十二 八日目 真実と十年前の出会い
昼下がり、純度の高い黄金を溶かした様な金色の長く綺麗な髪の毛が、さらさらと風に揺さぶられながら俺の初恋の相手、姫野聖さんが悲しそうに言った。
「では。全てを話しましょう」
上手に作ったお弁当に蓋をしてそこに姫野さんの想いを閉じ込めてしまったように。
姫野さんの表情からは微笑みが消えてしまった。
無表情になった姫野さんは俺を真剣に見つめて......笑った。
笑ってくれた。
「フフフ。肩の力を抜いてください。......星野さんはやはりおやさしいのですね」
違う。リスティーもネネも姫野さんも俺を優しいと評す。
けれど。違う。
「俺は優しくなんか無いよ」
「そうですね。とても残酷な方です」
「っ!」
姫野さんの言葉は俺の心の奥底に突き刺さった。彼女は俺の全てを知っているように話していく。
「では。まずは、私達と星野さんの関係から話しますか」
ネネは姫野さんにがっつかないでと言っていた。
でも俺はこうして姫野さんに真実を聞いている。その罪悪感がギリギリと締め付けて来る。
「星野さん......は。前世とおっしゃいましたね」
「うん。ネネが俺達四人は前世から繋がりがあるって言ってた。それを俺は否定する事は出来なかった」
なぜなら俺はその答に全ての謎が解けたと思ったからだ。俺が美人とは言え、姫野さんに一目惚れした理由もどこかリスティーに呼ばれる事が懐かしかった理由も、ネネの事を最初から信じていた理由も、三人の中に感じたものも、全て。そしてあの夢も。
「そうですか。ネネが星野さんに嘘をつくとは思えませんが、何を言ったかは知りません。なので食い違っていてもそれはネネが嘘を付いたわけではなく、そう思い込んでいただけだということを理解してください」
「こんな時でも姫野さんはネネの肩を持つんだね」
「当然です。ネネは私の親友ですから......同じ人に何年も想いを寄せる......」
姫野さんは俺に手を伸ばしてそして届かない所で握り締めるように拳を握った。大事な何かを手に出来なかった悔しそうな表情でそうした。
少し膨らんだ柔らかい胸を押さえながら姫野さんは言う。
「私は、殆ど全ての前世の記憶を保持しています」
そういった。
その意味を理解するより早く姫野さんは続ける。
「星野さんと最初に出会いそして結ばれた最初の生。毎日の様に時を惜しんで愛し合った愛しき記憶。その傍らには星野さん。貴方が愛し貴方を愛した女性が沢山仕えていました。中でも星野さんが最愛と称し婚姻を結んだ十人の姫。それが私達です」
「十人!?」
驚く所は多々あるが取り合えずそこだろう。俺、前世で十人もはべらせてたのかよ!?
とんだクソ野郎だな。
「はい。星野さんは貪欲で強欲な方だったので私も大変苦労していました」
「ごめん」
「いえいえ。あくまで最初の私です。今の私では無いので気にしないでください。それに私は今でも星野さんを慕う全ての女性と結ばれて欲しいと願っていますよ」
ニコニコ微笑んで真剣にそういう姫野さんはしかし、次の言葉を言うときには悲しそうな顔をした。
「そのためには、星野さんには私を愛して貰う必要があったのです。私なら星野さんの全ての望みを叶えられますから......でももう今回は無理ですね。運命はクリスティーナさんを選んだ様ですね」
「何を? 言ってるの?」
「私は負けたと言っただけです。後は星野さんの選択次第ですよ、誰を選びますか? 悲しき運命を背負い貴方無しでは生きられないネネさんですか? それとも、貴方を想い遠い異国の地から全てを失って貴方にたどり着いたクリスティーナさんですか? それとも、まだ出会っていない未知なる姫君ですか?」
そこに自分は含まれないと姫野さんは言っているかのように。
「でも。星野さんの中では既に答が出たのですよね?」
「それは......うん。俺はネネを選びたい」
「そうですか。良い選択です。ネネは生まれこそ毎回悲惨ですが貴方と巡り会えば必ず貴方に尽くしますよ。消して裏切ることはありません。この先どんな苦境が待ち受けていようとも貴方を支え続けるでしょう」
友を語るときだけ姫野さんは笑顔になる。
十人の姫......
「姫?」
「ええ。星野さんは王様でしたから沢山の美しい姫達をめとりました。中でも第一王妃の私。第二王妃のクリスティーナさん。第三王妃のネネ。この三人は星野さん。いえ。星野様。貴方と強く繋がり。必ず転生して貴方の前に現れて来ました。今まで殆ど全ての転生で選ばれるのは私達の誰かでしたよ。他の方は巡り会う前に星野様が選んでしまってかわいそうす」
ぺらぺらと淀見なく姫野さんは前世の記憶を交えて話している。
でも。前世の記憶は話せないのでは? そう聞くと姫野さんキョトンとしてから、くすりと微笑んだ。
「それは、星野様が言葉に出来るほど覚えて無いだけですよ。全くあんなことまでしたのに酷いお方です」
「ごめん」
「良いのですよ。私が過去に執着する女だと言うことですから、過去など忘れて今を生きてください」
「......」
「これで、星野様......星野さんの疑問は解決出来ましたか?」
確かに姫野さんは俺が疑問に思っていたことを全て話してくれた。
前世の事も含めて今の状況その全てを。
でも。まだ足りない。
「姫野さんは......どうして俺のためにそこまでしてくれるの?」
「好きだからですよ。とてもとても大好きだからです」
「違うよ。姫野さんが好きなのは俺じゃないでしょ? 俺の前世。それは俺じゃない」
それは、俺とは違う俺だ。姫野さんが好きになった人は。姫野さんが尽くしたい相手は違う人物だ。
「フフフ。そこですか......。全く......変わりませんね」
姫野さんはニコニコ笑った。そして言う。
「私は姫野聖ですよ」
「うん」
「前世の記憶を持ってはいますが、星野さん貴方を一目見て貴方様を好きになるまではそんなものありませんでした」
「うん?」
「つまり。私が愛したのは好きになったのは、どの世界の貴方でも無く、星野様。今目の前に居る星野様です。貴方に一目惚れしたあの幼き時から貴方を貴方を想い......そして片隅からずっと見ておりました。前世など関係ないのです。恋しい貴方が苦しいのなら手ん指し述べたい、この気持ちはネネを助けた星野さんなら理解してくれますよね?」
好きな人の力になりたい。ネネが困っていたらどんな代償があっても助けたい。それを姫野さんは俺に......一目惚れしてくれて......え!?
「一目惚れ!?」
「......いけませんか? 星野さんにはこの気持ちはわからないかも知れませんが、貴方の目を見た瞬間、運命だと思いました。過去は関係ありませんよ。そもそも貴方に恋するまでは記憶など持ってはいませんでしたから」
「え? え? え? 俺に一目惚れ!? 俺って別にかっこいい訳でも無いよ!? それに俺ずっと姫野さんの事が好きだったんだよ? 俺も中学入学式の桜の下であったあの時から一目惚れだったし」
クラスで女子が秘密裏にやっている男子イケメンランキングではつねに最下位を争っている。許さん!!
「......え? え? ウソデスヨネ? 中学?」
姫野さんの笑みが固まった。
俺が姫野さんを好いていたことを分かってなかったみたいだ。
というか、日本語片言になっている。
「嘘じゃないよ。初めて話した時からずっと......」
「嘘はつかないでください。だったらどうして何時も何時も、私が話しかけると無視していたのですか?」
「それは......だって姫野さんに話し掛けられるなんて嬉しすぎて言葉が出なくなっちゃうんだもん」
ガタン。
姫野さんが椅子から崩れ落ちた。そして。
「ヘタレです」
「......」
「ヘタレ野郎です!! 馬鹿ぁ!」
めっちゃけなされた。俺のピュアなハートがクラッシュする。
腰が砕けたのか姫野さんは女の子座りで地面をバチバチたたき付ける。
そして、どこからか黒服が現れて姫野さんを持ち上げようとするが、
「触らないでください!!」
姫野さんはそれを全力で嫌がったそうして。
「星野さん......私だって話し掛けるとき何時も勇気を振り絞っていたのですよ? それで無視される気持ちが分かりますか?」
「うっ......それは」
「毎回。枕を濡らすあの切なさが分かりますか?」
姫野さんが責める口調で俺の傷口をえぐってくる。確かに俺も悪かった。ヘタレだった。でも雲の上の存在で何時もイケメンに囲まれて男の噂が堪えない彼女に話しからて同情されて居ると思った俺の気持ちが分かるのか?
「姫野さんこそ好きな人から会話を振られて答えられない情けない俺の気持ちが分かるのかよ! ベッドですごく悶々と後悔するんだぞ!」
「全くわからないですよ! 後悔するぐらないなら何か一言でも話して下れば良いではないですか!」
「それが出来ないって言ってるの! 姫野さん何時もイケメン侍らせてたし嫌がらせだよ!」
「それは! 星野さんが何時もお一人なので友達を必要かと思っただけですよ!」
「余計なお世話だよ! イケメンに囲まれるとブサメンは萎縮するんだよ」
「星野さんはイケメンです」
「姫野さんだって超絶美少女だよ!! チクショー!!」
空に向かって全力で叫びました。かなしかな。
でもなんか、胸に残っていたイガイガしたものが取れた気がした。
「フフフ。そうですか。星野さんは......最初から私を好いていてくれたのですか......」
「ハハハ。そうか......俺がちょっと勇気をだせば姫野さんは俺のことを選んでくれたのか」
それは姫野さんも同じな様ですっきりした顔で笑っていた。
俺も笑った。すると姫野さんは細く美しい手を俺に伸ばした。今度はまっすぐと手の平を広げて。
「星野さん。今からでも構いません。私に少しでも好きな気持ちがあるのならば手をとってください。もう逃げないでくれますよね?」
「......」
それは本当に美しく綺麗で童話の世界のお姫様のように可憐で魅力的な提案だった。
でも!
「俺は......」
「構いません!」
「え?」
「私が諦めたのは星野さんの心に私がいないと思ったからです。でもそこにその場所に私が居るのなら、私はどんな立場でも構いません。この手さえ貴方に届くなら構いません」
どくん。どくん。と心臓が大きく鳴り響く。多分今俺は人生で一番大事な選択肢の前に居る。憧れた初恋を叶える事が出来る。その前にいるのだ。
どくん。どくん。
でも、俺にはネネが......いる。
そんな俺の気持ちが分かったのか姫野さんは陰を落とした。
「そうですか......そうですよね......無理を言って申し訳ございません。じぃ起こしてください」
じぃが姫野さんに肩を貸そうとして......
「触るな!!」
「え?」
俺はじぃより先に姫野さんを抱き上げた。
柔らかい姫野さんの身体を抱き上げた。困惑する姫野さん。俺も困惑する。
「良いのですか?」
「......ダメだよ」
「なら、離してください」
姫野さんの小さな身体は俺が抱きしめると地面に足も着かない。それほど強く姫野さんを抱きしめているということだが。
「......姫野さんが次にもう一回離してくださいって言ったら離す」
「............狡いです」
「ずっと姫野さんを抱きしめたかった」
「私もずっと星野さんに抱きしめてもらいたかったです」
ダメだとは分かっている。決めたのだ。ネネのために生きると、ネネを幸せにしたいと。だからこんなのはダメだけど。
「手が離れない......姫野さん。離れてっていってよ」
「......離れてください」
「嫌だ。絶対嫌だ。姫野さん。こんなに柔らかくて気持ちい姫野さん。離したくないよ」
「......っ! なら離さないでください」
ずっと好きだったのだ。ずっとずっと好きだったのだ。リスティーやネネなんかよりもずっと前から好きだったのだ。
「好きだったんだよ。姫野さん。姫野さんに会うために朝早く起きて同じ電車にのってストーカー見たいなことして、それぐらい好きだったんだよ」
「っ! 私もわざわざ電車通学にしてまで星野さんに会う口実を作っていました」
「姫野さん......好きって残酷な事だね」
「そうですね。とても醜いものです」
でもこの思いはあってはいけないもの。捨てなきゃいけないもの。
「姫野さん君を不幸にする」
「貴方となら何処までも堕ちましょう」
それでも捨てられない俺は不器用に掴みつづけるしかない。
そのための覚悟なら決められた。
「姫野さん......キスしていい?」
「フフフ。どんな味がするのでしょうか?」
「罪の味だよきっと、それで姫野さんを不幸に堕とすよ」
「どうぞ......」
「うん......」
俺は姫野さんに唇を近付けてそして......バタリとと倒れた。
「ほ、星野さん?」
「スーッスーッスーッ」
「え? 寝てしまったのですか? このタイミングですか? せめてキスだけでもしてくださいよ」
と、姫野さんは知らないが星野空は昨日から一睡もしてない状態で極限の緊張を味わっていたので初恋の女性姫野聖と思いを通じ合わせた事に安心してついに睡魔に負けてしまうのも無理は無い事だった。
「フフフ。本当に最低なお方ですね」
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星野空が忘れてしまったある約束
そう十年前.............
スエーデン生まれスエーデン育ちのクリスティーナ・フォン・ソフィアは一度だけ日本に訪れたことがあった。
クリスティーナがまだ幼い五歳の夏の事だった。
クリスティーナの母親の葬儀。
クリスティーナの母親クリストファーと父親。星哉の出会いの地であり、何よりクリストファーが日本をいたく気に入っていたためだ。
そのために、星哉は日本で葬式をあげた。
そこには勿論、星哉の家系、星野家とクリストファーの血筋であるフォン・ソフィアの血族が死を労る為に集っていた。
クリスティーナは父の星哉の事も母のクリストファーの事も大好きだった。そんな母が突然亡くなったという事を五歳の少女であったクリスティーナには受け入れるが出来なかった。
父に言われた言葉。もう二度と「母さんには会えないよ」という言葉がクリスティーナの心に深く深くつき刺さったのだった。
慣れない日本の夏。毎日涙を枯らすことなくクリスティーナは泣きつづけた。セミの泣き声よりも多く。
クリスティーナは幼いながら思ってしまった。突然の大好きな母の死が、同じく大好きな父にも起こるのでは無いかとそうなったとき自分は独りになるんじゃ無いのか?
笑顔の多かった父も母の死以降シワが増えていた。それを子供ながらに感じっとっていたクリスティーナは不安と恐怖そして孤独感で一杯になってしまっていた。
そんなクリスティーナが知らない土地で迷子になったのは偶然では無いのだろう。
クリスティーナは自らの足で父の前を去ろうとした、失う事が悲しいのなら失う前にクリスティーナから捨ててしまえば良いそんな考えだった。
田舎の山奥で行われた葬式が災いしてクリスティーナが逃げ込んだ場所は木が茂る樹海の中だった。
クリスティーナは地本の人でも迷子になる樹海に入ってしまったのだ。
子供の姿が見えない事に気付いた大人達は急いでクリスティーナを探し回った。しかしクリスティーナは樹海の奥深くまで入ってい為に見つけることは出来なかった。
夜になり真っ暗な中クリスティーナはたった独りで本物の孤独を味わっていた。
母の死。そして誰もいない森。森に住む猛獣の声。闇の中でただ独りその恐怖は尋常ではなかった。
父に会いたい。そう思い直すのは早かった。だがクリスティーナが戻ろうとすればするほど森の奥へ奥へと迷い込んでいた。
少女の体力は尽きて大きな木の美樹に寄り掛かり、優しい母の幻影と楽しかった思い出を見つめてただ泣いていた。
死ぬは父ではなく自分だった。怖い......父に会いたい。死にたくない。
「死にたくないよーっ......死にたくない。死にたくないっ。父さん。父さんっ。助けて。助けてよ! 誰か! 助けて!」
クリスティーナは叫んだ。自分の愚かな行為を後悔しながら。そして、
「ん? だれかいるの?」
運命の出会いをすることになる。クリスティーナの声はある少年を導いた。
少年はクリスティーナの叫びに導かれてクリスティーナの前に現れた。そして涙を流すクリスティーナに手をさしのべた。
「あ! いた。だいじょうぶ? ないているの? おれは星野空君は?」
その声がクリスティーナの恐怖を晴らしたのは間違いないだろう。
その声にクリスティーナが救いを感じたのも仕方ないことだった。
だからクリスティーナは少年に向かって叫んだ。
「助けて!」
それが少年......星野空とクリスティーナの出会いだった。




