表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が綴る物語  作者: ハルハル
9/50

序章 09 事実


「話をするのにまず、核心を先に話すのがベストなんだと思う。先に一番衝撃が強いものがあった方が後々の話を聞くのに楽になるだろう」

「セオリーと言えばそうだな」


「あなたのその人の心を読む力、つまり読心術は、まもなく消え始めるだろう」


「え?」

「はぁ?」


 僕だけでなく、あの有木翠さえも、馬鹿みたいな声を出していた。いや、誰だってこんな風になるだろう。核心をいきなり言ったのは、いいが。あまりにも突拍子過ぎて理解が追いつかなかった。どうやら、今回は君もそのようだ。

「やはり、そんな反応か。じゃあ、順を追って言ってみよう」

 そういうと、アイアスは僕にもわかるように、本当に順番に沿って話してくれた。

「この世で、読心術を持つものは、あなたたちが知っているように(さとり)という妖怪だ。悪魔で言えば、マインドデビル。下級悪魔さ。上級悪魔になるとみんな心を読む力は持っているけど、いま此処では上級悪魔は関係ないからおいておこう。さて、君が持っているその力は、間違いなく本物だろう。確認しておくけど、有木翠は間違いなく一人の人間だから、悪魔なんて事は無いよ。では、人間が悪魔、または妖怪の力を手に入れる方法は一つしかない。覚の伝承で聞いたこともあると思うよ」


 僕は、さっぱり分からなかったが、君は何か思いついたようだ。


「覚についての昔話で、覚の角は食べる事が出来て、それを食べると覚の力が手に入るとよく言われている」

「流石だね。その通りだよ」

「だが、私は食べてなどいない。あんな竹みたいな角など食べた覚えは無い。」

「どうして、竹みたいだと思うの?」

「どうしてって、覚の角は竹みたいだろ。どんな絵でもそのように描かれている」

「先入観を持ちすぎているね。人は人外のものを考えるときは先入観がないと考えられないようになっているからね。その先入観抜きで、考えてみるとどうなる」

「先入観がどうこう言ったって、すでに絵が残っているから、それを見れば確実…、いや、人は先入観をもって人外のことを考える。ということは、人外である妖怪の絵を描くときも先入観を持って描いてしまう。つまり、今残っている覚の絵はあてにならないという事か」

「他の妖怪の絵についてもそう言えるね。あなたはいつの間にか覚の角を食べた。いや角ではなくほかの何かかも知れないね。そういった物を食べて、あなたはその力を手に入れた。と、僕はそう考えている。しかし他にもたくさんの方法はあるけど、それが一番多いかな」

「じゃあ、私は人間のままで、悪魔の力を手に入れていたのか」

「そういうことだよ。決してあなたがその後にやった、地蔵壊しが原因で悪魔になった訳じゃないよ」


 君は顔を赤らめていた。

 なるほど、あの噂は本当で、その理由は悪魔になりたかったという事か。なかなか、中二病患者みたいな発想だな。


「そして、人間のまま手に入れた悪魔の力は、必ず消える。その人本人が悪魔になった訳じゃない。時間がたてば元に戻る。力の一時的な移動があったに過ぎない。力の一部が少しの間だけ、悪魔から人間に移ったという話です。そして、この力の貸し借りが出来るのは、弱い悪魔だけなんです」

「だから、まもなく消え始めると?」

「僕が君を観察していた理由は、これなんです。あなたの力がどういう状況なのか知る必要があったんだ。そしてあなた自身がその力をどう思っているかを知る必要もあった。

 その力、憎んでいるんだね。極力使いたくない。あなたと戦ってそれが分かった」


 武術の達人同士が手合わせすると互いの心のうちが分かるってやつか?


「あなたが私利私欲のために好き放題に力を使っていたら、多分戦いは一瞬で勝負がついていただろうね。あなたはその力の半分も使っていない。普段のうちから力の制御をかけている。本来の覚の読心術はその場、全員の心を読み取るほどの力があるはずだからね」

「確かに、私はこの力が嫌いで心を閉ざす事で力を制御してきた」

 心を閉ざす…。それが普段の君の正体だったのか。

「なぁ、アイアス。もし私が力を全開で使えていたら、君は違った対応を取っていたのか?例えば私を殺したり…」

 僕は一瞬、アイアスに今までとは違う表情を見た。冷たい…、化物と呼ぶに相応しいような冷たい表情だった。しかし、それも一瞬の事ですぐに笑みを浮かべた。

「そんなのは分かりませんよ。もしもの話じゃないですか」

「それは、そうだな」

 アイアスはサンドウィッチと一緒に頼んでいたコーヒーに口をつける。

「でも、勘違いしないで欲しい。悪魔の力と言うものはタダで借りられるほど安くはない。奪うわけでなく借りている限り、必ず代償がいる。

 これからあなたには、何かしらの不幸が襲い始めるでしょう」

 

 そういい残して、アイアスは消えてしまった。


 そうして、僕らには、事実だけが残った。


「少し、話をしないか」


 君は、不安げな顔をしていた。残った事実は君にだけのしかかり、問題はまだ解決しない事を告げていた。

 僕らは、場所を移す事にした。

 この日の夜空はやけに澄んで見えていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ