サバイバル
「イヤだ!ムリだよ、私じゃムリ!」
パウルは黒いスーツの男二人に両脇を抱えられてイシドール・ラチエ博士の研究所へ訪れた。
「ああ、ブルック専務が魚を一匹プレゼントしてくれるって言ってたんだよ、そいつはなかなかデカイ魚だな」
紙たばこを吸いながらラチエ博士はブルック専務から報告を受けたことを明かした。
博士は何も驚かず、そこに突っ立っている。
抱えられた男にまるで同情する気がないようだ。ボスからの命令で動いている男たちはパウルを椅子に縛りつけた。
金属の鎖が重く体に圧し掛かる。パウルは身動きが取れない。
「別に諜報員の女が逃げたことを隠していたわけじゃない!報告が少し遅れただけだ!」
パウルが叫ぶ。
自分の失態を隠し、女が監視の隙をついて逃げたかのように振る舞う。
ゲレーテ・ヘンラインの演技に乗せられて、迂闊にも新薬のNeon Dustを服用した際に逃げられたことは口が裂けても言えなかった。
3日後にボスが抱く予定でパウルに「手なづけておけ」と命令を下したはずなのに、いつまで経っても「女が堕ちました」の連絡が来ない。
不審に思い、近辺調査として部下を派遣してみればSSBRの宿泊室にゲレーテ・ヘンラインは滞在していなかった。味見するはずだった上玉の女がいない。
「どういうことだ?」
ボスの不機嫌な顔に冷や汗を流す部下たち。
パウルは取り返しのつかないところまで来てしまった。異質な空気の研究所、脳が入った瓶がテーブルに3つ並べられている。ケーブルやチューブが繋がっているのを見ればそれが生きている感じはする。
(この博士は確か脳科学とロボット工学で有名だった気がするが・・・恐ろしい)
今から自分の身がどうなるのかまったく予想がつかない。
「パウルだったかな?快楽と苦痛、どっちが好きだ?」
おもむろにラチエ博士が質問する。
(なんだ、この人・・・ヤバイじゃん!)
パウルは諜報員をドラッグを使ってSEX漬けにする職務をやっていたが自分ではまともなつもりだった。
元はSSBRの営業マンとして活躍し、武器や兵器を国を相手に売ることが生業で他国に安く武器や兵器を卸すこともあった。
明るく爽やかな青年は社内でウワサされる”諜報員を貶める仕事”の話を耳にしたときに人生でもっとも興奮していた。
「都市伝説だろ?」と半信半疑になりつつも営業部の上司と話しているときに「それは本当だよ、あるよ。ウチのライバルは多いからね」とさらっと言われた記憶が今も残っている。
たまたま営業部の上司に誘われて行ったゴルフコンペティションで工作課の課長と意気投合し、そのコネを使って『諜報員対策係』に所属することが決定した。
初日、上司と一緒に宿泊室に行くと上司がパウルに「待て」と制止する。
『なんだろう?』と思っていたら台車に載せた朝食を上司が見つめ、おもむろにポケットからNeon Dustを取り出すとドリンクの中に3粒入れた。
それを見てパウルは引いてしまった。
「この人、マジか!?」
しかし、それはまだ営業マンとして社会の表側でしか仕事をしたことがない青二才の発想に過ぎなかった。諜報員の中には暗殺を専門とする女も存在している。
それはライバル会社の存続に関わるほど大きな意味を持っていた。上司がドアを2回ノックしてカギを開けて中に入った。その後ろに青二才のパウルがついて行く。
部屋は薄暗く奥の部屋から女の喘ぎ声が聴こえてきた。
「なんてスゴイ仕事なんだ!」
その瞬間が脳裏に焼き付いた。諜報員の女はSSBR本部の部長に近づき、正体を見破られここに監禁されている。
いわゆるハニートラップだ。上司が部屋の灯りをつけるとそこにはプライベートでは絶対に抱けないほどの美貌を持った女が全裸でオナニーしていた。
「これは現実なのか?ほんとに信じられない!」
ベッドの横に台車を置くとその女は朝食を貪り食べた。
そして、ドリンクを飲んだ後に痙攣を引き起こす。
ベッドの上にエビ反りになってピクピクと痙攣している。
体の中を快感が伝っているのが目で見てもわかる。女は脈打つような快楽に溺れていた。
上司が服を脱いで女を抱く。髪を引っ張り、乱暴に扱う姿を見てパウルはまた興奮した。
「こんなイイ女を乱暴に扱っている!」
上司は抱き終えると服を着て「あとはお前がやれ!」と言って部屋をあとにした。
パウルの理性は飛び、ケダモノのように女を抱いた、何度も・・・。
ずっと興奮状態のまま女を抱いているうちに自分がいかにSEXが下手だったかを思い知らされた。
抱き終えて台車を押して部屋を出ようとすると女のほうから「明日も来るんでしょ?」と言われて「こんな仕事、こんな毎日があっていいのか?」と舞い上がった。
それから数日後、新たに身柄を拘束して宿泊室に監禁された諜報員のところへ向かった上司は首にコップの破片を突き刺されて死亡した。
大量出血の末に息を引き取ったそうだ。ほぼ即死だったという。
そこでやっとパウルは理解した。夢のような職業ではなくここがサバイバルなのだと。
つまりゲレーテ・ヘンラインは、そのサバイバルの勝者である。パウルは敗者となった。
SSBRのトップから失望され、会社からの信用がなくなり行き着いた先が狂人が棲む研究所・・・。
「私の人生は一体どうなってるんだ?」
ラチエ博士は装置を取り出し、パウルの脳波の測定を開始した。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/ned5166acc311?app_launch=false
画像はnoteに置いています。刺激強いです。




