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第1話「異世界【ニルヴァーナ】」

新シリーズ始めました!

このお話は、異世界に転生された主人公が、その異世界で様々な困難に立ち向かいながら、【大宮殿】と呼ばれる場所に目指す物語です。

   第1話「異世界【ニルヴァーナ】」


 白刃の切っ先が、俺の頬をかすめた。その際に頬には一筋の赤い線が刻まれる。


 俺――桐川優人(きりがわゆうと)は、自身の持っている片手直剣(ロングブレード)で、振り向き様に横薙ぎに払うと人型のモンスターは苦悶の声を上げた。が、まだ倒れるまでには至らずその獰猛に開かれた目を血走せながら、俺に向かって愚直とも思える突進攻撃をしかけてくる。


 しかし、いくら愚直と思える攻撃だとしても、追い込まれたモンスターの最後の攻撃は油断してはならない。その油断を逆手に取られ一気に形成が逆転する可能性も十分に含まれるからだ。


 人型モンスター【トカゲロード】は、自身が持っていたシャムシェールを人間の急所を正確に突くように放ってくる。

 俺はそれを下からの斬り上げで軌道を反らして回避し、がら空きになった体に拳を打ち込んで怯ませると、そこに今度は斬り上げた剣をそのまま振り下ろすような形の斬り下げで、モンスターの胴体を袈裟斬りにした。

 そこでモンスターの命の線は切れ、最後の雄たけびを上げながら血飛沫を流し地面に倒れ込んだ。


 俺は剣に付着していた血を振り落とすように、空に一度剣を振ると背中の鞘に剣を戻した。


 この世界に来てもう2年か経つのか。何だか、こっちの世界で暮らしていたことが当たり前な気がしてならないな。


 俺はそう考えながら、帰路に就くことにした。


 そう、この世界に来て2年という時が経過していたのだ。


***********************


 俺はあの時のことを今でも鮮明に覚えていた。


     ――――2年前――――


 俺はごく一般の男子高校生だった。特に変わったこともなく、普通の共学高校に進学してそこで普通の高校生活を送ってはいたのだが、一つだけ俺は他の人と違うことがあった。

 それは、どこにいても俺は誰とも関わらなかったことだ。学校では誰とも群れず、さらには家でも家族とはあまり会話をしていなかった。それぐらいに、周りの大人や同級生との関わりに嫌気がさしていた。


 俺のことを偏屈だの、変わり者だの言う奴は少なからずいるだろう。しかし、そんなことを言われる筋合いは俺から言わせればないと言いたいのだが、人間不思議なもので、いくら自分の考えが正しいと思っていても、当たっていたとしても、周りの人間がそうじゃないと口々に口にすれば、自然とそちらに合わせてその考えを押しとどめてしまう。そして、そこでも、押しとどめず突き通そうとすると自然にその輪から外れやがては孤立していく。

 かくいう、俺もそうだった。最初は周りに合わせてそれが正しいんだろうなと漠然と考えていた。しかし、ある時を境にそれは違うだと思い改めて考えてみると、周りの言っていることは何かが違うと思えてきたのだ。

 両親が話すこと、学校での友達同士の何気ない会話。その全てがどこかに虚言があるのではないかとさえ思えてきてしまい、そう考えたら止まらず気が付いたら俺は孤立して行っていた。


 虚言に彩られた言葉を持って関係が築かれているのであればいっそのこと、そんな関係何てなくていいと考えたことさえあった。

 そして、そんな日々が繰り返されるもだとずっと思っていた。あの時までは。


 その日も俺はいつも通りの日常をこなして、家に向かって歩いていた。同然、一緒に帰るような相手はいなく俺一人でだ。


 俺は電車通学だったので、()()()()()()()電車に乗り込んだ。そう、いつもと変わらず家に帰るために乗り込んだのだ。


 俺が驚愕に見舞われたのは数秒後だった。


 俺は家に向かうために帰りの電車に乗り込んだ筈だった。しかし、俺の目の前に広がっていたのは、見慣れた車内とかではなかった。目の前にはあまりにも現実離れした光景が広がっていたのだ。

 例えるならば、何と言えば良いのだろうか。ゲームなどで出てくる天国な感じをイメージしてもらえれば良いのだろうか。とにかく、そのような光景が俺の目の前には広がっていたのだ。実際、天使やら神やら女神が今にでも舞い降りてきそうなほどの神秘的な光景だった。


 俺がそんな感想を抱いていると、バサッと何か翼のような音が聞こえてきた。そちらに視線を向けると、そこには()()がいた。比喩とかそんなものではなく、本物の女神がいた。


 へぇ、女神さまってこんな綺麗な金髪ブロンドの女性だったんだ。


 俺は場違いな感想を抱いてしまう。だって、女神さまがまさか、現れた事も驚きだが、何だかゲームやラノベ、マンガなどで想像されている女神さまの姿とあまり変わらない姿で出てきたのだから、それはそれで驚かない方がおかしいだろう。


 俺をどこか観察するようにサファイアブルーの瞳が俺を見てくるが、俺のことを少し観察した後、その女神さまは口を開いた。


「あなたは、自分の人生に絶望したことはある?」


 突然の問いかけに、俺は戸惑ってしまうものの俺は正直に答えた。


「あるよ。てか、今も絶望中だ」


「あら、それは良かった」


 俺の答えに女神さまは満足そうに微笑んだ。その微笑みは見る者を魅了しそうなぐらい美しいと思える微笑みだった。


「それじゃあ、次の質問です。あなたは、この世界に生まれたことを後悔している?」


 この世界に生まれたことを後悔しているか。後悔しているかしていないかと言われれば後悔しているかな。


「ああ、後悔しているかな」


「それじゃあ、最後の質問。あなたは、生まれ変わりたいと思う? そして、このクソみたいな人生をやり直したいと思うのかしら?」


 もし仮にやり直せるとしたら、やり直したい。こんな虚言に塗れた世界じゃないところに。


「ああ、やり直したいよ。今度こそ本当のつながりを知りたい!」


 それは俺の渇望とも思える欲だった。俺は心から信頼できる人と人生を歩んで行きたいんだ。今度こそ。


「なら、あなたに生まれ変わる機会を与えましょう。しかし、それは代償を持って生まれ変わることを理解しなさい」


「代償?」


 いきなり言われた代償と言う言葉に、俺は首を傾げてしまう。


「あなたには、これから別の世界で生きてもらいます。ですが、あなたにはそこでやってもらうことがあります。あなたには目指してもらいたい場所があるのです」


「目指してもらいたい場所?」


「ええ、あなたにはこれから【ニルヴァーナ】と呼ばれている世界に言ってもらいます。そして、そこにある【大宮殿】を目指しなさい」


 ニルヴァーナって、確か宗教とかそんなような考えじゃなかったっけ?


 俺はぼんやりと思いながら、女神さまの聞き返す。


「その大宮殿を目指さなければいけない理由は?」


「それは教えることは出来ないわ。とにかく、あなたは大宮殿を目指さなければならないわ。しかも、3年以内に」


「3年以内に? どうして期限付きなんだ?」


 俺がそう聞くと、女神さまはどこか楽しそうにしかし、口にした言葉はどこまでも残酷な一言だった。


「3年以内に辿りつけなかったら、あなたは死にます」


 さすがの俺もその言葉には驚きや動揺を隠せなかった。


 どうして、3年以内に辿りつけないと死ぬんだ? 


 そう思う反面、3年という月日があれば大宮殿に辿りつけるのではないかと思う自分もいるのは事実だった。


「さあ、行きなさい。女神【――――】の名において命じます」


 女神の名前の所はノイズがかかったかのように、聞き取れなかった。しかし、次に言葉で俺の運命は大きく変わり、動き出したことを意味していた。


「桐川優人、あなたは【ニルヴァーナ】に赴き、そこで大宮殿を目指しなさい。そして、そこであなたの運命は大きく変わることでしょう」


 次の瞬間、俺の目の前は真っ白な光に包まれた。


「女神の加護があなたにあらんことを」


 意識が途切れる寸前、俺の耳にはそう聞こえた気がした。




 気が付いた時には、俺は平原と呼べばいいのかそんなところにいた。見渡す限りの草と地面が広がり、そして、背中にはいつの間にか青い剣を背負っていた。


 『女神の加護があなたにあらんことを』


 意識が途切れる瞬間の言葉を思い出していた。もしかしたら、この背負った剣はその女神の加護とやらなのかもしれないな。


 俺はそんなことを考えながら、歩き出した。


 こうして、いきなりの期限付きでの異世界生活が始まったのだった。


***********************


 あの名前も分からない女神に、ここに飛ばされて2年が経つが、未だに俺は大宮殿に到達できていなかった。到達するどころか、その大宮殿のありかさえ分かっていない状態だった。


 3年以内に到達出来なければ死か。でも、正直な話、これって3年経たなくても死にそうな経験があったけどな。


 先ほど、戦っていた通りこの世界にはどうやらゲームなどで良く見るモンスターが出現する。そして、そのモンスターは人を襲う習性があり、こうしてモンスターに見つかった瞬間、逃げるか倒すかの二択を要求されるのだ。ちなみに圧倒的に後者の方が多くなるため、戦えない者は不用意にモンスターが出る所には近づかないことになっている。


 残り1年か。この1年で到達できなければ俺は死ぬ。


 そう考えた瞬間、俺の体はぶるりと震えた。 

 

 まさか、生まれ変わりたいと思っただけなのに、その代償が期限付きの自分の死を差し出せと言われるとは思わなかったからだ。あの女神は悪魔なのではないかとも思えてしまう。


 俺はそう考えながらも帰り道である林道を歩いて行く。その途中で、森の中から鹿型のモンスター【アレーニ】が姿を見せた。頭に生えている巨大な角から放たれる突きは、一撃必殺級の威力を持つ。しかし、あれさえ気を付けてしまえば、簡単に狩れるモンスターではあった。


 ちょうど、良いや。あれを手土産に持って帰ればあいつも喜ぶだろし。


 俺は鞘から剣を抜き去ると、地面を蹴って一気に斬りかかった。


 



 

面白いと思って頂けましたら、ブックマークや評価のほどをよろしくお願いいたします。

また、ただいま連載させて頂いている「人生が余りにもクソだったので、とりあえずネット小説を書いてみた」もよろしくお願いします。


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