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僕が綴る物語  作者: ハルハル
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序章 04 イメージは主観であり覆されるもの


 日もすっかり落ち、時間もそれなりに進んでいた。そして僕は自分が思っていたよりもずっと長い時間、長い距離を歩いていた。その証拠に僕の足にはかなりの疲労が溜まっていた。なのに、なのにだ。僕の右手側にはわが校自慢の大きな校舎が未だに見える。


「すまない」


 君の声が、周囲に向けていた僕の意識を君に戻した。君のその背中を見るとそれが心からの謝辞であるような気がした。

「こんな、よく分からない話をぐだぐだとされて、一体何の意味があるのかと君は思っていただろう。…さすがに君も意味も無く私が話をしているとは思わないだろうしね」

「ああ」


 君はただ言葉の合間にある僕への罵倒の言葉を言いたいがために無駄話をしているのだと僕は思っていたよ。


「此処まで聞かせておいて私の真意を教えないのはフェアじゃないよね。

 私はこれから偽善をしに行くのだ」

「ぎ、偽善を?」


 今までの話を踏まえて考えると、君のその発言の結果は悪を倒しに行くように聞こえる。もちろん、君の話の通りなら悪と言うものすら居ないことになる。今までの話だけでは理解不十分だ。


 君はふと立ち止まり、話の続きを言った。

「ああそうそう、一つ言い忘れていたことがあった。

 つまるところ私が言いたいのは人に出来る事は偽善か偽悪かぐらいのもの。人間は得意だろう?まねするのは。偽りの善。偽りの悪。どちらも善や悪とは程遠いもの。人間にはこれが精一杯だ。そしてもしも完全な悪や善を行った人間が居るとすれば、そのものは人の一線を越える。人間を超越した存在。天使や悪魔になる」

「君が偽善を行う、と言うことはこの先、向かう所には悪魔が待っているのか?」

「うん。これから行くところにはそれが待っている。君はもう、どこへ向かっているか分かるんじゃない?」


 君は横顔を見せる感じで僕を見た。僕は君がそんな風にしたことから、周りを目を向けた。すると回りは見覚えのある建物、看板、道。


「…学校」


 僕がつぶやくように言うと君は振り向いて笑顔を見せた。口角は軽く上がり頬は軽く染まりつつも目はしっかりと僕を見て、勝気な君によく似合っている笑顔だった。

「この学校に、本当の私を見せる為の舞台がある」

 仁王様のように立って腰に手を当てて、君の背中には僕らがいつも通っている学校の正門が暗い闇の中に硬く閉ざされていた。




 君は本当の君を見せると言ってこの門を出たはず、なのにわざわざここに戻ってきたのは何か理由があるのか。

「君は初めからここに来る事が目的だったのか?」

「そうだが」

「わざわざこの町を一周して戻ってくることに何か意味はあったの?」

「いや、特に。ただの時間つぶしって所だ」


 ただの時間つぶしのために!?その為に地元民も真っ青な距離を歩いたというのか。僕は初めてだったよ。学校を出て少し大きな道へ出て、かと思うと寂れた道を選んで舗装の行き届いていない歩きにくい道を通った。普段歩きなれない道だったから僕の足はもうパンパンだよ。


「ああっ。君が苦痛に思ってくれていたなんて、ぞくぞくしちゃう」


 ドS全開じゃないか。嬉しそうな顔しやがって。


「ああ、ごめんなさい。私としたことが。あまりの楽しさについ我を忘れていた。

 さぁ、私が会うべきものはこの先の校庭にいる」

「…我を忘れるほど、僕を苛めるのは楽しいのか」


 君は正門へと向き直り、ぴょんと。本当にぴょんと一飛びで門の向こう側に行ってしまった。僕の認識は全然違った。君のどこに病弱そうなイメージが出るんだ。もうバリバリ全開のスポーツ少女だろ。ムキムキだろ。もうキン肉マンレディーだろ。


「誰がキン肉マンレディーだ」


 君はむっとした顔を見せる。


「ほら君も早く来たらどうだ」

 諭されて僕は改めて門に足をかける。よっと門の上に立って降りようとすると、

「ぐえっ」


 バランスの取りにくい門の上だ。引っ張られれば当然落ちてしまう。と言うか足、引っ張るなよ。危なすぎる。


「ほら行くぞ」

 君はすたすたと先を行ってしまう。あの、すみません。キン肉マンレディーなんて言ってすみませんでした。だからせめて置いてかないで。

 僕は起き上がってすぐ、ダッシュで追いかけた。すぐに追いついたけれども君は相変わらず前を向いているだけだった。

 右に見える校舎の三階には僕らの教室がみえる。



 広い校内を走る多くの、そしてたくさんのコンクリート製の道を踏みしめて、校庭への道を選んでいく。


「そういえば、君はさっき、待っているのは悪魔だといっていたが。どうにも僕は信じられないんだ。それに君の話ではこの世に悪魔や天使は居ないって話じゃ」


 変わらず、僕の前を歩く君に向けて声をかけた。

「君は認識を間違えているようだから訂正してあげよう。いや、君のような低脳に分かる様に説明しなかった私のミスかもしれない」

 また口を開けば僕の悪口を。

「で、僕の何の認識が間違っていたんだ?」

「まず、悪魔や天使だが、前提としてこの世のものでないわけで、別にこの世に居ないわけではない」


 へ、へりくつだ。そんな、君の言葉を一字一句全部覚えていないと分からないことじゃないか。ああ、だから僕は低脳なのか。…自分で言ってどうすんのよ!

「そして次に、私は悪魔や天使は居ないと、完全には言っていない」

「じゃ、じゃあ本当にこの先には悪魔がいるというのか?」

 本当にそうなら大変な事になる。単純に悪魔なる存在が認められれば世界の価値観が変わってしまう。

「おそらくね」

「おそらく?」

「私はまだ悪魔と言う存在にあった事がない。これが初めてなんだ」

「なるほど、それで僕には遠まわしな説明をしたのか」

 しかしそれだと、君だけでなく僕までこの世の外の存在と接触する事になる。果たして僕がこのまま着いていってもいいのか。

「君にはついてきてもらうよ。もちろん、私が偽善を果たし終えるまで」


 お約束のように僕を見ている。読心術だ。ほんといいタイミングでこっちを向くよな。


「もういちいち突っ込む気にもなれないが、僕の心を簡単に読まないでくれ」

「なら、突っ込まないでくれ」


 間髪入れない君の言葉に僕は言葉を詰まらせて、一瞬、殴りたくなるような気持ちを芽生えさせながらも必死になって押えていた。


「君は私に触れることすら出来ないよ。だが、どうしてもと、土下座でもするなら一発五百円で殴らせてあげてもいいぞ。もちろん、反撃も回避もするが」


 なんて現実的な値段だ!


「御生憎、僕には女を殴って喜ぶ趣味は無いよ」

「男に殴られて喜ぶ趣味は?」

「もっとねぇよ!あるわけねぇ。一体どこの変態さんだよ」

「え?でもDVDでは鞭で打たれて喜んでる口紅つけたおじさんが居たけど…」

「そんな奴と僕が一緒だと思ったのかぁ!?」


 それよりそんなDVDを見た経験がある君がある意味怖いよ。


「昔に、間違って家のポストに投かんされていたんだ。興味本位で見てみると、だいの大人が『あんあん』言いながら鞭で打たれているのを見たらぞくぞくしてきておもしろかったからつい…」

「また、読心術を使って。

 …そうだ。話が変わっているじゃないか。元に戻すよ」

「そんなに言うなら仕方が無い。…確か私は苛めるのが好きか苛められるのが好きか、だったかな?」

「話が違うし、そんな事は聞かなくても分かっている。君は間違いなくSで苛めるのが大好きな女だ」

「そんな、ひどい。ひどすぎるよ。私だってか弱い女の子なの。それなのにいきなり決め付けて…。私だって繊細なの!」

「ちょっと、泣くなよ。そんなしゃがみこんでまで全身で表現しなくても君がそんな事をするような人じゃないことぐらい皆分かっているよ」

「…そんな事って?」


 僕は悩んだ。一瞬だけ悩んだ。そして言う。


「…………、泣くとか?」

「ひどいよぉぉぉぉぉ」

 頭も抱え込んで、君は僕の目の前で小さくなってしまった。しばらくその光景を見ていると君が潤んだ瞳で見上げてきた。

 ありえない。間違ってもありないのに僕は今、君が本当は優しくて、か弱い女の子に見えてきた。ほんのついさっきまで僕を苛めて楽しんでいた女とは別人に思える。

「んん、ぐすっ」


 ああ、本当に泣いているのかな。確かに言い過ぎたところもあるかもしれない。


「ごめん、少し言い過ぎた。謝る」

 僕はコンクリートの上で小さくなっている君に頭を下げた。

「ううん。大丈夫。でも一つだけお願いがあるの」

 何?と僕が顔を上げたその先にはすでに君が満面の笑みで僕を待っていた。

「私が偽善を果たすところを見ていてほしい」

「泣いてなーい。そして涙の形跡すらないーい。さらに話も元に戻ってるー」

「うるさいなぁ。さぁ行くよ」


 君は、騙されたぁと叫び続ける僕のネクタイをぐいっと引っ張り、強引に先に進んだ。

 校庭につく頃には流石に僕は静かにしていたが、変わらずネクタイは握られたままだった。そしてたどり着いた校庭には、一人の男が居た。もちろん、この学校の人間ではない。おそらくあれが君の言う、悪魔なんだろう。


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