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十一 八日目 相愛と亀裂と献身 土曜日

 「ソラ.......大好き.......」


 念願の姫路さんとのデート日早朝。ちゅんちゅん小鳥が泣いている時間帯。

 俺の右腕を抱きまくらがわりにむぐむぐ気もち良さそうに四肢を絡めながら寝ているリスティーの寝言で目を開ける。


 昨日からリスティーとの契約により布団を共にすることになったのだが.......

 

 「寝れるか!!」


 俺はリスティーを剥がして布団からはいでる。

 一睡も出来なかった。


 男子高生だと言っているのに!

 普通より可愛い銀髪の外国人系美少女に寝息をかけられ腕に抱き着かれその上甘い声で俺の名を呼ぶのだ!!

 色々な意味で寝れやしない。


 でも一夜は頑張った、リスティーとの約束を破ってしまえば不幸を被るのは俺でなく隣でスヤスヤ安眠を貪るネネだ。

 

 俺は眠るネネの頭を撫でながら思い出す。

 昨日、彼女の人生を四億で買った。それで今後の人生で彼女が作れないという地獄の様な契約を血印まで押さされたがそれでも、ネネの安らかな寝顔を見ると安い物だったと思える。


 「可愛いな~ネネは」

 「ダーリン? ここ.......は? あれ私は?」


 ネネは昨日ネネを買収した時点でかなりひどい目にあっていたので眠っていて連れてかっえてきてから初めての起床だ。


 困惑しているネネに出来るだけ優しく話しかける。


 「ネネ。起こしちゃったね。ごめんね」

 「ダーリン。私は.......!! そうだわ! ダーリンが私をーー」

 

 一部始終を思い出したのかネネの目が見開かれた。俺はネネの口を押さえて、


 「それは後で良いよ、ネネ。とりあえず君が理解することは、二つ。一つ、俺の居る場所つまりここの部屋は君の部屋ってこと。二つ。君はもう二度と体を売らないで良いってこと。分かった?」

 「うっうぅぅ.......ダーリン! 私! ダーリンに迷惑かけたくなかったわ.......うう.......」

 」

 

 涙を流すネネの瞳を指で雫を拭き取る。


 「ネネ。泣かないで。俺は君に責任を持つって決めたんだ。君を絶対に一人にはしない。君の人生の隣には俺が必ず居てあげる」

 「でも.......私.......汚れて居るのよ? それでも貴方は良いの?」

 「ネネは昨日リスティーが綺麗にしてくれたよ。汚れて無い」

 「そういう意味じゃないわよ.......」


 力無くネネは言う。俺もそれは分かっている。ネネの心の傷はそう簡単には治らないし一生付き合うことになるだろう。


 だからこそ、俺は今こそもう一度言おう。


 「忘れちゃえ、ネネ」

 「え?」

 「というか、忘れさせてやるよ、俺が必ず。過去は振り返らなくていい。君が過去何をしてようがそんなのは俺には関係ない。俺は君を綺麗だと心から思っている。君は前だけ.......未来だけ見れば良い」

 「出来ないわよ.......私は覚えているって言ったじゃない」

 

 ネネはわすられない。ネネに焼き付けられたつらい思い出は消して消えない。

 そんなのは分かっている。けれど。


 俺はネネに通帳とカードを渡した。


 「ネネ。改めて言うよ、四億で君を買いたい。受け取ってよ」

 「買うって.......私に何が出来るのよ!」

 「君の時間」

 「!」

 「君がこれから生きるその無限の時間。それを俺に半分くれればそれで良いよ」

 「それって.......」


 ネネは俺の言葉の意味を理解してまた涙を流した。

 まあ。女の子に時間をくれとか買わせてとかよくわからんが。四億あるんだ良いだろう。俺はネネが欲しいんだから、時間に四億払っても良いだろう。


 俺がネネの価値を決めたんだから。後はネネが通帳を受け取れば良い。


 「ネネ。君の時間を俺に頂戴。俺はそういっている。嫌かな?」

 「それって! ダーリン! それって! 私とダーリンがけっーー」


 俺は急いでネネの口を塞ぐ。


 「ネネ。大体俺の気持ちはそれであってるけど、それ禁句。俺とネネはしばらく付き合えない。とりあえず卒業までは我慢して」


 チラチラ、リスティーが眠っていることを確認して後で詳しくネネに説明しようと思う。

 そもそも高校一年の男は出来ないし、ね。何がとは言わない。


 「ネネ。三度目だ。君の時間を半分俺に頂戴」

 「.......よ」


 ネネはかすれる声で涙を流しながら言った。


 「あげるわよ」

 「うん。よしじゃーー」

 「ダーリンにならただで私の人生全てあげるわよ!!」


 そう言った。


 そして俺をネネは押し倒した。


 「ダーリン。良いわ。私は過去を忘れてあげるわ、ダーリンがそういうならそうするわ」

 「う.......うん。ありがとう」


 俺の腹上に跨がってネネは言う。


 「だからダーリン。忘れさせて欲しいわ」

 「うん.......」

 「ダーリンで私の全てを上書きしてほしいわ!!」

 「うん.......」


 ネネにそう頼まれて、最初からそのつもりだった俺は頷く。

 すると、リスティーのせいで一日中悶々としていた身体にネネの手が伸びた。


 「準備万端.......ね。ダーリンが私を求めてくれて嬉しいわ」

 「うん.......実はネネを買うとか言ってたから時からエロい妄想が止まらなくて」

 「良いのよ、妄想なんてする必要はもう無いわ。ダーリンに私の人生全てあげたわ。だからダーリンは私に何を求めても良いわ」

 「うん。ネネ」


 ヒンヤリと冷たい感覚が小気味良く動く、ネネは喜ばせ方を心得ている。


 「ちょっと.......ネネ。俺.......それきつい.......尽きる」

 「そうね、分かったわ。ダーリンも初めてだものね、気持ち良くしてあげたいわ」

 「うん.......ネネ。初めてがネネでよかった」

 「嬉しいわ。ダーリン」


 そう.......言ってネネはゆっくりと.......


 「ソラ!! 何してるの!」

 「え? .......あ、うん。駄目?」


 そこには見下ろすようにリスティーがカンカンに怒って立っていた。

 そりゃアレだけ騒げば起きるよね。うん。というかリスティー朝早起きな子だし。

 

 「駄目!」

 「先っちょだけだから!」

 「駄目っ!」

 「ほんの少しだから」

 「絶対に駄目! .......ソラ約束また忘れるの?」


 そこでポロポロとリスティーが泣き出してしまった。あ! え?

 泣くほどか?


 「ネネ。ストップ!!」

 「.......絶妙ね。タイミングをみてたんじゃないのかしら? .......ダーリン。ふぅ.......分かったわよ」


 ネネが名残惜しそうにしている。俺も名残惜しい。が。

 今はリスティーだ。彼女が居なかったらネネとの生活は無い。何より泣いているリスティーをほおってはおけなかった。


 あどけなく笑ってくれるリスティーの笑顔を見たから、あのデート以降俺はリスティーを大切に思っているから。


 「リスティー! 泣かないでよ。悪かったって、ちょっと、ね? 男の子ってそういうものだから!」

 「.......ソラは誰ともしちゃ駄目なの!」 

 「うん。分かったよ。だから泣かないで」

 

 結構えげつないことを言うリスティー。


 「って言うか。リスティーと寝てたから朝からこんな気持ちになってるんだからね!」

 「じゃあ! 何でソラはリスティーじゃないの?」

 「え?」

 「何で! ソラはリスティーに選んでくれないの?」

 「.......」

 「何で! リスティーの事は好きって言ってくれないの?」


 リスティーの心の隙間がようやく覗けた。

 だけど俺にリスティーの答を用意する事は出来なかった。


 「もう! イヤァーっ! ソラなんかだいっきらい! リスティーじゃない人ばっかり見て、リスティーを頼るのに! 一番近くに居るのに! 約束したのに! リスティーはソラが大.......」


 そこでリスティーは口を閉じた。

 そして暗い声で言った。


 「出てって」

 「え?」

 「もう! 出てって! ワタシの前に現れないで!」


 そういって無理矢理リスティーに部屋を追い出された。

 いや.......一応俺の部屋なんだけど.......


 「というか.......リスティーだって俺に何も言わないじゃんかよ!」

 

 固く閉められた扉にそう叫んでいた。


 「五月蝿い! 五月蝿い! ソラが言わないと駄目なの! 馬鹿! 帰ってくるな!」


 はい。薄い扉なので普通に扉越しに話せる訳でした。


 ムカついた俺は扉を破ってネネだけでも連れて行こうかと思った所で、


 「星野さん.......」

 「姫野さん」


 姫野さんに声をかけられた。

 ああ! そういえば姫野さんとのデート今日だった。しかもわざわざ来てくれるんだった。

 忘れてた。

 

 姫野さんとのデート.......か。

 でも今は。


 俺は扉に手をかけて引きやぶるつもりで引こうとしたら、その肘をを姫野に押されて引けなかった。

 冷たく小さく力の無い手でどうやって?


 「フフフ。星野さん。どうやってとめているのかって顔をしてますね」

 「.......姫野さん。俺.......」

 

 決めたんだ。ネネを選ぶって、そう言おうとして。

 

 「梃の原理ですよ。星野さん」

 「え? 梃?」

 「ええ。そうです。星野さん。深呼吸をしてください」

 「うん? うん」


 絶妙に気を反らされて姫野さんの指示に従う。アレ?

 

 「どうですか? 少し落ち着けましたか?」

 「うん.......でも姫野さん。落ち着いたところで俺はもう決めたんだ」

 

 俺の言葉を聞いてそれでも姫野さんはニコニコ笑った。とてもオシャレをしている。相当気合いを入れて来たのであろうことがわかる。


 「そうですか。星野さんが決めたなら仕方ありませんね。でもですよ。星野さん」

 「うん」

 「私にもアピール位はさせてくださいよ。今日デートをしてくれるって言ったじゃないですか」


 姫野さんは表情を変えてブクッと頬を膨らませる。可愛いな。相変わらず。


 「ごめん。でも今ちょっと取り込んでてまた今度で良い?」

 「はい。それはもう喜んで。さてさて、星野さん落ち着きましたか?」


 二度目。姫野さんにそういわれて俺はドアを破壊しようとする衝動は無くなっていることに気がついた。

 

 「どうやら、落ち着いたようですね。扉は開けるものです。壊すものではありませんよ」

 「うん。でも開かない扉はどうするの?」

 「梃の原理を使いましょう」

 「え? 梃?」


 ニコニコしながら姫野さんは言う。

 そして扉の前に立って。


 「ですが。今の事情がわかりません。扉が開けば解決出来ますか?」

 「.......いや。多分無理。俺.......どうすれば良いかわからないくて。リスティーを.......」


 そう口ごもると姫野さんは困った顔をした。そして俺の顔を覗き込んで。


 「そうですか。では今開けても意味は無いという事ですね」

 「うん.......だね」

 「星野さん。私が相談に乗ります。扉のことは忘れて一度私に事情を話してください」

 

 姫野さん.......


 「俺.......姫野さん。今日デート。それなのに? 良いの?」


 声がかすれた。研ぎ澄ましていた。隠していた弱い部分が姫野さんに優しく解かれているようで.......

 頼れる。人が居なかったのに.......


 「もちろんですよ。デートはいつでも出来ます。それより星野さんの問題の方がとても大事です」

 「姫野.......さん。っ! ありがとうっ.......ぅ」


 だから情けなく涙を流してしまった。

 そんな俺の頭を姫野さんは優しく抱きしめてくれた。


 「大丈夫ですよ。星野さんの力に私がかならずなりますから.......」(例え......貴方様の心に私が居ないのだとしても)

 「うぅ.......っ」


 暫く、姫野さんの柔らかい胸で啜り泣いて落ち着いたところで


 「さてさて、では落ち着ける場所で話しを聞きます。車に乗ってください」

 「車?」


 視線を向けると黒服の男がこちらをガン見して、とてつもなく細長い黒車がボロアパートに止まっていた。

 セレブの車だ。


 え? あれ?


 「ささ。どうぞ中は完全防音で外から中は見えません。密談にはピッタリです」

 「.......うん」


 手を引かれて車の近くに行くと黒服に一睨みされる。


 「ひぃ!」


 情けない声をあげると、姫野さんが黒服を睨みつけた。すると他の黒服が現れて黒服をどこかに連れ去った。

 そして運転席から降りて、俺達が乗る扉を開けてくれた少し老いている黒服が言った。


 「..............失礼しました。叱るべき処分を致します」

 「じぃ。不愉快です。躾はきちんと行ってください」

 「ハッ」


 何か、すごい会話を聞いてしまった気がする。

 あの俺を睨んだ黒服さんの未来が危うい。


 「しかし、姫様」

 「何ですか?」

 

 じぃと言われた黒服は俺を流し目で見てから


 「公然の場です。いくら姫様の連れとは言えその格好は余りにも.......」

 「え? .......っあ!」


 さて、思い出して見よう。ネネと居たそうとして、卒業する瞬間。リスティーに怒られて追い出されてそのまま姫野さんに会った。

 さてと。何か忘れてるよね。うん。俺、アマゾンにいる部族の格好してました。はい。ぶらぶらしてますね。


 「キャー!!」(俺)

 「.......」(姫野さん)

 「.......」(黒服の冷たい視線)


 人生ままならない物ですよ。姫野さん気づいてたなら教えて欲しかった。

 いや。ぶらぶらを見られてたのか、しかも特大じょうたいだよ? 変態だよ、ちきしょー!


 (因みにじぃはなぜか後で姫野さんにお仕置きされます)


 「こほん。ではじぃ。出してください」

 「ハッ」


 車に乗り込むと、姫野さんが無線を使って指示を出す。そして。


 「では、星野さん話してください」


 何も無かったようにそういった。


 「うん。実はーー」


 俺は昨日の一件から朝の事全てを話した。

 何故か姫野さんには言葉がするすると出ていく。まあ色々格好悪い所を見られた訳だからかな。


 姫野さんは基本的に真面目に聞いてくれたのだが一つだけ、リスティーとの契約の話しをしたら。


 「契約書に誓約書。血印.......それは厄介です」


 とつぶやいていた。

 話すのが下手で結構時間が立ってしまって終わる頃には昼になっていた。


 「そこで姫野さんが来たんだよ」

 「なるほどよくわかりました。まだ星野様は童貞なのですね」

 「そこなの!?」

 「はい。そこが一番大事です。ようは誰がそれを貰えるかで揉めているだけじゃないですか」

 「絶対違うと思うよ!」


 おいおいと肩を落としながら外を見ると豪邸の前だった。


 「ここは?」

 「私の自宅です。星野さん。一度お互い時間を置きましょう。明日落ち着いてもう一度話しあえば解決しますよ」

 

 姫野さんは簡単に言ってから、表情を柔らかくしてニコニコし始めた。


 「星野さん。私朝ご飯をデートで食べようと思ってまだ食べてないのでお腹がペコペコです。話しによると星野さんも食べていませんよね?」

 「.......うん」

 「では! 折角です。お昼にしましょう。お弁当を用意してあります.......今度は食べてくれますか?」


 姫野さんはどうやら完全にデートモードに移行したようだ。

 楽しそうに大きなお弁当を風呂敷から取り出して居る。

 

 俺は.......


 「今日は良い天気ですよ。お庭でお花を見ながら食べましょう」

 「.......」


 でも、俺は乗りきれない。楽しそうにしている姫野さんには悪いけど、ネネとリスティーが悲しそうな顔をしていると思うと、


 「大丈夫ですよ」

 

 姫野さんの声と表情はころころ変わる。そんな中でも真剣な声と顔はとても力強く説得力がある。


 「女の子には女の子同士話す時間も必要です。リスティーさんが怒り狂って居るだけなら問題ですが、ちゃんと彼女は彼女なりに考えがあるようですし、わざわざネネを助けたのです.......。今頃仲良くなっている筈ですよ」

 

 だから、そんなことを言われたら信じたくなってしまう。

 時間が必要な時も確かにある。

 そこには俺が居たら話せないこともあるのかもしれない。今は二人を信じて.......


 「姫野さんとのデート!!」

 「フフフ。そうですよ。そろそろ私の時間です。今回のメインヒロイン役は取られてしまいましたが、サブヒロインでも負けヒロインでも構いません。星野様と楽しい一時を過ごせれば十分です。星野様のお力になれればそれが聖の本望なのですから」

 「サブヒロイン? メインヒロイン? .......何の話し? まさか!」

 「いえいえ。こちらの話しです」


 ニコニコしながらはぐらかす姫野さんは弁当の蓋を開けてしまう。


 「姫野さん.......前世って信じてる?」

 「.......なるほど。今回はそこまで話したのですね.......」

 「姫野さん! 知っている事は教えてよ! 俺忘れているのやだよ。姫野さんがとても大切に.......」


 俺の言葉は姫野さんによって遮られる。


 「嫌です。折角のデートですよ。これが最後かも知れません。詰まらない話しなんてしたくありません。星野様と楽しい時間を過ごしたいのです」


 それは懇願だった。飄々としていた今までは違う姫野さんの本心。この時間を大切に大切に抱きしめようとしている。


 「最後って.......」

 「最後ですよ。星野様が一人を選ぶならもうこんな浮気見たいな事はしませんよ。それに私も.......」

 「私も?」


 姫野さんは言葉を切って暫く黙考してからため息をついた。


 「.......はぁ。結局。食べてはもらえませんでしたね.......わかりました。ではその話をしましょうか」

 「うん」


 こうして、俺は姫野さんが抱えている問題を知ることになる。姫野さんが言わないようにしていた意味を知る事になってしまう。

 でもそれは俺がそう望んだから。

 俺はもう.......決めているのに、そんな残酷な事を聞いてしまった。

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