 ローテンベルグ編
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第36話 -訓練参加-

20170211 改訂しました。

第36話 -訓練参加-

「お前は田舎者だから、そもそもどうしようもないとしても、マリサにも教育が必要だな。覚えておけ、お前がローテンベルグ家の侍女に何かしてもらえるなど、一生あり得ないことだ。身の程を弁えろ、この下人がっ」

 部外者が、ローテンベルグ家侍女であるマリサを勝手に使い、水差しを運ばせたという言い分について、彼女が勝手にやったとは言うつもりがない以上、使用人を管理する立場であるキーンの主張は通ることになるので、リオンは黙って聞いていた。

「まったく、屋敷の秩序を平気で乱すから、田舎者の冒険者など入れるべきではないのだ。ミゼル様にもしっかり具申せねばならん。おい、お前、私はお前を絶対に追い出してやるからな、覚えておけ」

 言いたいことだけ言うと、キーンは威厳があると思っているのか、小さな体をそっくり返らせて、彼にとっての大股で部屋を出て行った。


 周りに今までいなかった類の人間であるため、慣れない毒気に当てられたのか、リオンはキーンが開けっ放しのまま出て行った扉を、暫く呆然として見ていた。

 だが、ふと我に返ってから気付いた。

 宿直室の鍵を貰えばよかったのだ。

 しかし本当に使用人頭なのか。

 入って来た時にノックはなく、出て行った後も扉は開けっ放しだ。

 そしてあからさまに敵意を向けて来る。

 そんな人間を今から追いかける気にもならず、頼みごとをしたいとも思えないので、何とかサーシャから借りるようにしよう。

 人任せな結論を出せることのできたリオンは、逆にマリサが戻らなかったことが気になった。

 最初は不愛想だと感じた彼女が、思いもよらず親切にしてくれたことで、キーンの不興を買ってしまった。

 しかし彼女には、使用人頭へ逆らう術がない。


 だがこうやって気を揉んでいても何かができる訳でもないので、パンを食べ終えると、まだ約束の時間にはかなり早かったが、ヴォルトがいるであろう衛兵舎へと向かった。

 衛兵舎は、屋敷の敷地の西端にあり、訓練所が前に作られている。

 障害物のある馬場や、筋力強化のための大きな石、格闘用の砂場、石畳の闘技場などがあり、三交代勤務の衛兵達は、三日に一度ここで訓練に汗を流す。

 リオンがやって来た時も、二十人ほどの衛兵が、準備運動を二人一組で行っており、その中にヴォルトの姿を見つけた。

「おはようございます」

「午前は予定があったんじゃなかったか?」

「サーシャの都合でなくなったので、そのことを伝えに来ました」

「なら、今からでもいいのか?」

「はい」

「しかしお前、剣はどうした?」

「サーシャの用事ではない時は、剣は部屋に置いておくように言われていますので」

「そうなのか? まあ、ここの倉庫にはいくらでも剣があるからそれを使えばいいが、本当は自分の剣で訓練しておく方が、実戦に役立つからそのほうがいいのだけどな」

「ヴォルト、そいつは誰だ?」

 彼と組んで準備運動をしていた衛兵が、リオンを訝しそうに見て声を掛けてきた。

「サンド、悪いな。こいつはサーシャ様の付き人だ。俺、今日はこいつとやるわ」

「ああ、全然構わないさ。お前が非番なのに、急に昼飯おごるから午前だけ付き合えって言うから来てるだけで、こちらとしては早く終わるのはありがたいからな。でも昼飯は貰うからな」

 そう言うと、サンドと呼ばれた衛兵は笑いながら衛兵舎へと帰って行った。


「おい、こっちへ来い。準備運動やるぞ」

「待て、ヴォルト。そいつは部外者だろう?」

 今度は近くにいた衛兵の一人が、不審そうにリオンを見た。

「そうだ。しかし衛兵長の許可は得ているから問題はない」

「衛兵長の?」

「そうだ。嘘だと思うなら聞いて来い。おい、お前、始めるぞ」

 ヴォルトは、もう話は終わったとばかりにリオンを呼び、衛兵達も準備運動に戻った。

 それからみっちりと走り込み、筋力強化の様々なメニューをこなした。

 ヴォルトは、他の衛兵達の三倍の量を軽くこなしていたが、リオンもそれに遅れることなく続いていた。

 ヴォルトのリオンを見る目が変わり始めたのは、この辺りからであった。

 その後、剣の素振りへと移った時に、今度はリオンが、ヴォルトを見る目を変えた。


「それは・・・・・・?」

「少し前からドワーフの国で作られた武器が多く手に入るようになって、俺に合うの探していたら運よく手に入れた武器だ。ファルシオンと言う種類らしい。名前なんてどうでもいいが、ここにある他の剣では軽すぎてな」

 言うだけならば容易いが、実際そういうレベルの話ではない。

 どう見ても、リオンやヴォルトの身長と同じくらいの長さ、そして見合う太さがある。

「どの位の重さですか?」

「その辺の長剣の五、六倍くらいか?」

「―――それをどうするのですか?」

「お前、バカか? 使うに決まってるだろう」

「実戦で?」

「本当にバカか? 実戦でこんなもの振り回してたら、味方までぶった切ってしまうだろうが」

 一応分別のあるヴォルトの言葉に、リオンは部外者ながら胸を撫で下ろしたが、直ぐにそれを後悔した。

「だが闘技場の試合では使うぞ。一対一なら心配ない。それに刃は落としてあるから気をつけていれば命を落とすこともそう無いだろうからな」

 周りを見ると、明らかに迷惑そうにしている衛兵ばかりだった。

 しかし彼らにとって、ヴォルトが敵ではなく味方だということは、普段は迷惑でも、いざ戦いとなればこれ以上頼もしいことはないので、仕方なく我慢していると思われた。

「だから、安心して全力で掛かって来い」

「え?」

 リオンは、思わず不吉な言葉に聞き返してしまった。

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