ジュウゴ話 嵐の前の静けさ
「一様、攻略完了ですかね」
「そうだね、被害もこの山頂だけで済んだし、それにこの山を所有しているのは、委員会だからいいことにしよう」
俺たちは跡形もなくなった研究施設を見て、話した。煙が昇っていて、炎が舞っている。
「帰りましょうか」
「うん」
「ああ」
その場から離れて帰路についた。木々が生えた涼しい場所を横一列に並びながら、歩いている。帰宅までの道のりは少し長い。この流れで自然と会話が始まるのは当然だろう。俺から東條さんに質問をかける。
「東條さん、強くなるにはどうすればいいですか?」
「そうだね、自分の能力を分析して、使いこなせるようになるまで特訓して、ひたすらディメンション攻略することかな?」
「並大抵の努力では、あそこまでの強さは手に入らない。きっと大変だったでしょう」
感激しながら葵は呟いた。それに対して、
「そうだね。あ、そういえば灼くんは元気かな」
「先輩ですか? 元気ですよ」
二人は知り合いのようだ。
「じゃあ、今度一緒にレベル5、挑戦しよう」
「先輩にも伝えておきます」
「ありがとう」
葵は先輩に共同攻略の依頼を伝える事を約束した。そうすると、東條さんは少し微笑んだ。でも俺は、なぜこんなに嬉しそうにしているのか知りたかったから質問した。
「二人はどういった関係ですか?」
「数年ぐらい前、一緒にディメンション攻略したんだよ」
「へぇー、意外ですね、俺たちとパーティを組む前は、ほとんど単独攻略だったって聞いてましたけど」
「俺から話しかけたんだよ。そしたら互いに暇ができたら、会うような仲になって…」
意外と気さくな人なんだろう。それでもって強さも兼ね備えている。強い人はただ強いだけじゃなくて、他人を思いやる心まで持っているんだ。俺もこんな人になりたいな。
この時、俺の中で憧れの人物が増え、東條さんならいつでも頼れる。最初は緊張していたが、それもほぐれていた。ここまでの会話を葵は黙って聞いていた。だが、表情は明るかった。
こんなにいい雰囲気を壊したのは、突然出た金川の話題だ。
「はぁ〜金川、本当に残念だ」
「何か知っているんですか?」
落ち込む東條さんに質問をする葵。
「灼とディメンション攻略した時、あいつもいたんだ。その時はいいやつだったのにな」
「そんなことが、あいつはどのくらい強いですか?」
「ランクは28位。能力はふれた物体を腐食させる能力だった、でも、あいつは別の能力を使っていた」
信じていた人に裏切られるのは辛いはずだ。東條さんの心に負った傷が理解できた。力になりたいと思ったが、金川と俺では実力がかなり離れている。しかも未知の能力まで使うとなったら、今のランクより上だろう。役に立たないもどかしさが募る。
「あいつだけは絶対止める。相手は知り合いの違法能力者だ」
その言葉は決意が込められていた。次会う時まで強くならないと。じゃないとあいつは説得ができない。覚悟を決めた時、風が吹いた。
◆◆◆◆
数時間後。
本部に着いた俺たちは早速レポートを提出する。
「レベル5ディメンション、攻略完了ですね。お疲れ様でした」
受付の言葉を聞いて、次も頑張ります、と返してその場を離れて広場の椅子に座る。俺と東條さんは椅子に座っていて、葵は少し前に立っている。
スマホをポケットから取り出して、先輩に連絡メッセージを送る。
【攻略しました】
既読は直ぐにつかない。スマホをしまって、二人に話しかける。これからについてだ。
「これからどうしましょう」
「ディメンション攻略するしかないな」
「そうだね、翔太がいつ来るかわかんないし」
「そこら辺は、先輩達とも話し合いましょう」
「だな」
「ところで、君たちはレベル5に何回挑戦したことがあるかな?」
「一回です。こいつと、他のメンバーと一緒に」
葵が、俺の方を指を差してそう言った。
「もう少し増やした方がいい」
「でも死ぬかもしれません。ギリギリで倒せたから」
あの時は、一人でも欠けていたら死んでいた。つまり、運良く生き延びることができただけ。今の俺がそのレベルの相手と戦い続けていたら、命がいくらあっても足りない。
「無理ですよ、レベル4でも精一杯なのに」
「じゃあこうしよう、俺が一時的にハートリンクに入る。これならいい?」
「嘘でしょ、まぁいいですけど」
葵は少し驚きながら了承した。こうして話しているうちに入り口から先輩が入って来た。直ぐにこっちに来て、俺たちの会話に割り込む。
「遅れちゃった。レベル5はどうだった」
「実は…」
レベル5を攻略した時に起こった事の顛末を、全て伝えた。先輩は黙って聞いていたが、話している途中から怪訝そうな表情を浮かべていた。
「翔太がそんな…」
悲しみだけではなく、もっと複雑な感情を浮かべている。誰も口を出せない長い沈黙が流れたが、それを破ったのは本部中に警報音が鳴り響くサイレンだった。赤いランプが点滅し、職員達が慌ただしく走り出した。モニターには、【同時多発エンティティ災害】の文字が表示されている。それと同時、スマホの通知音が鳴った。
見ると、複数のレベル4ディメンションからエンティティが出て来たという緊急事態だった。
「皆さん行きましょう」
「わかった」
「ああ」
「急ごう」
先輩、葵、東條さんの順に俺の声に応じる。即座に駆け出して外に出ると、そこまで遠くない場所から悲鳴や爆発音が聞こえる。東側の方角だ。それとは別にここから少し遠いが、正面の方角でも煙が上がっている。
「俺は正面の方へ行きます。皆さんは別の所の対処をお願いします」
「俺も一緒に行こう」
「先輩…」
「二人ともあっちは任せたよ」
「任せろ」
「任せてください」
俺は羽を生やして飛び、先輩は四肢に炎を噴射させ、目的の場所まで向かう。
数分後。だんだんと景色が見えて来た。建物は倒れ、炎は舞い上がっている。人は見えないので、避難は完了しているらしい。
「あれは…厄介そうな相手ですね」
「うん」
地面に着地すると、建物を破壊しながら走り回るキツネみたいなエンティティがいた。背丈は俺らと同じくらいで、はっきりとしたオレンジ色の毛皮で覆われている。
俺と先輩は狙い撃ちしようとしたが、そいつは四方八方に飛び回っているせいで狙いが定まらない。
「燃え盛る弾丸」
「極小白色矮星」
技を繰り広げる。建物に命中して瓦礫が一斉に降ってきて、地面に衝突した際の砂埃で視界が封じられた。
「くっ」
先輩は中心にバスケットボール程の大きさの炎の塊を作り出した。俺は羽を広げて瓦礫をじっと見ている。
大きな振動。瓦礫が吹き飛ばされ、一部が俺たちの方へ向かってくる。だが、無意味だ。
「風圧」
風を吹かせ、瓦礫を全て除去する。飛んで行った瓦礫の一部が、エンティティに当たったのが見えた。キュウン、という鳴き声を上げ怯むエンティティ。
「今の技またやってくれる?」
「はい!」
先輩の合図と同時、技を繰り出した。
「風圧」
「紅炎球」
白炎の塊が風の勢いを合わせて飛び出した。それをエンティティは大幅に横にずれて躱す。しかし、
「ここからが見せ場だよ」
炎の球は外れたかに見えた。だが先輩が指を鳴らした瞬間、空中で膨張し、爆風が全方向へ広がり、回避したはずのエンティティを飲み込む。エンティティは咄嗟に防御の姿勢をとったが無意味。爆発音が鳴り、辺りは炎に包まれる。あんな攻撃、躱せるわけない。
視界が開くと、光を放ちながら炭になったエンティティらしき物体が見えた。その光がこっちに来たので自然と浴びる。
「レベル4を瞬殺…凄すぎます」
「これぐらいは朝飯前だよ」
「えぇ…」
「次の場所に向かおう」
「はい!」
圧倒的な力を見せられた後に生まれた感情は、感動というより嫉妬だった。この人は俺なんかと比べ物にならないくらい努力しているはずなのに、それでも負の感情が出てしまった。こんな思いをしないために俺は強くならないと、この人を超えられるくらい。
「何してるの? 置いていくよ」
「直ぐに追いついてみせますよ」
俺は再び空を飛び、次のエンティティ発生場所に向かう。この時俺たちが知らない所で、良からぬ存在が暗躍していたんだ。
◆◆◆◆
遠く離れたビルの屋上。そこに立つ二人の人物。
「あれが櫻井 灼か」
「横にいる奴も手強そうだな」
「だが、関係ない。命令を遂行するだけだ」
林が冷たく言葉を発した。二人の瞳が、空を飛ぶ綾人達を静かに見つめていた。




