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僕が綴る物語  作者: ハルハル
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序章 07 らーめん


「これは、ありなのかな」

「何の話だ?」

 左から君は口をはさむ。

「僕が君の事を語り始めて以来、僕の要求はことごとく阻止されてきたけど」

「だから、それがどうかしたのか?」

「今回もファミレスに行きたいという僕の要求は呑まれなかったわけだけど」

「もったいぶってどうする。話という物は早いに越した事は無いのだぞ」

「ラーメンの屋台という僕の要求が半分ほど満たされる、という結果は果たしてよい事なのか、悪い事なのか」

「僕の行きつけのお店に何か文句があるのかい?」

 僕の右隣に座っている彼から、冷ややかな視線を右頬に浴びる。

「いや、文句なんて無いよ。どんな結果であれ、僕が夕食を欲するという要求が満たされた事には感謝できる」

「そうか、それならいい。ほら、出来たみたいだよ」

 僕らが居るのはだだっ広い駐車場だ。土地の安い、田舎に近いこの町だから出来る、無料の駐車場。その中に、ラーメンの屋台を構えるおじさん。

 四十過ぎくらいのおじさんが手馴れた様子で僕と君の前にラーメンをおく。味噌の香りが空腹の僕に更なる食欲をそそった。トッピングされているモヤシとネギが新鮮そのものに見えて、早く手を付けたくなってくる。ああ、なんて美味しそうなんだ。

「ふふふぁい(うるさい)。はふぁふ(はやく)、ふえ(くえ)」

 ああ、君の読心術は直接頭の中に聞こえてくるんだったな。

「じゃあ僕も食べようか」


「下品だな。流石は汚物といったところか。ラーメン一つ食べるのに此処まで下品に食べられるとは」

「また口を開けば僕の悪口。ラーメンをすすって食べたら誰でも下品に見えるものじゃないか。そんな僕ばっかりが、下品じゃ…」

 僕は君を見て言葉を失った。美しい。ただただ美しい。ラーメン一つ食べるのに美を表現できるとは。君がラーメンをすする姿はマナーに忠実なイギリス紳士淑女のディナーのような姿だ。

「ふぁんふぁ(何だ)?」

 本来マナー違反であるはずの口に含んだまましゃべるのさえ、美しいと錯覚しそうだ。

「すまない。今の今まで決して突っ込むまいとたった今、心に決めていたのにもう、破ってしまうようだ。

 君は真の馬鹿か」


 僕の心の声は丸々君に筒抜けで非常に鬱陶しかったようだ。僕と君がラーメンを食べ終わるとすぐに僕を罵倒する言葉が並べられた。


「すごいですね。まるで夫婦(めおと)漫才(まんざい)を見ているようだ」

 僕の右隣で、なぜかサンドウィッチをつついているアイアスが唐突に口を出してきた。

「ば、馬鹿野郎。今そんな事を言っていいと思っているのか」

「あ、よかった。僕の事は男だと認識しているんだね。たまに女に勘違いされるから安心したよ」

「なんか突っ込み所が多いけど、後回しだ。僕と有木翠は今の今まで激しい口論を繰り広げていたんぞ。て言うか、僕が有木翠に一方的に罵倒されていたんだぞ。やっと、やっと今終わったんだ。なのに何でまた夫婦だなんて、怒りを買う言葉を口にするんだ。お前はそんなに僕が罵倒されるように仕向けたいのか」

 僕は息を切らして言いたいことを一つ残さず一息に言い切った。しかしその事にこれまでと何か違う、何か変だと、違和感を覚えた。僕は有木翠の方に向きかえっておそるおそる言った。

「何で、何も言わないんだ?」

「……………」

「翠さん?有木、翠さん?」

「へ?な、何かしら?」

「何にも聞いてない、みたいな?」

「そ、そんなことないわよ。あっ、か、勘違いしないでよね。誰があんたなんかと夫婦になるものですか」

「大丈夫か?口調が変わっているぞ。それに………、何故にツンデレっぽく?」

「え、あ、んん。何をいっていいるうのかなぁ?君は。ぜんぜえん、普通だけれども?そっ、それと。で、デレがあるなんて、思っちゃだめだからな」

「もうボロボロだな。パーフェクトウーマンの見る影も無い」

「翠さん。ちょっといいですか」

 アイアスが顔をのぞかせて言った。

「…夫婦」

 君の体が激しく震えた。漫画とかだったら、『びくぅ』とかが出てきそうな勢いだ。

「そうですか。少し、残念ですね。僕としてはかなり魅力的な女性だからそれなりに思っていたんですが、残念です。頑張って下さいね」

「…はい」

 僕には君みたいな読心術は使えないからアイアスの考えている事は分からない。読心術といえばさっきは読心術はおろか、僕の声すら聞こえていなかったみたいだけど、顔を真っ赤にしてまで何をそんなに考え込んでいたんだろう。

「…、勘違いしないでね」

「え?何を?」


 それから数十分ばかり、口を利いてくれなかった。


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