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ディメンションブレイク  作者: 凧39
一章 日常編
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サン話 櫻井先輩と訓練(回想)

ガラス張りの入口をくぐる。中は人で溢れていた。武装したファイター、報告書を抱えた職員、慌ただしく行き交う声。その光景を見ながら前に進む。


「さて、やっと本部に着いた」

「まだ五分しか経ってないよ」


葵の発言に冷静に突っ込む。


(これが本部か……)


初めて見る光景に、少しだけ足が止まる。受付係に報告書を提出する。


「お願いします」

「確認しました。レベル2ディメンション、攻略完了ですね。お疲れ様でした」


淡々とした声。だがその一言で、ようやく実感が湧いた。


「なぁ綾人、訓練室行かね?」

「OK」


報告書を提出したので、訓練室に行くことにした。後ろを振り返ると、柄が悪そうな見た目とは裏腹に、その人は落ち着いた足取りで歩いていた。


「あの人誰?」

「櫻井先輩」


俺の質問にこう答えた。すると、櫻井先輩が近づいてくる。


「よっ。須貝 葵。最近どうだ?」

「こんにちは櫻井先輩、さっきこいつと、パーティを組むことにしました」

「おお。いいじゃん頑張れよ。で、君は誰かな?」


櫻井先輩に話しかけられた。近くで見ると、ロン毛で、ピアスを開けていて、怖い。でも、優しい声で聞いてきたので少し安心した。


「初めまして。古言 綾人です」

「俺の名前は櫻井さくらい あき。よろしく」


互いに自己紹介をする。思ったよりいい先輩だと感じた。この時は、ファイターになって不安なことが多かったから、改めて良縁に恵まれて良かったと思う。けど、心の中では、


(この人絶対強い)


理由は分からなかった。先程倒したエンティティとは比べ物にならない圧がある。不覚にも怯んでしまった。


すると、葵が櫻井先輩を訓練室に誘おうとする。


「櫻井先輩も訓練しませんか?」

「いいよ」


櫻井先輩からの了承を得て、三人で訓練室に向かう。訓練室は35階にあるらしいのでエレベーターに乗る。


「この建物でかいですねぇー」

「だって、178階まであるからね」

「でかすぎるだろ」


俺の疑問に、櫻井先輩はこう答えた。初めて見た時から、上が見えなかったが、そんなにあったのか。世界一高いブルジュ・ハリファ並に高いビルが短期間で出来た事実に驚いた。


「この建物は、建築向けの能力を持ったファイター達が三ヶ月で建てたんだよ。今や、人類はファイターなしでは生きられない」

「早いとは聞いていたが、そんなに早かったのか」


早すぎる。どうやら葵もこんな短期間で建てられたことは、知らなかったらしい。雑談をしていると35階に着いた。


「ここが訓練室」


見た感じは最先端で巨大なジムといった感じだ。奥に闘技場らしきものが見える。葵はやる気満々だ。でも、


「葵、先に俺と綾人で闘わせてくれないか?彼に、戦闘の基礎を教えたいと思っている」

「えぇ、いいですよ」

「お願いします。櫻井先輩」


闘技場に上がると、周りのプレイヤー達が集まってくる。【あの櫻井さんが!?】や【相手は誰だ】と言った声が聞こえる。どうやら、櫻井さんはあまりここには来ないらしい。

闘技場に立った瞬間、空気が変わった。さっきまでざわついていた観客の声が、遠くに引いていく。代わりに、自分の心臓の音だけがやけに大きく響いていた。

ドクン、ドクンと、


「最近は忙しかったからなぁ、全力でかかってきて」

「早速いきますよ」


軽い一言、それだけで警戒してしまう。腕に力を入れて形を変える。身体中が熱に焼かれるようだ。前屈みになって先輩を見つめる。何故だろう、近づく前から空気が歪む。


「なるほど、変化系か、いつでもかかってきていいよ、綾人」

「熱くないですか?先輩」

「全然。だって俺は…」


とても暑いのに平然としている先輩に対して、恐怖を覚えた。


「爆炎を扱う能力だから」


先輩の身体に白い炎が駆け巡っていて、先輩は微動だにしていない。次の瞬間炎が迫ってくる。腕を振りかざすが、炎は消えない。白炎が身体を包み込む。俺の炎より遥かに熱い。触れた瞬間、皮膚の感覚が消えた。白炎が全身を包んでいるのに、櫻井先輩は少しも揺れなかった。その異常さに、背筋が冷えた。


「ごめん。やりすぎた。生きてるー?」

「生きて…ますよ、先輩」


(なんだこの人は、強すぎる)、さっきのエンティティを瞬殺した炎がまるで効いていない。視界の端で、観客がざわついてるのが分かる。どうする事も出来ず膝をついていると、


「大丈夫?いきなり降参しないだけでも偉いよー」

「する訳ないでしょ、まだだ」

「熱に耐性があって良かった」


助走をつけて高く跳ね上がる。同時、穴という穴から炎が吹き出してきた。勢いと共に櫻井先輩に襲いかかるが、


「わかりやすい、高レベルの相手には、そのままじゃ当たらない」


二歩で、俺の渾身の力が外された。散った炎が当たるが掻き消される。足に力が入らず、踏み込んだ瞬間に膝が揺れる。体の内側から焼けるみたいだ。観客も先輩の炎に耐えられていない。呆然としていると、先輩が話しかける。


「能力はいい、でも、日が浅いから制御が上手く出来ていない」

「はぁ、はぁ」


先輩からの言葉はその通りだ。こんな攻撃当たる訳ない。白炎のせいで迂闊に近寄れない。一歩進んで先輩に襲いかかろうとする。諦めるわけにはいかない。その心と共に。


「まだだ!」


今度は炎を出さず、コンクリートの床を抉り、先輩に飛ばす。先輩は、


「良いアイデアだ」


そう言うと、白い炎でコンクリを焼却してしまった。離れていても熱を感じる。そうだ、これを狙っていた。走り出して、先輩に攻撃しようとする。それと同時、視界が晴れ、先輩の姿がはっきり映る。今だ!走り、先輩の懐に入り込む。


「はい、終わり」


足をかけられて、転倒する。受け身も取れない。まだ届かないのか。俺の肩を掴み投げ飛ばす先輩は、


「足元が疎かになっている。まだ、工夫が足りないよ」


吹き飛ばされた先で、着地する。体の中では熱以外に怒りの感情が芽生えていた。それは、弱い自分に対する怒り。全身に力を込める。


「う…あがあああ」

「やめろ!!綾人!」


俺の事を、制止しようとする葵の言葉を無視して、顔を変化させようとするが、半分変化したところで、力が抜けて倒れ込む。そこから先はぼんやりとしか覚えていない。


「初戦にしては頑張った方だよ、戦闘のコツは相手をよく見る事ね」

「強すぎる…」


葵がそう言った。周りから、【やっぱ、櫻井さんすげー】、【あの相手もやばいな】と言った声が聞こえたが、櫻井先輩の後ろ姿が見えて意識が途切れた。


「葵、さっきやる気に満ち溢れていたよね?やる?」

「いや、ちょっと遠慮します」


次に目が覚めるとベッドの上で寝ていた。目の前にいる葵から話しかけてくる。


「俺からしても頑張った方だと思う」

「そう、でも、勝てなかった」

「だってあの人は世界ランク11位のファイターだからな、今の状態じゃ絶対に勝てないと思うぞ」


そんなことを言われて納得できるわけがない。この時は、体を休める事しか出来なかった。鏡を見ると、腕と顔は元に戻っていた。


「明日も訓練のようだ、明日も櫻井さんが担当してくれるらしい」

「今度こそ勝つ」

「いや無理でしょ」


否定されてもいい、俺はもっと強くならなければ、焦りが、胸の奥で燃えていた。高レベルのディメンションを一人で突破する力、 自分の力を制御できる実感。それらを、身につけなければならない。


(こんなんじゃ、届かない)


先輩にも。綾奈にも。せめて、手を伸ばせるくらいにはならないと。


この時の俺は焦っていた。焦ったって意味ないのに。

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