異端児の才気
研究所の一番奥の研究室でラチエ博士が冷凍庫から瓶に入った脳を取り出していた。
2つ、3つと並べてケーブルとチューブをつないでいる。
Small SERAPHがそっと後ろから近づき博士に声をかける。
「あんた、懲りてねぇな。まだそんなことやっていたのか?」
声に驚いてラチエ博士は手元の瓶を落としそうになった。
「おっと、なんだ?誰だ?アンドロイドのようだが私に何か用か?」
突然現れた来客に驚きと戸惑いを見せていた。
この博士、とぼけているが警察の特攻か何かと勘違いしたのだろう。
玄関のドアを破壊したがその音は、ここには届いていなかったようだ。
「博士、久しぶりだな。オレだよ、フロランだ」
Small SERAPHから発せされた声の主がフロランだということがわかり博士は少し安堵した。
「なんだ、お前だったのか?どうした。SSBRに偵察に行ったきり戻って来なかったな。疑似現実にいるAIの私に確認したところSSBRに拘束されたと聞いていたが・・・何かあったのか?」
心配そうな素振りを見せているがこの鬼畜に人を心配する心があるわけがない。
表面的にそのように装っているだけなのだ。
(なによりその証拠にオレが戻らないと確信して、次の実験体を冷凍庫から取り出しているじゃねーか!)フロランは言葉にしなかった。
言葉で責めれば、それらしい答弁を並べるか、逃げ出すのはわかっている。
「まぁそんなことはどうでもいい。博士には一緒に来てもらいたい場所があるんだよ」
フロランが博士に近づくと、博士はSmall SERAPHに乗り移った野生動物のような魂を感じて怯んだ。
「こっちに来るな!近寄るんじゃない!」
思わず咄嗟に出た言葉は、何か月もSSBRに拘束されていた相手を思いやる言葉ではなく自分を守るための言葉だった。まるで吠える犬に近づくなと言っているような雰囲気さえあった。
「なるほどな、それが答えか」
Small SERAPHは博士にゆっくりと近づく。
そして、右肩を一突きした。
小型装甲ロボットが手に持ったブレードから血が垂れ落ちる。
博士は激痛に顔をこわばらせて悲鳴をあげた。
「あああああ!痛い!」
右肩に刺さったブレードは抜けず、博士はジタバタするがSmall SERAPHが動く気配はなかった。
「念のためだ!」
ラチエ博士の膝にもブレードを一突き入れた。
「うおおおお!ぐうううう」
右肩と左膝からどんどん血が流れ出る。
一方、研究所の外ではSERAPH-07が特殊部隊によって囲まれていた。中に人が乗っていると思っている彼らは催涙ガスや煙を通気口から流してきたがフロランには効かなかった。
隊員が隊長に言う「さっきから全然動きませんね」
フロランは特殊部隊に囲まれていることはわかっていたが相手にする気がなかった。
別の隊員が研究所のドアが破壊されていることに気づいて隊長に声をかける。
「隊長!この施設のドアに破壊された跡があります。もしかして装甲車両のパイロットが中にいるのでは?」
隊長もさっきから装甲車両が動かないことが気がかりだった。
「よし、ふたり中へ突入しろ。あとは待機だ」
6人の内のふたりが研究所へ潜入する。
用心深く通路を進み、奥へ奥へと進む特殊部隊の隊員のふたりは突然、目の前に現れた小型装甲ロボットに驚きひとりが銃を撃った。もうひとりが「待て!」と制止する。
よく見ると小型装甲ロボットの背中には白衣を着た男がロープで括りつけられ白衣には血がにじみ、ただ事ではないことがひと目でわかった。
一瞬、Small SERAPHは動きを止めたが特殊部隊のふたりとすれ違う瞬間に、手を広げてブレードをふたりに当てて切り裂いた。
「うぉっ!」と叫んでふたりともその場に倒れ込んだ。
Small SERAPHの脚は車輪になっている。瞬間的に時速40キロまで加速できた。
狭い通路でブレードを振り回されては、特殊部隊といえども避けられるはずがなかった。
銃声を聴きつけた外に残った特殊部隊の隊員4人が研究所の入り口で銃を構えて待機している。
隊長「来るぞ!煙幕弾を投げ入れて、出てきたところを撃て」
特殊部隊が必死に戦っている姿を見て、フロランは懐かしんでいた。
(まぁしかし、今Small SERAPHを壊されるわけにはいかねーな。残念だがあの4人は倒さねーとな)
Small SERAPHとは比べ物にならない起動音を発しながらSERAPH-07が動き出す。
物陰に隠れた4人の特殊部隊にSERAPH-07はパンチを繰り出した。
「隊長!危ない!」
隊員の叫び声と共に2人がSERAPH-07のパンチをかすめ、ふっ飛ばされた。
突然、動き出したSERAPH-07に隊長たちは困惑した。
SERAPH-07の中に乗っていた人物が研究所の中で暴れていると思っていたからだ。
(じゃあ施設の中であった銃声はなんだったんだ?誰と遭遇した?)
Small SERAPHが研究所から博士を連れて出して、すぐさまSERAPH-07の機体後部にある可動蓋から中へ飛び乗った。
フロランの目的はすでに終わっていた。
SERAPH-07の装甲が光を屈折させ、巨大な機体は空気の中に溶けるように透明になった。
特殊部隊の隊員たちには車輪の音だけが聴こえ、装甲車両の姿は見えていない。
隊長「どこに行った?」
隊員「・・・」
帰りは静かに何事もなかったかのように姿を消したままSSBRへ帰って行った。
途中でパトカーとすれ違ったが誰も気づくことはなかった。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/n9850ae59bea3?app_launch=false
画像はnoteに置いています。




