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第6話「あなたの隣に……」

第6話目になります。本日はこちらで最後の投稿にはなりますが、楽しんで頂ければと思います。

   第6話「あなたの隣に……」


 ここはどこだ? 俺は確かジャルガンと戦っていたはずじゃ?


 俺は朦朧とする意識の中で、重たい頭を上げた。そして、それを見た。今まさにアリスがジャルガンに挑んでいるところを。


 やめろ、アリス。お前じゃそいつは倒せない。

 

 そう口に出したいが、俺の口は何も言葉を発しそうにはなかった。


 アリスは手数で勝負しているみたいだが、どんなに多く攻撃を打ち込んでも、ジャルガンは簡単にあしらっていっている。


 アリスを助けに行きたいのに、体どころか指一本も動きそうにはなかった。


 くそっ! 動け動けよ! 目の前で無謀な戦いに挑んでいる女の子がいるんだ! ここで動かなきゃいつ動くって言うんだよ!


 俺は自分を叱咤し体を動かそうとするが、それでも体は糸が切れたかのように動いてくれない。


 俺がそうしている間にも、アリスとジャルガンの戦いは終局を迎えようとしている。


 アリス! 絶対にお前を殺させてたまるか! お前はきっとこの戦いが終わった後、死ぬほど謝ると思う。だけど、悪いのアリスじゃないんだよ! そうせざるを得ない状況を作ったあいつが悪いんだ。だから、アリスはこんなとこで死んじゃ駄目なんだよ。俺は何のために力を解放した。アリスを護るためだろうが! だから、動け動けよ!


 俺が葛藤していると、それをあざ笑うかのようにジャルガンはあの言葉を口にした。


覚醒(ウェイク)!」


 俺を斬った光線剣を作り、それでアリスの命を絶とうとしている。


 させてたまるかよ! くそったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!


 俺は全神経を集中させて一気に立ち上がる。体中が焼けるように痛い。だけど、彼女を守れるのならそんな痛み何て耐えてやる!


 そんな俺の気持ちに応えるかのように、俺の頭の中には一つの単語が現れる。俺は直感的にそれを叫んでいた。

 

解放!(リベラシオン) 守護者!」(ガルディアン)


 すると、次の瞬間、俺たちを護る盾が出現する。俺はその間にもアリスを庇うようにして立ち、その盾でジャルガンの攻撃を防いだ。


 

『そうよ。優人。【解放】は言わば魂の力。あなたが本当に護りたいと思った時にその力は解放される。但しそれなりの代償は必要だけどね』


 俺の耳元にそんな声が響いた気がした。


 代償か。いかにもあの女神が好きそうな言葉だ。しかし、今はそんなこと関係なかった。アリスを守れるのであれば。そんなことを考えていると、「ユート」と呼ばれた気がした。


 俺は後ろに振り返るとそこには瞳を大きく見開くアリスの姿があった。そんなアリスに俺はニカッと笑いかけてやる。次第にその瞳には涙が溜まっていく。


 頭を撫でてやりたい衝動に駆られたが、今は目の前の敵だ。


「アリスは絶対に殺させはしない! 俺が絶対に護る!」


「邪魔しないでくれるかな! この死にぞこないが!」


 ジャルガンは怒り任せ光線剣を振り回してくる。


「守護者!」


 俺はその攻撃を具現化させた盾で防いでいく。その途中で傷の痛みや【解放】を使った代償でか意識が飛びそうになるが何とか踏みとどまる。


「ああっ! 鬱陶しい盾だな! これで壊れろよ!」


 ジャルガンはよほどイライラしていたのか、かなりの大振りな感じで剣を振り下ろしてきた。大振りな攻撃は確かな隙が生まれるのにも関わらず。そして、その攻撃は勝負を決定付けるには十分だった。

 俺はその攻撃も盾でガードし押し戻した。その際に盾も一緒に消滅してしまう。しかし、役目は完全に果たしていた。一気にダッシュしてジャルガンとの間合いを詰めた。ジャルガンも俺を斬ろうと剣を戻そうとするが、遅い。


「今までやってきたことを後悔しながら死ねよ!」


 俺は剣を脇腹に突き立てると再度叫ぶ。


「解放!」


 剣の先から冷気が流れ出し一気にジャルガンを凍り付かせた。


***********************


 終わった。完全にこれで終わったのだ。


 そう思った瞬間、疲れや傷の痛みやらで動けなくなってしまい地面に倒れ込んだ。何よりも、【解放】を使った代償が一番きつかった。かなりの精神力を消耗したため、意識を保つのがやっとの状態まで追い込まれていた。


「ユート!」


 今まで見ていたアリスがこちらに駆けてやってくる。


「ユート、大丈夫なのですか?」


「ああ、何とかな」


 俺は手を上げて動かそうとしたが、今度こそ体は指一本も動きそうになかった。


「ユート、ごめんなさい、ごめんなさい」


 アリスは思った通り泣きながら謝罪の言葉を繰り返した。


 まったく、こいつは。何も悪くないと言うのに。


「なあ、アリス。俺の話を聞いてくれるか?」


 アリスは泣きながら頷いてくれる。


「俺さ、ある意味じゃアリスの罠に引っかかって良かったて思ってる」


「どうしてですか? そのせいでユートはこんなにひどい傷を負ったんですよ!」


 アリスは俺の胸を指さしながらそう泣き叫ぶ。かろうじて血は止まっているが、肩から腹にかけては一筋の切り傷が刻まれていることだろう。


「それだったら、アリスの傷は誰が癒してくれるんだ?」


「私はユートが守ってくれたおかげで傷何て負っていません!」


「外傷の話をしてるんじゃなくて、アリスの心の傷の話をしてるんだ!」


 俺の言葉に、アリスの薄桃色の瞳は揺れに揺れていた。


「きっと、誰かがこうしていなかったら、アリスは今でも自分の感情を押し殺してあいつの指示に従っていたと思う。弟の死を知らないまま。だけど、何とかアリスの感情が消える前にその呪縛から解けてあげた。アリスの心を救うことが出来たのは良かったって思う。そう考えると、こんな傷ぐらい安いもんだと俺は思うんだ。アリスを助けることが出来て俺は本当に嬉しいんだ」


「どうして、そこまで私のことを想ってくれるんですか? 会って数日しか経っていないのに」


 俺は少し考えてから口を開いた。


「違和感があったんだ。最初に飯屋で会話していた時、アリスは心から笑っていたような気がしたんだよ。アリスが俺が牢屋に囚われている時に、自分を恨み続けて死んでくださいって言った時との温度差って言うのかな。それに何となく違和感を感じたんだ。あんなに月を見ているような優しい笑顔が似合う子がどうして、こんなことをって。まあ、もしかしたら中にはそういう子もいるかもしれない。だけど、アリスは違うってそんな気がしたんだ。俺はそのもしもの可能性に賭けただけ。けど、実際良かったよ自分の直感を信じて。君を救うことが出来て」


「ユートは本当に大バカ者です」


「はは、かもしれないな」


 アリスはそう言うと、立ち上がる。


「ユート、助けを呼んできますのでしばらく待っていてもらえますか?」


「でも、君は賊の一味ってことがばれてるんじゃないのか?」


 そうだ。アリスが誘き寄せていたんなら、顔バレしていてもおかしくはないんじゃないのか?


「いえ、大丈夫です。幸いここではあなたが最初のターゲットでしたので。だからと言って、私がやった罪が消えるわけではありませんが」


 落ち込んだ様子を見せるアリスに、俺は少しでも元気を付けたくてこう口に出した。


「だったらさ、俺が動けるようになったら一緒にお墓を作ろう。少しでも亡くなってしまった人が安らかに眠れるように」


 俺の提案にアリスは嬉しそうに頷くのだった。


***********************


 あれから1週間が経った。


 あの後、アリスが連れてきてくれた人が、動けない俺を運んでくれてすぐに町医者の所に連れて行ってくれたため、俺は何とか一命を取り留めることが出来た。

 医者の話だとあと少しでも遅れていれば本気でやばかったらしい。


 そして、何とか動けるようになった俺はアリスとの約束を果たすために、森の外れに来ていた。

 ここに遺骨などはないが、ささやかなお墓を作りアリスと2人で死者を弔ったのだ。


 アリスはしばらくの間、ずっと祈り続けていた。きっと、亡くなっていた弟のことを想っているのだろう。


 アリスのそんな姿を見て、俺は無意識のうちに拳を握っていた。ジャルガンは、アリスを利用するために、弟を殺したことをずっと黙っていた。そして、アリスはその事実を知らず、ずっとジャルガンに利用されていた。ここでその輪廻を断ち切れたのは本当に良かったと、俺はアリスのその小さな背中を見ながら思っていた。


「リーゼ、どうか安らかに眠ってください。それにお父さんもお母さんも。それに今までに血を流させてしまった人たちも。都合の良い話かもしれないですし、許してもらえるなんて思ってないですけど、私はあなたたちの命の重みを背負いながらこれから先、生き続けます。だから……だから……今はいっぱい、いっぱい……ごめんなさい」


 アリスは墓地に向かって謝罪の言葉を繰り返すと、声を上げて泣いていた。その姿は、姿相応の少女の姿だった。

 俺はそんなアリスを気が済むまで泣かせていた。だって、きっとアリスはずっと涙を我慢していただろうから。今はただ泣かせてあげようとそう思ったのだ。


***********************


 しばらくして、アリスが泣き止んだので、俺たちは帰路についていた。


「ユート、この度は本当にありがとうございました」


 街に帰る途中で、アリスが俺に向かって頭を下げてくる。


「私はユートのおかげで自由になれましたし、家族の死を受け入れて前に進める気がします」


 アリスはそう言って笑顔を作った。泣きはらした目は赤く腫れてはいたが、その笑顔は今まで見たアリスの笑顔の中で一番綺麗でかわいいと俺は感じていた。


「なら良かったよ。本当に」


 俺はアリスにニッと笑いかける。


「それで、ユートはこれからどうするのですか?」


「ああ、大宮殿を探そうと思ってる。俺はそこに行かなきゃいけないからな」


 俺は当初の目的だった場所を口にする。そうだ、俺はあの女神に言われた通り大宮殿を目指さなければいけないんだ。


 俺がそう口にすると、アリスは「そうですか」と小さく呟いた。


「それよか、アリスはどうするつもりなんだ?」


 俺はさっきから気になっていたことを、アリスに問いかけた。今までのアリスは盗賊【プランドラー】のアリスだった。しかし、今はもうただのアリス・バーリエルなのだ。自分の生き方は自分で選べるのだ。


「私は……私は……」


 アリスはしばらく考えた後、顔を真っ赤にしてこう言ったのだ。


「私はこれからはずっとユートのそばにいたいです! だから、もしよろしければ、私を一緒に連れて行って下さい!」


 思いがけない言葉に、俺は最初驚いてしまうが、だけどアリスが一緒にいてくれるのはものすごくありがたいと思ったので俺は頷いた。


「ああ、アリスが良いんだったら一緒に来てほしい」


 俺の言葉にアリスは「本当ですか!」と喜びを露わにしていた。かわいいやつめ。


「そんじゃ、改めてよろしくなアリス。俺は桐川優人、15歳だ」


「改めてよろしくお願いしますユート。私はアリス・バーリエル、13歳です」


 やっぱり、年下だったのか。だけど雰囲気だけは13歳に見えないんだよな。もっと大人びて見えた。


 俺はそう思いつつも、アリスと握手をした。


「あっ、そうですユート。ちょっと屈んでもらえますか」


 アリスに言われたので、俺はアリスの言う通りにする。


 すると、アリスは驚くことに、俺の唇に自身の小さな唇を押し付けてきた。すなわち、キスしてきたのだ。


 突然のアリスの行為に、俺の頭はスパークしてしまう。


「あっアリス!」


 アリスが離れたのを確認するや否や、俺はすぐさま声を上げた。


「そう言えば、助けて貰ったお礼をしていなかったので」


 アリスは顔を赤く染めながら、そんなこと言ってくる。かわいいし、言っていることは分かるのだが、どうしてキスなのかは分からなかった。


「お礼は嬉しいけど。キスはまずいだろう。それこそ、それは本当に好きな人に取っとかないと」


 と俺は言ったのだが、


「私はユートのことが大好きですよ」


 アリスから思わぬカウンターを食らったのだった。



 


 


 

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